ニートな女神と初めてのご挨拶
ちなみに筆者は、過去に1度だけ引っ越しのご挨拶に来た方から、つまらないものですがと言われてそこらのコンビニで売ってる普通のカップ麺を2個ほどいただいたことがあります。
ちょっと反応に困っちゃいますよね。
HPケージを0にしたギガントロックゴーレムは目に宿らせていた緑色の光を消すと、直後に体の各部をボロボロと崩れさせて全身が崩壊し、砕け散った岩の塊が光の粒子となって消えていく。
私は地上に降り立つと、ドラゴンを送還した。
それからポーションと聖水を飲んでHPとMPを回復させながら戦闘終了後のリザルト画面を閉じた。
ギガントロックゴーレムの経験値は6000、お金は8000Gと十分な量もらえた。
私は最後ドラゴンの大竜巻でギガントロックゴーレムに止めをさしちゃったからもしかしたらそれのせいで報酬の宝箱のグレードが下がるんじゃないかとか、ちょっと不安になっていたんだけど。
幸いにも召喚スキルで呼び出したモンスターでボスに止めをさしても、それはあくまでそのモンスターを召喚して使役したプレイヤーの実力とみなされたようで戦闘終了後のボス部屋には今回も金色の大きな宝箱と、青と緑の2つのワープゲートが出現したのだった。
このゲームの攻略サイトの掲示板などでは、この迷宮ボスの報酬の宝箱のうち、最高の金色グレードの宝箱に関しては存在自体が半ば迷信のように語られている節もあって、まあ迷宮ボスをソロで撃破できるプレイヤーなんているわけないという思いからそう言っているんだろうけど。
「まさか、第1、第2、第3全部で金の宝箱出したプレイヤーがいるなんて、言ったところでそれこそ迷信扱いされて終わりだよ」
事実として私が第1階層の迷宮ボスの金色の宝箱を開けてその中に入っていたドラゴンシリーズの装備を着ていた時にそれを見た他のプレイヤーたちにつけられた二つ名、竜鱗の乙女と。
第2階層の迷宮ボスの金色の宝箱を開けてその中に入っていた蝶々シリーズの装備を着ている時にまたそれを見た他のプレイヤーが私につけた二つ名、蝶々仮面。
この竜鱗の乙女と蝶々仮面が実は同一のプレイヤーであるということはまだ他のプレイヤーたちは気づいていないようだったし。
それはきっと2つの迷宮でボスをソロで撃破したなんてことはどっちか片方だけ成し遂げるよりもさらに至難の極みであって、そんなことできるプレイヤーなんて絶対にいるはずがないという思い込みがあるからなんだろうなぁ。
だけど、ちょっと考えれば普通に気づきそうなもんだけど。
ドラゴンをソロで撃破できたプレイヤーなら、マダムバタフライもソロで撃破することができるんじゃないか、あるいは、できてもおかしくはない、とは思わないのか。
「いや、思わないんだろうな。正直言って迷宮のボス戦はもうほんとに難易度がおかしいから」
階層最後のダンジョン、迷宮のボス戦。
つまりはそのボスモンスターの強さは、皆もわかってると思うけど異常だ。
けれど、そもそもがその階層を攻略中のプレイヤーが、最大の6人パーティで挑んでもちゃんと苦戦させられるくらいの強さがあるわけだから、それも当然と言えば当然の話で。
「だからあれだよね、報酬が銀の宝箱でも十分すごいと私は思うし、それに……いや、いいか」
迷宮のボス戦後に出現する宝箱のグレードについておさらいしておこう。
宝箱のグレードは全部で4段階あって、上から金、銀、銅、赤。
宝箱のグレードはそのボス戦で3つの条件のうちいくつ満たしたかによって決まる。
条件3つとも達成してボスを倒す=金の宝箱。
条件2つを満たしてボスを倒す=銀の宝箱。
条件1つを満たしてボスを倒す=銅の宝箱。
条件を1つも満たさずボスを倒す=赤の宝箱。
そして肝心のその条件というのが以下の3つだ。
①ソロでボスを撃破すること。
②初回戦闘時にボスを撃破すること。
③ボスごとに決められた制限時間内にボスを撃破すること。
このうち、①の条件は99%達成不可能だと思われるのでプレイヤーはどう頑張ったところで本来は銀の宝箱までしか目にすることができないのだ。でもよく考えると②の条件も相当厳しいだろう。
