ニートな女神と初めての殲滅
殲滅←読み:せんめつ
しかしヒュドラーはこれまで戦ったボスモンスターたちと比べると実はそこまで強くはないんじゃないかとも私は思っていた。
私の耐性スキルを無視してダメージを与えてくる貫通スキルは毒貫通だけのようで、火の子をまき散らすファイアーボールについても1発だけ食らってみたらそっちは火魔法無効の効果が効いて私にダメージはなかったし、それでやけどの状態異常になることなんかもなかった。
ただし、ヒュドラーの攻撃はもちろん他にも多くあって、大半はヒュドラーの3つある頭の口から3連続で射出されるタイプの魔法攻撃だったのだけど。
そのヒュドラーが口から放ってくる攻撃だけで4種類。すでに紹介した何かに着弾すると周囲に火の粉をまき散らして広範囲を攻撃するファイアーボールと、同じく毒液を広範囲にまき散らす毒液弾。それに加えてその雷属性と闇属性バージョンの攻撃もあった。
つまり、着弾すると周囲に電流を放出して広範囲を攻撃できるサンダーボールと、着弾すると周囲になんかよくわからん闇の波動みたいのを放出して広範囲を攻撃するダークボール。それが3連続射出。
「私は雷と闇は無効化できないからな。でも炎が来た時が反撃チャンスか。毒液弾は絶対にかわさないとやばい」
連続で射出されると言っても、1発ごとの間隔は長めであるから今の私の敏捷でも動き続けていればまずあたることはないし、攻撃自体の飛んでくる速度もそれまで速くないから口から放ってくる4種の攻撃については慣れればそこまで苦労もせずに対処は可能だ。
あとはそれ以外の攻撃について、腕を振り回しての爪ひっかき攻撃についてはヒュドラーの前方に近接しないようにしていれば使用すらしてこないので問題はない。
もう1つの物理攻撃、長い尻尾を振り回しての薙ぎ払い攻撃については私はもう回避せずに素で受け止めることにした。
おそらくはその尻尾薙ぎ払い攻撃は食らったらプレイヤーは後方へと吹き飛ばされたりするのだろうが、私は装備中のギガントロックベルトの特殊効果でどんな攻撃を受けても吹き飛ばされたりしないからね。
そしてギガントロックシリーズの装備は耐久特化。ヒュドラーはドラゴンであり隠しダンジョンのボスでもあるから力の値も相応に高かったんだけど、それでも一撃で私のHPを2~3割ほど削るにとどまっていたからギガントロックシリーズの装備補正値で上昇した耐久の値は伊達ではないということか。
そしてヒュドラーの攻撃方法はあと1つ、翼をはためかせての小竜巻の発生があったが、これはヤタガラスのものとは違いプレイヤーを追尾するということはなく、さらにヒュドラーの正面方向から見て斜めのクロス、すなわち4方向に1つずつ、4つの小竜巻を同時に発生させその竜巻はそのまま壁際まで直進するだけなのでもっとも回避がしやすい攻撃だった。それに小竜巻は風属性の魔法攻撃であろうから私は仮に食らっても風魔法無効の効果でダメージはゼロ。ヒュドラーが風魔法貫通とかいうスキルを持っていなければの話だけど、たぶん持ってないと思うから。
ヒュドラーの攻撃方法は戦闘開始時の段階では以上の7つのみだった。
私は口から放たれる攻撃をうまくかわしつつもヒュドラーの3つの首、首A、首B、首Cを適度にまんべんなく攻撃しながらそれで3つの首のHPをすべて1割程度で止めるという所業をやってのけた。
