君が好き。
4月の土曜日。まだ肌寒い。
山手線にのり、渋谷駅に降りる。
ハチ公まえにいくと彼女の理香がまっていた。
好きらしいバナナジュースを飲みながらまっているのをみつけた。
おそーいと口を動かすと下唇の下にあるほくろが動くようだった。
しゃべるたびバナナのにおいがふんわりした。
デートの待ち合わせの時にバナナジュース飲んで待つ奴いるのだろうかと疑問に思う。
ストローをみるとつぶし倒していた。歯形がものすごくついていて、どれだけ噛んだんだとつっこみたくなる。
「ロフト行っていいー?」
というのでロフトに向かう
なにやらはりきって先頭を歩く
スクランブル交差点で前方にTUTAYAがみえる。信号が赤になる。交差点は一定間隔で人を溜めたり吐き出したりしている。
ひとつの生き物のように思える。
となりに歩く彼女はしたが女の子らしい白のロングスカートにカーキのMA-1をそでを通さないで羽織っている。そういう男が着るMA-1を女の子がきて、そして袖を通さない羽織るスタイルという2つの流行の着方をしている。
女の子らしい小さなカバンをたすき掛けのようにしている。はじめてみるものだ。
それをこれみよがしにみせて、聞かせるようにしむけてくる。めんどくさい
でも一応きいてやる
「そのかばん最近かったのか?」
まってましたとばかりに矢継ぎ早に話し始める
「こないだおかあさんとレイクタウンいったときに、セールやってて、かわいいからかってもらったんだよーあとこのスカートもだよ。かわいいでしょ。これあと一点だったからあぶなかったんだよ。あっそういえばそのときに同じ店に小学校の時に仲良かった同級生とあって、でもそのこ福岡に転校しちゃってずっと福岡に住んでたのにこっちにかえってきて最初にきたのがレイクタウンでしかもそこで出会うってまじすごくない?」最初の話から脱線していく。それが女の人の習性だ。舟だったら、船酔いしてるくらい乱暴に舵をきってくる。
「んでお茶一緒にしてさあ。あっそれで一緒に写真撮ったんだよちょっとまって」
カバンから携帯を探す。
「あれーないなあどこいったかなぁ。
ごそごそ探している。
普通カバンに携帯入れるか?もっと取り出しやすいポケットとかに入れないだろうか。
イライラしてくる。
「ねーちょっと電話ならしてもらていいー?」
「ああ、いいよ」
俺はポケットから携帯を取り出し理香の番号をダイヤルした。
その間もカバンのあちこち探しており
あっとこえをあげる。
理香をみるとくまのぷーさんのシルエットをかたどったケースをつけたスマホがみつかった
「ごめんごめんありがとう」
ぽけっとにあんじゃねーかよ。
「んでねーえっとーあった。」
写真ロールを探って、お目当ての写真を見つけると
それをおれにみせてきた。
テーブルの横から自撮りした写真だ
そんなにかわいくない子だったのでよけい興味が失せた。
「それで小学校の時の話になってさークラスのガキ大将の子がその子をすきになってさー」
ほんとうにどうでもいい。
でも聞かないとなにかいわれるのできいてるそぶりをする。一定のリズムで相槌を打てば聞いてる風になる。家にいる母と姉がおしゃべりでいつもマシンガンのようにはなしてくるので、なにかほかのことをかんがえながらはなしをきいているふりをするすべを身に着けたのでここでも遺憾なく発揮している。
お互い仕事が忙しくなかなかでかけられず2か月ぶりくらいの外でのデートだった。
理香はずっとメールで出かけようといってきたが、俺は別にでかけなくてもいいし出かけるのも面倒だった。
もうすでに早く帰りたくなっていた。だけど手をつないできて、たすき掛けでななめにかけた部分が胸にくいこみ胸のかたちを強調させているのをみてムラムラしてきた。
久しぶりにしたいし、それのために今日は我慢しよう。
「うちくるっていうからいくいくーってなってそのこのいえにいったら犬がかわいくてさー。うちの犬も負けてないけど。犬といえばうちの家の外の壁塗り替えようとお父さんが休みの日にぬってたらさ、そのペンキをいれたバケツにうちの犬が頭からつっこんじゃって大変だったよ」
「そうなんだすげえな。まえみせてくれた一軒家だよな。結構大きいから塗るの大変じゃね?」
こうやって質問もしてないときいてないんじゃないかとおもわれるのでたまに挟むと聞いてる感じが出て便利だ。そのかわり話はいつまでも続く。
SEIBUの横を通り、ロフトへ入る。
「ってか祐介の靴きたないよ磨いてる?」
「うるさいな」
「靴かったら?」
「あーかうかう」
かねもあんまないし服装に気を遣うのがだるい。だからそういうこと言われるとうっとしい。
自分たちと同じようなカ数組がプルがロフトに吸い込まれるようにはいっていく。
一人できた男性はカップルの俺らを横目で見てうらみをこめたように、かたきをとるように足早で入っていった。
中に入ると手帳のコーナーが大きく展開していた。
そういえばもう手帳を新調する季節になったのか。どうりで最近寒いわけだ。
「あーそういえば手帳かわなきゃー」
と手帳ゾーンへ俺を引っ張る。
「みてみてー」といいながらみせてきたのは
スヌーピーの手帳だった。
かわいらしい顔と皮肉のエッジがきいたセリフをはいったふきだしの表紙のものだった。
「これにしよっかなあ。英語なんてかいてあるんだろ。わかんないや」
「おまえCA目指してるんだろ?英語できなきゃやばいんじゃねーのか?」
「うんまあそうだけど、なんとかなるでしょ」と笑っている。
俺もよくしらないがCAって英語での会話する試験とかあるらしいからわりと英語で着なきゃだめなんじゃないか。いつものほほんとしてて就活の話もそんなしないし、ちゃんとやってるんだろうか。こいつにCAなれるのか。まあどうでもいいけど。
他の手帳を眺めて手でとなりのオレンジ色の手帳をなでる。
「あっでもこっちのやつもいいなあ」と少しはしゃぎながら選んでいる。
手帳はもっとはやめに買っておけよ。気持ち切り替えるために年度変わる前に買うだろ。
みるのを付き合うのに飽きて携帯をあけ、Twitterを見る
相変わらず誰に発信したいのかわからない自己満足のバカたちの実況中継の嵐だった。
今課題がんばってるだの仕事がうまくいってるだの、こんな本を読んでいて今勉強してますという謎の報告や、彼氏とは明言しないが彼氏にであろうプレゼントの写真を添えていつもありがとうよろこんでくれるかなと、誰にあげるのと聞いてもらいたいけど答えるのをしぶる気持ち悪い精神性が見える気持ちの悪い書き込みばかりが並んでいた。
こんなに日常と自分の感情を強く結びつけていたらこのきもちわるさに気が付けないし、変なことを書き込まないというブレーキもバカになっていくのではないか。
SNSのこわさを垣間見る。
こんなどうでもいい自己愛と承認欲求のたれながしを自分は馬鹿にしながらもいつもの習慣で見てしまう。
やめればいいのに自分からそこにとびこんで、ストレスを溜めに行っている。
よくわからないが、そんなバカたちをみたいのだろうか。
タイムラインをさかのぼっていると、
理香のツイートがあった。
数秒前の投稿だ。
『ロフトきたー手帳選んでるー』
といった言葉とともに手帳と俺の顔がみえない胸あたりからら下が映っている写真があげられていた。俺が携帯いじっている間にとったらしい。
こういう彼氏らしきひとといまでかけてまーすというツイートは本当にきにいらない。
いまやってることを実況中継する、こいつもバカの一人だ。
理香はあと、話してても子供っぽいし、話を深く掘り下げられないし、しゃべっててもあんまり俺の話を理解しようとしない。
体の相性だけはいいので、みんなにはいわないが実際ヤレるから付き合いを続けているだけだ。
別れるという手続きは面倒だしエネルギーがいる。
現状維持で、他にいい人ができたら乗り換えればいいだけのことだ。
まあこいつは俺のことすごく好きみたいだから向こうからはないだろう
終わらせるとしたら俺からだろう。
LINEがきてた
香澄からだった。
『まじこれみてやばい』
そんなメッセージとともに画像がアップされていた。
それを開いてみると
2ちゃんねるの面白記事だった。
『これはやばいwwwwwまわりにひといるんだからやめろやwww』
そうかえすとすぐ既読になり返信が来る。
『やばいっしょ。わたしまじしばらく笑い止まらなかった。』
『ってか返信はえーな、おまえ暇だな』
『うるせーそっちだって』
『おれはおでかけですー』
連絡が止まった。
その間に
インターネットをひらいて物件探しのサイトをのぞく。
一人暮らしをしたいとおもっていて、おもうだけで全然できないままでいる。
でも物件を見るのは好きなので定期的に見て、自分だったらどんなふうにするかなと妄想して楽しむ。そしてよさそう物件をブックマークする。
それを横から理香がのぞいてた
「一人暮らしするの?」
期待しながらきいてくる
「まあいつかしようかなと」
「やるんだったら私最初にいきたーい」
「ああ、まあ呼ぶよ」
「やったー」
するとLINEがきた
香澄からだ
『あー彼女ですかはいはい、ごゆっくり』
メールを返そうとしていると
「理香が人といるときメール打たないでよー彼女さみしー」と隣でなきまねをするので
携帯を少し理香にみえないほうへ傾けて携帯をしまう。
べつにともだちだからいいんだが、なんかそんな行動をしてしまった。
「あーわりい。どれにするの?」と笑って話をきいてやる。
それもこれもあとでのお楽しみのためだ。
理香はさっきみていた皮肉の聞いたスヌーピーの手帳を両手で口元までもって
「じゃーん。これにしたー」
「おーいいじゃん」
「でしょーちょっと買ってくるね」
「ここでまってるよ」
「はーい」
理香はレジに向かった。
戻ってくると嬉しそうな顔をしていた。
エレベーターの方を見て
「あっそうだ。化粧品もちょっとみていい?」
「おー、べつにいいよ」
二階の美容雑貨フロアに向かう。
あたりまえだが、女ばかりできまずい。
というか化粧品男とみるもんだろうか?服を一緒に見るならわかるけど
化粧品なんてどれがいいとかきいてもわからないだろう。
「このリップいいなあ。あっでもこっちも」
ちがいのわからない口紅で迷っている。薄い赤と少しだけ赤なだけだ。とくにそんなにかわらないとおもうんだが。
女の人のコーナーにいるきまずさで遠くを見ているしかない。
「ねえどっちがいい?」ボルドーなものと赤っぽいものをもって言う。
やっぱりきいてきた。ほんとこいつ予想のできるバカだな。
「ちがいわかんねえし。どれでもいいんじゃない」
はやくここをでたくて冷たく返すと理香は少ししょんぼりしていた。
「そんなに落ち込むなよ。まじでわかんないんだから」
「まあ男の子だからねしょうがないっか。」
「いやでも私的には理香にはこのリップがにあうとおもうんだよねー」とボルドーのほうをもっていうと
「きもーいおかまみたい」と期限治ったように笑い出した。
結局俺の意見を聞かずに赤っぽいやつを買っていた。
そんなもんだろう。
飯を食べた後、少し歩いていたらだんだんムラムラがとまらなくなり、
言葉にしないがなんとなくラブホ街のほうへ向かう。
それに理香も気が付いたのかにやける。
「えーいまから?こんな時間からでも、性欲つよいなあ」と
まんざらでもないような表情をして言う。
「全然会えなかったから二人きりになりたいんだよ」
「うん、しょうがないなぁ。」といって少し照れながら俺の手を強く握ってその方向へ歩き出す。たまにこういう風に彼氏っぽいことを言っておけばその気になるからちょろいもんだ。
わきに入った路地の方にはいると、理香はまわりに人がいないことをいいことに股間を触ってくる
「あーおおきくなってるへんたい」
「さわんなよ。あとでめちゃくちゃにするぞ」
「えろいー」
理香はそういいながら俺の肩をぎゅっとしがみつく
腕を触りながら
「最近腕太くなったよねー」
「おうまあな」
おまえもおっぱいおおきくなったよねとさわると
へんたいといって笑いながら嫌がったそぶりを見せた
いつも使っているホテルに入ると、カップルが数組順番待ちをしていた。
「けっこうみんなこんな時間からムラムラしてるんだね」
こそこそと笑いながら理香は言う。
そうねといってひじで胸にあてると
へんたいといって上目遣いでいってくる。
ちょっとうれしそうにするのでこいつはほんと変態だなと思う。
俺たちの番が回ってきてサービスタイムをとると301といわれ、長方形のほそながいプラスティックの透明ガラスに鍵が付いており、ガラスには301とかかれていた。
エレベーターにいくとモニターでは上昇しているのがわかる。
さっきのカップルが上がっていったのだろう。
ボタンを押してまっているとドアが開いた。
ラブホのエレベーターは狭い。二人利用を想定してるからなのだろうか。
はいったら理香にキスをする。
胸をもむといろっぽい声を出してくる
まだ部屋じゃないよおといってくる。
それに俺は目を合わせずにかっこつけていた。
3階につき、あけてはいるとビジネスホテル寄りのさっぱりとしただった。
理香はバックや上着をソファに放り投げて
「寝ちゃおーっと」といいながらベットに転がり込む。
玄関前で立ちバックしたかったのにと残念になる。
バックや上着を置く間布団から少し顔をだしてこちらをのぞいている
その姿にむらっときて
ベットにはいりこみキスをする。
首筋を愛撫したあと服を脱がす
乳房にむしゃびりつくとき、いつもかおるにおい
柔軟剤のにおいだろうか。あまったるいのとせっけんのにおいと
自分の頭の中にある語彙では表現できない。
なぜかそれをかくのは好きだった。
