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ニートな女神がログインしました。  作者: 唯一信
第3階層―RED―
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ニートな女神と初めての正体

RPGとかで、実は敵側のスパイが主人公たちの仲間のフリしてましたっていう展開が好き。

それで1度は裏切られて戦うんだけど、なぜか最終的にまた仲間になるんですよね。

あと、そういうキャラは倒せなくもないけどかなり強いことが多い。←RPGあるある。

 私は玄関の扉を開けて外に出ようとした。

 だけどそこで自分の恰好がさっきのままであることに気づいた。

 私は髪の毛くらい直しておくかと思いバスルームの洗面台で水をつけて櫛で髪を梳かしてボサボサの髪の毛を直してから外に出た。隣の部屋に行くだけなんだけどね。


 そして私は202号室の前までやってくると、表札はまだかかってはいなかったことを確認した。

 表札、どうするんだろうか。別にこんなボロアパートじゃかけなくてもいいし、私もかけてないけど。まあきっとケルダもかけないだろう。さすがに偽名の表札をかけるのはちょっとまずいだろうし。


「でも、大家さんは知ってるのかな。ケルダの本名。実際このアパート審査とかザルだし、即日入居オッケーだったからな。案外偽名でも借りられそうだ」


 これが高級マンションとかだったらそんなことありえないんだろうけどね。

 私は扉の前で1度深呼吸をしてから玄関のチャイムを押した。

 すると部屋の中からガタリという大きな何かが崩れるような音が聞こえてきて。でもそれで一切の音が聞こえなくなった。居留守を使うつもりなのか、でもついさっき部屋に戻ったのを確認したばっかりの相手に居留守が通じるわけもない。

 私は、今度は玄関扉を4回ノックしてから声をかけた。


「すみませーん、隣の部屋の住人のアストレアですけど~」


 そうすることでようやく室内から何者かが動く気配を感じられた。

 私はそこで再度4回ノックをしてもう1度呼びかけた。

 するとケルダはさっきの私と同じように扉ごしに言葉を返してきた。


「え、えっと。何かあったんですか?、あ、もしかしてクッキーおいしくなかったとか?」


 ああ、そういやもらったクッキーまだ食ってないや。後でちゃんと食べよう。


「いや、それとは別件でちょっと。あの、扉ごしじゃなくて面と向かって話したいから、扉を開けて顔を見せてもらえると助かるんだけど。あ、もちろんマスクはつけたままでいいんで」


 私がそう言うと、ケルダは少しだけ間を置いた後で、わかりましたと言って扉にカチャリとチェーンをかけてから扉を少しだけ開いて顔を見せた。もちろんさっきと同じマスクをつけて。

 ただし服装は変わっていて、ローブ姿から普通の若い女の子が着るような洋服を着ていたけど。そのせいで金色の髪の毛が見えてしまっている。

 おそらく急な来客に驚いてマスクはつけたけどローブを着ている暇はなかったんだろう。


「あ、あの。それで話っていったいなんでしょうか」


 マスクごしのくぐもった声でケルダはそう言ったけど、その正体にもう当たりをつけている今の私からするとそれでもまだすぐに本人だとわかる。

 たぶんヤリーロなら何の説明もなしでもマスクごしの声を聞いただけでも1発で正体を見抜くに違いない。もしくはヤリーロならローブを着てても遠目で見ただけでも正体を看破するという可能性もなくはなさそうで恐いけど。


