ニートな女神と初めての双子
モンスターを倒した時の経験値やお金の分配についてだけど、たとえば経験値10のモンスターAを1人で倒したらもちろんその1人だけに経験値10ポイントが手に入る。
で、これがパーティを組んでいると話は少し変わって。
たとえばプレイヤーAとBの2人パーティでモンスターAを倒すとき。
プレイヤーBは何もせずにプレイヤーAだけが攻撃によってモンスターAを倒したとしても、戦闘終了後に経験値は2人に10ずつ手に入る。
プレイヤーAとプレイヤーBがパーティ登録していないただのプレイヤー同士だった場合は、もちろんプレイヤーAだけで倒したモンスターの経験値はプレイヤーAだけに手に入る。
だってそれはソロプレイヤーがその場に2人いるだけだからね。
だけど、パーティ登録はしていないけれどプレイヤーAとプレイヤーBが協力してモンスターAを倒した場合は話が別で、この場合はパーティ登録していなくてもAとBの双方のプレイヤーに10の経験値が手に入る。
つまりどのような場合であってもモンスターを倒した経験値が分配されることはない。
経験値10のモンスターを2人で倒しても、1人5ポイントずつになったりはしない。
3人パーティであれば誰かが倒したモンスターの経験値は3人全員に手に入るし、それは4人でも5人でも同じなんだけど、ただし一緒にフィールドやダンジョンに出ている時に一緒に戦闘状態になったモンスターにしか適応されない。パーティ登録はしているけどフィールドには出ずに街とかにいて、その間に他のパーティメンバーが倒したモンスターの経験値やお金は街にいるプレイヤーにはもちろん手に入らない。あくまでその時一緒にそのモンスターと遭遇し戦った時にだけ経験値とお金は手に入るのだ。
でないと強いプレイヤーとパーティ組むだけ組んで、自分で何もしないプレイヤーも勝手に経験値とお金が手に入れられることになってしまうからね。
おっと、話がそれたか。
それで今回のアースジャイアント討伐の件についてなんだけど。
先にアースジャイアントと戦っていたピンク&水色ちゃんの2人はパーティなんだろうけど、後からやってきて最後に止めだけを刺した私はもちろん2人とパーティではない。
この場合に経験値やお金がどうなるのかというと私たち3人全員にアースジャイアントを倒したことで得られる経験値とお金が手に入るのだ。今も説明したけどね。
パーティを組んでいないプレイヤー同士が協力してモンスターを倒すということの定義は、そのモンスターに1ダメージでも与えたプレイヤーはそのモンスターを倒すことに協力した扱いになる。
だから極論だけどHPが100で経験値も100のモンスターを100人のお互いパーティ登録をしていないプレイヤーが1ダメージずつダメージを与えて倒した場合でも、攻撃した100人のプレイヤーは全員100の経験値が手に入れられる。
これが何を意味しているのかということについては、まあ色々あるんだけど。
フィールドで戦うザコモンスター相手なら、たとえば誰かが苦労して戦ってHPを減らしたモンスターに最後だけひょっこり現れた別のプレイヤーが止めだけさしても、その止めだけさしたプレイヤーにも先に苦労してHPを削ったプレイヤーと同じだけの経験値とお金が手に入る。
もちろんそれはせこいと言うか、ずるい行いであってゲーム内のプレイヤー間ではそういう行いをするプレイヤーのことを経験値泥棒だとかお金泥棒だとか、あるいは単に泥棒と呼んでいる。
プレイヤーキルが出来ないこのゲーム内ではある意味最も忌避される行いであり、もしもそれを故意に行ったことがばれたりした場合は酷いときは犯罪者扱いされることもあると聞くので、だからフィールドやダンジョンでは他のプレイヤーたちの戦闘には基本不干渉でいるのだ。
「私のこれも、他人から見たら歴とした泥棒なんだけど」
なにせ私は先にピンク&水色ちゃんの2人が苦労してHPを大幅に減らしたアースジャイアントを、横からその手柄をかっさらう形で倒してしまったのだから。