「赤ちゃんみたいでかわいいー」といって俺の頭をなでる。
そういわれるとふいに自分の頭上から自分を見る自分がいて、
何という格好してるんだと自分につっこみをいれたくなったが
冷静な自分から動物にぬりかえて没頭する。
向こうはいつものように身をゆだねてきた。
一回目が終わる。
「ゆうすけえろすぎ」
頬をそめ、めをとろけさせながらいう。
「おまえもな」
そういいながら後処理をしていると
携帯が鳴る。
みてみると香澄からだった。
やってからすぐ携帯をずっと触ってるとなにかいわれそうなので
ちょっとトイレ行ってくるといってけいたいをもってトイレにこもる。
メールを見ると
『お楽しみ中かな?バンプのライブDVD届いたから今度みにこいよな』ときた。
『お楽しみ中でした。今日夜行くわ。』と返事をする。
用を足して、戻る。
そのあと2回ほど終わった後なにかしゃべりかけてきたが眠くてしょうがないので
眠った。
夜になり夕飯を一緒に食べようと言われたが、ちょっとやることあるから早く帰るわといって断った。
すねられたがそれを振り切って解散にした。
電車に乗り、LINEをみると
『彼女と一泊するんじゃないんかいな』
『きょうやることあるらしく、今日早めに解散だからええのよ。いまからいくぜ』
と送る。
練馬駅に着き、中野方面へ自転車を走らせる。
コンビニで香澄がすきだといっていたチョコクッキー味のアイスをかっていく。
そこから10分ほど走らせると、4階建てのマンションに着く。
インターフォンを鳴らし
「おれおれ」というと
「勧誘や詐欺はお断りしています」と返される
「アイス買ってきてやったぞハーゲンダッツ」
「あけまーす」軽い調子の声が耳に入る
「簡単だなおい」
扉があく。
こんな軽いやりとりができるのは女でこいつくらいだ。
エレベーターで4階へ上がり、過度の部屋へ。
チャイムを鳴らすとあいてるよーと扉の向こうから声が聞こえるので
扉を開けて中に入る。
玄関の棚には花がおいてあり、いい香りが漂う。
ういーすといって中に入ると
香澄はグレーのスウェットをきて、ぬいぐるみでをだいて待っていた。
「もう準備できてるぞー」
「おう。」
「ってか肩幅またひろくなってね?」
「そうか?まあちょいちょいプールいってるせいかな」
「なにめざしてんの?」
「いやべつに。運動したいなって思って一番やりやすかったのが水泳だっただけよ。ランニングだと足故障しちゃうし雨だとできねーから。天候に左右されないからいいよ」
「ふーん」
「おめえきょうみねーだろ」
「ばれたか。まーはいんなよ」
「おう。これアイス」
「ざーす。おー私の好きな奴!いえーい」
「残りのくれ」
「はいよ」
さんきゅーといってアイスのカップを開けてカップのうらにつかないようになっている髪をはがして、アイスにスプーンをさして救い上げる
「ひゃーうまい」
「おまえほんとそれすきだな」
「いやさいこうでしょこれは。世界遺産に登録してほしい」
「ユネスコにたのんだら」
「そうしよう」
「ってかはやくみよう」
「おうおうまてまていまからやるから」といって香澄はよっこらしょっといって遠くにあったリモコンをとり、再生ボタンを押す。
オープニングが始まった。
「いやーこれ去年いったけどよかったよなー」
「ほんと。だって初の日産スタジアムだしな」
「やべぇ規模だったよ花火バンバンあがってたしな」
このライブは去年二人でいった。
仲良くなったのもこのバンドで、
まわりに好きな奴がいなくて一人で行ってるという話になったら
自分もだと香澄がいいはじめてそれをきっかけに
二人で行くようになった
しかも結構好きなバンドがかぶっていていろいろふたりで言っている。
理香は全然バンド興味ないのでさそわないし全然いってもつまらないから本当に助かる。
香澄に教えてもらってそれからめちゃくちゃはまったバンドもいくつかある。
女の子とこんなに仲良くなったのはこいつが初めてなんじゃないかと思う。
「あーここ来栖がトイレ抜けしてみれなかったところじゃん。マジうける」
「うるせぇな尿意には勝てなかったんだから。これで今見られてるしべつにいいわ」
「生で見られなかったのはほんと損だよ。もう一生に一度なんだか。だからトイレ先にいけっていったのにさ」
「おめーがホットドック食べたいとかいってならばされたせいやろがい」
「うわーひとのせいにしたひどい!」
「ほんとじゃねーか」
「あっまってこの曲!」
「あっこれまさかアコギでやるとはおもわなかった」
「ね!わたしめっちゃ感動した」
「俺も」
そこから二人は少し黙ってライブ映像を見続けた。
ボーカルは熱い演説をしている。
これからもよろしくお願いしますと深々と頭を下げて
ライブは終わった。
「いやーよかった。最高」
「ほんと。」
「最高といえばおれの近くにいたポニーテールの子めっちゃかわいくてやばかった。」
「なんじゃそりゃ」
「いやほんとに美しいポニーテールでした。いい感じの打点、高さしばってて、綺麗にちょっとパーマかかっててトリートメンツもしっかりしててつやっぽくてとぅるんとぅるんだった。大人っぽく、かつかわいかった。まじドキドキしてライブどころじゃなかった。」
「おいライブ見ろよっていうかそんなのしらねーし」
香澄はあきれ顔だ。
「いやまじで。ポニーテールの破壊力なめんじゃねえ。男の子みんなすきなんやぞ」
「あれ女のなかだと手抜きなのに男のもてはやされるから、やってるやつもてようとしてんなってうとまれるふしある。」
「うわ女子怖いわあ。そういうのいやだなあ」
「女子はそういうところある。」
「でもやったらぜったいよろこんでくれるからとくにおれ」
「ゆうすけだけじゃん」
「いやほんとに最高だから。おまえ結構にあうんじゃねーの?髪あるし」
「やだよ、そんな好きじゃない」
「えーやってみろって」
「なんでゆうすけのためにやんなきゃいけないのさ」
「そんなこといわずに」
「彼女にやってもらえ」
「彼女はやってくれない」
「
「またいきたいなあ」
「たしかに」
「ってかアイスもうなくなった」
「そりゃ食べてたんだからなくなるだろ。」
「たりない。もっとかってきてよ」
「急にずうずうしくなったな」
「いいじゃーん」
香澄の携帯が鳴る。
おっとと失礼―といって携帯をいじる。
二人の間で言葉がなくなる。
沈黙が続く。
こういうのも居心地悪くならない。
空白ができたら埋めようとするものだが、なぜか香澄だとそんなことしなくてもいいなと思える。
どこが気楽だ。
飲み物なんか飲む?と尋ねてくる
「なにがあんの?」
「うーん、お茶とカルピス」
「んじゃあカルピスで」
「はいよー」
といってパタパタとスリッパの音を立てながら
奥のキッチンに入り、冷蔵庫をあけている
「あーお酒もあるよ缶チューハイとかほろよいとか。のむ?」少し遠くから聞こえる声。
「おれおさけのめねえのしってるやんほろよいはあれだけど、缶チューハイなんてとくにのまないよ」
「あーそうだったね。でもこないだの飲み会で結構のんでなかった?」
「あれはお金も結構払ってるから取り戻そうとしたんですよ。まあ案の定ゲロゲロだったわ」
「あれ私が看病してあげたんだぞ」
といいながらもどってくる。
「そうだったっけ」
「そうだよ、感謝しなさい。ほい」
といって俺の前にカルピスとコップをおいてくれた。
「ありがとうございまーす」とおどけると
全然感謝に気持ちかんじられないと香澄は笑った。
「そういやこないだ理香とご飯食べに行ったよ」
と彼女は缶チューハイのプルトップをあけながら言った。
「ふーん、そうなんだ。またなんか俺の悪口か?」とコップにカルピスを注いで軽く飲む。
「そんなこと少ししかいってないよ」
「いっとるやないか」
「まあ冗談だけど。ってかすっごい二人似てきたね。」
「そうか?」
「話し方とかね、カップルは似るっていうけど。ほんとそうだね」
「そんなに似てるかな」
「顔面はそんなに似てないけどさ。あいやでも口元はけっこう似てるか。」
「口元似てるカップルってなんだよ。」
「あとねーはなしきいててやっぱ祐介のことすきなんだなーっておもったよ」
「そうか」
「なにその薄い反応」
眉を顰めてこっちを見る
「いやだってどう反応すりゃいいのよ」
「祐介だったらありがとうございまーすとか普通にいうじゃん。」
「そうかね」
「うん。なんかあんの?」
「いやべつになんもねーよ」
エッチだけできる要員としかみてるなんているわけもなく。
普通のカップルのそういう時期だと伝えるしかない。
「ほんとー?」
香澄がちかづいてくる。なにをつかってこんないいにおいになるのかわからないかおりがふわっと俺の鼻先に触れてくる。
いくら気の置けない友人でも女の子が迫ってくるとやっぱり距離を取りたくなる。
「ふつうだ、ふつう。つか横ばいだよずっと」
「横ばい?」
「なんの変化もないし。付き合いたてよりはドキドキもなくなるだろ」
「ああそうねー。付き合ってどのくらいだっけ」
「もう3年くらいだな」
「おおーそんなに?」
「そうね、なんだかんだで。」
「そっか」
あんまり自分のはなしは分が悪い。香澄の話に切り替える。
「おまえどうなん。彼氏できた?」
「全然できねーよばか」
口をとがらせて言う。
結構顔はいいのになんでこいつ彼氏ができないんだろうか。
大学の時は男子で集まるときに女子だれがいいとかのはなしのときこいつ結構名前があがってたけどな。ノリもいいし。求める基準が高いんだろうか。いやでも前の彼氏はそんなにかっこいいっていうひとでもなかったな。どっちかっていうと男くさいひとだったし。
すぐできそうなもんだけどな。おっぱいもでかいし、服装も結構かわいいのにな。
いまはもういろいろ知ってるから恋愛対象なんてものでみてないけど、知り合いたてならもしかしたらいいなっておもってたかもな。まあ今はただの仲のいい友達だ。
「みんなSNSで彼氏自慢するしもうSNS封印しようかなって思う」
「ああ、あれは独り身にはきついな」
「あーなんかその独り身のきもちによりそうけどやっぱいるから余裕がある感じうざい」
グーパンで軽く肩を殴ってくる
「なんだよそんなことねーって。やつあたりするな」
「やつあたりじゃねーし」
「いやでもおまえ彼氏できそうだけどなあ。好きな人いないの?」
「いやーいない!いないねえー」
めをぎゅっとして腰に手を当てて困った困ったという顔をしてきた。
「いつからいないんだっけ?」
「もう3年くらいかな」
「あの誕生日にクリアファイルをあげるやつね」
「そうそう!あいつからだよ。まあ向こう初めてだったから恋愛がよくわかってなかったぽかったけど。」
「あの時深夜2時くらいからおまえんちで愚痴聞かされたわ」
あーなつかしいと香澄は上を少し見上げた。
「いやーあのときはどうも。家が近いし暇そうだからきてくれるからっておもって」
「おれがひまじんみたいなこというのやめろや。いそがしいなかいったんじゃ。あのときも延々おなじはなしして最後寝始めておれどうすりゃいいんだってなったわ」
「あのときへんなことしてないでしょうね」
「しねーよおまえこのみじゃねーよ」
「傷つくわーそんならこっちだって訴える手筈はありますー弁護士の旦那さんを持つおねえちゃんいるもーん」
「へんな訴えするのやめろよ法を悪用するな」
「女の子の方がこういうのは法的に強いもんね。弱さが強さに変わる瞬間である。ふっふっふ」理香はへんな笑みを浮かべる。
「いやな女だな・・・」
「まあでもあのときありがとう」きゅうに手のひらを反すようにお礼を言うので調子狂う
「ああ、まあいいよ」
「まあ、祐介はかわいい彼女を大事にしなよ」
「ああ、そうっすねえ」
といってカルピスをまた少し呷った。
「そういえば10月のドリームランドってチケットとった?」
「いやーあれおちたわ。5日いきたかったのに。acknumbertとブルエンでるやついきたかったわ」毎年代々木体育館でやるライブで、いつも豪華で毎年いっている。
今年は母親と姉の名義を使って応募したが落選してしまった。
「あれわたしとれたよ」
「えっ!まじで?5日?」
「うん、くる?」
「いくいく!うわまじかやったー」
「back numberの今年のTシャツけっこういいんだよね」
「そうだ夏フェスでかえなかったんだよなーかいたいわ」
「ね!ブルエンのもよくない?」
「いいな。タオルほしいわ。でも今回もグッズ並ぶんじゃないか?」
「んじゃあはやめにいこうよ開演昼過ぎだから昼前くらいから。」
「おう、そうすっか。いやーたのしみ」
「ね、たのしみ」
「あと11月のフェスあるじゃんあれいこうぜ」
「あーいきたい。だれでるんだっけ?」
「秦基博とか、イエモンとかいきものがかりとか」
「めっちゃいいじゃん。チケットはもうとってるあるの?」
「もち、しかも割と前の席」
「テンション上がるー!」香澄はうれしそうになるとほっぺたがあかくぷっくらする。
それが本当にうれしいときだ。俺もなんだかうれしくなる。こういうきもちは理香のときにはない。
いやーといってかすみは後ろにてをついて体をのけぞらせる。
スウェットというゆったりとした恰好でも、体のラインが浮き出る。目をそらした。
「今年はだいぶフェスいくよね、もうすぐロッキンもあるし。」
はっとして「おう」と返事をする
「そういやロッキン手配任せちゃったけど大丈夫だったか?」
「あー大丈夫よちゃんとできたしバスもとれた。」
「さんきゅー。金今払うわ。」
「あんがとー」
俺はカバンから財布を取り出し、
「いくらだっけ」と財布を除きながら後ろにいる香澄に振り向かずにいう。
「えっとまってー」といって香澄のスマホで調べる音がする。明細か何かをみてるのだろう。