あとは一気に3つの首のHPをゼロにしてがら空きになった胴体を攻撃すればいいと思うのだが、ここで私は少し考えた。
「あ、そうだ。それならせっかくだし、先に1つの首だけ倒しちゃってそれが時間経過で復活するのかどうかってことも調べておくかな」
もしも1度倒した首が2度と復活しない、あるいは復活するにしてもそれがその首のHPをゼロにしてから10分以上かかるということならむしろ1つの首を集中攻撃して首の数を減らしていく戦法の方が、ヒュドラーの攻撃回数を減らせていいのではないかと思ったから。
まだ戦闘開始して最初の、言わば一番攻撃が易しい今の段階で首の復活の有無を調べておくことはきっと後々の戦いの中で活かされるはずだし。
「アイスボール!」
私はそう考えてまず先にヒュドラーの首CにアイスボールをぶつけてHPをゼロにしてみた。
するとそこで私を予期していなかった出来事というか、攻撃が襲ってきた。
「うわぁぁぁぁ!、首が爆発したぁぁぁぁ~!!」
たった今倒したヒュドラーの首Cが、なんと爆発して霧散してしまったのだ。
いや、それだけならまだいい。私が驚いたのはそれで爆発したヒュドラーの首の肉片はボス部屋内の極めて広範囲に飛び散り、物理攻撃だったのかそれを食らってもそれでのダメージは軽微だったんだけども。
「うへぇ~。この肉片に触れても毒かよ」
首を倒して飛び散った肉片に触れるとプレイヤーは毒(小)の状態異常になる。
私はそれですかさず毒消し薬☆を飲んで毒の状態異常は治癒したのだけど、よく考えればすでに毒の状態異常になっていればそれで毒攻撃を再び受けても毒の効果は相乗も上書きもされないから、あえて連続で首を仕留めて飛び散る肉片も連続で受けてしまった方が、その方が1回1回肉片を受けて毒の状態異常になるたびに毒消し薬☆を使用しなくてもいいし、毒消し薬☆を温存できるからいい気がする。
だけども今回は倒した首が復活するのかどうかこれからちょっと様子見しなきゃいけないからすぐに治しちゃったけど。
「うーーーーん、それからもう5分経って復活しないから、ヒュドラーの首は1度倒したらそれまでってことでいいのかな?」
念のためにそこからさらに5分、首Cを倒してから10分が経過するのを待ってみたけど首Cが復活することはなかったので、私はそこで首は1度倒したら復活はしないのだろうと決めつけた。
そして次に私は、首がまだ残っている状態で胴体部分を攻撃してみたらどうなるのだろうと胴体部分にアイスボールを放ってみたところ、それは首Aが胴体を守るようにアイスボールを代わりに受けた。
「ああ、やっぱり首でガードしてきたか。それじゃあ先に首を倒すっていう方向性は間違ってなかったとして、ああ……まあ爆発したよ」
アイスボールを受けた首Aも首C同様に爆発して広範囲に肉片の雨を降らせた。私はまたもそれをよけきれずに直撃してしまい、そのダメージよりも毒の状態異常になってしまったことよりも、ただただそれが気持ち悪くて。思わず吐きそうになった。
だけどこれでヒュドラーの首の性質についてはもうほとんど確認が取れたので、私は首Aの肉片を受けて毒の状態異常になっていたけれど、それをすぐには治癒せずに先に残った最後の首Bにも止めをさして、それで首Bの肉片も受けきってからまた毒消し薬☆を飲んで毒を治癒した。
「はぁ、でも3つの首を倒したらそれでまた首が3つ同時に復活って可能性もあったかな」