ただ今回はあくまでアースジャイアントを倒して経験値をお金をもらうことが目的ではなく、そうしないと先に戦っていたプレイヤー2人が殺されそうだったから、つい助けてしまったと。
下心はなく善意からやったことだということを私はこれから2人に説明しないといけなかったのだが。
「あ…………えっと」
アースジャイアントを倒したことで経験値とお金を得たということを知らせるリザルト画面を閉じた後で、まず最初に声をあげたのは水色の髪の女の子、リリアちゃんだった。
「あの!、えっと、助けてくれた……んですよね?」
その質問はもちろん私に対してのものだろう。私は質問に答える前にまず自分の装備している蝶々の仮面を一度外した。初対面の人間と会話するときに仮面つけてるのってたとえ相手が年下であっても失礼だと思うから。まあ私は神様だから人間と年齢どうのこうのって言えないんだけどさ。
「うん、一応はそのつもりだったんだけど。あの、もしかして余計なおせっかいだった?」
私は寄り添うようにして固まっていた2人に歩きながらそう聞き返した。
ピンク色の髪の子の方はまだ驚いているのか、それとも私のことを警戒しているのかずっと黙ったまま私のことを見てきていたけど。
「いや、最初はアースジャイアントが誰かと戦ってるなって気づいただけで、それでちょっとどんな人が戦ってるのかなって気になって近づいたんだけど」
私は極力嘘は言わないように正直かつ丁寧に事情を説明した。
「そしたら、君たち2人が頑張って戦ってるのが見えてさ。途中から見学してたんだけど、終わりの方で君が、えっと水色の髪の君が衝撃波でふっとばされて。それで一気にピンチになったように見えたんで、このままだと君たち2人がやられちゃうなって」
「あ、はい」
「だからその、勝手に戦闘を見学してたことに負い目もあったし、女の子2人が目の前でモンスターに殺されちゃうのは見たくなかったんでつい助けに入っちゃったというか、その、ごめん。先にあいつと戦ってたのは君たちの方なのに手柄を横取りするような感じになっちゃって」
私はそう言ったあとでもう1度ごめんと言うと頭を下げた。
すると水色の髪の子の方も慌ててそれを止めてくれて。
「い、いえいえそんな、むしろ助けてくれたことで私たちが感謝しないといけないというか」
「でも本当は私が助けなくても君たち2人であいつをあのまま倒せたんじゃ……」
「そ、そんなことないですよ。あなたが助けてくれなかったらたぶん、私たちはやられちゃってました。だよね、お姉ちゃん?」
うん、お姉ちゃん?
「……うん。そうだと思う。ごめん、私が油断してたせいだ」
「ううん、私ももっとちゃんと、戦う前に情報収集しておけばこんなことには。それに飛ばされちゃった後で私すごくパニックになっちゃってそれでお姉ちゃんに迷惑かけちゃったし」
水色の髪の子はピンク色の髪の子に今はっきりとお姉ちゃんと呼んだ。
「え、っていうか君たち2人って姉妹なの?」
リアルの性別はわからないし、それともゲーム内だけの設定なのかもしれないけど私は聞いた。
「あ、はい。私が妹でこっちがお姉ちゃんです。でも年は同じなんですよ。双子なので」
「双子?……ああ、そういえばそうか」
私は水色の髪の子の双子発言を聞いて改めて2人の顔を見て気づいた。
この2人の顔は非常によく似通っていて、きっとそれは2人のアバターの顔をお互いにリアルに近い顔にしたからこそなんだろう。
あるいはゲームを始める前にあらかじめゲーム内のキャラの顔はこんな感じでと示し合わせていたとしてもいいのだけど。その場合でもそれが出来るということは2人はリアルでも面識があるはずで。
「えっと、それはリアルでの話?」
「は、はい。そうです。あ、これ言っちゃうとまずかったですかね?」
「いや、それはプレイヤーの自由だと思うから別にいいけど」