「あーわかった。1万5千円かなー」
財布の中身は三千円しかはいってなかった。
「たりねぇわコンビニいってくる。」
「だめよーこんな遅くに一人で出歩くなんて心配。ついていこうか?」お母さんみたいな口調でいうので
「わたし最近ストーカーとかこわくてーついてきてくれると心強いー」と女の子っぽく言うと
「キモ」
「はあ?のってやったんだろうが」
「それにしてもきもい」
「うるせえ。おれはいくぞ」
「あーわたしもいく」
「んじゃいくべ」
香澄は上にはおるもちながらかぎかぎーっと、いいながらと鍵を探している。
見つかったようでよっしゃいこうとビシっと敬礼をした。
俺はういーすと気のない返事をして財布をもって出る。
階段を下りてマンションからでるとさすがに深夜なので周りはだれもいない
少し歩くとファミリーマートの白と緑の発光している看板が見える。
駐車場を突っ切って中に入る。
「ちょっとおれおろしてくるから」というと
「わたしじゃあトイレいってくるー」理香は奥のトイレのほうへ向かう。
ATMで金を下ろすと、理香はまだいなかった。
チョコクッキーのアイスを2つ買う。
そのタイミングで香澄がでてきた。
そとにでると
「なんかかったの?」とのぞいてくる。
「アイス」
「えっ」
「また食いたかったんだろ。それにロッキンの手続きしてくれたお礼だ」
「おーありがとう。それだったらもう一個ほしかった」
「調子のんじゃねえ」
「すいませーん」
軽口たたきながら家の方向へもどる。
「いやーでも今年はエレカシと星野源とBUMPがみどころかな。あとイエモンでるから絶対見なきゃ。あと日が落ちる頃のフジファブリックね」
「あーいいねえ。夜明けのBEATとか若者のすべてとかやってくれるかなぁテンションめっちゃあがるー」
「いやー最高だな。」
そんなことはなしてるといえにつく。
「あーなんかライブの話してたらライブ映像みたくなってきたわ。パソコン借りていい?」
テーブルのそばにあったMacがあった
「いいよーちょいまち」
といって自分のほうにひきよせてログインパスワードをいれる
ネットを開き俺の方にわたす
「よっしゃ。ライブ映像あさるぞ」
二人でおそくまでライブ映像をみてはそれについて話して帰ったのは明け方だった。
5月になる。
会社は終わり帰りにプールによってひと泳ぎしようかとおもったら
大学の時の同期のたかよしから連絡があり、急きょ飲みに行くことになった。
お互いの職場と自宅の程よい場所ということで渋谷で飲むことに。
あうやいなや
「あれっがたい良くなった?」
「あー最近水泳はじめてなー」
「だからーいいなあおれもしようかな」
「そうしろそうしろ」
軽くなあしながらい適当に居酒屋をみつけて入る。
会社帰りのスーツを着たサラリーマンでにぎわっていた。
店員は忙しそうながら気が回る人で注文をうけながらもすぐにおれたちのところにきて席に案内してくれた。
席について飲み物を注文する。にぎわっている割にすぐにきて乾杯をする。
「いやー最近どうよ仕事」とたかよしはビールをあおりながらいう。
まわりには同じような社会人グループが騒いでいた。
「まあぼちぼちだ。仕事したくねーよだりぃ」俺はだるそうにいう。
「それなー。宝くじあたんねーから。そしたらすぐやめんのに」
「ほんとだな。ってかこの話前もしてたな。おんなじことを繰り返し話すっておっさんのはじまりだぞ」
「いやーもうやだよー20代後半になってきてるしいやになっちゃう。ってかそろそろ結婚もかんがえなきゃだなあ。祐介ってまだ彼女と続いてるんだっけ?」
「ああ、まあ」
「どのくらいだっけ?」
「3年かなあ」
「うわーなげーな。いいなぁ。写真みせてよ」
「ええ?まえみせたろ?」
「最近のだよ、おれあったの1年以上前なんだから」
「ああそうだっけ?」
「おう、だからみせてくれって」
「わかったよ」
まえにとったツーショットをみせる。
「うわーなかよさそうだなあおい。つかまえよりかわいくなってね?」
「そうか?」
「女子3日会わざればして見よだな」
「男子じゃなくて?」
「男子そんなに変化しねーだろ。女子の方が変化スピードえげつない」
「まあそうかねえ」
「そうだよ。あとなんか話し方にてるよな」
「なんか他の人にもいわれたな」
「カップルって似てくるっていうけどなーほんとだな。まあ顔面はにてねーけど。あっでも口元は似てるか。」
「それもいわれたわ。」
「やっぱみんなおもうんかね」
「あんまわかんねーけどな」
「ってか結婚考えてんの?」
またたかよしはビールをあおる。
「いやーわかんねーしないかもね」
「えっなんで?」
「いろいろ不安なのよ。ちょっとあいつあほだからあんまものしらないしちゃんと家庭のこととかできなさそうなんだよね」
「「あーなるほどね。そうなんだ。人柄よさそうだけどね」
「ほわっとしてっからなあ。そこがイラッと来るときある」
たかよしはそれをきいて笑ってくれる。
「たかよしはどうよ」
「おれはいないよー全然いねえできねーよ社会人の彼女作る難易度高すぎじゃね?」
「まあたしかに。」
「出会いの母数は増やそうと思えば増やせるけどさ。合コンとか。でもその質がないっていうかさ。全然発展しないその出会いの数を増やしたってできやしねぇ」
「まあ出会わなきゃよけいできねーけどな。
「そうだけどさー。あーもうほんとおまえ今の彼女手放したら後悔するぞ。あぐらかくなよ」
「あ、ああ・・・」
「ほんと苦労するから。マジで」
たかよしは身を乗り出して言う。
注文したやきとりがくる。
たかよしがトイレいってくるわといって席を外す。
焼き鳥ををつまみながら結婚という漠然としたものに想像を巡らせてみる。
将来俺の隣に誰がいるのだろうか。想像は想像でしかなくて、頭の中は現実のなにも保証しないから、結局はわからずじまいのままで明日を向かえるのだろう。
携帯を見ると理香からメールがきてた。
今日の出来事を一方的におくってくる。あいつの日本語は読みづらい。
句読点の存在を知らないだろうか、区切りがない。
読むのが嫌になり、携帯を閉じる。
たかよしがかえってきた
「さっきすれ違った女のひとめっちゃかわいかった声かけようかな。こういうのを大事にしていかないと」
「不審がられて終わりじゃないのか?」
「そんなことないがんばるぜ」といって立ち上がりその人の元へいった。
もし別れたら俺もあんなふうにできるのだろうか。
恋愛に注ぐエネルギーはそれぞれ個人差があると思うし、俺には配られた恋愛エネルギーは少ないと思う。あんながつがつできない。たしかに別れた後困るかもな。
でも理香とずっと続くとは思えない。ましてや結婚なんてな。
手元にあるカシスミルクをあおった。苦みと甘みが同居していた。
人生はこんな感じなんだろうか。実際、苦み成分のほうが多いと思うが。
うまいこといったつもりだがだれでもかんがえられるようなことなのでこんなこと口にしなくてよかったと思った。
たかよしと解散して電車に乗る。
席に座って携帯を開くと
カップル専用アプリからお知らせが来てた。
付き合って2年10か月がたちましたとかいてある。
このアプリは
付き合ってしばらくしてから理香からおしえてもらったが
カップル同士での写真や動画イベントなどを共有できたり、ふたりでチャットができるものだ。その機能の中にさっきのように二人がいつつきあって、今、つきあってどのくらいなのかをおしえてくれるものがある。
するとそのアプリでのチャットでメッセージが来た。
「2年10か月だね。そんなたったんだー」
ときてた。
「結構たったな」と送る
「なんかドライ!もっとテンション上がってよ」
めんどくさいので無視をして
ゲームのアプリをたちあげそれに没頭した。
池袋に理香と出かける。
昼前に宝くじ売り場前で待ち合わせで、先に待っていた理香をみつける。
またバナナジュースをのんでいた。
口紅はこないだ買ったやつをしているようだった。
それを指摘すると嬉しそうだった。
最近お金がないのか似たような服ばかり着てるように見える。
男よりも女の人の方が服に気を遣わなければいけない圧力があるのは同情するが、それんしいても同じような服ばかり着てるなと思う。
口に昼をたべたらしいミートソースがわずかについていた
それを指摘すると、あわててふきとって恥ずかしそうにする。
それをみて、目の奥が冷えて暗くなっていくような気がした。
「そういえば私の友達の彼氏がね、いつも自分の家から近めのところをデート場所に選んでなるべく彼女が負担にならないようにしてるんだってーいいなあ」
これは軽く嫌味を言ってるのだろうか。じぶんもしてほしいんだと。
たしかに俺は4駅しか離れておらず半分の時間でいけるので楽だだが、
理香の家は大宮の奥の方に住んでてここまで1時間以上かかるので負担といえば負担だ。
まあめんどくさいけど理香のいえの近くで遊んでもいいのだが。
「友達って理香と同じ大宮だっけ?」
「うん、そうだよ」
「そっちって遊ぶところそんなにないし、そもそも毎度彼女の家の方の近くって彼女への気遣いのようで、デート範囲狭ませてないか、そんなのすぐ限界くるでしょ。ていのいいデートの手抜きじゃね?」と言ったら
もうきいているときからそうだが
「うーんよくわかんない」となんもかんがえてないような顔をしている。
そんなにわからないことだろうか。こいつの理解能力のなさのせいじゃないだろうか。
あんまりいうのをやめた
並んで歩く。
今日も夜にヤルための必要な前ふりみたいなデートをする。なんのために付き合ってるのかという疑問は今日も喉の奥を通し内臓の奥の奥まで飲み込む。
ご飯食べようということで
ラーメン食べたいというので一風堂でもいくかと
東口をでてロッテリア方面に歩いていると
あれみてーといってちょっと離れたところを指さすと行列ができているお店があった。外観はファンシーな女の子に向けた感じであった。
「あそこなに?」ときくと
「パンケーキらしいよ。めっちゃおいしいんだって」
「ふーん」
「今度行こうよー」
「まあ今度な」
「そうやってまた流すー」
「んなことねーって。」
そのままそこをとおりすぎて
一風堂へ。
さっとラーメンをたべたあと
服が見たいらしいので、パルコに向かう。
池袋は友人が結構いたりするので手をつなぎたくない。
理香は手をつなぎたいようなそぶりをみせていたが、俺にその気がないとわかると不満げな顔をみせながらもあきらめた。逆に友人にいちゃついてるところを見せたいのかと聞きたい。
女性の服の階に降りて、やはり女のひとか男がいてもだいたい彼女らしき人がそばにいる。
男は本当にこういうところが息苦しい。男物のところに女の人がいるとそんなでもないのに。あきらかに圧力の差がある。
近くで選んでいるカップルの女の子が自分の好きな芸能人ににていた。自分がどんな服装が似合ってるかよく知っており、とびださず、したすぎず自分がよくうつるちょうどいい服装をしていた。こういう風に正解をたたき出す女の人はたまにいる。そういう人はまあモテる。じぶんをよくみせるという賢さをもっている。モテる星の下にうまれたといっていい。自分の彼女をみてみる。
そんなの似合わなくないかというレザーのジャケットみている。自分を客観視できてないだろうか。そういう風にかっこいい系を着こなすようなタイプではないのに。こっちは不正解女だった。
そしてその子は俺の好きなポニーテールをしていて、動くたび揺れる束ねた髪に目が行ってしまう。
男はそんなにかっこよくないのになんでだろう。見合わないカップルはたまにいる。なんとなくカップルはつり合いひとがくっつくという勝手にある法則にはめこんでいくが、たまに法則が乱れるカップルは存在する。
なんかかわいい彼女をつれてると男として他の人よりもステージが上のような顔して、自己肯定感があふれる感じでその得た自信で他の女の人と話すときもとてもフランクなんだ。それがなんか腹が立ってしょうがない。まあたぶんというかほとんど妬み嫉み僻みやっかみの類でしかないのだろうが。
休憩がてら大きめのカフェのチェーン店に入る。
レジで理香の同級生の鶴野が働いていて、俺も何回か話したことがあった。
「鶴野がいるんだったら今日こなきゃよかったー」
「なんじゃそれ勝手にきといて」と同級生同士らしい軽口のたたきあいをしていた
「デートですかいいですねー休日は彼女なしはバイト、いる人はデート。いいなあ」
というので
「おまえもがんばれよ」というと
「しょうかいしてくださいよお」
「後ろつっかえてるから仕事してくださいね」と軽く流し
「まあね、いろいろ頑張れよ」と言う。
俺はアイスティーで理香はブラッドオレンジジュースを頼んだ。
飲み物を待ってる間い携帯をひらくと香澄からLINEがきてた。
『アジカン新曲のMV解禁されてるよ!まじアップテンポでいい曲。アジカン節炸裂』
『まじで?こりゃライブたのしみになるな』
いますぐききたいのだが、さすがに理香のまえでやるわけにはいかずずれったくなった。
席に座ると理香は頼んだブラッドオレンジジュースを少し飲むと、口を開く
「そういえば付き合いたてのころわたしのバイト先きてくれたよね結構遠いのに」
「ああそういえばそうだな。」
彼女のバイト先は確かに遠かった。大宮のもっと先の登呂駅というこれ以外で絶対に来ることがないであろう駅から歩いて15分くらいにある、イトーヨーカドーがある、大きなショッピングセンターにあるカフェだ。
地図をみていったけど、方向音痴なのでかなり迷って言った覚えがある。
「冗談できてっていってたらサプライズみたいにきてくれたよね。あれびっくりしたなあうれしかった」