「いや、あのさ。さっきは否定してたようだけど私も思い出したんだ。君のこと」


「え?」


「君さ、やっぱり前に私と遭ったことあるよね。1度だけ」


 私がそう言った瞬間にケルダは驚いて、そして玄関の扉をしめようとした。

 私はそれを慌てて止めようと隙間に手を差し込んで手を挟みそうになった。

 でもその挟まれそうになった手を見てケルダは扉を閉める手を止めたので、私はチャンスとばかりにそのまま扉を元の位置まで戻した。

 扉のチェーンが限界まで引き伸ばされてガチャンと音を立てた。


「ひぃぃぃぃ!?」


 それで悲鳴をあげるケルダと、本当に手を挟みそうになって変な汗をかいた私。

 いやあ、とっさに手を入れて止めようとしちゃったけどやっぱ危ないわ。


「待ってよ、別に私は君のことを他の人に言うつもりはないし、そっちにも何か事情があるらしいってことは知ってるから」


「え?」


「っていうか聞いたし、その、ラケシスからメールで。本当は3日前に届いてたんだけど、今さっき確認したんだよ」


 私がラケシスの名前を出したことでケルダは硬直した。

 そしてそれからケルダは、私の方をじっと見つめて。


「じゃ、じゃあ。本当にあなたはアストレアさん、なんですか?、その、ラケシスの恩人の」


「うん。そうだよ。だからとりあえず君の部屋に入れてくれない?」


 私はそう言った後で目の前の女の子に名前を呼びかけた。


「ケルダ、いや……スクルド」


 自分の本名を呼ばれたケルダは、本名:スクルドは。

 それでもう観念したのか少ししてから扉を1度しめてチェーンを外してから扉を開けてくれた。

 私はそれでただありがとうと言うと、続けてお邪魔しますと言いながらスクルドの部屋に入った。


 さて、ここでまた少しだけ昔の話をしようと思う。

 それはつまり私とスクルドが過去に1度だけ会った時の話だ。

 それは高校3年の秋のこと。春にオーディションに受かり、芸能事務所に所属が決まったラケシスが久しぶりに私の家に遊びに来た。

 家に遊びに来ること自体はそれまでにももう何度もあったし、私の両親ももうラケシスは我が家の第2の娘だと言わんばかりにラケシスのことを気に入って可愛がっていたんだけど。

 その日は初めて、ラケシスが友達を連れてきた。


 その友達は、どうやらラケシスが受かったオーディションでラケシスと一緒に合格した子のようで、ラケシスよりも年下であり、その時で小学校4年生だったかな。

 そう、もちろんその子とはスクルドであり、ラケシスはすぐにスクルドと仲よくなれたらしい。

 2人が仲よくなれたきっかけは、なんだったろう。聞いたような気もするけどそこは忘れた。

 とにかく私はラケシスが友達を連れてきたことにまずは驚いたわけだ。


「あ、アストレアさん。こんにちわー」


「ああ、うん。よく来たねラケシス。……うん?、でもそっちの子は?」


「ふふふ、私のお友達です」


「え、友達!?」


「はい。ほら、自分で自己紹介しないと」


 玄関の前で、遊びに来たラケシスの肩にしがみついていた。見るからに私人見知りするタイプなんですってオーラが全開で出ていたラケシスと同じ金髪の女の子。


「あ、ううう、ス、スクルド、です」


 その自己紹介を言うだけでもいっぱいっぱいという感じで、正直言ってどうしてラケシスがこの子を私の家まで一緒に連れてきたのか最初はわからなかった。

 でも、その後で私の部屋まで2人をあげて、ラケシスから話を聞いてみると、どうやらラケシスとスクルド、そしてもう1柱、アトロポスというラケシスと同じ中学3年生の子の3人でさっそくユニットを結成したのだという。

 ただそのユニットはまだ仮であり、今後芸能界で本格的にデビューするまでにメンバーは変わる可能性はあるらしいが。とにかくラケシスにとって初めて一緒に仕事をする仲間というか、まだ色々と勉強中らしいけどとにかくそういうことらしかった。

 それで、その初めてできた仲間のことをいち早くまず私に報告したかった、と。

 ちなみにこの日、もう1人の仲間であるアトロポスは別に予定があって来れなかったそう。


「ふーん、ユニットねぇ。でも2人は、年が離れてるみたいだけど?」


 私の部屋で、私とラケシスとスクルドの3人は私のお母さんが用意してくれたお菓子とオレンジジュースを飲み食いしながら話をしていた。


「え、そんなことないと思うよ?、たしかに今はまだ学校に通ってるからそう思うかもしれないけど。でも大人になったらメンバー間でこれくらいの年の差なら、ねぇ?」


「じゅ、十歳以上離れてることもあり、ます」


「ふうん、そういうもんなのか」


 スクルドはなんていうか、私と出会ったばかりの頃のラケシスによく似ていて、妙に遠慮がちというか、ちょっとオドオドした感じで話す。

 小学生から見たら高校生はもうだいぶ大人に見えるというか、それで緊張してたのかもしれないけど。

 ああ、そうか。きっとラケシスもそれを見て前までの自分とちょっと似ていたから、それでスクルドのことが気になったんだな。


「あのね、アストレアさん。スクルドはたしかにこうやって知らない人と面と向かって話すのは苦手なんだけどね。歌はすっごく上手いし、踊りもすぐに覚えちゃんだよ」


「ちょ、ちょっとラケシス、さん。そういうのは、やめてって言ったよね」


「もう、スクルドちゃんったら。私とアポちゃんのこともちゃん付けでいいって何度も言ってるでしょう。仲間なんだから」


「ううう、で、でも」


 私はラケシスが言ったことを、最初はあまり信じていなかった。

 だってスクルドは、少なくとも今こうして話した感じではとてもそうは見えないというか。

 でもラケシスが嘘を言っているとも思えなかったし、そもそもラケシスだって出会ったばかりの頃はこんな感じだったけど、実際にカラオケに行った時に歌を聞いた時はすごく上手かったし。

