ニートな女神と初めてのゴブリン
戦闘をこなしていくうちにようやく私もウルフの攻撃パターンに慣れてきた。
あいつは基本的にまっすぐ飛びかかってくるだけで左右によければかわすのは意外と簡単だった。
今ではほぼ無傷でウルフを倒せるようになりました。はい、拍手。
というのはまあ置いといて、ウルフを合計で30匹くらい倒した時だった時だったか、またもやスキルが成長したとのメッセージ画面が開かれた。
『スキルが成長しました』
スキル:俊敏Ⅰ→俊敏Ⅱ
〇俊敏Ⅱ
AGIが10%上昇する。
「おお、10%ということは今の私のAGIは13だから、ああつまり1だけ上がってるのね」
些細な違いのように思えるかもしれないが能力が低いゲーム序盤はこの数値が1だけでも上がっていることの意味は大きいように思えた。
けれどもこれ、もしもこのままの調子でスキルの横にあるローマ数字、スキルレベルというのが上がって行くのだとしたら最大はやっぱり20なのかな。
そうでないとAGIが100%上昇にならないと思うし。
あ、でもさすがに単一のスキルで能力が100%上昇とかはないかな。せいぜい50%とかそこらへんだろう。なんとなくだけど、そんな気がする。
「どうしようかな。さすがに私も疲れてきたしもうそろそろログアウトして休もうかな」
私は今度こそ本当に疲れてきていたので一旦現実世界に戻ろうと街までの道を引き返して行く。
ああ、そうそう。それで私のレベルもまた1つ上がったのだけども。
『レベルが上がりました』
レベル3→4
HP:110→115 MP:58→62
STR:14→16
VIT:14→16
AGI:13→15
ING:12→13
DEX:11→12
LUX:11→12
「お、今回は全部上がっている。いまいち法則性が掴めないな。ま、強くなっているみたいだからいいか」
ただレベルアップするとHPは5ずつ、MPは4ずつ上がっているのはおそらくこの先もずっとそうなのかもしれない。
私はステータスの確認を終えるとまた歩き出し始まりの街へと帰ってきた。
ちなみに今回の探索だけでスライムの雫(青)とやらが43個。
そして獣の爪が35個手に入ったけどその数はそのまま倒したスライムとウルフの数である。
このことから私のアイテムドロップ率はきっと100%に違いないのだけど理由はわからない。
とにかく街まで帰ってきたので私はそこでメニュー画面を開くとログアウトを選択した。
すると私の視界が真っ白になっていき徐々に体の感覚が戻ってきた。
――神界の私の部屋――
私は現実世界のベッドの上で目を覚ました。
ヘルメット型のゲーム機の電源を切りそれを取り外すと1つため息をつく。
「ふう。まあ、初めてにしては上出来だろう。さて、お腹が空いたな。……カップ麺でも食うか」
私はゲーム機をベッドの上に放り投げるとベッドから立ち上がりそうしてその日はそれ以上ゲームをすることはなかった。
――翌日の朝――
私はベッドから起き上がると大きく伸びをした。
朝食は、そういえばもうろくに食料なんてなかったかもしれないと思って部屋の中をあさっていたらパンの耳がたくさん入った袋を見つけた。近所のパン屋でもらったものだ。
パンの袋に書かれていた賞味期限は昨日までだったけど、大丈夫だろう1日くらい。
私はそのパンの耳を水道水で腹の中に流し込むと、今日も1日とくにすることもないので昨日のゲームの続きでもやろうかと思ってゲーム機を頭から被った。
そして電源を入れる。昨日と同じように視界が真っ白になっていく。そして私はまたゴッドワールド・オンラインというゲーム世界にログインした。するとまた始まりの街の祭壇広場にある祭壇の上からゲームは始まった。
昨日コルトに聞いた話だと、街の中でログアウトすると次にログインした時には前回街のどこでログアウトしたかに関わらずこの場所からスタートするらしい。
私の他にも何人かが祭壇の上に現れるのを見たことがあったし、それは間違いなさそう。
ちなみにフィールドでログアウトすると次にログインした時は前回ログアウトした場所からか、あるいは直近で立ち寄った街の祭壇の上のどちらでログインするかを選べるらしい。
「さて、今日はまず装備を整えようか」
昨日はずっと初期装備のままで戦っていたので今日はさすがに装備を買おう。
装備は、街にある武器や防具を扱っているお店で買う人と、鍛冶師などの生産職をメインに頑張っている他のプレイヤーがやっているお店で買うのとお店でも2種類あるらしい。