だって迷宮ボス戦なんて最低でも3回は全滅して、その中でボスの攻撃パターンとかそれの対処法とかを各自で考えるなり見つけるなりしてようやく倒せるかどうかって話なんだし。
「……よし、それじゃあ宝箱を開けてみるか」
私はボス部屋の中央に出現した金の宝箱の元まで歩いてくると、勢いよく宝箱を開けてみた。
するとそこには、まあ今回もいままで同様に武器や防具、装飾品に巻物、それと素材アイテムがいくつか入っていたんだけど。
「おいおい、マジかよ。やっぱり武器は槌なの?」
この前私が予想した通り、今回の宝箱の中に入っていた武器は槌だった。
これはいよいよ階層の住人クエストの中の『〇〇入門』のクエストとの関連性が明確になったような気がしたけど、今はとりあえず装備の効果の確認をしよう。
まず、装備品から紹介していこう。
防具は頭部分に兜、体部分に鎧、足部分に靴とこれは今までと変わりはない。
それで武器はもう今言ったけど槌ね。そして装飾品が2つ。両手に装備される籠手と、腰に装備されるであろうベルト。
「デザインはやっぱり岩っぽい感じなのか」
これまでの金の宝箱の中に入っていた装備も、ボスがドラゴンなら宝箱の中にもドラゴンシリーズの装備が入っていたし。ボスがマダムバタフライなら宝箱の中身は蝶々シリーズの装備が一式で入っていた。
それで今回はボスがギガントロックゴーレムだったから、宝箱の中にはゴツゴツした岩のような装備品が入っているだろうことは予想はしていたけど。
装備品のシリーズ名は、ギガントロックシリーズとでも言うのかね。
〇ギガントロックヘルム
VIT+40
特殊効果:土属性の魔法攻撃によって敵から受けるダメージを10%減少させる。賢さの能力値を下げるスキル・魔法の効果を無効化する。
〇ギガントロックアーマー
VIT+68
特殊効果:土属性の魔法攻撃によって敵から受けるダメージを20%減少させる。耐久の能力値を下げるスキル・魔法の効果を無効化する。
〇ギガントロックシューズ
VIT+36
特殊効果:土属性の魔法攻撃によって敵から受けるダメージを5%減少させる。敏捷の能力値を下げるスキル・魔法の効果を無効化する。
私はまず兜、鎧、靴の装備の効果を確認してギガントロックシリーズの装備のだいたいのコンセプトというか、そういうのがわかった気がした。
このシリーズの装備、これまでのよりもすごい効果だ。
ただ、何よりも私が驚いたのはその次に確認した武器の効果の方で。これは第2階層の時と同じ流れだったんだけど、私は思わず声をあげてしまった。
〇ギガントロックハンマー
STR+115
特殊効果:攻撃速度上昇。この装備で敵に物理攻撃ダメージを与えた時、追加で火属性の魔法攻撃ダメージを敵に与える。
「…………はぁ?」
いや、いやいやいや。
「え、えっとー……まず、攻撃速度上昇はいいよ。ふつうは攻撃モーションが遅い槌だけど、それがちょっとは速く攻撃できるようになるっていうんでしょ、望んでた通りの効果だったよ。でもその後のは何?」
この槌を装備した状態で槌で敵に物理攻撃ダメージを与える、つまりハンマーで思いっきり敵を殴りつけると、だ。
火属性の魔法攻撃ダメージを追加で与える……っていうは、この場合つまり。
「え、何?、まさかこのハンマー殴る度に爆発でもすんの!?」
そう思ってよくよくハンマーの形状というか、デザインを見てみると。
ハンマーの敵を殴る部分に、なにやら火薬のようなものをセットできるっぽい装置というか、そういう構造をしているようなことがうかがえた。
つまり、バッとハンマーを振って、ドカンと敵を殴ったら直後にドーンと爆発が起こると。
「……いやいやいや、そんなまさかね。そんな馬鹿な武器あるわけが……冗談でしょ?」
いや、それを抜きにしても装備補正の効果値もちょっとおかしい。
STR+115って、それもうあれじゃん。鉱山のロックゴーレムでさえ下手したら2、3発殴っただけで倒せるくらいの威力があるんじゃないか。
「これあれだよね、なんかこう、本来は戦闘用の武器とかじゃなくてさ。工事現場で地下の固い岩盤とかを砕くための粉砕用工具みたいな?」
そんなものを武器としてしまって本当に大丈夫なんだろうか?