たしかによくいったもんだ、ほんとうに。
遠いし電車賃もかかるし大変だ。
「そのあと地元でちょっと遊んだよねーなんかバイト先もそうだけど地元にゆうすけがいるの不思議な感じだったー」
「そうか?」
「うん、またきてよー」と笑いながら言う
「ああ、まあ機会があったらね」
「えー」といって頬を膨らます。
来年社会人だというのにいまだに子供っぽいことをする。
ぶりっこっぽくておれがかわいいーというとでもおもってるのだろうか。
わたしちょっとトイレいってくるねーといって理香は席を立つ。
いまだとばかりに携帯を取り出し、youtubeにアクセスし、アップされた曲をみつけた。
イヤホンを急いで取り出して、ジャックにさす。
再生すると、自分の一番はまっていた時期の感じをより洗礼させとがらせた横道ロックが鼓膜を揺らした。
ながしながらLINEを開き、
『これはほんとやばいな。超ライブいきてぇ』
『でしょでしょ。これ絶対盛り上がるサビかっこよすぎるよね』
『それな。ほんといいなこれ。まーた名曲生まれちまったか・・・・』
『だなー』
Youtubeにもどってまた見直していると突然わっと声を出しながら肩に手を置かれた。
トイレから帰ってきた理香だった。
「なにきいてんのー?」
首をかしげて笑いながらきいてくる。付き合いたてのときこれをやられてたらかわいいとおもっていたのだろうが、いまなんの感情も動かない。一応説明してやる。
「アジカンの新曲がさ」
「アジカン?アジカンってなに?」
まずそこからなのだ。もう会話が躓くというか。
「日本のロックで有名なバンドなんだよ。俺が中学の時から好きで」
「へーそうなんだ。有名な曲は?」
「えっっとソラニンとかリライトとか・・・」
「うーんしらない。」
こいつはそんなに日本のロックをきかないのはしってるけど、説明するのが面倒だ。たいして興味もないの。
「きかせてよー」
「ああ。」
イヤホンをわたして、理香はイヤホンを耳に入れたタイミングで再生を押す
しばらく流すが、反応もなく、錆のいいところでもじっとみている。終わってイヤホンを外すと
「へーいい曲だね」とよくわかってないような感じでいう。
自分の好きなのをむりに理解してもらおうという気はないが、きょうみのないかんじでふるまわれたらそうはいっても否定の次にショックを受けるというか。
やはり気持ちのいいものではない。もうこいつにこういうはなしはしないでおこうときめた。
また今日も日が沈んでくると、はやくやりたくなってくる。
最近お金ないから安いところがいいというので、東口のサンシャイン通り前のビックカメラ近くにある漫画喫茶のDICEへ行く。コンビニで食べ物を買ってから入る。
中は近未来的なスタイリッシュな内装になっており、他の満喫よりも清掃が行き届いてて綺麗だ。しかも他の漫画喫茶のゆるいしきりでつくったなんちゃって個室とはちがってカラオケボックスみたいにひとつひとつが完全な個室になっている。だからか、カップルの巣窟になっている。
受付にできた列はやはりカップルばかりだった。
受付を済ませ、部屋は701ですと、受付の女性は部屋のカードキーを渡した。
受付の右の方へ進むと左手にアイスやカフェオレココアなどがあるドリンクバーがあった。
のみものにしよっかなーという彼女にカップをわたす。理香はどもーと手刀をつくって礼を言う
俺はカップを取ってアイスをとり、理香はココアをとってエレベーターの方へ進む。
エレベーター前の壁に、それぞれの階層の案内図がパネルにはめこまれていた。
「何階だっけ」ときいてくるので
「7階」ときくと
案内図をみて、
「トイレある階だーよかったーいつも上から下に移動しなきゃいけなかったから今日はラッキーだね」と俺に向かって言う
「そうだなー」と気のない返事をする
「そういえば友達が彼氏と温泉行ったらしいんだよー」
「ほー」
「いったところ結構よかったんだって。箱根のところでねー」
カバンをごそごそしてぷーさんのケースのスマホをを取り出してその温泉のHPをみせてきた
それをちらっとみて
「おーいいじゃん。」
金もかかるし男の俺が多く出さなきゃいけないし、遠いし温泉はめんどくさい。
「あーなんかきのないへんじしてー!」
「んなことねーよ」
エレベーターをの扉をおさえて理香をさきにいれさせる
「ありがとー」といってにこっとしながら先に中にいれる。
俺も中に入り、7階のボタンを押すとエレベーターは上昇を始める。
理香はおれにくっつくとアイスを勝手に食べ始めた。
その態勢でしかも目をつぶってたべ、なぜか
「んっ・・」と色っぽい声をだすのでおれのものをくわえるのを連想させ、下が固くなった。
7階に着き、
先に外に理香をださせる。
壁に701~720は右、という案内が壁にあったので
右ねと理香に伝える。
701の部屋の前に行くとカードをスキャンするところにあてると部屋のロックは解除された。
なかにはいると2、5畳くらいの部屋だった。靴を脱ぐところがあり、そのあとは黒革のふかふかしたスペースになっていて、右の壁側にはパソコン2台と、壁にテレビが埋め込まれていた。
理香は乱暴に靴を脱ぐ捨てバターンと体を大の字にして寝っ転がった。
上着ぐちゃぐちゃになるぞかけるから貸して
というと
「ん」といってデニムジャケットを脱いでわたしてきた。
それを玄関のすぐそばにあるコートかけがあり、ハンガーがかかっていたのでそこにかける。自分のもぬいでかけた。
エレベーターの先に入れてやるとか、コップととってやるとか、上着をかけてやるとか、こういうことは相手を想うからやるというわけではない。
感情ゼロでできるものだ。気遣いでありながら気遣いではない。
こういうことに気が利く自分でいたいのと相手に自分の方が気が利くんだということをみせつけるものでしかない。全部自分のためだ。
井や自分じゃなくても気を遣える人間というのはおもうおもわないにかかわらず、結局のところ自分のためにやっているのだと思う。
見返りとか、気を使える自分でありたいとかそういうことを考えなしでやる純粋な気遣いをしている人ってもしかしたら少ないかもしれない。
まあこれをやるということをおもいつきもしないひともいて、そのひとたちよりはいい人にうつるが、その人たちとその実、それほど変わらないのだと思う。気を使える人がいい人とは限らないのだ。理香を後ろから抱きしめ、耳元でくすぐったいような甘ったるい響きを持つ言葉をささやく。こうしたかったよとまた強く抱きしめる。
これも全部セックスができる関係を維持するため、その場を盛り上げるため。
あの気遣いも相手ではなくその奥にいる自分のため。
いいことをする、いいことをいう人間がいい人だと思わない。
それは自分のしてることで自分自身が証明しているからだ。
体を交わるときになぜかこうやって哲学のできそこないみたいなことに考えを巡らせる。体は動物的なことをしていて、頭は人間らしい活動をする。
体と頭は別々のものなんだとわかる。
そうやって俺はまた今日も深く理香の中へ侵入していく
乱れた衣服からいつもの柔軟剤のにおいがした。
終わってから携帯をいじり始める
「そういえばまえ一人暮らしするっていってなかった?」
理香は服を着ながら言った
「ああ」
「しないの?」
「うーんするよ、金たまったら」
「まえもいってなかった?」
「社会人はいろいろ出費があるんだよ」
おれはそういいながら飲み物を取りに行った。
早朝、支度をして足早に自宅を出る。
今日は楽しみにしていた夏フェスがある。
外に出ると人気がなく、少しだけ夜を残した街並みがあった。
新宿にいき、バスターミナルにいくと同じようにひたちなかへ向かう人の集団がいた。
LINEを開いて
『ついたぞどこだ?』と送ると
『石畳の階段のところにいるよ』
みわたしてみるとすぐ近くに階段があり、そこに座っていた。
「おーっす」
「きたきた。んじゃのろう。これチケットねー」
「おうすまんの」
チケットを受け取りバスに乗り込む。
動き出してしばらくすると
LINEがくる。理香からだった。
『今日何してるー?』
『今日は友達とライブいってくるわ』
『そうなんだ、ふーん』
ふーんってなんだよ。返事に困るのでそのままにして携帯を閉じる
9時ごろにひたちなかに到着した。
入り口付近に大勢の人が並んでいて、ゲートのロッキンオンジャパンの看板の前で女の子二人組が仲良くとってたり男女数名が周りの人に頼んで集合写真を撮ってもらったりしている。
「いやーやっときたー!これのために今年上半期がんばってきたのよ」
香澄は隣でそういいながら紺のキャップを目深にかぶりながら背伸びをした。
Tシャツに通気性のよさそうなホットパンツといった動きやすい格好をしており、
女の子らしい健康的なふとももがホットパンツからのぞかせている。
「いやほんとですよ。これがあったからたえられたんですわ」
「うむ!」と嬉しそうにしている。
「んじゃあはいるか」といって移動する。
スタッフにチケットを入場証のリストバンドにとりかえてもらい中に入る。
そこを抜けるとすぐにライブ会場が広がっていた。
中では音楽があふれていた。今日はここで一日中音楽にどっぷりつかって楽しめると思うとテンションが上がらずにはいられなかった。
会場図を見ると、5~6つほどの大中小のステージがあり、
一番おおきなところでは公園のひらけた場所でのステージで5万人ほどを収容できるらしい。一度に5万人ってドーム並みだ。そこでやるのは超人気アーティストばかりが名を連ねている。そういうのをかんがえるとこみあげてくる。
「音楽漬けの1日がはじまるぞー!」
「やったー」と隣で香澄は言う。
タイムテーブルのかかれたパンフレットをとりだし
「水曜日のカンパネラもうすぐ始まるな。いこうぜ」
「それきになってた!いこういこう!」
場所はすぐ近くのLIKEステージというところだったので、売店にいってポカリを買っていく。
ステージにはすでに人が集まっており、人があふれていた。
最近いろんなメディアに露出していて人気急上昇しているアーティストだ。
独特な世界観で唯一無二の存在といった感じだ。
煽りのアナウンスとともにアーティストがでてきてた。
美術大出身らしく、デザイナー然とした恰好ででてきた
CMでよくながれているキャッチーな曲が最初だった。
イントロがながれたとき
香澄とみあわせてあの曲だと示し合わせた。
みんな手を挙げ、指を1にしたりパーにしたりそれぞれの形で手を振って曲にあわせ音楽に身をゆだねている。
横にいる香澄もたのしそうにしている
2曲目も有名な曲だった。
「今日とばすなーまじで」と俺が言うと
「ね!最高」といって今日合わせて二人ではねた。
出番が終わり、アーティストははけていく。
ほとんどの曲がしってるもので、乗れる様に考えられたセットリストでだいぶ体があったまった。
「次移動するでしょー」と香澄がしゃべりだしたとおもったら態勢をくずしはじめた。終わったとたんにゾロゾロとみんなが四方八方にはうごくのでその波にもっていかれてはぐれそうだった。
近くにいたがタイのいい男連中が移動しようとして、香澄は小柄なので体がもっていかれていたので、手をとって誘導する。
「あ、ありがと」
というと
「あぶねえしはぐれるから俺の服とかつかんどけよ。俺前歩くから。」
ここで彼氏みたいなこと言うなとかつっこみとかあるのかとおもったが、特に反応がなかった。というか男の俺でも結構体もっていかれるからわりと恐怖なのだろう。
黙って二人で進んだ。
人ごみを抜けた。
といっても会場全体がひとごみなのだが。
わりと密集地帯からはぬけたといったほうがいいのだろう
「やっとぬけたなー」とはなしかけると
飲み込まれると思った死を覚悟したよーゆうすけが背高くてよかった。宝の持ち腐れだと思ってたけど、役に立ったね」
といつもの軽口をたたく香澄だったのでさっきのは本当に怖かっただけだったみたいだ。
「うるせーもう一回あそこに放り込んだろうか」
「いやーそれだけはやめてー」と香澄は困り顔をした
「いやーでもやっぱいいなー」
「アルバムちゃんと借りよー」
口々にいいながら次の目的地へ向かう。
「そういやバンTかわないと」
「そうやなー。人気のやつはもう朝から並んでいるらしいからね売り切れてるかもしれない」こないだ情報サイトにそういう風にかいてあった。
「うわっそうなの?やだなあマンウィズほしいのに」
「マンウィズいいよな俺もほしい」
「タオルもー」
昼にちかづいてくると暑さが尋常じゃなかった。
大量の人が大移動をする。
その列は長く遠くへ続く。
まるで大名行列のようだ。
日差しがたえられず、帽子を深くかぶる。
「あついねーやばいポカリのもう」
香澄はカバンからとりだしぬるくなったであろうポカリを飲む。
からになったペットボトルをカバンにいれた。
暑さにけだるげに歩きそれに歩調を合わせる。
「毎年行ってる人はすごいなあ結構過酷だよこれ」とこぼすと
「まあたしかになあ。自分の体調考えずにはしゃぐとやられるなこれ」
「ほんとそうだとおもう」
しばらくすすんでいくと
俺は本来行くべき方向にいかずに別のルートを行く。
「あれ?そっちじゃなくない?」
「こっちは少しだけ遠回りだけど目的のステージにでるまで日影が続くから楽みたいだし、その途中で飲み物も帰るよ。もうないっしょ?」
そういうと香澄が
「きがきくなぁ」といって笑う。
「まあな」
「謙遜しろ」
二人で笑う。
日影に入る。
日差しがないとこんなに涼しくて気持ちいいのか、と思った。
ひらけた場所につくと
よりフェスらしい光景が広がっていた。
「ここが一番フェスっぽいなあいいなあ」
「それねー」隣で香澄がうなずく