一般的には後者のお店の方が装備の質は良く、値段は高めということだったけども今回はそこまでお金に余裕があるわけでもないので普通にゲーム内の武器屋さんで買おうと思っている。
そもそもこの第1階層には後者のプレイヤーが開いてる店はほぼないという話も聞くし。
プレイヤーは1度街に訪れただけでその街全体の地図がマップという項目に記載されて街中ではいつでもメニュー画面から確認可能となる。
マップには武器屋や防具屋、薬屋さんや他の基本的なお店の場所があらかじめ表示されているが、実は表示されているものが全てというわけではなく探せば街中で隠れて経営しているお店なども見つかることがあるらしく、そういう店は他の店よりも商品の値段が安かったり品揃えが良かったりするのだとか。
私は昨日コルトに地図には書いていない武器と防具を扱っている隠れたお店の情報を聞いていたのでまずはそこに行ってみることにした。
「えーと、3番通りを北に、2本目の路地を右に進んだ突き当り。ここかな?」
その建物は見たところ何の看板も掲げてはおらず、普通の一軒家に見えたけど建物の扉を開けて中に入ってみるとすぐに視界の端に武器屋の表示が出たのでどうやら場所はここで合っているようだ。
店の中には様々な武器や防具が飾られておりそれでここが何の店なのかということはすぐにわかるのだけど。
「いらっしゃい。何かお探しですかな?」
「あ、こんにちわ。えっと、武器と防具を探してるんですけど」
店の奥のカウンターにいくと、そこでこの店の主人であるおじいさんが話しかけてきた。
私が要件を伝えるとおじいさんはニコリと笑った。
「お嬢さんの扱う武器はなにかな?」
「扱う武器?……あ、えと片手剣です」
「わかりました。ではこれが片手剣のカタログになります」
おじいさんの言葉の後で私の目の前に何やら画面が現れた。
画面にはこの店に置いてある片手剣の武器の名前と値段が一覧で表示されていた。
<武器屋:カタログ:片手剣>
鉄の剣:STR+10 特殊効果なし 200G
銅の剣:STR+13 特殊効果なし 300G
鋼の剣:STR+15 特殊効果なし 400G
銀の剣:STR+20 特殊効果なし 600G
所持金:1495G
「む、4つだけか。いや、最初の街だからこんなもんか。というか特殊効果って何だろう」
私がカタログを見ながらそう言ったら店のおじいさんが説明してくれた。
「特殊効果というのはその武器や防具を装備した時にだけつくボーナス効果のことです。たとえばこちらのヒノキの杖をご覧になってください」
そう言っておじいさんは木で出来た杖を1つカウンターの下から取り出すと私に手渡して来た。
私が手で触れたことでその杖の詳細について書かれた画面が表示された。
〇ヒノキの杖
STR+3 ING+8
特殊効果:火属性の魔法攻撃によって敵に与えるダメージが3%上昇する 160G
「なるほど。そういうことか……」
武器や防具の中にはそういうのもあるということか。
で、本題となる私の武器についてだが。まずカタログの一番上にある鉄の剣とは今私が装備している武器のはず。
なのでこれは却下。となると残りの3つの中から選ぶことになるのだが。
「あ、じゃあ銀の剣を1つ下さい」
私は一番性能の良い剣を買うことにした。
「わかりました。防具も買われますか?」
「はい、お願いします」
「何をお買い求めでしょうか?」
「何を?……ああ、えっとあの。じゃあまずは盾から」
「はい。ではこちらが盾のカタログになります」
そうして今度は盾のカタログが表示された。
そうそう、片手剣は盾を持ちながら戦うものってコルトも教えてくれてたし。
いや、それも絶対ではないみたいなことも言ってたけど。
<武器屋カタログ:盾>
丸い盾:VIT+5 特殊効果:ガード成功率3%アップ 150G
鉄の盾:VIT+6 特殊効果なし 180G
銅の盾:VIT+8 特殊効果なし 250G
鋼の盾:VIT+10 特殊効果なし 320G
銀の盾:VIT+14 特殊効果なし 450G
所持金:895G
「んー、性能的には銀を買いたいけど。他にも買わなきゃならんものもあるし。ここは何か1個だけ特殊効果というのがついてる丸い盾を買おうかな」
それから防具としてあと皮の帽子と皮の鎧を買った。120Gと250G。
そうして買った武器と防具の合計のお値段が1120G。