でもまだ殴ったら爆発するとか決まったわけじゃないし。
爆発じゃなくてただ火が噴き出るだけって可能性もあるから、とりあえず残りの装備品も確認しながら気持ちをいったん落ち着かせよう。大丈夫、私はまだ冷静だ。
〇ギガントロックガントレット
VIT+18
特殊効果:土属性の魔法攻撃によって敵から受けるダメージを5%減少させる。力の能力値を下げるスキル・魔法の効果を無効化する。
〇ギガントロックベルト
VIT+25
特殊効果:土属性の魔法攻撃によって敵から受けるダメージを10%減少させる。プレイヤーは吹き飛ばしの効果を受けつけなる。
これで装備品の方についてはもう全部の効果の確認を終えた。
そして、つまりギガントロックシリーズの装備をすべて一式で身に着けた場合、最終的にどうなるのかというと。
まず、装備補正値の合計はVIT+187、STR+115。
防具や装飾品にはVITを上昇させる補正値しかないため、たとえば今の私がこの装備に変更したりした場合は蝶々シリーズの装備の装備補正値で強化された敏捷と賢さの値が0になる。
つまり、私はものすごく遅くなり、魔法攻撃にも弱くなる。
しかしその対価として耐久はもう鉄壁になって、おそらくどんな物理攻撃を受けてもすべて0ダメージにしてしまえるだろうということはわかる。
そして、ザコモンスターであればどんなモンスターも確実に一撃で倒せるだろうということも。
さらに特殊効果についてだが。
まず、私は土属性の魔法攻撃によって敵から受けるダメージを50%減少させられる。
つまりはダメージ半減であり、これはドラゴンシリーズの装備と似ている。
そして1番重要というか、最も魅力的な効果はもちろん。
「ギガントロックシリーズの装備を着ていれば私は、能力値を下げられなくなる?」
戦闘で重要になる、力、耐久、敏捷、賢さの4つの能力値を下げられることがなくなる。
正確にはそれらを下げる効果のあるスキルや魔法の一切を無効化する。
「あれ、でもじゃあ私自身のスキルとかはどうなるんだろう。粉骨砕身とか、あのスキルは力を上げる代わりに耐久が下がる効果があったはず。それも使用不能になるの?」
そこらへんのことについては後で実際に確認してみるとして、だ。
とにかく能力値を下げられないということはこのゲーム内でもかなりのアドバンテージがあるというか、それには大きな意味とメリットがあるということはわかっているから。
「あー、どうしよう。防具と装飾品だけ変えて槌だけ装備しないっていうのもなぁ~」
しかし槌を装備してしまうともちろん私は今装備している短剣と片手剣の両方を外さなくてはいけないということになるわけで。
でもこれまで1番の問題としていた槌という武器の攻撃速度の遅さは、槌の武器の特殊効果によって少しは改善してるみたいなんだよな。
私も、槌だって素早く振って敵を攻撃できるのであればむしろ武器を変えることにそこまでの抵抗はないのだ。前にも言ったように私は今のこの短剣と片手剣のダブル装備のスタイルが気にいっているということも事実なんだけど。
「うん、よし。それならこうしよう。1回これでこの装備に変えてみて、戦いにくさが目立つようならすぐに今の、元の状態に戻すということで」
私はそう決めると、さっそく装備と装飾品の変更を行った。
なお、装飾品についてだけど。守りの腕輪を外して力の腕輪に置き換えた。
耐久の方はもうこれ以上もないほどに上がっているからね。
そうして私の現在の装備は以下のようになった。
頭:ギガントロックヘルム
体:ギガントロックアーマー
右手:ギガントロックハンマー
左手:――
足:ギガントロックシューズ
装飾品1:ギガントロックガントレット
装飾品2:ギガントロックベルト
装飾品3:力の腕輪
それで、変えてみた結果なんだけどさ。
「うわっ!、敏捷の値が急激に下がったせいで体が重いわ。予想はしてたけどこれは、きっついな」
蝶々シリーズの装備効果で上がっていた敏捷の値の合計値は125。
つまり今、装備を変えたせいで私は敏捷が一気に125も下がったのだ。
