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ニートな女神がログインしました。  作者: 唯一信
第1階層―始まりの街―
33/171

ニートな女神と初めてのG

タイトルのGはもちろんゴールド、お金のことではありません。

詳しくは本編内にてご確認下さい。

 およそ1時間半後のことである。

 私はギルドで洋館のクエストを受け付けてもらい、すぐさま始まりの街の南東の一軒家に住む依頼主の老婦人のもとへ行きそこで話を聞いた。

 なんでもその洋館は建てられた当初は亡くなったご主人が別荘としてつかっていたらしい。

 その後に老婦人と結婚してからは行くことも使うこともなくなったそうで老婦人もご主人が亡くなってから遺産の整理をしている時にその洋館の存在を思い出したくらいだという話だった。


 そして老婦人からその話と洋館の場所を聞くと私は森林フィールドのマップを開いて確認してみた。

 するとクエストを受ける前まではたしかに何もない行き止まりだったはずの場所の先に道が出来ていて、その先の開けた場所に大きな建物が表示されていた。

 その建物に赤い丸印がついていることからどうやらそこが今回のクエストの舞台となる洋館ということらしい。


 私は老婦人の話を聞き終えるなりすぐに始まりの街を出て森林へと向かった。

 道中のモンスターとの戦闘を適度にこなしつつ、私は薬草などがあれば採取しておいた。

 野菜ジュースを作るのに必要な素材だったから。


 そしてマップで確認した通りの場所にできた新しい道を見つけると警戒しつつもその先へと歩みを進めて。それでまあ私はめでたく洋館を見つけその前までやってきたのだけど。


「うへぇ……ガチで館じゃん」


 そう、洋館は実際に見てみると本当に大きかった。

 外から見た感じどうやら3階建ての建物であることはわかったのだけど中はかなり広そうだ。

 たしか玄関の正面扉のノブをつかんだら館の中に転移させられるんだったな。

 そこから2時間以内に、館の中を探し回って60体のモンスターを倒すと。


「いや、でも2時間で60体なら探すのに手間取らなければいけるか?」


 単純に計算するなら1体倒すのに2分。

 しかも最後に待ち受けてるボスには時間がかかるだろうから実際ははそれ以下の時間か。

 それに洋館の中を捜索する時間もいれると絶対に足りないような気もする。

 けど、それでもやってみなければわからない。

 別に無理だったら諦めてもいいんだし。ただ、今の私の実力を計る良い機会だとは思う。


 ソロプレイで攻略するなら最低でもレベル15は必要だろうとコルトさんに言わしめるクエスト。

 そのクエストに私は今挑戦する。


「いざ!」


 私は決意を固めて洋館の正面、玄関の両開きの大きな扉のノブに手をかけた。

 次の瞬間私の視界は切り替わり私は洋館の1階、玄関ホールにいた。

 玄関ホールは広く、また建物内だが私が剣と盾を装備して手に持っていることからここが戦闘可能なフィールドであることはすぐに理解した。


 そして、コルトさんが話してくれていたように今私の視界の右上には残り60体という表示と、さらにその下に時間を表す時計のようなものが見えた。

 ためしに時計に手を合わせて触れてみると、クエストの残り時間が正確に表示された。


『クエスト終了まであと1時間59分55秒』


「なるほど、さて。それじゃあさっそくモンスターを探しに……」


 行くまでもなかったようで、どうやらまずこの玄関ホールで最初の戦闘が待ち受けていたみたい。

 どこからともなくカサカサカサという音が聞こえてきた。これは、虫か?