これで私の所持金は375Gにまで減った。また稼がねばなるまい。
私は買った装備を店の中で装備してみることにした。
頭:皮の帽子
体:皮の鎧
右手:銀の剣
左手:丸い盾
足:皮の靴
装飾品1:なし
装飾品2:なし
「うん。これでまあ格好はそれなりになったかな。あとはステータスと。あ、そういえばステータスも武器とか防具とかの値を反映させて見なきゃいけないんだっけ。えっと、どこ押せばいいんだっけ?」
私が今まで見ていたステータス画面はあくまで私の体だけの能力値を表しているものだった。
だけど本来はそこに装備している武器や防具の値も加算されているのでそれらも一緒に表示されるようにステータス画面を切り替えた。
HP:115/115 MP:62/62
STR:16〔+20〕
VIT:16〔+16〕
AGI:15
ING:13
DEX:12
LUX:12
「おお、なんか一気に強そうになったような気がするぞ」
ちなみに言うまでもないだろうが〔〕の中に書かれている数値が装備による能力の上昇値の合計、いわゆる装備補正というやつだ。
とりあえず今はこれで、また冒険に出て調子を確かめてみるとしようか。
「おじいさん、ありがとう。あ、そうだ。この店って装備を売ることも出来ますか?」
「はい。何をお売りになりますか?」
私はおじいさんに、新しい装備を手に入れたことでいらなくなった古いほうの装備を売った。
鉄の剣と皮の服の2つを、売値は合わせて165G。これで所持金は540Gに。
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
装備の売買を終えると私はおじいさんの店を出た。
マップを確認するとちゃんとこの店の場所も表示されているから次からは迷わずここにこれる。
まあ、もう1度ここを訪れることになるかどうかは微妙だけど。
そして私は次に道具などの売買をしようと街の道具屋さんに足を運んだ。
この街には道具屋さんが何か所かあるらしいが、実はどの店も品揃えや値段は同じらしい。
ではなぜ道具屋が複数個所あるのかというと、そうでないと場合によってはプレイヤーが1つの店に大量に押し寄せて長蛇の列を作るからだとか。なるほど、それならば納得だ。
「いらっしゃいませ。アルムの道具屋へようこそ」
「どうも。あの、ポーションを買いたいんですけど」
「はい。おいくつ必要でしょうか?」
「えと、とりあえず10個くらい?」
ポーション。それはRPGでおなじみの回復アイテム。
これを飲むと戦闘で減った体力を回復してくれる冒険の必需品。
やっぱりこのゲームの中でも回復アイテムはいくつか持っておいた方がいいだろう。
「はい。ではおひとつ30Gですので10個ですと300Gになりますがよろしいでしょうか?」
「意外と高いな。あ、やっぱり5個でいいです」
「はい。それでは150Gになります」
うーん、別に買えないこともないけどそこまで使うとも思えないんだよね、今のところ。
それと、昨日モンスターからドロップしたアイテムを売ろうと思っていたけど、もしかしたらこの先何か使える機会があるかもしれないので今はやめておいた。
最終的に私の所持金は390Gで落ち着いた。
「ありがとうございました」
「……さて、とりあえず今日も昨日と同じ平原に向かうか」
私は道具屋を出ると平原フィールドにつながる街の門の方へと歩いて行った。
<第1階層:平原>
それでだ。昨日は私のレベルは4まで上がったのだが。
レベルが4に上がったことで平原にまた少し変化があった。
まずはモンスターについてだが、スライムが1体で出ることはなくなった。
必ず2体か3体で出現するようになったし、さらにウルフも同時に2体まで出てくるようになった。
一番多く出た時でウルフとスライムが共に2体ずつ現れるようにもなった。
まあ、スライムはただの的であるので実際はウルフ2体と変わらないのだけど。
そして累計して50体目のスライムを倒した時にスキルがまた成長した。
水魔法耐性(小)が水魔法耐性(中)になった。効果はまあお察しの通りで水属性の魔法攻撃で受けるダメージを50%減少させてくれるというもの。
これは結構嬉しい。まだ水属性の魔法はおろか魔法というのを見たこともないけれど。
そして累計して60体目のウルフを倒した時にもスキルは成長した。
俊敏Ⅱが俊敏Ⅲになった。効果はAGIが15%アップというもの。うん、これも予想通り。