もしそのパターンだった場合は、ヒュドラーは首すべてを倒さずに1つだけ残した状態で残った首のガードをかいくぐりながら胴体の方のHPをちまちま削っていかなければいかないことになり、それはそれで面倒だと私は思った。
しかし実際には首を3つとも失ったヒュドラーはそれでそのままであり、首を失っているのになんで生きてるんだろうとか生物としてどういう構造なのかちょっと好奇心をくすぐられたりもしたけど、これでヒュドラーの攻撃方法は7種から3種に減った。
「だけども、まさかこれで後は胴体のHPも全部削って終わり、なんてことないよなぁ。絶対に」
私のその予想は的中し、ヒュドラーの胴体部分の300%(大ケージ3本分)あるHPケージをちょうど1本分削って残り2本分にしたあたりで、ヒュドラーの体に変化が起きた。
なんかドタバタと地団駄を踏んで翼もバサバサと大きく動かして暴れたかと思ったら、その次の瞬間胴体のさっき倒して爆発して消えたはずの首があった場所、ようは銅と首の付け根の部分からニョキニョキと新しい首が生えてきた。
うん、そう。それで首が復活したこと自体については私も予想してたし、でも、だけど……
「おい、冗談だろう?」
胴体の付け根から首が生えていく。ニョキニョキ、ニョキニョキと。
その数、なんと6本。
「首が、増えたぁぁぁぁ~~~~!?」
私はそれを見るなり絶叫した。
そして同時に理解した。ああ、これあともう1回首が復活するよね、絶対。
具体的には今再生した6本の首のHPを全部ゼロにして、それでまた胴体に攻撃が通るようになって胴体のHPケージが残り1本分になったタイミングで、おそらくはさらにまた首の数が増えて。
「上等だぁ!、そっちがその気なら私だってやってやるぞ~!!」
私はその時点でもう半分くらい絶望しかけてきた。残りの半分は気合いだ。
いや、もうやけくそだった。それでも最後まで諦めずに戦い抜くしか私に選択肢はないのだから。
かくして私とヒュドラーの戦いは第2段階へと移行した。正直言って第1段階が比較的余裕だったんである意味ではここからが本当のボス戦になると言えなくもなかったけれど。
さて、復活したヒュドラーの首は6本だったけど、実はヒュドラーの体にはもう1つ、1対2枚だった翼が2対4枚に増えたという変化もあった。
ただ、やはりそれでも目につくのは首の数だろう。まったく、第3段階では何本になるのやら。
「うん?、でも首1本あたりのHPケージはむしろ少なくなってないか?」
3本首の時のヒュドラーの首は、HPケージが200%だった。
しかし6本首のヒュドラーの首は、首1本のHPが150%、すなわち大ケージ1本と半分にまで減っていたのだ。
「さっきよりも首1本ずつは倒しやすくなってるみたいだけど、でも、数が」
ヒュドラーは首6本の第2形態になったからといってさっきよりも何かの能力値が上がっているというようなことはなかった。ただし首の数が増えたということはそれで首につながる頭の口から射出される4種類の攻撃も6連続攻撃になったということを意味している。
さらには、その6連続攻撃は1発と1発の間隔が短くなっていて、それを音で表すとしたら以下のようになる。
<ヒュドラーの首が3本の場合>
ドーン……ドーン……ドーン。
<ヒュドラーの首が6本の場合>
ドーン…ドーン…ドーン…ドーン…ドーン…ドーン。
これで分かってくれただろうか?