 そうして私が周囲に意識を集中していると、私の前方10メートルほど先の地面にそれは現れた。


 私はそれを知っていた。

 前にも見たことがあった。いや、ゲーム内ではなく神界の自分の部屋で。

 それは、真っ黒なボディをした比較的大きな虫だった。

 すばしっこくて、よくタンスや冷蔵庫の陰なんかに逃げ込んだりしてはその家に住む者をいらだたせて、あるいはかよわい女子には恐怖を植え付ける。


 下界にも1人暮らしのアパートの部屋には多く出没するというその虫の名は……


「ゴ、ゴキブリだぁ~!!」


 目の前の地面から黒い染みのようなものが浮き出てきたと思えば、それは間違いなくゴキブリだった。

 しかもそのゴキブリ、体長が3メートルと普通サイズよりもかなりでかい。モンスター名はそのままでありゴキブリ。


 そして私はそこでようやく今回のクエストの趣旨を理解した。


 もう長いこと人が使うことのなかった森の中の洋館に出現するモンスターの殲滅。

 それはつまり人が住まなくなった家に潜むただのゴキブリ退治だった。


 コルトさんが私を引き留めた理由もわかった。

 普通なら私のような女の子は、あれだけのサイズのゴキブリを見たら気絶しかねない。

 しかもパーティを組むのではなく1人で受けるとならばなおのこと。


「は、はははははは。あー、そういうことかー」


 私はようやく合点がいったとばかりにそこでそうつぶやくと目の前に出現したゴキブリを見つめる。


「でも、残念。私は虫とかは全然平気だし、ゴキブリならもう何度も退治してる」


 もちろん、それは現実世界での話だがとにかく私はゴキブリにそこまで恐怖は感じていない。

 驚きはしたけど、それよりはまだポイズンスパイダーの方がキモかった。

 目の前のゴキブリは黒一色で、そのまんま下界や神界に出てくるゴキブリをでかくしただけのようだったけど、同じくらいのでかさでポイズンスパイダーは見た目も色も気持ち悪かったし。

 いや、別にゴキブリの方も普通に気持ち悪いとは思うんだけどね。


「ファイアーボール!」


 そして戦闘は開始された。

 が、しかし戦闘は私の一撃で終了した。

 ゴキブリも虫であるから火は苦手だろうと思って放ったファイアーボールは、見事にゴキブリに命中したのだが、その1発でゴキブリのHPケージは消え去り本体の方も光となって消えた。


「あれ?」


 私はとくに攻撃をしてくることも、攻撃をよけることもしてこなかったゴキブリに首をかしげながらも、たしかに倒すことに成功はしたようだ。

 その証拠に先ほどまで残り60体と表示されていた視界の端のカウントが減って残り59体になっていた。


「うん?、……ま、倒せたんだし別にいいか」


 このクエストに登場するモンスターは、おそらく残りも全部あのゴキブリだろう。

 ゴキブリは、ゴミ山クエストのカラスと同じで経験値とお金は落とさなかったものの、代わりに何か光るものを落としていった。


 〇3階:書斎の鍵

 森の中にある洋館の書斎の扉を開けることが出来る鍵。


「ああ、つまり次はそこに行くと。おお、なんだかわかってきたぞ」


 つまりこのクエストの流れは以下のようなものだと推測出来る。


 ①館の中に出現するゴキブリを倒す。

 ②倒したゴキブリから館の中のどこかの部屋に入るための鍵を入手。

 ③入手した鍵を使ってその部屋に入る。


 そしておそらく③で入った部屋の中にもゴキブリがいるに違いない。

 その部屋のゴキブリを倒すとまた別の部屋の扉の鍵を落とす。

 あとは②と③を繰り返すだけ、と。


 ただ、とはいえこの館は相当に広く部屋の数も多いので落とした鍵に対応する部屋を探すだけでも一苦労だろう。

 コルトさんがモンスターを探し出すのに苦労したというのは、厳密に言えばモンスターそのものというわけではなくそのモンスターが出現するであろう場所を探すのに苦労したということだ。

 せめてこの広い館の何階にあるのかだけでも鍵に表示されていて助かった。

 もしそれもなかったとしたら確実にタイムオーバーしてただろうし。


「ふう、ルールはだいたい理解した。それじゃあ、やろうか。ゴキブリ退治」


 ここからはまた長くなりそうだったので一部ダイジェストでお送りします。


 3階廊下:ゴキブリ×2と戦闘。撃破。(ゴキブリ残り57体)