 もしかしてそれってアイドルあるあるなのかなって。


 ラケシスは今の仲間であるスクルドとアトロポスの2人には私のことをよく話しているようで、まあ別にそれは良かったんだけど。

 ラケシスが自分がアイドルになったのはアストレアさんのおかげなんだよとか、まるで私のことを神生の大恩人みたいに語るから私はちょっと気恥ずかしくなった。

 それで終わりにはスクルドに向かって、スクルドも何か悩み事があったらアストレアさんに相談してみるといいよって言って、いや、私はさすがにそれはっていいかけた時にスクルドが。


「あ、あの、じゃあ、相談しても、いい、ですか?」


 って言ってきてさ。まあ、そこでダメですと言えない私はやっぱりお人好しだったんだろうな。


「あ、うん。じゃあ、1個だけね」


 そうして私はスクルドのお悩み相談に答えることにした。

 それで、お悩みの内容は私の予想していた通りというか、むしろそれ以外の悩みを打ち明けられたらどうしようかとか不安に思ってたんだけど。


「あの、私は、すごく人見知り、で。今も、そうなんですけど。初対面の人と、目を見て話せなくて」


「うん」


「特にあの、大人の人と話すのは苦手で。学校のクラスメイトとか、ラケシスさんみたいな人とはまだ話せるんですけど」


「なるほど、そっか。……ラケシスとは真逆のタイプなんだね」


 ラケシスは、親や教師などの大人とは普通に話せるけどクラスメイトとか、自分と年の近い子とは上手く話せない病を患っているけど。

 スクルドはその逆で、大人と上手く話せない病を患っている、と。


「えっとその。立ち入ったこと聞くようだけども。スクルドちゃんは、親がすごく厳しかったりとかするの?、それかたまにヒステリーを起こしてるとか」


「いえ、そんなことはないです。むしろ、すごく優しくて、滅多に怒られません」


「そっか。えっと、じゃあスクルドちゃんは大人が怖いと思ってるの?」


「あ、それは……自分でもよく、わからなくて。でも、たぶん、そうなんだと思います」


 うーん、大人に対して恐怖心があるっていうのは、たいていがその子の両親がすごく厳しいか、怒りっぽいかっていうのが原因であることが多い気がするけど。

 スクルドにはそれが当てはまらないのか。だとすると単純に大人は大人で、子供である自分とは全く別の生き物なんだって心のどっかで思っちゃってるんだろうな。

 しかも自分でも理由がわかってないってことは無意識のうちに。

 あー、これ意外と面倒そうな悩みかもしれない。でも、むしろこの悩みって悩みにするほどでもない気がするな、私は。


「うーん、そうだなぁ。というか、それ多分もう少し年をとったら割とすぐに治ると思うんだけど」


「え?」


「スクルドちゃんも大人になったら、っていうか。いや、きっとその前に治ると思うよ?、アイドルとして活動していくんならこの先も絶対に人と、大人と関わって行くことはさけられないだろうし。今はまだわかんないだろうけど、きっといつかは気持ちの整理がつくと思うけど」


「気持ちの、整理、ですか?」


「うん。なんていうかさ、その、別に今のままでも人とまったく話せないってわけじゃないんでしょ?」


「はい。それは、もちろん」


「なら別に今すぐに治す必要もないというか、それに、もしも治らなかったとしても、世の中には君みたいなあんまり人と話すの得意じゃない、自信なさげで、オドオドした感じの子が大好きだっていう男共がたくさんいるからさ。むしろアイドルとして人気が出るかもよ?」


「え、え、そんな男の人、いますか?」


「いるよ。ねぇ、ラケシス?」


「あ、そこで私に話振りますか?、うん、大丈夫だよスクルドちゃん。少なくとも私の中学校の私のクラスメイトの男子は大半がそうだったから」


 そのせいでラケシスが見た目の可愛さも相まってクラス中の男子を夢中にさせ、それで嫉妬したクラスの女子たちから陰湿ないじめを受けていたことをスクルドは知っているのだろうか?