加えてヒュドラーの口から放たれる攻撃はどれもが地面に着弾したとしてもそこで周囲に攻撃が拡散して広範囲を攻撃する。
だから動き回ってそれらを回避しようとした時にも3発分の攻撃範囲よりも6発分の攻撃範囲の方がもちろんより広範囲に攻撃が及ぶので、逃げるルートを見誤れば即死亡ルート一直線だった。
ヒュドラーの攻撃方法で第1段階での爪ひっかき攻撃と、尻尾薙ぎ払い攻撃については第2段階でもそこまでの変化はなかったように思う。ただちょっとだけ攻撃速度が上がっていたかも、というくらい。
そして斜め4方向への小竜巻は、翼の数も2枚増えたせいなのかそれで前後左右の4方向に対しても小竜巻が追加され、8方位同時攻撃になった。そして常に2回連続攻撃。これも小竜巻の移動スピードがやや速くなっていたようで、私はそれに巻き込まれもしたのだけど吹き飛ばされはせず、ヒュドラーが風魔法貫通のスキルを持っているということもなかったので私にダメージはなかった。
だから実は第2段階になったところでも、私は攻撃の回避が難しくなったことを除けばそこまで苦戦したわけでもなかった。
ファイアーボール×6と、小竜巻攻撃の時はダメージもなにも無視してヒュドラーに接近して反撃を決め込んでいたくらいだし、だけどそこで油断したら最後、サンダーボール×6か、ダークボール×6か、毒液弾×6を食らって死ぬことになるので私は一瞬たりとも気を抜けなかった。
「っていうのも建前でさ。首の数を減らしていったらそれで余裕はできてきたし、首を倒して爆発して肉片を食らって毒になっても、まだ毒消し薬☆はけっこう残ってるから」
だからこそ私は怖かった。ここまで割と順調にヒュドラーと戦えているからこそ。
問題はこの後の第3段階でどうなるか、なんだよな。首の数と、あと翼の数もまた増えるとしても、そこで何か新しい攻撃方法が、ここまでヒュドラーと戦えていたプレイヤーたちをまとめて絶望のどん底へ叩き落とすような何かがきっとあるに違いない。
「このダンジョン、途中の道で出現するザコモンスターもさ、特にバジリスクとかもう悪意の塊だったからな。ヒュドラーは絶対にその上をいく何かがあるよ」
そうでなければおかしい。
ここまで日ごとの仕事でのストレス発散とばかりにゲーム制作陣の悪意しか感じないようなモンスターと多数戦ってきたのだ。それでこのダンジョンのボスモンスターであるヒュドラーがそれらのザコモンスターよりも易しいなんてことあるはずがない。
「だけど、それで倒すことができたなら。その報酬もきっとすごい豪華に違いない」
このゲーム制作陣もそこはちゃんと理解しているのだ。
それはいつもの迷宮ダンジョン、迷宮ボスモンスターの金の宝箱の中身を見ればわかる。
プレイヤーがゲーム制作陣の悪意に打ち勝った時には、向こうもそれを認めてそれ相応の報酬を用意してくれている。
別にゲーム制作陣だって、誰にも倒せないモンスターを作っているわけじゃないんだ。
むしろ自分たちの作った強力なボスモンスターを頑張って倒したプレイヤーのことは祝福してくれるだろうし、きっと心の中ではそういうプレイヤーの出現を願ってもいる、のだと思う。
「よーし、これで首6本目!」
私はそんなことを考えつつも第2段階のヒュドラーの6本の首をすべて倒した。
そして首がすべてなくなるとヒュドラーは遠距離攻撃は小竜巻攻撃しか残っていないので、最後の戦いにそなえて私はヒュドラーから離れたところでHPとMPの回復を済ませた。おそらく私以外のプレイヤーであってもここが回復のタイミングだろう。
「けど、考えてみればむしろソロで挑んで正解だったのかも。多人数でこのヒュドラーに挑んでいたらきっと被害は甚大だったろうし」
いや、というよりまさかゲーム制作陣もこのヒュドラーを相手取って、ソロでここまで戦えるプレイヤーがいるなんて想定すらしていなかったのかもしれない。
あくまでヒュドラーは、これまでこの毒沼の洞窟ダンジョンを攻略していたプレイヤーパーティをあっけなく全滅させてプレイヤーたちにトラウマを植え付けようっていうモンスターで、そう考えるとほぼすべての攻撃が広範囲に被害を及ぼすことにも納得できる。
つまり、ヒュドラーとはプレイヤーパーティ抹殺用のモンスターなわけだ。
「ああ、でもそれはいつもの迷宮ボスも一緒か。なーんだ。それじゃあ最後までこの……いや、隠しダンジョンっていうのはその階層のもう1つの迷宮ダンジョンって言ってもいいな、もう」
ただ攻略難易度は明らかにこちらの方が高いのだけど。
だってさ、この隠しダンジョンって攻略推奨レベルが25ってなってたじゃん?
