ニートな女神と初めてのペット
ギルドへと戻ってきた私は受付のお姉さんにそのことを伝えた。
するとお姉さんはさっきよりも驚いたような顔をした。だけどもすぐに気を取り直して依頼達成の手続きをしてくれた。
私の目の前にクエストクリアの画面が現れ、報酬として調合Ⅰのスキルをもらったことが確認できた。
〇調合Ⅰ
複数のアイテムを組み合わせて別のアイテムを作成する。作成するためには作成したいアイテムのレシピが必要になる。
『調合Ⅰのレシピ』
〇ポーション
薬草+スライムの雫+水
「ふふふ、これで私も……あれ、でもそういや結局これどうすればいいんだろう?」
私は画面を確認し終えると考える。
そしてわからなかったのでとりあえず教えてもらおうと本日3度目となる薬屋へと向かった。
「いらっしゃ……あれ、また来たんだ。どうしたの?」
「いや、あのえっと。クエストをクリアして調合のスキルを手に入れたはいいんですけど、やりかたがわからなくて」
「ああ、それでうちに……ふむ。まあ今はお客さんいないからいいか。えっとね、まずはステータス画面を開いてもらって……」
薬屋のイケメンはものすごく丁寧に教えてくれたけど、正直私はこのイケメンの顔を直視はできない。
だって、イケメンなのだ。ゲームの中のキャラだとわかっていても現実での私とはおよそ無縁の生き物なのだからそれも仕方ないだろう。
まあつまり耐性がないのである。イケメンに対する耐性が。
ヤヌスとは違って薬屋の店員は誰がどう見てもイケメンだったから。
調合を行う手順事態は簡単だった。
まずはステータス画面を開き、そしてスキル一覧を選んで調合Ⅰというスキルを選択。
そうするとスキルの説明欄のところに作成の項目があるのでそこを押す。
「すると、今君が作れるアイテムのレシピが一覧で出ると思うんだけど」
「あ、はい。ポーションって表示されてます」
「そうそれ。調合とか料理とか、鍛冶とかいう生産系のスキルはとにかく作りまくっていればスキルのレベルも上がっていくし、レベルが上がれば新しいレシピも覚えていくから」
「なるほど……」
「あとは、クエストの報酬とかにレシピがもらえることもあるから、自分のもっているスキルのレシピがもらえるやつなら受けてみてもいいと思うよ?」
「はい、わかりました」
そして私はポーションを選択すると今度は材料の表示に。
薬草と、スライムの雫(青)と水がそれぞれ1つずつ必要と表示されている。
そしてその下に現在私がもっているそのアイテムの個数も。
「あ、水。そういや水ってどこで手に入るんだ?」
「え、水ならうちで買えるけど。ていうか多分どこでも買えると思うよ?」
「あ、じゃあ水下さい」
「はい。1個1Gになります」
「じゃあ、100個下さい」
「では100Gですね」
私は100Gで水というアイテムを100個買った。
ちなみにこのアイテム、採りだしたらなぜか500mlのペットボトルに入っていたけど、この世界にもペットボトルとかあるんだ。
1本飲んでみたけど味も普通に、水だった。
まあゲームの中で飲食しても味は感じても現実の腹は膨れないから空しいんだけど。
私が1本飲んでしまったのでアイテムとしては消費されたものとして消えた。
でもまだ水は99個ある。薬草は36個。スライムの雫(青)は200個以上ある。
「これで全部揃いました。作成でいいんですか?」
「うん。それで作成ボタンを押すと自動でアイテムが出来上がるよ。アイテムの出来はステータスの器用さと運の値によって決まるし、毎回出来が変わるから保証はできないけど」
「出来?、保証?」
私がレシピの材料が全部そろったことで画面に表示された製作というボタンを押すと、画面がただいま製作中という表示になった。
ポーションの製作時間は30秒らしく、30からカウントが1つずつ減って行く。そして数字が0になった時には画面に結果が映し出された。
「ポーション☆、が完成しましたって出たけど。☆ってなんだ?」
「え、ほんとに?、ああうん、君運がいいんだね。☆なんて滅多にでないよ」
「あの、説明を」
「ああごめんね。えっと、つまりね……」
薬屋さんの話によるとつまりはこういうことらしい。
プレイヤーがスキルで作成したアイテムにはいくつかのランクが存在するらしい。
ランクというのはつまりそのアイテムの品質、性能の良し悪しのようなもので。
ポーションを例に説明すると、だ。
普通の効果であればただのポーション。
ちょっと良い出来栄えのものはポーション+。
かなり良い出来栄えのものはポーション++。
そして最高の出来栄えのものはポーション☆というアイテムになる。
もちろんアイテムの効果も出来栄えがいいほど上がるわけで。
通常のポーションがHPを50回復アイテムなのに対して。
ポーション+は60、ポーション++は70、そしてポーション☆に関してはなんとHPを1個で80回復するという効果になっていた。
「失敗とか、質が悪いものが出来たりはしないんですか?」
「それはないよ。ちゃんと材料さえ揃っていれば最低でも通常効果のアイテムは完成する」
「そうなんですか。それは良かったです」
お店などで売っているアイテムはすべて通常効果のアイテムである。
つまり+とか☆のついたアイテムはプレイヤーがスキルによってのみ作れるものだということ。
プレイヤーが自分のスキルで作成したアイテムについては、作成したプレイヤーが自由に値段をつけて他のプレイヤーに売ることもできるらしい。もちろんタダで譲渡することも普通にできるけど。
ふっふっふ、それなら私も良い出来栄えのやつを皆に高値で売りつけるとしようか。
「あれ、でも。そんなことなら皆このクエスト受けて調合スキル持ってるんじゃ……」
「いや、それはないよ。さっきのクエスト受けに来たのは君でちょうど10人目だし」
「え、うそ?」
このゲームの総プレイヤー数はたしか3万ほどだったはず。
そのうち調合のスキルを持っているのは私を含めて10人しかいないと?