 3階書斎:ゴキブリ×3と戦闘。撃破。(ゴキブリ残り54体)

 〇2階:遊戯室の鍵を入手。

 2階遊戯室:ゴキブリ×4と戦闘。撃破。(ゴキブリ残り50体)

 〇3階:寝室の鍵を入手。


 ゴキブリは、動かなかったのはどうやら最初の1体目だけのようだった。

 2度目の戦闘からはちゃんとカサカサと動き回りたまに私に向かって体当たりをしかけてくるようにもなった。

 しかし私のVITが高いせいか体当たり攻撃を直撃してもダメージは0だった。

 ただ巨大な虫に直に触っちゃったという言いしれない嫌悪感と精神的ダメージはあったけど。


 ゴキブリは、AGIの値がなかなか優れているようで動き回られると厄介だった。

 けれど、それでも十分に狙いをつければファイアーボールを当てることなど今の私にとっては造作もないことだった。問題はやはり時間だ。

 戦闘の方がかなり高速で終わらせられるのに対し、館の中の部屋を探し回る時間の方がかなり長くかかってしまったのだ。


 3階寝室:ゴキブリ×5と戦闘。撃破。(ゴキブリ残り45体)

 〇1階:食堂の鍵を入手。

 1階食堂:ゴキブリ×6と戦闘。撃破。(ゴキブリ残り39体)

 〇1階:洗濯室の鍵を入手。

 1階洗濯室:ゴキブリ×7と戦闘。撃破。(ゴキブリ残り32体)

 〇2階:会議室の鍵を入手。


 この時点でちょうど残り時間は1時間弱というところだった。

 先に進むほど部屋に現れるゴキブリの数が増えていることには気づいていたけど、でもその分ゴキブリの数も早く減ると思えば頑張れた。

 でもさすがに、私も体長3メートルほどのゴキブリがうじゃうじゃといるような部屋で長時間の戦闘をするのは嫌だった。

 生理的な嫌悪感がもうハンパないんだよ。うん、ほんとにね。何度か諦めて帰ろうと思ったりしたよ。

 それでも最後までやりとげようとしたのはもう意地だった。

 ここまできたのだし、せめて最後のボスの姿くらい拝んでから帰ろうと。


 2階会議室:ゴキブリ×8と戦闘。撃破。(ゴキブリ残り24体)

 〇1階:厨房の鍵を入手。

 1階厨房:ゴキブリ×9と戦闘。撃破。(ゴキブリ残り15体)

 〇1階:中庭の鍵を入手。

 1階中庭:ゴキブリ×10と戦闘。撃破。(ゴキブリ残り5体)


 そして中庭でのゴキブリをすべて倒した時に最後のゴキブリが落とした鍵は1階の大広間の鍵。

 残りのモンスターの数が5体であることを考えてもおそらく次が最後だろう。

 最後、つまりボスとの戦闘が待ち受けているはずだ。

 残りの制限時間はおよそ30分。30分で倒せる程度のボスであればいいんだけど。


「わざわざ大広間を戦いの舞台に設定しているくらいだし、でかいやつなのは確かなんだろうけど」


 今まで回ってきた部屋の中での戦闘も、後に行くにつれて部屋の広さも大きくなっていった。

 中庭もかなりの広さだだったけど大広間はそれと同等以上の広さ。

 そんな広さの場所に出現するボスモンスターが小型であるはずがない。

 まず間違いなくヤタガラス級の大きさのボスが出てくるに違いなかった。


 まあ、私はそのボスもなんとなく予想はついてるんだけどね。


 ちなみに館の中にはもちろん他にもたくさんの部屋があったが、おそらくはこのクエストで時間稼ぎをするためのダミーだろうから目的の部屋と違うということがわかれば中は確認していない。