それにしてもリアルで姉妹の双子がゲーム内でも似たような顔をしたアバターを作って、それで2人でパーティ組んで姉妹プレイとか、なくはないんだろうけどちょっと珍しいかな。
仮にゲーム内で肉親と一緒にゲームを始めたとしても、パーティを組むならそれでも3人以上っていうのが基本だから。
「なるほど。2人きりのパーティって珍しいなって思ってたけど、そういうパターンもあるのか」
私は1人それで納得した。
「あ、自己紹介がまだでしたね。私はリリアって言います」
「私はリリム。あ、もちろん本名じゃないよ?」
リリアとリリムね。なるほど双子っぽさを出すために名前も似せました、と。
「私は玲愛だよ。えっと、とりあえずここじゃなんだし一緒に街に帰らない?、あ、時間は大丈夫?」
私たちは荒野フィールドの真っただ中で会話をしている。
だけどあんまり長いこと1つの場所に止まっていたらまた別のモンスターに襲われたりして面倒臭いからとりあえず場所を移そうと提案した。
すると2人は顔を見合わせた後でうなずくと私たちは3人でグランガンの街に帰ることにした。
アースジャイアントのドロップアイテムについてだが、巨人の皮については半々で分け、巨人のこん棒はもちろん2人の方にあげた。特にリリムちゃんは装備できるからね、それ。
<第3階層:岩の都グランガン>
街に帰る途中でも2人とは色々と話をした。
そこでわかったのはどうやらリリアとリリムの2人が本当にリアルでも双子の姉妹らしいということ。
2人は中学1年生の13歳で、13歳の誕生日に両親にVRゲーム機を買ってもらって、それで無料で遊べるこのゴッドワールド・オンラインを一緒に始めたこと。
2人のアバターの顔についてはリアルに似せたのではなく先にゲームを始めた姉であるリリムが、すぐにログアウトしてリアルで待機していた妹のリリアに自分のアバターの顔のパーツ等を教えたとのこと。
私はそれを聞いてなるほど、そういう方法もあるのかと思ったけど、しかしそれだと妹の方が自由に顔を選べないのではと聞いたら、ゲーム開始前に2人である程度相談したのだそう。
「ふーん、そっか。それであの、2人のその髪の色は?」
「ああ、これ?、最初は私たち2人とも茶髪だったんだけど、途中で変えたんだよ」
「え、髪の色って途中で変えられるの?」
ここはまだ第3階層だけど、この時点まででプレイヤーの髪の色をかえる方法なんてあったっけ?
私はリリムちゃんの言ったことにそう疑問を口にしたけど、すぐにリリアちゃんが教えてくれた。
「あ、ええとその、第2階層で私たちが出会った親切な女性プレイヤーの方がその、私たちに髪の色を変えられるアイテムをくれたんです。顔がそっくりなのは良いけど見分けがつかないから髪の色でも変えたらって言われて」
「ああ、そうなんだ」
つまり2人にそう言った女性プレイヤーは先の階層を攻略中の先輩で、先の階層にはプレイヤーの髪の色を変えられるアイテムがあるということだな。
「でもどうして2人とも変えたの?、しかもピンクと水色って」
2人の見分けをつきやすくするためだけなら、どちらかは茶髪のままでも良かったのでは?
「どうせ変えるなら2人とも変えたほうが面白いし、色は自分の好きな色を選んだだけだよ。でも変えた後でちょっとおかしいかなって思いはしたけど」
「なんかあるライトノベルに水色とピンクの髪をした双子のキャラがいるとかで、よく他のプレイヤーからそのラノベが好きなのって聞かれるんですけど全然そんなことなくて。ほんとうに偶然……やっぱり変ですかね?」
うーん、まあ普通の感性から言うなら変なんだろうけど、でもゲーム内のアバターの話なんだし別に髪の色くらい自由でいいと思うけど。
「良いんじゃないかな、別に。それにそれで見分けは簡単につくし」
私がそう言ったら2人は良かったと言って安堵した。
そう不安になるくらいならもっと普通の、ありがちな色にしておけば良かったのに。