「どうして?」
「材料集めが大変だし、完成したアイテムも効果が良いと言ってもちょっとした差だし。あとはまあ、調合ってほら、なんか地味でしょ?」
「いや、そんなことは……」
「調合のスキル取るくらいだったら、鍛冶とか錬金とかのスキル取るって、皆」
「ああー、そういう」
それでか。さっきのギルドの受付のお姉さんが驚いた顔してた理由は。
つまりはあのクエストは一応クエストとしてあるにはあるけど滅多に人が受けないような、そんなクエストだったわけね。
「でも、知らなかったとはいえもう習得しちゃったしな」
「ははは。うん、まあ前にあのクエスト受けた人も似たようなこと言ってたけど。でも僕はね、こうも思うんだよ。その調合のスキルは、育てていけばきっと本当はすごいスキルなんじゃないかって」
「そう、ですか?」
「うん。保証はないけどね」
薬屋さんがそういうのであれば信じるほかにはないと思うけど。
と、そこで店の方にお客が来たようなのでイケメン店員はそちらの方へ向かって行った。
残された私はというと、とりあえず今作れるだけのポーションは全部作ってしまおうと思った。
そしてポーション作りを始めたのだけど……
――約20分後――
「おかしい。これ絶対におかしい」
私はアイテムボックスの中に表示されたとあるアイテムの名前を見ながらそう呟いた。
『ポーション☆×30』
そう、つまりは私が作ったポーションの全てである。
私が作ったポーションはすべて最高品質の品になっているのだ。
これはどう考えてもおかしかった。そして私はこれとよく似た何かを既に経験している。
「これって、そういうことなんだよね。きっと」
一応確認のために言っておくが、私は器用さと運の値がそれほど高いわけではない。
だから1個か2個は最高品質で出来たとしても30個も作ってそれが全部などということはまずありえなかった。
「ドロップ率と同じ?……運がいいだけ?……もしかして、もしかすると」
私は、女神アストレアは「正義」をつかさどる女神である。
しかし神々の中には「幸運」をつかさどる神というのもいる。
もしも、もしもの話だが。このゲームを作った下界の人間たちが私のつかさどるものを間違ってた、あるいは他の神のものと混同していたとしたらどうだろう?
つまり私を「幸運」をつかさどる神であると勘違いしていた場合は?
「そんなはずないそんなはずないそんなはずないそんなはずない…………」
私は最悪の想像をなんとか振り払おうとした。
いや、この想像を否定する方法はたしかにある。確認すればいいのだ私の恩恵の効果を今ここで。
でも、なんか。もしも、本当にもしも今私が想像してたようなことが書かれていたとしたら?
私はきっと半年くらい部屋に引きこもって泣くだろう。
「う、くぅ~。か、確認したくない!」
私はそう叫んだ。
でも、そもそも私がこのゲームを始めた理由はなんだったろうか?