それでこれまで通りに体を動かそうとしてみても体は思うように動かず、1歩を進むのでさえかなりの労力が必要だった。
だけど、そもそも第2階層で蝶々シリーズに装備を変えたときは、むしろ体が想像以上に速く動き過ぎて気持ち悪かったし、それ以前は遅いスピードでも普通に剣を振って戦えていたのだ。
だからこれはまたこの速度で慣れればもともとの敏捷の値もあるんでそんなに遅いというわけではないはず。
これは装備を変えたせいで起こりうる弊害のようなものだから仕方ない。
私はそれでなんとか今までのように軽快にフィールドを駆け回っていた時の速度感覚をいったん白紙に戻そうと奮闘し、10分後、ようやく普通の速度で足を交互に前に出して歩行するということまではできるようになったけど、まだ全力で走るのは無理そう。
ちょっと力の腕輪を外して敏捷を上げる装飾品に変えようかととも考えたけど、ここまで一気に下がったのだ。たとえそこで装備をかえていくらか敏捷の値が上がったところでそこまでの変化はないだろうと思ってやめにした。
「あ、そうだった。っていうか私あれ確認してないな、まだ」
あれ、とはもちろんギガントロックゴーレムからいただいたスキルのことだ。
もう皆もわかってると思うけど、それは召喚:ギガントロックゴーレムのスキルでさ。
戦闘終了後にそのスキルを入手したって報告画面も出たけど、ポーションと聖水を飲んでたんですぐに画面閉じちゃったんだよね。こう、流れ作業で。
〇召喚:ギガントロックゴーレム
効果:『ギガントロックゴーレム』を召喚し使役することが可能になる。
消費MP:発動中1秒経過毎に2消費 リキャストタイム:――
気づいた人はいるかな?
ギガントロックゴーレムはこれまでのモンスターと違って召喚中に1秒でMPを2消費していく。
そんなんじゃすぐにMP切れ起こしそうだけど、代わりに使える技も強力で、しかも3つあった。
『ギガントロックゴーレム』が使用可能なスキル
①ガトリングストーンバレット
効果:土属性の中級攻撃魔法。指先から合計20発の石の弾丸を高速で撃ち出す。
消費MP:12 リキャストタイム:20秒
②アースシェイカー
効果:土属性の中級特殊魔法。自身を中心に半径50メートルの範囲の地面に振動を与え、範囲内の地上に存在する敵の動きをすべて5秒間停止させる。空中にいる敵には効果を及ぼさない。
消費MP:22 リキャストタイム:40秒
③ブレイズボム
効果:火属性の中級攻撃魔法。炎の塊を生み出し敵に向かって射出する。炎の塊は何かにぶつかると周囲に炎をまき散らし、さらに上空に向かって火柱を上げる。
ダメージを与えた敵をやけど(中)の状態異常にする。
消費MP:18 リキャストタイム:25秒
まさかの全部中級の魔法という、だけど消費MPとリキャストタイムから考えてもどの技も使えても1度というところか。
今回のボス戦のように、聖水やらMPを回復するアイテムを飲みながら召喚し続けるにはちょっと抵抗があるというか、それほど長時間召喚し続けるほどのことはないと思うんだけど。
でも改めてギガントロックゴーレムの技を見て、どれも恐ろしいなとは思った。
「強力なんだけどいまいちどこで呼ぶのか、状況が想像しにくいな」
1個だけ思いついたのは、逃げ足の速い敵が逃げないように、足止めとして②の技、あの両腕を地面に叩きつけて周囲一帯の地面に地震というか、振動を与える技を使えるかといところだけど。
①と③の技に関しては、果たしてこの先どっかで使う機会があるのかね。
「まあ、いいや。とりあえず確認だけしておけば」
私はそう言って、ギガントロックゴーレムの使える技についての詳細を表示していた画面を閉じた。
そして次に金の宝箱に入っていた残りの中身を全部アイテムボックスの中に収納した。
巻物もあったけど、それの確認はまた明日でいいか。素材アイテムとかの確認も。
「とにかく私はもう疲れたよ。この装備でも普通に歩けるようにはなったし、とりあえずもうボス部屋を出るか。ああー、でももう街まで歩いて帰るのも面倒くさいな」