それでダンジョンのボスモンスターのヒュドラーのレベルがいくつなのかわかる?
私、ここまでモンスターのレベルとかについてはあんまり言ってこなかったんだけどさ。
ヒュドラーのレベルは36だよ?、攻略推奨レベル25とかこれもう完全に詐欺だろうに。
「やっぱりそういうのは当てにしちゃダメだってことだな」
ちなみに、私の覚えている範囲でこれまでの迷宮ボスモンスターのレベルを教えとくと。
第1階層迷宮:攻略推奨レベル8~10[公式サイト情報]
ダンジョンボス:ドラゴン(レベル15)
第2階層迷宮:攻略推奨レベル12~15[公式サイト情報]
ダンジョンボス:マダムバタフライ(レベル22)
第3階層迷宮:攻略推奨レベル20~23[公式サイト情報]
ダンジョンボス:ギガントロックゴーレム(レベル30)
ボスモンスターなんだからもちろんそのダンジョンの攻略推奨レベルよりも高いレベルなのは当然しても、だとするなら攻略推奨レベルの方が明らかに低すぎると思う。
ただ、それはあくまでダンジョン攻略にはプレイヤーの能力的な個人差はあれどもそのくらいのレベルがないときついよっていうくらいの認識で、しかもパーティで挑むこと前提で算出した数値だろうからな。
相手モンスターのレベルって、少なくとも私は今まであんまり意識したことなかったよ。
あの、今装備中のカラコン、円環の蛇の眼の装備の特殊効果を知った時にちょっと意識したかな。自分のレベル以下のレベルの相手から受ける状態異常攻撃を無効にするってやつ。
きっとこのゲーム内には他にも敵モンスターや決闘した時に相手プレイヤーの、レベルに関係した効果を持つスキルや魔法、装備とかもあるんだろうし。
「それにしたって今回のヒュドラーは酷いよな。推奨レベル11越えって。……うん、酷い」
しかし実際にここまで戦ってきて能力値的にはそれほど強いわけでもないから、モンスターについてるレベルなんていうものの方が案外当てにはできないというか、しない方がいいのかもしれない。
どんなモンスターにもプレイヤーとの相性とかもあるし、なんなら相性さえ良ければ私だって今の時点でレベル100のモンスターとかでも、倒せるやつもいるかもだし。
「なんだかんだ言って実際に戦ってみないとわかんないことの方が多いから」
だから私はこれからも戦う相手モンスターのレベルとかはいちいち気にしないし、まあ、また気が向いたらついでに教えるくらいで。
さて、回復と少しの休憩を終えた私はヒュドラーの胴体を攻撃していき、胴体のHPをまた1本分削って残りHPを大ケージ1本分としたところでヒュドラーはまた暴れだした。この暴れれだしたところではヒュドラーの胴体に対してはあらゆる攻撃が無効になっているのだけど、仮にここで何発か攻撃を当てられてもそれで結果はあんまり変わらない気もする。
そうしてヒュドラーはついに最終形態へと変化し、真ヒュドラーとなった。いや、これは私がそう呼称しただけであってモンスター名はヒュドラーのままだったよ?