私は、このゲームの中に登場する私の恩恵とやらがどういうものなのかを知るために始めたのではなかっただろうか。
それを知ることで自分自身の理解にも繋がるだろうと考えて……
「もう、いいかな。確認しなくたって。うん、決めた。私はもう確認しないぞ。効果がわかっているだけで十分だし、もう、いいよ。もう怖すぎて見れないよ、私は」
私は今後も私の恩恵を確認しないということに決めた。
もしも誰かに恩恵を聞かれてもだんまりを決め込むのだ、そうだそれでいいはず。
私はもう純粋にこのゲームを楽しめばいいのだ。そうしよう。
ちなみに、ポーションを作り初めてちょうど20個目を作ったところで私の調合のスキルレベルが1個上がったのだけど。
『スキルが成長しました』
調合Ⅰ→調合Ⅱ
「あ、調合のランクが上がった。それに新しいレシピも増えてる」
『調合Ⅱのレシピ』
〇ポーション
〇毒消し薬
〇麻痺消し薬
「毒消し薬と、麻痺消し薬が増えてるな」
〇毒消し薬
毒消し草+ポイズンスパイダーの爪+水
〇麻痺消し薬
麻痺消し草+キラービーの針+水
「ああ、どっちも今の私じゃ作れないか。材料ないし、手に入れたらその時作ることにしよう」
私はレシピの画面を確認して新しく作れるようになったらしい2つの薬の材料を今はまだ持っていない。なのですぐに画面を閉じるとポーション作りを再開した。
30個目のポーションを作り終えたところでちょうど薬屋の店員が戻ってきた。
「いやあごめんね。お客さんが何人も来ちゃって」
「いえ、私の方が無理を言って教えてもらったので。あの、そろそろ私も帰ります」
「ああ、そうなんだ。それじゃあまた何か調合のことで聞きたいことがあったら聞きに来てよ。あのクエスト受けに来た人久々だったし、僕も話せて楽しかったし」
「あ、はあ。じゃあ、また何かあったら聞きに来ます」
「うん。それじゃあまたね」
私は薬屋のイケメン店員に別れの挨拶を告げると薬屋を出た。
薬草の数が残り6個だったしね。とりあえず今日はきりのいいところでポーションを30個作ったからもういいかと思ってさ。
時刻はもうすぐ夜になろうかというところ。でも私はログアウトしない。
どうせ現実に戻ったって夜ご飯に食べるものなどないのだから、今日はもうこのまま朝まで続けよう。
なあに、1食くらい抜いたって大丈夫だろう。神様は人間よりも丈夫なんだから。そもそも餓死なんてするはずないし。
「さて、どうしようかな。さっきは東也と一緒だったから使うのためらってたけど、一応新しく覚えた魔法も1度試しておきたいし。もう一度草原に行くか。……ああでも、どうせなら夜になってから行った方がいいな。それまで暇だ……うーん、この際だしちょっと街の中見て回るか」
私はなんだかんだ言ってまだこの始まりの街という街を詳しく見て回っていない。
なので時間潰しもかねていろいろ見て回ろうと思い歩き始めた。
この街には商店街とも言える通りがあって、そこは普段冒険者たちは訪れない場所だけど一応多くのお店などが立ち並んでいる。
お店というのはあれだ、ようは肉屋とか魚屋とかのことだ。
料理のスキルを持っている人は来るかもしれないけど普通のプレイヤーはまず行かないだろう。
「へい、いらっしゃい。お嬢さん、何にいたしましょう?」
「えっと、とりあえず見せてもらってもいいですか?」
「ええ、どうぞ存分に」
私はまず野菜を売っていると思しき店の前までやってきた。
ちなみに商店街通りにあるお店は全部屋台であり、外に商品が並べられていたりする。
<野菜屋:商品>
ニンジン 6G
キャベツ 8G
トマト 5G
etc……
「ふーん、そういう感じなのか」
「どうです、何か買って行かれます?」
「あ、じゃあトマト1個下さい」
「あいよ」
私は店の主人に金を払ってトマトを1個買った。
そして今買ったばかりのトマトをすかさずアイテムボックスから取り出すと、それを丸かじりしてみた。
「うーん、うん。トマトの味がする」
「そりゃあお客さん、それはトマトだから当たり前だろう」
「あ、うん。そうなんですけどね」
そして私は店の主人にトマトおいしかったですと言って次の店に。
どうでもいいけど野菜屋って、普通は八百屋なんじゃないの?
「いらっしゃいませ。何の肉にしましょう?」
「ちょっと、見せてもらってもいいですか?」
「はい、どうぞ」
<肉屋:商品>
牛肉 20G
豚肉 18G
鶏肉 16G
牛ひき肉 15G
etc……
「やっぱり、野菜より肉の方が高いんだ」
「はい?」
「いえ。あ、そうだ。ちょっと、この豚肉を売りたいんですけど」
「はい。ああ、それでしたら1個15Gになります」
私は肉屋では何も買わなかった。変わりにアイテムを売った。
そう、あのワイルドボアからドロップした豚肉を、だ。
私は今でもそれに納得がいっていない。あれはイノシシだろうどうみても。
ならイノシシ肉を落として当然ではなかろうか?