「ってかバンプの藤君とかあるいてないかな」
「そんな歩いてるわけないだろうアーティストゾーンにいるって」
「えーなんかたまにこっちでてくるってきいたんだけど」
「いやほんとたまにでしょ。きたら騒ぎになるしわざわざめんどうになることしないでしょあの人は特に」
「あーそうかー」香澄は残念そうにしている
「おいあれみろよ!」と俺は声を出す
「え!藤君?」
「あのひとまじポニーテールやばくね?理想すぎる。かわいい!やっぱポニーテールに会う人はかわいいひとだな」
「ほんとまぎらわし・・・・」
がっかりした様子だ。
「あー先行く」
「おいちょっとまてやー」
少し進んだところにひとつのところに列ができていた。
ROCKという文字でできた記念モニュメントの前で写真をとるのを待っている列らしい。
「あれとろうよ、せっかくだし」
「ええで」
並びはじめて、とってる人たちをみるとそれぞれいろんなポーズで写真を撮っている
「ポーズ何にする?」
「オーソドックスにタオルをひろげればいいんじゃね?」
「ふつうだなー」
「ほかにあんのけ」
「いやないけどね
「ないのかよ」
「まあそれにしよー」
「こいつなんやねん」
話してるとすぐに自分たちの番になり、後ろに並んでいた大学生カップルらしき人に写真お願いしますといってふたりで携帯をわたし
ROCKの左右にそれぞれタオルを斜めに広げる
男の方がカメラをかまえてはいちーずの掛け声で写真が撮られる。
それぞれの携帯でとってもらって
写真の写りを軽く確認して礼を言って退散する。
二人でとれた写真を見合わせると、
俺のほうの写真は香澄が半目ですごい表情をしていた。
「それけしてー!」とあわてるが
「やだよこんなおもしれーの。かすみのLINEの背景にするわ」
と笑うと
「もーやだそれやめてよー」という
その写真を香澄をアップにしたところでスクリーンショットをとり、
より拡大された香澄の写真をLINEのは背景にした。
「これやべぇみてみ」といって
「へんなことしないでよ」と嫌がりながらめちゃくちゃ笑っていた。
あまりにもおかしいので本当に笑いが止まらなかった。
しばらくおちついてきたとおもったところで、
香澄の写真をタップして縮小したり拡大したりしてまるでとびだしてくる躍動感のある動きになりそれがまたわらえてきて
おれ以上にかすみは自分の写真で笑っていた
「ももうだめー腹よじれる苦しい」
「自分の写真で笑えるってやばいだろ」
「いやたしかに。あーおかしい」
香澄は声が笑過ぎてかすれている。
ふと理香といるときはこんなに笑ったことがないなと比べてしまった。
なんでいま比べたんだろうかと思ったがそれをかきけすようにまた写真を見て笑った。
日も沈んできてだいぶ過ごしやすくなってきた。
音楽聞くにはやっぱりこの時間からでしょう、と香澄はなぜか得意げになっていた。
次はやっとまちにまったフジファブリックだ
前に行こうと言って、どんどんステージ前にちかづいて、もうアーティストと数メートルというところまできた。
普通のライブだったらこんな前なかなか行けないけど、
こういうスタンディングの野外フェスならではの特権だ。タイミングとかもあるが、がんばれば前に行ける。
「もう顔はっきりみれる距離じゃん」
「ほんとだなやばいよ。夜明けのBEATやってくれるかなーそれのためにきたようなもんだし」
「ゆうすけほんとフジファすきだよね」
「おう、めちゃくちゃすきよ」
とはなしながら人の圧をうける
まえだからか人がぎゅうぎゅうで身動きがなかなか取れない。
それも我慢だ。
香澄もなんとか耐えているようだ。
ステージ上ではマイクや楽器の調整がされていてスタッフがあわただしく動いている。
一通り終わったらしくスタッフがはけていって
ステージの照明が暗くなる。期待を帯びた歓声が響く。
照明が暗くなると外の暗さに気が付く。
アナウンスでフジファブリックの名前が呼ばれると
観客がうわーと声を出す。
BGMが流れ、それに合わせて手拍子が鳴る
メンバーの面々があらわれ、
開幕一曲目はアップテンポな曲だった。
1日中いるとはおもえない、むしろ今始まったばかりだと言わんばかりの熱気だった。
アーティストも気持ちよさそうだ。
香澄はちょっと隣でのっているが少し疲れが見えていた。
「大丈夫か」ときくと
「大丈夫!最高―」と明るく言う。
ちらちらきにしながら曲に体を乗らせていた
アップテンポの曲が連続する。
ボーカルが
「ほんとロッキン最高―!」と声を上げた。
それに観客は歓声で答える。
俺もそれに同じように叫んだ。
一番聞きたかった曲のイントロが始まった
これはテンション上がるなとうれしくなった。
となりで香澄が少しバランスを崩す。
支えてやり、見ると顔が真っ青だった。
「ちょっとでよう」
「これ聞きたかった曲じゃないの?わたしだけでるよ」
「おいていけねーだろ。ほらいくぞ腕捕まってろ」
香澄は少しためらって俺の腕をつかむ。
それを確認したら、すみませんと手刀をしながら乗りに乗っている人たちをかきわけて密集地帯を抜ける。
座れるところがあったので、そこに香澄を座らせ、冷たいポカリを買ってきて渡す。
「お金渡すよ」といってくるのでいらないからはやくのめというとあきらめてペットボトルを開け飲み始めた。喉が渇いてたのか喉を鳴らす。
少し飲み終わって下を向き
「ごめんねなんか」
「いや大丈夫よ、。むしろ香澄の体調気遣えなかったから俺が悪い」
背中に楽しそうなライブの音がぶつかる。
香澄は黙っていた。
俺も座って、自分のカバンからポカリを取り出し飲むと
「ゆうすけってそういうところ優しいよね」といってくる
「え?」
「今日の日影の配慮とかさ、いや普段からだけど」
「そうか?おまえだってチケットとかとってくれたじゃん」
「いやそれはいつもゆうすけがとってくれるからわたしもやらなきゃっておもって」
「べつにきにすることねーだろ。」
「きにするって。いまだってホントは一番聞きたかった曲をいいばしょできけたはずなのにさ」
「おまえに体調崩された方が困るわ。」
香澄は急にだまる
「ん?なんだよ」
「ゆうすけのくせにうざい」
「はあ?なんで気遣ってやったのに」
「女の子にいつもいい顔してんでしょ悪い男だなあ」
「してねーよ人をチャラ男みたいに言うんじゃない」
「どうっすかねー」香澄は笑いながら言う
少しは体調戻ってきたのだろうか。
安心した。
拍手が鳴る。
俺は立ち上がって、ライブ会場の方に向く。
今日はここでできて最高ですと感想をいっている。
どうやら最後の曲らしい。
観客は名残惜しそうな声を上げている。
ドラムがカウントをすると特徴的なイントロが聞こえた。
もう一つ聞きたかった若者のすべてだった。この野外フェスの夜。星空を見ていて、
この曲をきくシチュエーションの中で一番最高なんじゃないか。
香澄も立ち上がって柵に寄りか買って聞く。
ステージから放つ明かりがなんだか暖かく感じた。
二人で静かにその音に耳を傾けた。
1日の全プログラムが終わる。
みなが帰りの道に今日の感想を言い合いながら帰っていくさなか
遠くの頭上で大きい音が鳴る。
夜空に光の花が咲く。
形を変え、色を変え、何度も一瞬の光を放つ。
見ながら、
「これ今年初めての花火だ」と二人が同時にいった。
見合わせて笑った。
「あれ?打合せしましたっけ?」と俺がおどけると
「ノー打合せ。タイミングあいすぎでしょ」香澄は顔ををくしゃっとさせて笑う。
「あーでも夏って感じだねーホント」
「たしかにな。夏らしい1日だったわ。」
「そうねー。あー夏の楽しみが終わっちゃったなあ。また仕事が始まる」
「それいうな。俺忘れてたのに」
「どうしてもよぎっちゃったよ」
「いやでもおれたちにはお盆休みがある」
「わたしのとこほとんどない」
「あらご愁傷さま」
「有給でとれとかいってふざけんなほんと。あー部長もうざいしきもいしもーやだー」
「香澄さんたまってますねえ」
「あーだめ、終わりにこんなのだめだよ。なんか最後しよう!」
唐突になにかきょろきょろする香澄。そして思いついたようにいう
「ジャンプして最高地点でとるのやろう」
「あーなんかよくリア充がとるやつ?」
「そうそう、わたしたちだってたまにはリア充しようよ」
「えーあれSNSに載せてるやつさぶくない?」
「いやそうおもうけど、実際やっぱうらやましさがあるんだよね、やっかみだよ。ほんとはちょっとやってみたいんだよ」
「まったくない」
「おいかわいい女の子が言ってんだあわせろや男は」
「自分でいうなよ」
「ねーやろやろー」と肩を引っ張って揺らす
「わかったわかった」
「やったー!んじゃあ携帯わたすからとってねー」
ポケットから携帯を取り出し俺に渡して離れたところに向かう。
準備いいー?ときいてくるのでおっけーとこたえると
「んじゃいきます!せーの」というと全然とべてないまま着地した。
写真も追い付かずに映ったのは着地してるところだった
「おまえ全然とべてねーじゃんかよ」
「あれーやばいやばい。」と自分でやって笑っている。
「運動不足だろ最近ふっくらしてきてるぞ」
「うるせーそういうこというのやめろー!」
ぷりぷり怒っているのがおかしかった。
写真見てみといってわたし
うんこ座りみたいな着地の仕方をしていたので
「なんかうんこしてんのこいつ」というと
香澄はひいーといいながら腹を抱えていた。
もっかいもっかいといってまたやり直して全然跳べてなくてその写真見て笑っていた。
おれやるわといって交代して
エビぞりになりながらジャンプをした。
「おっすごいたかい!やるねー」
写真で確認すると自分がおもったより飛べてなくて納得いかなかったのでもっかいもっかいと撮っていたら
「祐介が一番楽しんでんじゃん。さっき文句言ってたやつだれだよ」
というので
「そんなやついたっけ?」ととぼけた。
とり終わったころには人もだいぶはけていってたので出口までだいぶスムーズにいけた。
バス乗り場にいき、予約していたバスをみつけて乗り込む。
席に座って落ち着くと今日の感想をいいあって盛り上がっていたが、
反応がなくなったなと思ってみたら香澄はねむりについてた。
まあ疲れてたのだろう。
まぬけな笑顔だった。こっそり写真をとった。
室内はクーラーがきいていたので寒いかと思って
会場で買った新品の大きなタオルを香澄にかけた。すると
寝返りを打ち俺の肩によっかかってきた。
なんだか不思議な気分だった。
周りを見るとカップルが多く、同じように彼氏の肩を借りて寝ている子がいた。
俺らもはたから見るとカップルに見えるのだろうか。
まあたしかにこういうのは彼女といきたいっていう願望はあるよな。
でも俺の相手はこういうの興味ねえし、他の友達もそんなにこういうのに興味ないからいってくれる友達こいつくらいしかいないんだよなあ。
あーライブ行ってくれる彼女ほしかったなあ。
携帯を見ると理香から何件かLINEがきてた
今日は全然返してなかった。
みてみると、
『もうすぐ本命の面接なんだー緊張する』
そういえばもう大企業の選考は始まってるのか。
ご苦労なこった。
ほわほわしてるから2,3次通ったらいいところだろう。
眠気が襲ってきたのでそのまま返さずに眠った。
夏は仕事に追われ、それ以降夏らしいことはできずじまいだった。
残暑が続く中、少しだけ和らぎ涼しさがでてきたころ、
会社が終わり、大江戸線にのって携帯を開くとカレンダーを見て
そういえばもうすぐ香澄の誕生日だったっけ。
まえに軽く祝ってもらったし俺もあげなきゃな。
なんかあいつがほしいっていってたライブDVDBOXかってやっか。
『今日とかひま?』と香澄におくる。
『ひまよーごはんたべにいく?』
『おう、行こうぜ。あっでも俺あんまかねないからかすみんちで飯食わね?』
『べつにええでー何時くらいに来る?』
「8時半くらいかな」
『おっけー待ってまーす』
また最後にシュール系のキャラが手を振るスタンプをおくってくる。
ほんとすきだなあいつ。
よしそうときめたらかいに行くか。
新宿で降りてヤマダ電機でライブDVDBOXを買ってまた大江戸線に乗り練馬に向かう。途中でケーキを買っていく。
香澄の家のマンションにいき、いつものようにインターフォンで呼び出し中に入る。
香澄の部屋のインターフォンを鳴らすといつもの顔がでてくる。
いつもスウェットなのに今日はちゃんときていた。
女の子らしい恰好だった。
「今日どうした?」
ときくと
「んーなにが?」
「いや服装いつもとちがうんで。いつもあんたスウェットやん」
「そんなことないよ。今日も普通よ」
ちょっとうれしそうに言う。
急に尿意をもよしてきたので
「ちょっとトイレ貸して」といって香澄の前を横切ると
ふわっとせっけんのにおいがした。
用をたしおえたら、
プレゼントとケーキを隠しておく。
香澄がキッチンにある冷蔵庫をなにやら探っている。
「ご飯買ってきた?」ときかれたので、
「ちょっと荷物おいてから階に行こうと思って」
というと、パスタ作るけど食べない?
「おーまじで?何パスタ?」
「きのこのしょうゆパスタ」
「おっいいっすねーたべるわ」
「んじゃあつくっちゃうねー」
「わりぃなおしかけたのに」
「こういう風に人呼んでやんないと料理の腕衰えるからね」
「そうなのか。」
「そ。」
鼻歌をうたいながらパスタや具材をだして調理を始めた。
その様子を見ていると料理なんかめんどくさいみたいな雰囲気出しつつ結構手際が良かった。
それに気が付いた香澄が
「どしたの?」
「ん?いや、結構料理うまいんだなっておもって」
「いやこんなのたいしたことないよ。ってかハードル上げたら食べたときがっかりするからやめてよー!