 このクエストが終わった後でもこの館には来ることはできるそうだから終わってから見て回るとしようか。コルトさんはとくに何もなかったと言っていたけれどせっかくなので。

 いや、ただクエストのためだけに作られたマップにしては意外と作りこまれてるから、探せば何か見つかるかもしれないと思っただけだ。

 だけどもまずはボス戦である。私は中庭から洋館の中へと戻ると、1階の大きな両開きの扉の前にやってきた。

 周囲の廊下と部屋、そして2階より上の建物の構造上まず間違いなくこの先が大広間に違いない。

 私は慎重に両開きの扉に手をかけると一気に手前に引いて開けた。

 そうして私が大広間に10歩足を踏み入れた時だった。背後の両開きの扉が自動でしまった。

 どうやら最後の戦闘の始まりのようだ。


 カサカサカサカサ、とどこからか聞こえる音。

 さらに私の目の前にまずは4つの小さな黒い染みのようなものが現れた。

 その染みからはこれまでと同じようにゴキブリが出現したのだが、しかし肝心のボスの姿はない。

 しかし私がふいに視線を上に向けるとそこに……いた。


 これまでのゴキブリよりももっと大きなゴキブリが天井に張り付いていた。

 その大きさは10メートルくらいか、しかも体色が黒ではなく赤茶色という特別仕様。

 まだそいつの名前とHPケージが出てきていないということは先に目の前のゴキブリを片づけて最後にボスと一騎打ちのパターンか。


「面倒くさいな。どうせなら同時に戦わせればいいのに」


 最後までこざかしい時間稼ぎをしてくるあたり、このクエストを考えた人間はさぞ性格のねじまがったやつに違いないと私はそこでため息をついた。

 だけども問題はなかった。

 大広間はたしかに名前の通り広いだけの空間で、そこを縦横無尽に動き回りながら高速でせまってくるモンスターには苦戦するだろう。

 しかし、私はここまでにすでに50体以上ものゴキブリを倒してきたことでゴキブリたちの行動パターンはすでに掴んでいる。

 それに部屋の中には家具をはじめとした障害物の類もいっさいないので思う存分暴れられる。


「1分で足りるよ」


 事実、私はそこからたった1分で4体のゴキブリを始末した。

 いや、だって逃げ回らるだけならまだしもこっちに攻撃をしようと体当たりしてきた時って、逆に絶好の反撃チャンスなんだもの。

 攻撃は最大の防御という言葉もあるがまさにその通りだと思う。

 もっとも私の場合は攻撃しなくても防御は万全なのだが。


 4体のゴキブリを倒したことで予想通りそれまで天井に張り付いてたでかいゴキブリが床へと落ちてきた。

 そのゴキブリが起き上がったところでようやくモンスター名とHPケージが表示された。

 ボスモンスターの名前はそのままボスゴキブリ。HPケージはストーンゴーレムと同じで長いケージ1本分だった。

 クエストクリアまでの残り時間はあと25分ほど。どうやらいけそうだ。


「ファイアーボール!」


 しかし私の予想はそこで裏切られることとなった。

 私は先手必勝とばかりにボスゴキブリにファイアーボールを撃ち込んだ。

 ボスゴキブリは、体がでかくなった分敏捷は下がったのかえらく遅く動いてそれを回避しようとしていたがファイアーボールの速度の方が早かったので直撃した。

 したのだけどHPケージはほとんど減少していなかった。


「火が効かない?」


 どうやらボスゴキブリは、今までの通常ゴキブリでは弱点だった火属性の攻撃に対して耐性、つまりダメージを減少させてしまう性質を持っているようだ。

 そういえば、現実のゴキブリも暑さや寒さには強く、さらに殺虫剤なども稀に生き残った個体が体にその殺虫成分に対する耐性をつけるという話を聞いたことがある。