それから私たちは街に帰ってきて、まだ2人には時間に余裕があるらしくせっかくだからもう少し話を聞かせてもらうことにした。
私たち3人はグランガンの街にある広場の、公園のテーブルつきベンチに向かい合わせて腰をかけた。
「それにしてもさっきの玲愛さん恰好良かった~。いきなりヒュンッて私たちの前に飛んできたかと思ったらそれからすぐにあいつに止めをさしちゃってさ」
そう言ったのはリリムちゃんだ。
リリアちゃんの方は敬語を使うけど、リリアちゃんの方はそういうのは気にしない質みたい。
なんかそこのところちょっと李ちゃんに似てるな。
「それを言うなら君たち2人の戦いの方がすごかったよ。えっと、リリムちゃんはどうして初期武器を槌にしたの?」
私はリリムちゃんに一番気になっていた質問をぶつけて見た。
「え?、なんか一番攻撃力が高いって書いてあったから。大剣とどっちにするか迷ったけど」
なるほど、ある意味一番わかりやすい理由だ。
「あ、私は先にゲームを始めたお姉ちゃんが初期武器を槌にしたって言うので、それで魔法が使える杖にしました。元から魔法は使いたいなって思ってたのもあるんですけど」
リリアちゃんの方も会話の流れを組んでそう教えてくれた。
「でも玲愛さんって私の見間違いじゃなければさっきフィールドで、えっと、両手に武器を装備してなかった?」
「あ、うん。今は右に片手剣。左に短剣を装備してるよ。初期武器は片手剣で、短剣の方は第2階層の住人クエストの報酬で」
「あー、そういえばそんなクエストあったな。ていうか両手に別々の武器って装備できたんだな」
うん。私も短剣を装備できるようになって初めて気づいたんだけど。
でも第1階層には新たな武器を装備できるようになるスキルが報酬のクエストなんてなかったし、この第3階層にあるのは両手で持つ必要がある槌を装備可能になるスキルがもらえるっぽいクエストのみ。だから第2階層で『短剣入門』のクエストをクリアして短剣術Ⅰのスキルを報酬で手に入れたプレイヤーでもないとなかなかこの事実に気づかないんだよね。
そもそも初期武器を大剣とか槌みたいな両手持ちの武器を選んだプレイヤーには関係ない話だし。
「リリアちゃんの方は、支援魔法と回復魔法が得意なんだよね?」
「あ、はい。あの、私の神様の恩恵の効果で、支援魔法と回復魔法をレベルアップで覚えられて、回復魔法の効果も上がるんです」
「そうなんだ。へぇ~」
マロンちゃんの神様の恩恵の効果に似ているんだな。
マロンちゃんの神様の恩恵の効果は、たしかレベルアップによって闇属性の魔法が覚えられて、闇属性の魔法の効果が上がるってやつだったし。
……え?、どうしてそのことを私が知っているのかって?……それは今はまだ秘密だよ。
「っていうかリリア、それ教えたらまずくない?」
「え?、あ!、ごめんなさい。聞かれたからつい……」
「あー、うん。大丈夫。今のは聞かなかったことにするし、誰にも言わないから」
だけどもまあ、私は思うのだけど実は自分の神様の恩恵の効果ってそんなに周囲に隠す必要もないんじゃないかなって。さすがに私のやつみたいなやばい効果なら話は別だけど。
対人戦での弱点うんぬんとかいう話も、そもそも対人戦をほとんどしないプレイヤーにとっては別にどうでもいいんだろうし。別に自分の恩恵の効果が相手にばれてたとしても、そこまで影響があるとは思えないのだけど。そんな風に思えるのは今だけなのかな。
「でもビックリだな。蝶々仮面ってほんとに女の人だったんだね」
…………うん?
「うん。私も本当は男の人なんだと思ってました。でも、女性だっていうのは本当だったんですね」
ちょっと、待って。
「え、リリムちゃん、今なんて?」
私は震える声でリリムちゃんに今言ったことを確認してみた。
「え?、蝶々仮面ってほんとに女の人だったんだねって、あれ、もしかして玲愛さんって男の人なの!?」
「ええええ!?、そうなんですか?」
蝶々仮面……それってもしかしなくても私のことだよな?