と怒りながらもまんざらでもない顔している。しゃべりながらも手はさっさと動いていて
あっという間にキノコのしょうゆパスタができあがった。
「皿とるよ、どこにある?」ときくと
「その後ろの棚の2番目にある白い皿おねがいー」
「あいよー」といってその皿を二つ取り出しかすみのまえに置く。
「ありがとー」
フライパンにつくっていたきのこぱすたをさらに手際よく盛り付けていく。
「おーうまそう」
「でしょー。」
テーブルにおいて二人で席に着き食べ始める。
想像よりも何倍もうまかった。
「お世辞抜きでうまいわ」
「まじ?やったねー」
香澄は頬を赤くして得意げだ。
すぐに一皿たいらげた
香澄もそのあとすぐに完食した。
「いやーでもなんかおしかけたのにつくってもらってわりぃな」
「それは好きでやってんだからいいって」
そろそろ出すか。
「ちょっとトイレ行ってくるわ」
「はいよー」
腰を上げて、トイレに向かうふりしながら
かくしておいたプレゼントとケーキをとりだす。
ケーキにろうそくと火をつけてスタンバイができると。
香澄の様子を見ると、
洗い物をしているようだった。
電気を唐突に消す。
「あれっ停電?」
と暗闇の中香澄は声を上げた。
そこからケーキをもって
「おめでとうございまーす」というと
「ちょっとーなにそれーいつのまに」といって恥ずかしそうにしている
「しこんどいた」
「やられたー」
ケーキをテーブルにおいて
「写メとっていい?」
「おおどうぞ」
携帯を取り出してぱしゃぱしゃやる。
「ケーキ持ちながらとれよ」というと
「あっおねがーい」
といってケーキをめちゃくちゃ慎重に持とうとするので
「そんなにびくびくせんでもええやん」
とつっこみをいれると
「こういうの手が震えてケーキひっくりかえしてだいなしみたいなテンション下がる出来事を起きないような回避行動です」
「こいつめっちゃ説明するやんけ」
ケーキをもって写真を撮ると
また慎重において
「んじゃあ消すね」といって構え始めた。
ろうそくの明かりの向こうに覗く香澄は本当に嬉しそうにしていた。
一気に息を吹きかけて火は消えた
電気をつけて明るくする。
暗闇に慣れてたので少しまぶしい。
俺と目が合うと照れくさそうに
「ちょ、ちょっとケーキをとる小皿と包丁もってくるね」
「お誕生日の方は座ってなさいよ。おれがとるから。包丁どこにあんの?」
「えーえっとあのキッチンの横に細長いところに」
「あーおっけあったあった」
小皿と包丁とフォークをもってきてとりわけてやる
「あとプレゼントやるわ、ほい」
といって包装されたプレゼントをわたす。
「えーちょっとまじかーありがとう。えーなんだろう中身わかんない」
「あけてみな」
「うん、開けてみる」その言葉がいつもの生意気言ったりする香澄じゃなくて女の子みたいでなんか心の奥のなにかが反応した。
「うん。もってなかったらいいんだけどな」
包みを開けて、DVDBOXがでてくる。
「え!これほしかったやつ!まじで?やったー!」
「おーよかったよかった。」
「ありがとー」と香澄はそれを抱きしめた。
「喜んでもらえたならよかった」
「ってか誕生日覚えててくれたんだね。」
「まあな。まえ俺の誕生日の時くれたからお返しですよ」
俺も照れくさくなってあまり目を合わせずに行った
「そっかーいい誕生日だなあ」
なんだか不思議な沈黙というか間があって
なんかしらないが埋めたくなって
「ほら、ケーキ食べようぜ」と口にした
それに
「うん」とだけ言って
二人でケーキを食べた。
仕事中携帯が鳴る。
開くと理香からの電話だった。
こんな仕事中にかけてくることってないのできになった。
給湯室に向かい、電話に出ると
「どうした?」と出ると
「あのさやばい」と興奮気味だった。
「ん?なにがあったん?」
「わたしCA受かった。」
「え?」
「来年の春からCAになるの」
「まじかよ」
信じられない報告だった。
あんなにものを知らない馬鹿だと思っていた理香がCAになるなんて
「すごくないか?やったじゃん」と素直に祝った
「うん、ありがとう。あーうれしい!」
「ずっとあこがれてたっていってたもんな」
「うん!わたしがなれるとおもわなかった」
「俺もおもわなかった」
「ひどーい」
「うそうそ」
「えっそれだけなので仕事中ごめんね」
「おう」
「んじゃあね」
電話が切れた。
そのとき先輩がやってきて
「あれなんか電話してたのか?もしや彼女かー?」といじってくるので
「いやまあそうですね」と答えた
「さみしいあいたいよーってか、おい、いいねえ俺も彼女ほしいわー」
「違いますよーなんか就職先きまったみたいで」
「あっそうなん?どこに?」
この流れなら当然聞かれるのだがどうも自慢っぽくなってしまうがいやだなと思いつつ
「なんかCAになるって・・・」苦笑いでいうと
「ええ!すげぇじゃん!やるなー!CAの彼女!俺もそのつてで紹介してくれよー」
「気が早いですよ」と笑って言う。
先輩はコーヒーをいれて牛乳をいれ、かき混ぜながら言う
「いやこういうのはいまのうちにこびうっておかないと」
混ぜた棒を俺に突き付けてくる。
「来年の春からなんで俺もなにがあるかわからないんで」
「えーなんか不満なのかよ。くそいねえおれからしたらうらやましすぎるけど」
「カップルって色々あるじゃないですか」
「まあそうだけどな。でもまじで社会人になるとみつけるの難易度増すし、収入とかいろんな色眼鏡なしでつきあえるのは学生までの人だから大切にしろよ。んじゃあな」
先輩は給湯室から出ていく。
これたかよしにもいわれたな。
でもみんな他のカップルにはアドバイスするけど、自分たちのことになるとわからないもんだよな。カップルはブラックボックスでいろいろあるんだってわかってるはずなのに他人のことになるとそういう理解がなくなるのはなんでだろう。
俺もコーヒーをいれて自分のデスクに戻る。
理香の内定祝いに汐留にあるビルのレストランに飯を連れて行った。
高そうな感じだけど、実は結構格安。それを選んだ。
理香は騙されてくれてるようだ。
本当はプレゼントあげなきゃいけないんだろうけど、
香澄にあげたので金があまりないのでしょうがない。
また卒業祝いとかそういうのであげればいいだろう。
それに理香が喜んでいるならそれでいいんじゃないか。
会計はみせないように先にでてもらって会計をする。
みてもらったら手抜きされてると思われるので困る。
堂々とした感じでいればわからないだろう。
その日理香は喜んでくれてる様子だった。
夜、仕事が終わったが、なにもやることがなかったので
香澄に「飯いかね?」とLINEをおくった。」
しばらくしたら『いいよーってかわたしも送ろうとしてた。奇遇ですな』
ときた。
『よっしゃ。何食う?』
『こっちに委ねんのかい!ピースいかない?』』
『ええでー。何時くらい?』
『俺8時半くらいに着くわ』
『はいはいーんじゃあ日芸まえあたりでまちあわせよー』
『あいよーんじゃのちほど』
『はいはーい』香澄は最後に最近きにいってるのかシュールなキャラが手を振ってるスタンプをおくってきた
携帯を閉じ、練馬駅についたことを知らせるアナウンスを聞き電車から降りる。
自転車にのって江古田にいき、サークルや部活の帰りかロータリーに大学生がたまっているなかを通り過ぎ、踏切を渡って日芸前へ。香澄はすでにいた。
服のことはよくわからないが今日も服は女の子っぽかった。後ろで髪を結んでポニーテールにしていた。最近彼氏でもできたのだろうか。
歩いて数分でパンコントマテに着く。
2階にあり、階段の勾配は急だった。
店内は木を基調としていて、暗めにしており、ムーディーだった。
テーブルにはちらほらと客がいた。
案内され座ると
「あーおなか減った」
「なー」と話して俺はメニューをとって香澄がみやすいように開いた。
それを香澄はみつめていたが、別にいいかときにすることなく俺も選んで注文をした。。
「さいきんどうよ」ときくと
「えっなにが?」というので
「とぼけんなよー最近なんか恰好の女の子っぽいじゃん。彼氏できた?」
そうききながらその返答にドキドキしている自分がいた
「え?できてないよ!できてたらこんなさえない男ときてないよ」
「だれがさえねーだばかやろう」いつもの調子をだしながらなんだか安心していた。
たぶん誘いづらくなってさみしくなるからだろう。
「んじゃあなんでだ?」
「いやー秋って女の子のおしゃれ楽しい時期じゃん?そういうことだよー」
と来たパスタを受け取りながら軽く流された。俺もパスタを
まあ女の子はいろいろあるのだろう。
「それよりゆうすけはどうなの?」
「んー?おれはべつに。なんかいてもそんなにおもろくはない」
「そうなの?」
「倦怠期なのかわかんねーけど特に感情が動かないわ」
「そうなんだ」
「もっとこう趣味があって一緒にライブ行けたりしたらいいけどさ」
「ああそうねー。そこはたのしめるよね一緒の方が」
「それこそもうそろそろ結婚とかかんがなきゃじゃん」
「あーやだそんなこと考えなきゃいけない年になったんだよねーこないだまで大学生だったのに」
「いやほんとそうだよな。社会人になってから結婚のこととか将来のことばっかはなすようになるのよね」
「わかるー馬鹿話ばっかしてた大学生の時にもどりたいー」
「それな」
「理香との結婚考えてるの?」
水をのみながらこちらを見て言う。
「いやー結婚はないかもなー」
「どして?」
「だってなんかものしらんし。夫婦としての共同生活でいらだつことが多くなりそう。それこそ前段階での同棲で終わりそうだ」
「あーそうなんだ。いいこだけどねー」
「まあそうだけど、いろいろみえてくるじゃん長く付き合うと。気を使うこともおおくてさ。あとなんか会わなかったりメール返さないとめちゃ不機嫌になってめんどくさい。もっと相手を尊重してくれる人がいいよ」
「あーそれはそうだね。歩み寄れる人がいいよね。前の彼氏歩み寄らなかったし空気も読めなかった」
「そうなんや。たしかにおまえから愚痴すげぇ聞かされてたなあ」
「そうそう。もーあれは別れるべくして別れたよ」
「付き合うときはこの人だって思うんだけどね。それはわからないから猛進するんかね」
「そうかもねー」
「ってか香澄ももう別れてから長いだろ?そろそろやべえんじゃね?女の人は子供産むっていうことに関してことがあるから男より急がなきゃいけない感じだけど」
「そうなんだよねーこないだ高校の友達結婚しててますます焦った。」
「周りがすると余計、な。Facebookみるとやたら結婚報告ない?」
「ある!あれみんなしてるんじゃないかって焦らせるけど一握りなんだろうけどさ。それでも焦るのに十分だよね」
「そうそう。あーいやになるわー。気を使わない人とこう、ぬるっと結婚できればなあ」
「理想ね。」
長々と話していたら閉店時間ですとお店の人が伝えてきた。
気が付くと周りは俺たち以外いなかった。
急に恥ずかしくなり、急いで会計を済ませ、出て行った。
店から出ると、
「時間はえーなまじで。」
「そんなしゃべったかんじしないんだけどなあ」
「な」
「っていうかゆうすけ男の子なのにめずらしいよね」
「え?なにが?」
「女の子とぐらいしかこんな話続かないよ。」
「ああ、そう?」
「うん。」
「たしかにおれもそんな友達と長いことはなせないわ。話題なくなるし」
「そうなんだ」
駅の方へ歩いていると遠くからおーいという声が聞こえる
そっちを向くと大学のサークルのまさとだった。
「ゆうすけとかすみ久々じゃん!半年ぶりくらいか?」
「おーたしかに。元気そうだなー」
「まさと相変わらずだねー」
「おまえらなにしてたん?」
「ふたりでめしくってたわ」
「そうなんだ」といってまさとはおれらをみると
「おまえら仲いいよな。つきあってるの?」
と笑顔でいうので
「いやいやつきあってねーよ友達ですわ」
「あそうなんか。てっきり。長岡もこないだおまえらみたっていってたぜ」
「そういえば長岡君っぽいひとみたような・・・」香澄は記憶を手繰り寄せるように言った。
「ってかよく考えたらゆうすけ彼女いたよな。」
「おう。まだ続いてるよ」
「結構長いよなー3年くらい」
「おう、そうだな。そっちもどうなんだ?」
「おれのほうも続いてるよ。今喧嘩中。それで謝りに行く途中なのよ」
「へー大変やな。」
「そういうわけでおれいくわ。んじゃなー」
朗らかな調子を続けたまままさとと別れた。
「相変わらず明るいやつだなー」
「なんかまさとくんモテるから彼女嫉妬しちゃったんじゃない?」
「それあるかもな。想像できる。」
ふたりでクスクス笑った。
「自転あっやべえ車とりにいかなきゃ」
「あっわたしも」
「あれっチャリあったっけ?」
「最近買ったんだよやっぱあると便利。」
「どこにおいたん?」
「ここから見えるよ向こうの赤いやつ」
指さした方向をみると和菓子屋さんの店の前に赤いのがあった。
「目立つなー。赤選ぶやつって気強いらしいぞ」
「そんなことないよおしとやかですわよ」
「おまえのどこがおしとやかやねん」
「はーなんでよ!おしとやかだもん。料理上手だし」
「まあそうだけど自分でいうな」
俺の自転車もとりにいき、分かれるところまで二人でチャリを走らせた。
信号のところで青になるまで待つ
「そういやDVDみたよ。めっちゃ感動した」
「まじ?やっぱいいのかあれ。こんどみせてよ」
「いいよ。やっぱね、あのオープニング泣ける。」
「どんなん?」
「いままでだしたジャケットをつかって絵が動き出す。集大成って感じで」
「まじか。いま再現してみてよ」
「えーっとね・・できるかあ」
ついついノリがいいのでそういうボケを振ってしまう。
信号が青になっているのをわかりながら話し続け、
別れ際が分からなくなる。
話すことが永遠と湧き出てくるみたいだった。
2時間近く話し込んで
「なんかカラオケいかね」と誘うと
「わたしもいきたかった」といって駅前のカラオケに向かう。
「じゃあわたしフルドライブいれるー」
「お!いいねー」
このみが合う人といくカラオケは楽しい
他の人といくと歌いたい曲があるけど、しらないだろうし、盛り上がらないだろうし、歌の発表会みたいになるのはいやなので結局のところみんながよく知っている歌いたくもない曲を歌うしかない。だけど香澄なら好みが合うので互いが入れる曲はだいたい知っていて楽しめる。
アップテンポな曲を続けて歌って汗をかいた
「やばいメイクおちてる」
鏡を取り出して言うので
「ブスやなー」
「うるさいこっちみんな」と怒ったふりをするが下手だったのでそれがおかしかった。