 虫の中で最も生命力が強いのだという話も。


 そして私が次なる手を考えている間に今度はボスゴキブリの反撃の番だったが、それが意外な攻撃をしてきた。

 ゴキブリの口が大きく開いたかと思えばそこから黒い煙のようなものが噴出した。

 煙は一気に大広間に充満して私ももれなく煙につつまれたがとくに何の変化もなかった。

 いや、あるいはこの煙は本来毒性だったけども私が毒無効のスキルを持っているおかげで何の影響もないのかもしれなけどおそらくはこれはただの煙幕だろう。


 視界は完全とは言わないまでもほぼ何も見えない状態にありその後にカサカサカサと聞こえた音から察するにどうやらこれがボスゴキブリの戦闘パターンのようだ。

 つまり、まずは煙幕を張ってプレイヤーの視界を奪い。そうしてから……


「うわぁ!!」


 私は天井から突然振り下ろされたボスゴキブリの前足をなんとか盾で防いだ。

 すぐに反撃に移ろうと思ったがまたカサカサカサという音が聞こえたところを考えるとボスゴキブリは移動したようだ。


「なるほど、あくまで見えないところから奇襲に徹するってわけ」


 ある意味ではもっともゴキブリらしい戦い方であるとも言えた。

 しかしこの煙幕、一向に晴れる気配がないのだけどもしかしてずっと場に残るタイプのやつか?

 だとすると非常に厄介だ。なにせ煙幕の中ではボスゴキブリの名前とHPケージも見えなくなるため完全に向こうの居場所がわからなくなる。

 音を頼りに探そうにも大広間の中ではカサカサというあの移動音は反響してしまっていて大体の方向くらいしかわからない。


「どうしようかな。煙…………風なら払えるか?、ウィンドボール!」


 そうしてしばらく間は煙幕の中いくどかの奇襲攻撃をなんとかいなしつつも私は現状の打開策を考えた。

 出した結論は風魔法を使ってみてまずはこの煙幕を晴らすということ。

 その目論見はどうやら成功だったようでウィンドボールを飛ばした先へ向かって煙幕が一部晴れていく。

 だがしかし、晴れたところでまたすぐに煙幕が周囲を包み込み元の状態に戻った。

 どうやらウィンドボール程度の風ではこの煙幕を完全に打ち払うことはできないようだ。


「くそ、他の方法を……いや、ちょっと待てよ。風、風を起こせればいいんだよな?」


 私は自分に言い聞かすようにして自分の脳裏にあるとあるスキルのことを思い出した。

 より正確にいうのであればそのスキルで呼び出すことできるあいつの技を。


「そうだ。それならあいつの力を借りよう」


 私は聖水を飲んでMPを完全回復させた後でそれをこの場に呼び出した。


「召喚:ヤタガラス!」


 私がそう叫ぶと私の目の前の床から大きな黒い魔法陣が描かれそして発光した。

 発光したことでその周辺の煙幕も晴れたのだがもちろんそれだけではない。

 描かれた魔法陣の中からゆっくりと姿を現したのはそう、ヤタガラスである。

 さすがに建物内であるためか空を飛ぶことは出来ないだろうが私の目的は飛行ではない。


「小竜巻!」


 私の出した指示でこの場に召喚されたヤタガラスが翼を大きく広げた後で思いっきりはばたかせた。

 そうすることでヤタガラスの技である小竜巻が発生して一気に部屋中の煙幕を吹き飛ばした。


「いた!、あー、もう時間もないから今回はいいかな」


 そして晴れた視界の先、見つけたボスゴキブリに向かって私は突撃しようと思った。

 しかしそこでクエストクリアまでの残り時間がその時すでに15分を切っていることに気づいた。

 一応これまでの流れで、煙幕の中奇襲をしかけてきたボスゴキブリの手や足などに対して反撃として何回か剣で斬りつけることが出来ていたのでHPケージは2割ほど削れていた。