 いや、きっとラケシスも自分がいじめられていたことはまだスクルドには言っていないんだろう。2人はまだ出会って半年くらいだし、そういうのの告白はまだ、ちょっと厳しいかな。

 でもラケシスの性格ならそれもポロっと言っちゃうかもしれないけど。


「あ、でもでも。それであんまり男の子の人気を奪っちゃうと、それでクラスの女の子からいじめられちゃうかもしれないからそこだけは注意してね」


 ポロっと言いやがった!?

 いや、まだ自分のことだと直接は言ってないけど、今の会話の流れでそんなこと言ったらさ。


「え?、ラケシスさん、も、それでいじめられたことあるの?」


 ほら!!、こうなるじゃん、絶対に!


「うん。あるよ。っていうか去年の冬くらいまではそうだったかな」


 おい、ちょっとラケシス。あ、スクルドがそれ聞いてめちゃくちゃ不安な顔になった。


「でも、そんな時に私はアストレアさんと出会って、色々とアドバイスをもらって、少しづつだけど私も皆と話せるようになって。クラスの女の子たちとも仲直りできて。今ではもう友達なんだ」


 あ、ちゃんとフォローは入れてくれるんだ。


「だからスクルドちゃんも、これから何か困ったことや悩み事があったらアストレアさんや、私やアポちゃん、とにかく1人で抱え込もうとしないで気軽に相談してくれていいんだよ」


 私はラケシスがそう言ったことでようやくその日なぜラケシスがスクルドを私の家に一緒に連れてきたのかということを理解した。今の言葉をスクルドに言ってあげるために。

 いや、言葉だけならいつでも言えるだろう。でも、ラケシスにとって自分のことを助けてくれた私からも話をさせて、その上で助けられた側の自分のことを話すことで言葉に重みというか、説得力を持たせようと考えたに違いない。

 ラケシス、なかなかやるな。いや、そこまで真剣にスクルドのことを気にかけてあげてるというか、まあそのスクルドとこれから一緒にやっていくかもしれない自分たちの将来も考えてのことかもしれないけど、その考えを持っている時点でもうラケシスは立派なアイドルだ。

 人って、いや、神様って短期間でここまで変わるものなのか。

 春先、オーディションを受ける前までは自分にはアイドルなんて向いていない、絶対に無理ですからとか言ってたのに。


「(なんだ、天職だったんじゃないか。うらやましい)」


 私なんていまだに自分の将来の展望なんて欠片も見えてないのに。

 一応大学受験と就職なら、就職の方がましかなと思ってるんだけど。

 私の両親は、なんか私を大学に行かせたがってるみたいなんだよね。

 なんでだろう、私別にそこまで勉強好きでもないし、成績だってむしろ悪い方なんだけど。


「う、うううう、ラケシス……ちゃん」


「あ、やっとちゃん付けで呼んでくれたね。ふふふ、後でアポちゃんに自慢しちゃおう」


 さっきから気になってたんだけどその、アポちゃんって誰?

 ああ、もう1人の仲間のアトロポスって子かな。え、何、2人でどっちが先にスクルドにちゃん付けで呼んでもらえるようになるか競ってたわけ?


「ア、アストレアさんも、あり、がとう、ございました。えと、私、頑張ってみます」


「え、ああ、うん。私のアドバイスなんて役に立たないことの方が多いんだけど。よし、頑張れ」


「ふふふふ。あの、また何かあったら私も、ここに相談に来ていいですか?」


「え!?、ああ、それは……別にいいけど。うん、そうね」


 私は少々歯切れが悪くなってしまったけど、それからスクルドにこう言った。


「まあ何か困ったことがあったら気軽に声をかけてくれて良いよ。私は生活が不規則になりがちだから、ほとんど休みの日は寝てると思うけどね」


「ええっ?、それじゃあ声かけてもダメなんじゃ……」


「うん、だから今日みたいに声かけて私が家から出てきたら運が良いと思ってくれていいよ」


 いや、そりゃ私だっていつでも気軽に声かけてくれて良いよって言えたら格好良いんだろうけどさ。

 私にも疲れてる時とか、悲しい気分の時だってあるし、もしもそういう時に相談にこられても今日みたいに応対なんてできないし。

 だからまあ、こうやってちょっと保険をかけておかないとね。浅ましい話だと思うけども。

 だけどもなんか私の口癖みたいになってるな。私が〇〇だったら運が良かったと思っていいよっていうやつ。


「(なんかちょっと上から目線に聞こえるし、直さないといけないな、これ)」


 私はそう思ったのだった。


 それからは結局、スクルドが私の家を訪れることは2度となかった。

 ラケシスだけならまだ後に何回かは来たんだけど、ラケシスの話によればスクルドの人見知りはそれから少しずつ改善の兆しを見せ始めているそうで、もう1人の仲間のアトロポスって子もスクルドに無事にちゃん付けで呼ばれるようになって喜んでいたそう。