私はボス部屋内の緑色のワープゲートの中に入ると、迷宮の入口である神殿の中に戻ってきた。
そしてその神殿内にもちゃんと緑色のワープゲートが出現し、私がまたいつでもあのボス部屋に戻れるということを確認したら私はもうその場でログアウトした。
一応、この神殿内も1つの小さなフィールドのような扱いであり、それで次に私がゲームにログインした時にはまたこの神殿内から続きをプレイできるそうだったから。
――神界の私の部屋――
そうして現実世界の私の部屋のベッドの上にある、私の肉体に意識が戻ってきた時には時刻はもう午前の6時前で、外はもうだいぶ明るくなってきていた。
でも私はそんなことはお構いなしにゲーム機を頭から取り外すと、ベッドから降りてテーブルの上にゲーム機を置き、そして水をコップで3杯くらい飲んでからまたベッドに直行。
ベッドの上に横になって目を閉じたら瞬間にもう私は深い睡魔に襲われ眠りの中へ。
でも、今日は隣の部屋に新しい住人が引っ越してくる日で、たぶん昼過ぎか夕方くらいに隣の部屋に住む私に挨拶に来ると思うんだけど。
だけども私は寝たよ。もうぐっすりと8時間睡眠。それで次に起きたのが午後2時過ぎっていう。
「ふぁ、ふぁ~~~~あ。良く寝た。迷宮攻略を夜中にやるのはダメだな、いや、今回は始めるのが遅かったせいもあるけど」
私は目覚め、時計を確認して、そしてベッドから起き上がり降りると、そこで伸びをした。
「ん、んーーーーーー!!、さて、と。飯、どうしよう。ってかもうお隣さん来てるのかな?」
あるいはさっき、今日の午前中には引っ越しのトラックがアパートの前まで来て、隣の部屋に家具とか運び入れてた可能性もあるけど……とか私が思っていたちょうどその時だった。
私の部屋の玄関のチャイムが鳴った。
「んあ!、来た来た」
私はそれで自分の今の恰好、服装を確認して、ついでに風呂場の鏡も確認して、服も乱れて髪もボサボサだったんだけど。そういや越してきたのは若い女神だっていう話だったし、もう別にいいかと思ってそのまま玄関の扉の方へ。
でも、そこで我に返った。もしもチャイムを押したのが別の人、たとえばヤヌスとかだったりした場合はさすがにこのままでちゃまずいんじゃないか、と。
だから私は念のため扉についてるドアスコープを覗き込んでみたのだけど。
「……え、え、え?、ちょ、なになに、なに、あいつ」
私は扉1枚隔てた向こうにいる、たった今私の部屋のチャイムを押したらしい人物の姿を見て思わず扉から距離を取ってしまった。
なぜって、それはだってドアスコープから覗いて見えたそいつが……
「変なローブみたいなの着て、顔にガスマスクみたいなの着けたやつがいた!?、あれ、これまだ夢の中なの?」
それはもう完全にどこからどうみても不審者だった。
これ、扉開けた瞬間に私ナイフとか包丁でグサリってやられるパターンじゃね?
間違っても神様はそんなことでは死なないけど、でも刺さるものは刺さるし、血も出るし、痛いんだよ。
私がそれで扉を開けないか、それとも開けるか迷っていたところに2度目のチャイムが鳴った。
そしてさらに追加で扉をノックする音も聞こえてきた。
どうしよう、ここはいったん居留守を使っちゃおうかおうかな、と、それで私がそう考えた直後に、扉の向こうから声が聞こえてきた。
「あ、あの~、すみません。今日、このアパートの隣の部屋に越してきた者なんですけど」
それを聞いた私は本当にその場で頭を抱えて悩みこんだ。
おいおい、マジかよ。これ、ドッキリとかじゃないよな?
次回、引っ越してきたお隣さんの意外過ぎる正体が判明。
そして今まであまり語られなかったアストレアの過去の話、高校時代のエピソードを1つ、軽く紹介します。実はここからが、第3階層編のドラマパートの大きな部分になります。
もちろん、ゲーム攻略も同時進行で進めていきますが、以降の展開には乞うご期待。
ゲームの方は、新しい装備に慣れ、そしてその装備のまま残された難易度MAXの方のボスクエストに挑んでいく……予定。