 しかし残りの8割を私の力だけで15分以内に削りきるのはさすがに至難の技だと悟った私は、召喚したままであったヤタガラスに指示を出した。


「他のプレイヤーの姿もないしいいか」


 ここで1つ、確認しておこう。

 召喚されたヤタガラスは小竜巻の他にもう1つダークボールという魔法が使える。

 そしてその魔法はプレイヤーが使った場合と違って再試用までに必要な時間がない。

 つまりは連射することが可能なわけだ。

 うん、まあそのね。だから私はあんまり使いたくなかったんだけどね。


「ダークボール、ダークボール、ダークボール!!!、撃て撃て撃て~!、撃ちまくれ~!」


 私の渾身の叫びを聞き遂げたためか、あるいは全力で攻撃できることが嬉しかったのか途中でヤタガラスが大きな雄たけびを上げた。

 その間もヤタガラスの前方には闇で出来た玉が作られては放たれてを繰り返していた。

 もともと敏捷が低いボスゴキブリはもちろんそれらを回避することはできずにすべて直撃していった。


 そして、私のMPがついに0となり召喚されたヤタガラスが強制的に送還され、光となり砕け散った時には部屋の中には私と、そしてHPケージを残り1ドットだけ残していまだに生き残っていたボスゴキブリだけがいた。


「なんだ。まだ生き残っていたんだ。ゴキブリのボスだけにしぶとさもボス並だな」


 私はそういいながらもボスゴキブリに接近していく。

 死ぬ寸前のボスゴキブリは反撃はおろかもはや動くことさえ出来ない様子。

 私はボスゴキブリの正面まで来ると頭部のほぼ中央、眉間に剣を刺した。

 それでボスゴキブリの残ったHPケージはついになくなりボスゴキブリの体も光となって砕け散った。


 クエスト終了時刻まであと10分というところだったが、どうやら間に合ったようだ。


「まあ、さいごのやつはさすがにやりすぎかなとは思ったけど」


 ヤタガラスによるダークボール連射攻撃。出来ることはなんとなくわかってけども実際に使ってみるとそれはすさまじいものだった。

 今のを他のプレイヤーが見ていたとしたらきっと皆こう言うだろう。


 いやいや、それもうただの虐殺じゃね?


 ……うん。そうだね。私もそう思うよ。

 でも、出来るのなら別にやっても問題ないのだろう。ゲームなんだしさ。



<モンスター辞典>

〇ゴキブリ

昆虫族。「森の洋館のモンスター退治」のクエストにのみ出現するモンスター。

名前の通りゴキブリである。ただし大きさは3メートルほどとかなりでかい。

耐久と敏捷の値が高く、さらに壁面や天井も移動できるためなかなかに厄介。

ただし賢さは低いので魔法攻撃がよく効く。

弱点は火属性。実は闇属性に耐性があるのだがそれに気づくプレイヤーは少ない。

その大きさも相まってかクエストを受けたプレイヤーの多くは生理的嫌悪感からクエスト断念をするものも多いという話だがとくに女性プレイヤーには不向きだろう。

全身黒光りするボディを見て、一部の虫好きは興奮したという話も聞くが……


〇ボスゴキブリ

昆虫族。「森の洋館のモンスター退治」のクエストにのみ出現するボスモンスター。

ゴキブリよりもさらに巨大で体長が10メートルにまでなっている。

体色は黒から赤茶色に変化しており、後述の火属性の耐性があることがうかがえる。

HPが格段に増えているが、巨大になったため敏捷は下がっている。

ただし耐久、そして力の他に賢さが上がっているのでなかなかダメージが通らない。

ゴキブリの弱点であった火属性を克服し、耐性を得ている。

他に氷属性と水属性の耐性もあり魔法攻撃に強くなっている。

ただ、逆にゴキブリにあった闇属性の耐性はなぜかしらなくなっている。

弱点となる属性はない。なので実際にはかなり倒すのに苦労するモンスターだ。

行動パターンとしてはまず煙幕を張ってからその煙幕で視界不良に陥ったプレイヤーに奇襲攻撃をしかける戦法をとる。ちなみに煙幕を風魔法などで打ち払われても一定時間すると再び使用してくるので注意が必要。


なお、筆者は虫が大嫌いでありゴキブリなどは見ただけで気絶するレベルである。


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