「えっと、12個だから180Gになりますけどよろしいですか?」
「はい、それでお願いします」
こうして私はアイテムボックス内の豚肉をすべて売った。
まあこの先私が料理のスキルをとった時に使うかもしれなかったけど、しばらくは必要ないだろうし。
私は豚肉を売り終わると肉屋を後にした。
どうでもいいけど豚肉、売値が15Gで買値が18Gって。それじゃあお店側は3Gしか得してない計算になるけどそれで大丈夫なんだろうか、あの店。
それからも私は果物屋、魚屋など商店街通りの店を見て回ってはどうでもいい感想を抱きつつ、たまに商品を買っては食べたりして素材の味というものを堪能したりした。
そしてこれで最後のお店だと思って近づいた屋台では……
「へいらっしゃい!」
「あの、えっと。ここは何のお店ですか?」
「おいおい嬢ちゃん見てわからないのかい?、ここはペットショップだよ」
「……はい?」
「ペットショップだよ」
「……え?」
たしかに、店先には何やら犬やら猫やらが入った檻が置かれていて私もまさかとは思っていたのだが。
まさか本当にペットショップなんてものがあるとは思わなかった。
「えと、ちなみにこの子たちってお値段は?」
「おう、なんだい買ってくれるのかい。値段はピンキリだけど、どいつがいい?」
「え?……あのじゃあ、こっちの犬は?」
「そいつは300Gだな。同じ犬でもこっちのは270Gだ」
どうやらこの店には商品一覧という画面は出ず、店先に並べてあるもので商品は全てのようだ。
私は改めて店先に並べられた檻の中を確認していくが、犬と猫が割合多くたまに爬虫類や両生類などが交じっていたりした。
あとは鳥かごのようなものの中には鳥が入っていたけど、インコやオウムなどが多かった。
「あ、フクロウだ」
「おお、そいつか。それは夜目フクロウっていう珍しい動物でうちの目玉商品の1つだ」
「夜目フクロウ?」
「ああ、なんでもそいつをペットにしてると飼い主も夜目が利くようになるって噂だぜ。まあ本当かどうかわからないんだがな」
「それって……あの、おじさん。このフクロウはおいくらですか?」
「おお、そいつは目玉商品だからな。ちいとばかし高いぜ?」
「いくらですか?」
「660Gだ」
たしかに高い。それだけで他の安いペットは3匹買えるくらいの値段がしている。
でも払えなくもない。どうしようかな、ちょっと気になるな。
私は改めて鳥かごの中のフクロウを見た。フクロウは仲間になりたそうな目でこちらを見つめている。
「買います」
「ええ、いいのかいお嬢ちゃん。さっきの話はあくまで噂だぜ?」
「ええ、大丈夫です。このフクロウを下さい」
「そうかい。じゃあ660Gだよ」
私は店のおじさんにお金を払って鳥かごごとフクロウをもらった。
それからおじさんにペットのことについて話を聞いた後で店を後にする。
フクロウの入った鳥かごを持ったまま商店街通りを抜けて街の広場にあるベンチへ。
ベンチに腰掛けると私は鳥かごを開けてそっとフクロウを取り出してみた。
「ホホゥ」
「うん、えっと。私は玲愛、これからよろしくね」
そうするとそこで目の前に画面が現れそこにはこう書いてあった。
『ペットに名前をつけてください。8文字以内、後から変更可能』
「ああそっか。名前ね、名前。うーん、と。どうしよう」
そして少しの間私は考えて出した答えはこれだった。
「じゃあ、アスト。お前の名前はアストだ」
「ホォー!」
名前の由来についてはもう説明する必要などないだろう。
私のキャラ、玲愛という名前につけなかった方の私の名前だ。
フクロウのアストと、人間の玲愛。これでまあ私のアイデンティティーは保たれた……なんて?
そして名前の入力が完了したことでフクロウの名前はアストに決まった。
「よろしくね、アスト」
「ホホゥ」
ペット屋さんの話によると、ペットはまず逃げ出すことはないらしい。
一緒にフィールドに連れていくことも出来るし、種類によっては戦闘に参加させたりも出来るがペットは死ぬとそこでおしまいでありプレイヤーのように復活はしない。
そして一応はアイテム扱いでありアイテムボックスの中に収納することができる。
ペットは1度に1匹しか飼えない。などなど、色々なことを聞いていた。
「うーん、普通は戦闘には連れてかないで街中で可愛がったりするだけらしいけど、せっかくだし連れていくか。お前もそれでいい?」
「ホォー」
こうして私は陽が完全に落ちた後でアストと共に夜の草原へと向かったのだった。
<動物図鑑>
〇夜目フクロウ
本当は第4階層のとある森に棲んでいる動物だったが、それを捕まえた狩猟者が方々に売ったところ第1階層のペットショップのおじさんのもとに回ってきたという経緯がある。
その名の通り夜目が利くが、その効果は飼い主にも与えられると言われている。
動物としての性格は臆病で人前には滅多に姿を現さないことから希少動物とされているのだが、アストレアもペットショップのおじさんもそのことには気づいていない。
実は普通に買おうとすれば20000Gほどの価値がある動物だということにも。
 