よーし、1回落ち着こうか。心の中で深呼吸をしよう。すーはー、すーはー。
「あの、玲愛さん?」
「ごめんね、えっと。その、蝶々仮面っていうのは何なのかな?」
「え?、何って玲愛さんのことだよね?、本当のプレイヤーネームは知らなかったけど」
「第2階層の迷宮のあのマダムバタフライをあろうことかソロで撃破した最強プレイヤーだって噂、もうかなり広まってますよ?」
……おお、神よ。……あ、神は私だった。
「マジで?」
私はもう一度確認のために短くそう尋ねた。
「はい。マジです。第2、第3階層を攻略中のプレイヤーの間では、皆知ってました」
「……マジか」
私はその事実をひとまず受け入れると、2人に今現在どのような噂が広まっているのか詳しく聞いてみた。それでわかったことは私の情報については本当のプレイヤー名以外はもうだいぶ広まっているらしいということだった。
いったいどこから漏れたのか知らないけど、私がマダムバタフライをソロで撃破したことについてはもうかなりのプレイヤーが知っていて、そして私の恰好についても、黄緑色のマントとフードを身に着けた若い女性プレイヤーであること。フィールドでは蝶々を模した仮面を身に着けていることからそのプレイヤーは蝶々仮面という通り名がつけられていることを教えてくれた。
「だからさっき荒野で出会った時もすぐにわかったんだよ。あ、蝶々仮面だって」
「私もです。会って話したことがあるっていうプレイヤーの方が女性だったって証言してたり、逆に会ったことないプレイヤーは存在自体信じていなかったりする人もいて、半信半疑だったんですけど」
そりゃあまあログインする時間帯や場所が合わないと実際に私の姿を見かけたことないプレイヤーはいるかもしれないけど、存在自体が迷信だという人の気持ちもわかるよ。
だってあのマダムバタフライをソロで撃破するのなんて至難の極みというか、ほぼ無理だろうから。
「でもそっか、じゃあたまに街ですれ違っただけのプレイヤーがよく私のこと振り向いたり、じっと見つめてくるのは私の恰好がもうばれてるからなんだな」
黄緑色のフードとマントって、色合いだけでも目立つからね。
街中では蝶々の仮面はいつも外しているけど、フードは割と目深に被っているし、だから正面からまじまじと見ない限りはそれが女性プレイヤーだと断言はできない。
だから私と面と向かって話をして顔を見たり、声を聞いたことのあるプレイヤーは私の正体が女性だと確認したから女性だということを言って周り、逆にそうでないプレイヤーの中には私が実は小柄な男性プレイヤーだと思っている者もいるということか。納得だ。
でも、私が女性か男性か気になるんなら向こうから話しかけてくれればいいのに。
私は別に性別を聞かれたからと言って怒るほど狭量じゃないし、そもそもこのゲーム内でアバターの見た目やら性別なんてどうでもいいだろうに……とか考えてるあたり、私の恋愛偏差値の低さがにじみ出ているのかもしれないが。
だけどマダムバタフライをソロで撃破するという無茶をやらかすようなプレイヤーが若い女性プレイヤーというのは信じられないんだろうな。それも偏見なんだろうけどね。
「あの、それで玲愛さんが着ているそのフードとマントとさっきフィールドに駆けつけて来てくれた時につけてた蝶々の仮面って……」
「ああ、うん。マダムバタフライを倒した時に、金の宝箱出して。その中に入ってた装備品」
「やっぱり!!」
うん、リリアちゃんがそれでテンション上がったみたいだけど、正直私としてはもうこの話題はなしにしてもらいたかった。
竜鱗の乙女に続いて蝶々仮面って、通り名というか二つ名がこれで2つになってしまった。しかも蝶々仮面については私もちょっと予想はしてたけどまさか本当にその名前がつけられて噂になるとは。嫌な予感って当たるもんだな。
「あ、そうだ。じゃあ玲愛さん、話は変わるんだけど」
おっと、リリムちゃんが話題を変えてくれるみたいだ。よし、いいぞ。
「うん、何?」
私は蝶々仮面の話題でなければもうなんでもいいと、そう思っていたんだけど。
「玲愛さんは竜鱗の乙女って呼ばれてるソロプレイヤーと会ったことある?、その人も女の人で、第1階層の迷宮のドラゴンをソロで撃破したって噂になって……あれ?、どしたの?」
……もう、もう勘弁してくれ。
私が何か悪いことしたって言うのなら謝るから。誠心誠意心をこめて謝るから。
だからもうその二つ名は封印してくれ、頼むからマジで。
<二つ名について>
ゴッドワールド・オンラインの中でも、特に強かったり目立った功績のあるプレイヤーには二つ名がつけられることがあります。
もちろんこれはゲームシステム的に何か意味があるものではなくあくまでプレイヤー間でのみ使われる、そのプレイヤーの本来のプレイヤーネームとは別に呼ばれる通り名、愛称のようなものです。
最前線で活躍するプレイヤーたちの中にはこの二つ名がいくつもあったりして、それじゃあ二つではないんですけども、つまりは有名人の証みたいなものです。
プレイヤー名:五条皐月
二つ名:『大和撫子』、『風吹きすさぶ五月』
プレイヤー名:四谷卯月
二つ名:『血まみれウサギ』、『花咲きほこる四月』
プレイヤー名:霜月景士
二つ名:『白い死神』、『魔弾の射手』、『霜降りたる十一月』……etc
プレイヤー名:玲愛
二つ名:『竜鱗の乙女』、『蝶々仮面』
上記のような感じです。
なお、玲愛の二つ名に関してはこの先も増えていく予定です(笑)