「それで首が9本か。いや、きっつ」
真ヒュドラーの首の数は9本で、それぞれの首のHPケージは大ケージ1本分とさきほどの第2形態の時よりも体力値は減っていたものの、合計値としては一緒の量だった。
さらに翼もまた2枚増えて合計で3対6枚に変わってもはや第1形態の時とはまるっきり別のモンスターになっていた。
「でも、やるしかない」
私は覚悟を決めると深呼吸を1度してから真ヒュドラーに向かって駆け出す。
真ヒュドラーの攻撃方法について、まず物理攻撃の方に大きな変化があった。
爪ひっかき攻撃はひっかき攻撃の後に風の刃が発生して追加攻撃が起こるようになり、さらに攻撃回数が常に2回連続攻撃となり、攻撃速度も上昇。
尻尾での薙ぎ払い攻撃は、攻撃回数は1回のままだったけれどこちらも攻撃速度が上昇し、さらに攻撃直後に大竜巻を1つ発生させるという追加攻撃が。この大竜巻は特にプレイヤーめがけて襲ってくるということもないようだったけど、発生してから30秒近くボス部屋内を移動し続けてプレイヤーの行動を制限してくる。
ただ、これら2つの風の刃、大竜巻という追加攻撃は風属性の魔法攻撃だったため私は気にすることはなかったのだけど。ダメージもないし吹き飛ばされもしないからね。
そして翼を羽ばたかせての小竜巻攻撃は、ヒュドラーを中心として時計の文字盤の数字の位置に広がるように12の小竜巻が同時に発生するように変化。
それが常に3回連続攻撃になったのだが、小竜巻の攻撃速度は第2段階の時のままだったので、まあこれは攻撃前に翼をバサバサと動かすという前兆もあるし、慣れれば誰だって回避できるようにはなるだろう。
それに慣れるまでに死んじゃったらそこまでなんだろうけども。
「でもやっぱり問題は口だよね」
もちろんヒュドラーの首の数が9本に増えたということはそれでヒュドラーの口から吐き出される攻撃も9回連続攻撃になったというわけで。
このボス部屋は広いけどもさすがに一発一発が広範囲を攻撃できる魔法を間髪入れずに9つも打ち出されてそれを余裕で全部でかわせるほどのスペースはなかった。
攻撃と攻撃の間隔はどのくらいだったのかって?、うーん、じゃあまあ今回も音で説明するけど。
<ヒュドラーの首が9本の場合>
ドーン、ドーン、ドーン、ドーン、ドーン、ドーン、ドーン、ドーン、ダァ~ン!
うん。別に最後の1発だけ強力になってたとかじゃないよ。これはあくまで私の耳にはそんな風に聞こえただけってだけだから、たぶん攻撃の威力は全部同じだったんだと思う。
それで、この9連続攻撃を受けている間の私はと言うと……
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ~!!」
とか叫びながらもう全力でボス部屋内を走り回ることになる。
いやきっと誰だってそうなるに違いない。ほんと、ソロで挑んでいて良かったとここまで思ったのはこのゲームを始めてから今が初めてだったよ。これはもう攻撃じゃないね、殲滅だよ。
<モンスター辞典>
〇ヒュドラー
竜族。第1階層の隠しダンジョン、毒沼の洞窟のダンジョンボスモンスター。
複数の首を持つドラゴンで、口から様々な攻撃を放つ。
特にバジリスク同様に毒貫通のスキルを持っているため、口から放たれる攻撃の中でも毒液弾には細心の注意が必要である。
能力値は飛びぬけて何かが高いということもないが、ボスモンスターなので全体的に高水準。
ただし竜族のモンスターの割に耐久がそれほど高くはないので意外にも物理攻撃が効く。
首と胴体で個別にHPケージが存在し、胴体のHPケージを0にすれば倒せるが、首があるうちは胴体への攻撃はすべて首が代わりに受けるので先に首を倒さなければいけない。
さらに首をすべて胴体を攻撃できるようになったとしても、胴体のHPケージが一定値まで減ると首が再生してしまい、さらに首の本数が増えるのでプレイヤーは地獄を見ることになる。
元ネタは下界のギリシア神話に登場する猛毒を持つとされる多頭竜、ヒュドラー。
※ヒュドラーの解説は次回の後書きにも続きます。
次回、ヒュドラーとの戦いが苛烈を極める。
最終形態となったヒュドラーの悪意の塊のような新攻撃に玲愛はどう立ち向かうのか!?