 スクルドは、私と会った時はまだ携帯電話を持っていなくて、5年に上がった時に親から買ってもらったそうだけど、だから私はスクルドの電話番号やメルアドは知らない。

 後で1度だけラケシスからメールでそれを教えようかとも提案されたことがあるけど、その時にはもうスクルドの人見知りはだいぶ治っていたそうだし、何か悩みがあれば私なんかではなくラケシスとか、他のメンバーに相談すればいいと思ったのでやんわりとその提案を断っておいた。

 だから私とスクルドが会って、言葉を交わしたのは後にも先にもその1回だけだったんだけど。


 現在。スクルドの部屋はもちろん私やヤヌスの部屋と同じ間取りだったんだけど。

 こっちには最初からエアコンがつけられていて、ちょっと大きめの液晶テレビもあった。

 私の部屋にはエアコンもテレビもないからうらやましい限りだよ。

 だけどそれより何よりこの部屋、なんていうかさ。


「うわぁ~、女の子の部屋だぁ~」


 そう、当たり前なのだけどスクルドは女神であり、私よりも若い。

 だからその部屋ともなれば当然その、一目でそこが女の子の部屋だとわかる物があるというか。

 可愛らしい小物とか、ハート形のクッションとか、家具の色もシンプルな白で統一されていて清潔感があっておしゃれだし。私の部屋とは雲泥の差だよ。

 おんなじボロアパートの同じ広さ、同じ間取りのはずなのにそこに住む神が違うだけで部屋ってここまで違うものなんだなって。

 まだ引っ越してきたばかりだから部屋の隅に積まれた段ボール箱はあるけど、午前中に荷解きしたと言っていた割にこの部屋はもう8割がた完成していた。

 でも1点だけ気になったのは、部屋の壁に貼ってあったポスターで。


「あ、これってもしかしてSORS時代の?」


 そこには6柱の女神がそれぞれ決めポーズしているポスターが貼ってあった。

 かつてスクルドもメンバーの一人だった神界過去最高人気と呼ばれた伝説のアイドルグループ、SORSのポスターで間違いない。

 だってスクルドとラケシスがいるし、これとまったく同じポスターがヤリーロの部屋に貼ってあるからね。見間違えるわけもない。


「はい。その、解散しちゃいましたけど」


「うん、知ってるよ。でも、たしかスクルドはそれで事務所もやめて芸能界引退したんだよね?」


「は、はい。そうです。い、今でも連絡取り合ってるのはラケシスちゃんくらいで」


「ふーん、そっか」


 スクルドは私を部屋の中央の長テーブルの前に座らせた。

 後ろにベッドがあって目の前には液晶テレビ。テレビは台に乗っていて、台の下にはDVDプレイヤーもあった。そして台の横には収納もあって、何枚かDVDも入っているみたい。

 そして私を部屋に招き入れたスクルドはというと、冷蔵庫の中にいれてあったオレンジジュースをコップに注いで、私の前のテーブルに置いた。


「ありがとう」


 私はそう言ってオレンジジュースを一口飲んでからコップを置き、そして私の隣に座り込んだスクルドにさっそく本題を持ちかけたのだった。


<神様の紹介>

〇スクルド

下界では北欧神話に登場する神で、『未来』を司る女神。

かつて神界で最も勢いのあるアイドルグループと呼ばれたSORSの元メンバーの1人であり、SORSの中では最年少だった。

SORSが解散したのと同時に所属していた芸能事務所も辞め、一般神に戻ったのだけどその後の足取りはつかめず、いまだに彼女のそれからについてどうなったのか教えてほしいという内容の電話が事務所にかかってくるくらい人気が高かった。

SORSの一員として華々しくデビューした時にはもうほとんど治っていたそうだけど、実は人見知りするタイプであり、今でも他の神と話をするのは得意ではないらしい。

趣味はお菓子作りであり、特にクッキーを作るのが好きで本人も好物としている。



次回、スクルドが『はしくれ荘』にやってきた理由とは?

そしてお待ちかね、アストレアのゲーム再開。(ただしドラマパートはまだ少し続く。)

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