結局朝方になって帰ることに。
さすがにしんどいのでじゃあまた今度といって別れた。
みえた朝日は目に染みた。
今日は代々木体育館で音楽フェスがある。
原宿駅で香澄と待ち合わせしている。
携帯を見るとついたらしいがどこにいるかわからないらしい
『銀タコ前の広場にいるよ』とLINEをおくると
『そっちかーい。むかうー』
しばらくするとニットをかぶった香澄が現れた。
「あれっめずらしいな。」
「まあねーもう寒くなってきたし解禁したー。どうよ?」とみせつけてくるので
「まあいいじゃん」とどうでもいいというそぶりを見せると
「おーい!つめたいぞなにそれー」とつっこむのがおかしくてもうちょっとこのやりとりしたいとおもいずっとイジっていた。
「とりあえず昼めし食うか」
「たべよー」
「ラーメンくいてぇな」
「わたし一蘭いったことないからいきたい」
「あーあそこか。いいよ、いこう」
「ばしょわかる?」
「たまにいくからわかるよ」
「じゃあまかせたー」
ラフォーレ前の交差点をわたり、WEGOの横を通る。休みの日だからかきいれどきなのか
店員が台にのってセールやってまーすと大声で宣伝していた。
カラオケ館のあるビルのところの2階を上り
食券を買って、席を待つ。
「あーやっぱ噂通り仕切りがあるんだねー」香澄は感心気味だった。
となり同士座る。
「注文どうやるの?」
「しらん」
「なんで教えないんじゃ」
「困ってるの見たいから」
「いやなやつ」
「ヒントはテーブルに置いてある紙にかかれた、麺の硬さやねぎ、特製だれの有無を近くにある赤ペンでしるしをつけてテーブルにある、呼び出しボタンをおして店員にわたす。」
「ヒントどころか全部言ってるじゃん。」
「それが俺の優しさよ」
「はいはい」
注文を終え、水を飲みながら
「ちなみにここ仕切り外せんのよ」と説明する
「えーほんとやってみよ・・・あれできない」
「そりゃそうだよ俺がおさえてんだもん」
「なんでやねん」
「いっしょにいるとこみられたら俺ら付き合ってるっておもわれちゃうじゃん」
「はったしかに。」
顔を奥に引っ込めて
「あーこれで顔見ずに済む」
「顔見たくないっていう声が聞こえたけど」
「やべばれたー」もっと奥に顔をひっこめる。
「おーい!なにさけてんだよー」
ふざけあってたらラーメンが来た。
「おいしー」香澄は次々と麺をすすっていく
からかいたかったので
「たれ単体でなめてみ」と香澄に伝えると
「赤いやつ?」となんのためらいもなく箸で少しすくって口にすると
せき込んだ
「うわ!から!なにこれ!ちょっとー!」
「それめっちゃ辛いやつ。混ぜても辛いから直はやばいよ」
「いうのおそい!ばか!」
水水!といってあわてていてかわいそうだったので
「そばにある白い蛇口から水出るから左の棚にあるコップ使ったらと教える
勢いよく水を飲んで
「あー死ぬかと思った」と一息つく
「おーおもろい。さっきの顔うけるわあ」
「もうしらん」
「おいすねるなって」
「替え玉おごれ」
「えー」
「そうじゃなきゃ今日はなさない」
「わかったわかった。ってか結構くうんだな太るぞ」
「はい、替え玉ひとたま追加」
「おい期限損ねること言ったら増えるシステムなんかい」
「5秒ごとに増えるシステム」
「そんなのくえねーだろおまえ」
「周りの人におすそわけする
「ひとの金で気前よくするな」
「とりあえず粗相なこといったから1たまおごれし」
「わーったよ。」
ひとたま頼み、くると嬉しそうにかえだまを自分のラーメンにいれてほぐして食べ始めた。
あっとなにかにきがついたような様子だったのでどうした?ときくと
「これから毎回ゆうすけに私を怒らせるようないわせるように誘導させたら食費浮くじゃん!わたし天才!」
「ばかかおい。おめーとなんかめしいかねーよ」
「じゃあうち出禁ね」
「うっそれは・・・・居心地のいいとこだから困る」
「うち好きすぎだろ」
「まあな」
「まあなじゃない。ゆうすけもはやく一人暮らしせえ。いい年して実家暮らしはずかしいぞ」
「うるせえおめえは仕送りしてもらってるんだから自立顔するんじゃねーよ」
「うるさい。お父さんがかわいい娘を心配して、くれるんだからしょうがないじゃん。ありがたく受け取ってるだけよ」
「自立風すねかじり。ニュータイプだな」
「うるさい。自分なんかダイレクトすねかじりじゃん」
「おいしいんだもん」
「認めたな。あーゆうすけ将来ヒモになりそう」
「ヒモはならない。あんなのご機嫌とるのめんどくさい。俺のことが好きで勝手にくれるならいいけど。」
「なんじゃこいつ。適正はありそうじゃん」
「おめえも金持ちのおっさんからバックとかかってもらいそうだな」
「そんなのしない。イケメンお金持ちにバックもらう」
「金も顔もとるんかい強欲な女よ」
「っていうかくだらないこといってるから麺のびちゃったじゃん。もうひとたまよこせ」
自分の器を指さして言う。
「のびきった麺くえやぼけ」
「けち。ケチな男は出世しないぞ」
「出世する人もおごる人をえらびますー」
「顔むかつく。っていうかそろそろいかなきゃじゃん」
「あーたしかにはよくえ」
「あんたがべらべらしゃべるからでしょ」
「おめーに付き合ってやったんだよ」
「別に付き合えなんて言ってないしー」
「はやくたべてもらえます?時間押してますよ」
「うるさい。いまたべてる」
もごもごいいながらくってるのがおかしかった。
店に出ると
「あー食べ過ぎた気持ち悪い」
「なんで替え玉頼んだんだよ」
「あの時は食べれると思ったんだよ」
「あほの発想だな。ちゃんと考える人はキャパをわきまえる」
「はいはい、スマートなゆうすけさんには勝てませんよ」
「あなたが馬鹿なだけですー。」
外出てもこんなやりとりをずっとしながら代々木体育館へ向かう。
入場が開始されていたが、入場はブロックごとに呼ばれ、それで順番に入っていく形だった。
自分たちのブロックが呼ばれていく。
円柱型のホールで、まわりの円周の廊下部分に物販が行われていた。
席を確認すると2階席だったが、ステージからわりと近くおもったより見やすかった。
「結構いいじゃん。おちついてみられそう」
「そうねーHPにかいてあった見取り図じゃ微妙かなと思ったけど、わりといいね。」
「荷物おいて物販いこうよ」
「おう。」
廊下に出ると、すぐそこに物販の列が並んでいた。
出演アーティストごとに列があり、それが人気度を表しているようだった。この日一番注目されている若手ロックバンドは開演始まる前に買えないであろうほどの列をなしていた。
「やっぱり最近はやっているほうがならぶんだなあ。長い間活躍しているアーティストよりも」
「それはしょうがないよねー」
「俺ちょっとbacknumberのバンTほしいわ」
「あーわたしも」
「ほかいいのか?」
「全部は無理だし、それもほしいから」
「うし、じゃあならぼうぜ」
だいぶまって、開演10分前くらいまでかかった。
一緒にならんだが物販テーブルのとこではいくつもの列にわかれるのでバラバラになった。
5種類のパターンがあったので、悩んだ末バンド名がはいった黒Tシャツというシンプルな奴にした。買い終わってトイレで着替えて、自分席で待っていることになったので、
男はトイレこまないので早く終わって自分のせきにむかうといなかった。
Twitterをひらいてみると
タイムラインに香澄のツイートがあった。
普段あまりかかないのに珍しい。
『今日は代々木体育館でフェス!楽しみ』
チケットを手にもって映した写真が一緒に投稿されていた。
俺も書こうと思ったけど、まさとの言葉が思い出される
『お前ら付き合ってるの?』
勘違いされそうなきがしたからやめることにした。
すると後ろから
「おいおい!」と声をかけられる
振り返ると黒のTシャツをきている香澄がいた。
「おまえなにまねしてんだよ!」
「まねしてねーし、これがよかったんだし」
「まねされたわー。これ知り合いがみたらカップルって勘違いされちゃうよー」
「ゆうすけとカップルに間違えられるのは不服だわー」
「おれもだし」
「っていうかこれ一択でしょう。ほか微妙」
「まあな。これが一番いい。」
「ね。ってか写真撮ろうよ。」
「ん?ああいいよ。」
香澄は携帯をとりだして内カメラにする。
画面は俺が微妙にみきれてる
「もうちょっと寄ってよ」と
「はいはい。」
近づくと
「ちかいよ」というので
「おめーがちかづけいうたんやんけ」
「近すぎ。男臭した」
「なんやこいつ」
「ほらーとるよ」
香澄が妙に顔を女の子っぽくキメはじめたので
「なに自分だけよくうつろうとしてるんだよ。おぞましい」
「はあ?女子なんだからあたりまえでしょ。ゆうすけは標準ブサイク顔でいいよ」
「ああん?おめーキメててもイマイチなんだよ」
「デリカシーないわー」
「おめーもだろが」
「ってかとるよ!ほら」
「はいはい。」
撮れた写真は意外といい感じだった
仲良しな感じが伝わる。
「はい。じゃあ仲良しモード解除。他人モードに移行します」
「他人モードってなんじゃい!」
「・・・・・」
「へんじせい!」
「タニンモードハシラナイヒトカラコエヲカケラレテモハンノウデキマセン」
ロボットみたいな声を出す。
「制裁モードするよ」といって腹パンしてくる
「ぐえ!こらやめろお!」やられたところを抑える。
すると暗くなった。
「おっはじまった」
「トップバッターKANABOONきたー!」
と香澄は隣で甲高い声をあげる
「うるさいわーボリューム落とせや」
「ライブで落とせっていう方が無理です」
「もっと静かな奴といきたかったわー」
「私もイケメンといきたかった」
「うるさい。あっきたぞ、うおおおお!!」
「ゆうすけもうるさい」
トップバッターの若手バンドがきてかなり温めた。
みんながみんなファンじゃないのにすごいな。
しかも俺と同い年か。おれはなにやってんだろう。
どうも同い年の有名な人がいると自分と比べてしまう。
嫌な習性だ。
かき消すように音にどっぷりつかる。
次はまた同い年の女性シンガーソングライターのmiwaだった。
また劣等感刺激されちゃう。
でも異性だしかわいいし、ライバル心みたいなのは薄かった。
ドラマ主題歌や、CMソングといった有名でキャッチーで乗れる曲を立て続けにやり、ライブ会場全体が揺れるような感覚だった。
MCに入りステージ両脇に設置されたモニターに顔が大きく映し出される。汗かいて化粧も崩れてるかもしれないのにこんなにアップにしても顔面レベルは全然落ちないのはすごい。
「知ってる人も知らない人ももりあがってくれてありがとうございます」とさわやかに挨拶をする。
「みなさん恋してますか?それは実ってますか?いつもいつでも互いの心の矢印が向くとは限りませんよね。好きな人がふいて、ふりむいてくれない。そんなひとたくさんいるとおもいます。そんな人をうたう曲をやります。」
会場が静まり返って聞いている。
「それではきいてください。『片思い』」
曲に合わせて
ちらほらペンライトがあらわれ、揺れている。
たぶんこのあとにでてくるオタク層に絶大な人気をもつアイドルグループと、ジャニーズグループのだろう。その色とりどりがなんだか綺麗だった。
となりできいている香澄もその曲に聞き入ってるようだった。
全アーティストが終わり、フェスは終了した。
最初と同じで、ブロックごとに退場を行っていた。
それに従って、でた。
外はだいぶ暗くなっていた。
「おなかへったねー」
「たしかに。原宿ってそんな飯しらねーなあ」
「わたしも。」
「ここで有名な奴しらべるか」
スマホを取り出して原宿、夕飯、有名と調べると
いろいろでてきた。
そのなかに有名らしい餃子の店があり、その写真がおいしそうだったのでつられた。
食べログの評価をみると高いので、
「これどう?もう帰るだけだからにんにく大丈夫でしょ」と渡すと
「えー帰りにんにくくさいゆうすけと帰るのかー」
「じゃあ俺一人でくってくる」
「うそーわたしもたべるー」
「素直でよろしい」
「場所わかる?」
「なんとなく。」
「じゃあ任せた」
「全部俺任せじゃねーか」
「男がエスコートするでしょやっぱ」
「都合良い時男まかせやな」
「さっいこう」
香澄はごまかすように前を歩く
「みちわかんねーくせにさきいくなや」
「隊長先どうぞ!」
俺の後ろに回って背中を押す。
「やめやめーってかそっちじゃねえこの角曲がるんだよ」
「失礼しました隊長」
ぱっと手を放す。
角を曲がると
オシャレなフレンチ料理屋や、オリエンタルな料理屋、ラーメン屋があったり、赤ちょうちんのある日本らしい飲み屋でビール入れにしきものをして即席のテーブルにしてのんでいる30代くらいのひとたち。
いろんな雑多な店を通り抜けると
行列のあるお店があった。
「うわ結構並んでるな」
「にんきだなーこういうのますます食べたくなっちゃう」
「踊らされるな、サクラかもしれない」
「隊長!さすがです!」
「俺が先に入って調べてくるおまえはここでまってろ。」
「先食べたいだけだろ」
「ばれたか」
「なんかいつもこういうボケ合戦みたいなのやってるよねうちら」
「たしかにもう飽きてきた」
「うそつけー好きなくせに」
「ばれたか」
「バレバレよ」
「今度からクソつまんなそうにやらなきゃ」
「ってか並ぼうよ」
「そうだなここめっちゃ邪魔じゃん」
人は通らなかったがかなり邪魔臭そうに見られる場所で堂々と話していた。
列に並んでいると意外に早く消化していく。
呼ばれると、中は大きなコの字のカウンターとそのまわりに2~4人掛けのテーブルが何個かある感じだった。
空いたのはカウンターのほうだった。
メニューは壁に1枚づつ書かれたものが貼られている。
「水餃子もあるんだな、頼もうかなー」
「わたしもほしい」
「焼き餃子もてきとうにたのむか」
「あいよー」
でてきた餃子はアツアツで
たしかにうまかった。
水餃子は皮があつく、食べごたえがあった。
さすがに女の子なので香澄は結構残して
俺がたべることに
「俺がいつも処理班みたいになってるぞ」
「いつもありがとうございます」
香澄は深々とお辞儀をする
食べ終わると
もう十時回っていた。
会計を済ませ外に出る。
「あーもう土曜が終わるやばいはやいよー」
俺の隣で嘆く。
「平日2日と休みの日、絶対時間ちがうよな。休みの日は24時間じゃなくて12時間くらいなんじゃないかとおもうわ」
「わかる。ほんとそれ。絶対短いよそうじゃなきゃおかしい」
駅へ歩みを進める。
「仕事いきたくなーいもうやめたいよー」