ちなみに、メニュー画面の項目にあった図鑑の中の、魔物図鑑というところで今まで倒したモンスターの情報と、これまで何体そのモンスターを倒したのかということが確認できることに私は気づいた。
でも、それを確認したところであまり意味はないような気もするけど。
「うん。装備を買ったらやっぱり戦闘は楽になった」
次に戦闘そのものについてだが。
レベルが上がったことと装備を整えたことで私はウルフを一撃で倒せるくらいには強くなっていた。
さらに新しく装備した盾でウルフの飛びかかり攻撃を防いだらなんとダメージは0。
こんなことならポーション買う必要とかなかったかもしれないな、と私は思った。
そしてモンスターのアイテムドロップ率も変わらずに100%。
うーん、やっぱりどう考えてもおかしい。と、私はそこでふとあることを思いついた。
「もしかして、これが私の恩恵の効果なのではないか?」
私はまだ自分の、女神アストレアの恩恵の効果を確認していないけどもそう考えると納得できた。
しかし私は素直に喜べない。
「いやいや、倒した敵から物を100%落とさせるって、それって強盗……いや、やっぱなし。今のは、なしだ」
もしもそれが本当なのだとしたら果たしてそれはいったいどういうことなのだろうか。
女神アストレアは「正義」を司る神のはず。このゲームでの正義とは強盗のことを指し示すというのか。それとも私は物欲の化身か何かだとでも?
……いや、それはさすがにないだろう。うん、そんなことはない……よね?
「ますます確認するの怖くなってきちゃったな。もういっそのこと最後まで確認しないままにしておこうかな。……ああ、でもそれだと結局私のためにならないのか。うーむ」
いや、グダグダ言ってないでとっとろ確認しろよって思ったやつ、自分が同じ立場だったらどうするね?
もしも自分が神様で、その神様の恩恵とやらがくそみたいなやつだったら?
絶対にショックを受けるし、私ならしばらく立ち直れなくなるね。うん、絶対。
「はぁ~、どうしよっかなぁ」
そう言いながら戦闘を繰り返していくとまたレベルが上がった。
『レベルが上がりました』
レベル4→5
HP:115→120 MP:62→66
STR:16→18
VIT:16→18
AGI:15→16
ING:13→14
DEX:12
LUX:12→14
「ありゃ、また器用さが上がってない。私って不器用なのかな。……おお、スキルポイントが今回は5ポイントも手に入っている。これで合計11ポイントか」
レベルが5になった時にもらえたスキルポイントは5ポイントだった。
今までは2ポイントしかもらえなかったのに何故か今回はたくさんもらえた。嬉しい。
そろそろ何かに割り振っておくべきだろうと考えつつも、私は目の前の画面を閉じるとまた歩き出す。
そうして私は次の戦闘で新たなモンスターと遭遇することになった。
「む、あれはたしか……」
そのモンスターは全身緑色で服を着ていた。そして人の形をしている。
RPGゲームの世界ではスライムに次いで知名度が高いであろうあのモンスター。
「ゴブリンだ!」
そう、そのモンスターの名前はゴブリンだった。
<スキルについて>
ゴッドワールド・オンラインの中には数々のスキルや魔法が存在します。
スキルには2種類あって、パッシヴスキルとアクティヴスキルに分かれています。
パッシヴスキルとは、常時発動型のスキルでプレイヤー自身が何もしなくても常に適応されているスキルのことで、水魔法耐性などがこれに当たります。
アクティヴスキルは逆に、スキル名を唱えることで初めて発動する技であり、たとえば剣や槍などの武器による攻撃技や、防御技など。まあつまりは技のことなんですけども。
なお、それぞれのスキルは個別にオンオフが設定可能で、プレイヤーは入手したスキルの効果が気に入らない、または状況的に今はいらないと判断した場合そのスキルをオフにすることでスキルの効果を発動させないこともできます。もちろんオンに戻せば再びスキルの効果は適応されます。
(基本的にパッシヴスキルに適応されるが、アクティヴスキルもオンオフ機能はあります。)
プレイヤーは、状況に応じてスキルを組み合わせて戦術を組み立てていく。
それがこのゲームの戦闘面での醍醐味だったりするので、以降の話で玲愛がどのようなスキルを手に入れそれをどう活用するのかご注目ください。