「なんか転職考えてたりする?」
「ううーんかえたいけど、転職活動する暇がない。まじジレンマ」
「あーあるなそれ。俺もかえたいけど、根本的に働くこと自体好きじゃないからどこいってもおなじだわ」
「社会不適合者じゃん」
「じっさいそうよ上のひといいわれてこれやりなさいっていわれるのほんとは嫌い」
「あーでもわかる。ほんとこっちが立場の弱さがあってはむかえないのわかってパワハラしてくるやついるからうざい」
「わかる。あと一人の上司にしたがってやったことが他の上司に気に入らないことで怒られたりするのうざい」
「あーもうほんとそれ日常茶飯事。統一しろってかんじ」
「それは。あーまた愚痴になっちまうな。今日のライブの話しようぜ。」
「うん。そのほうがいい。KANABOONあいかわらず曲のキャッチーさよ」
「ほんとよ。耳に残るなー。フルドライブは中毒性がある。しかもすっげぇ演奏うまいしMCもおもしろいし。ライブ中、自分と比べてなにやってんだおれって自己嫌悪になったわ」
「ゆうすけもそんな風に考えんだ」
「あるある。まあ比べてもしょうがないんだけどね、畑が違うし」
「でも私もあるよ。Miwa同い年なのにめっちゃ大人っぽいしかわいいし。」
「miwaとくらべんなよ」
「いいじゃん」
「俺大ファンだからやめて。あなたと全然違うから」
「おなじ女の子だし」
「ちがうちがう。全然違う。おめえババア」
「はー!なにそれ!KANABOONはがんばってるのにゆうすけマジがんばりたりなさすぎ」
「うっせーがんばってるわ。あとbacknumberめっちゃよかった」
「よかったねー花束とスーパースターになったらかっこよかった。」
「そうそう。あとヒロインやってくれたわーほんと歌いだし切ない。君の毎日に僕は似合わないかな、だよ?そんなことないってーわたしがついてるよっておもうよね」
「誰目線なのよ。」
「女の子目線」
「おっさんじゃん」
「心はピュアッピュアな乙女だから」
「きも」
「きもくねえ。あとSISTERもよかったなーなかなかない応援歌だけどやっぱ勇気づけられる。」
「ゆうすけほんとbacknumber好きだよね。」
「いやほんと良い歌詞かくしメロディもいいし。今一番大好き。香澄はどこまできいてるの?」
「わたしスーパースターとあとメジャーなシングル曲ちらほら」
「あかん。全部きけ」
「えー」
「えーじゃないよ。Bluesもラブストーリーも借りなさい。」
「曲データで持ってる?」
「あるよ。貸すからきけ」
「やったーきくきく。こんどかしてー」
「いいよ。ほんといいから。あーなんかはなしてたらカラオケいきたくなってきた」
「あーいいね、backnumberうたってよ。」
「おし。ちょっといくか。」
「おっけー。今日行った一蘭の近くにカラオケあったよね。そこいこうよ」
「おけ。いこう」
駅前で来た道に戻っていく。
カラオケ館にはいると
「よっしゃー歌うぞー」
「おー!」
「backnumberいれよーっと」
デンモク入力し、画面に『チェックのワンピース』とでる。
「これしらないなー」
「これまじ名曲」
歌い終わると、
「うわ・・・これ切ないわ」
「せやろ」
「きくわ」
「よしよし」
「わたしフジファブリックいれよ」
「ええやん。」
「トイレいってくるわー」
と携帯をもって香澄が出ていく。
「あいよー」
その間も今日聞いた曲を歌ってライブしているような気分になってくる。
ふたりで歌いはしゃぎ倒して
ずっと見てなかった携帯をみると
時間が終電過ぎていた
「あれ!やべ終電すぎてんじゃん」
「あれまじで?」
「まあいっか明日なんもねーし香澄は?」
「わたしもなんもない」
「ほんならオール決定だな」
「おっけーうたおー!」
「おーう!」
さすがに20代後半にもなってくると2,3時からつらくなっていく
「ちょっと休憩」
ソファに寝っ転がる。
携帯を見ると理香から連絡着てたが返すのがめんどくさいので放置する。
寝るときの枕がほしかったので
「ちょっと足伸ばしてみ」
と言って
「ん?こう」と黒タイツの足をのばさせて
そこに頭をのっけて
「うーん。かたいなあ」
「人の足を枕にするな」
頭をはたかれる。
「ええやんけー」
というと
なんにも反応してこない。
しばらくすると
「っていうかさ。」
「ん?」
「わたしたちってなんなんだろうね」
「え?」
「どういう関係なんだろ」
「ん?というと・・・」
香澄がうつむいている。
なんだかいつもと雰囲気が違う。
なにかしただろうか。
「ゆうすけはわたしとこうやって終電過ぎてもいることどうおもってるの?」
「え、どうおもてるってたのしいけど」
「彼女いるのに?」
「いや・・・友達だし・・・」
「わたしは友達だと思ってないんだけど」
「えっ友達じゃねーのかよショック」
なんだか自分のペースになれなくてとりもどすために冗談を言うと
「まじ鈍感。むかつく。」
「は?」
なにいってんだこいつ。さっきからなんなんだ。
口ももごもごさせている。
「ど、どした?」
「わたしはゆうすけのことすきだとおもってる」
思わぬ言葉になにも反応できなかった。
その言葉はたしかにふたりの時間や関係性を分かつものだった。
「えっいやまじで?」
「うん。」
その目は強い気持ちが宿っていた。
「っていうかゆうすけがそういう態度こうなっちゃったんだよ」
「え?そういう態度って?」
「ロッキンのときひとごみでわたしが飲み込まれそうなときあったじゃん。」
「ああ。」
「あのとき、わたしの手を引いてつれてくれたじゃん。あれであれっておもったの」
いわれたことを思い出す。
たしかにやったような。
「友達にあんなことする?」
「いやまあ・・・あぶなかったし・・・」
「いろいろきづかってくれるしさ。誕生日も祝ってくれてうれしかったし。」
たしかに彼女よりも優先していたな。でもそれは喜んでもらうためで。
でもおれはなんでそんなことしてたんだろう。
自分の心がよくわからない。
「じつはまさととかにも相談してたりしてたんだよ。どうなんだろって。ライブとかいろいろ誘ってくれるけどそれは友達だからなのかな。彼女いるのに。こうやって終電逃して二人っきりなのもどうおもってるんだろうって近くにいてきけなかった。こんなきもちわたしだけなのかなって。そんで今日のmiwaの片思いって曲やってほんとなんなのっておもった。」
香澄のずっとためていた心の声が激流のように俺に流れていく。
あまりに突然のことで混乱している。
しゃべることで落ち着こうと思った
「えっおれのなにが・・・?」
聞く内容がおかしかった。なんだそりゃ。
「・・・・・好み」
「は?」
「正直いうと!」テンションがおかしくなってボリュームが馬鹿になっている。
「え、うん」
「あった時からこうやってはなしあうなとおもって、他の人には遠慮することもなんでもいえたからさ。そのときからたぶん好きだった。」
「あ、ありがとう」
「それに顔、好みだし」
「ええーいつもばかにしてくるのに?」
すこしだけいつもの冗談言える自分がだせた
「顔好みですなんていえるわけないじゃん。馬鹿か」
「ああすいません」
なんで謝っているんだろう。
というか告白しているほうが強くて
告白されてる方がおされてない?
普通逆だろ。なんでこいつ告白すると気が強くなるの?
よくわかんねえ。
手元にあった飲み物をぐっとのんで一息ついていう
「ゆうすけはさ」
声色がかわった。
「わたしのことどうおもってるの?教えてよ」
瞳にさっきよりも強い意志がみえた。
「彼女いるのはわかってるけど、わたしはゆうすけと付き合いたい」
ああもうほんとうに逃げられなくなった。
そしてその俺の答えもださなければいけないことがきまった。
声を出そうとしたらうまくだせなかった。
この数分間で口の中の水分を全部持っていかれた気がする。
俺も手元にある飲み物をグイっとのんで落ち着く
「えっと・・・」
潤しても声はかすんでいた
喉の潤いは関係なかったらしい。ただこのシチュエーションに気戸惑ってるせいだと知る。
「返事はいつでもいいよ。わたしまつ」
そういうと香澄はすっきりした顔をした。
おれのほうは心が渦巻いたままだ。
今度はおまえが悩む番だというばかりに。
おれの座っているソファのそばにあるおれの携帯がひかるのをみえた
2件のお知らせがあった。
一件目はカップルアプリの
「3年半たちました」というお知らせ
2件目は理香から
『3年半だね。これからもよろしく』というメールだった。
仕事は普段通りこなした。というかやっていないとこないだのことで頭がいっぱいになりそうだった。
仕事が終わるころ、香澄からメールがあった
『別に急いでないからね、その間普通の友達として接してくれればいいから』
そんなこといったってもう意識してしまっている。
向こうはなんだかすっきりしていておれだけ悩まされてる感じがあるような。
いやでも向こうもさんざん悩んで告白してきたんだ。
ちゃんと考えなきゃ。ちゃんと考えるって何だろう
おれはどうしたいのかよくわからない。
この決断をした場合どちらかを失うことになるのは明白だ。
先延ばし先延ばしで
永遠に答えを出さないようにしたい。
そんなことできないだろうか。
たしかに香澄は話は合うし、趣味もあう。
でも仮に香澄を選んだとして、彼女としてこれからみられるだろうか。
かといって理香へのおもいってそんだけあるだろうか。
複数の人にモテるひとをうらやむことが多い人生だったが
こんなに精神をすりへらすものだったとは
こんなこと何度もあるなんて大変だな。
少し苦労が分かったような気がしなくもない。
こんなことだれかきいてくれないだろうか。
誰に相談してももて自慢みたいになって嫌な男になる。
みんながそう思うとは限らないけど
そうはおもわれる可能性もあるし少しでも思われたくない。
やっぱり自分で考えなきゃ。
理香から電話が来た。
「今日暇なら会えない」
なんとも変なタイミングだ。普段こんな電話してこないのに
おんなの何かが働いているのだろうか。
「いいよ、池袋とか」
「いいよーむかうね何時ごろになりそう?」
「八時くらいかな」
「わかったー宝くじ売り場でまってるねー」
「あいよ」
電車で池袋に向かう。
8時ぴったりに宝くじ売り場の前にいくと理香がまっていた
「おそーい」
「時間ぴったしやん」
「わたしがまったから」
「なんじゃそりゃ」
理香は笑って俺の手をつないでくる。
俺もおそるおそる返す。
手を握って体のラインをみてたら
体は正直なのか欲求が高まってきた。
「もう、いく?」
と誘うと
「今日はちょっといいご飯食べたい」
牽制球をなげてくるので
へんに断るのもあれなんおで
「いいよ。んじゃあパルコとかで飯食う」
「いいよーいこー」
パルコにはいってレストラン街にいくと
「ハンバーグ食べたい」
というので
ハンバーグ屋さんに入る。
そういえば最近こうやってお店で食うの久々だな
ずっとでかけてなかったな。
テーブルの向こう側で頼んだハンバーグをおいしそうに食べる理香を少し見て
自分のハンバーグにありつく。
「そういえば私の友達最近つきあったらしくてさ」
「ああそうなんだ」
「話聞いてるとすっごい純愛。手をつなぐとかキスするのが全然できなくて、でもしたくて、みたいなかんじなの。」
最近性欲処理としてわたしをみてるんじゃないですか?みたいなことをとおまわしにいってるのだろうか。バカなのにこういうところは女のこざかしい技つかってくるな。
「最初の方はそんなかんじでしょ」
さらっと流す。
「わたしたちもたまにはでかけようよ。最近いってないし」
「なんか候補あるんか?」
「まあないけど」
自分で言って笑う。
こうやって自分で考えないでこっちになげてくるのはほんとむかつくんだよな。
その点香澄は結構考えてくれるしなにかやったら返してくれる心づもりがある。
あんな間接的な女みたいな技もつかってこないし。
俺の中の天秤が香澄に重きを置き始めた。
食べ終わり、外に出る。
それでも今日もうなってしまったものを発散させたい。
「じゃあ今日は純粋な気持ちにもどってなにもせずに帰る?」
まあ断るだろうことをあえていう。
「えーそれはさみしい」
「んじゃあなにする?」
「うーんわかんない」
「じゃあカラオケは?よく付き合いたていってたじゃん」
「いいよー。でも二人きりになったらなんかするんじゃないの?」
こちらをうかがいながら笑っている。
「しないしない。純粋なあの頃をとりもどそう」
「うん」
カラオケは一応1曲うたってそのあとデンモクを一緒に見ているときに
ふいにキスをしてその気にさせ
結局理香も乗り気になっていった。
ホントは自分もしたかったんじゃないか。
回りくどいことを言うな。
部屋が少し薄かったので
後ろから突くと大きい声をだしたので
声をふさいでたらいつもより興奮していたようだ。
終わった後しないっていったのにーとほほを膨らましていた。
この体の相性は手放せないんだよな。
でも結婚まではちょっとな。
香澄とはどうしよう。
やっぱり友達にままで
ライブ行けるなかのままがいいな。
付き合ったらもう元通りにはいかないんだから。
そうしよう。
理香と別れた後
『今度の金曜に会おう。外で飯食おう』
と送る。
『わかった。』とだけ返信が来た。
金曜日になり中野駅で集合した。
もう寒くなってきたから香澄はコートをきていた。
コートから黒タイツはいた足が伸びていた。
髪もトリートメントでつやつやになって
なんていうかいつもの香澄じゃなくて
大人っぽい女性になっていた。
こないだのこともあって俺のこと好きなのかと思うと一緒に並んで歩くと
変な感じというか正直ドキドキしてしまった
いつもより会話を続ける。
いつもみたいな軽口がたたけなかった。
こういう話をするのに
どんな店があうかなんてわかんないから
駅の近くの大きな公園内にある、おしゃれなカフェを前に見かけたことがあり
そこでいいだろうと向かう。
入ってみると思ってたよりも何倍もオシャレで雰囲気があった。
これから断ろうというのにこんないいところだと、勘違いさせてしまう
判断ミスだ。
でももう店員さんが案内しようとしていた。
もういいや、流れに身を任せよう。
席に座ると周りはカップルらしきひとばかりだった。
気が重くなった。
とりあえず注文しよう
メニューみる?と小さな声でいうと
ん、と手を伸ばしてくる。
初めてちゃんと顔を見た
そこには不安げな顔があった。
でもそれが大人っぽくて余計ドキドキしてしまった。
しかもなんで今日俺の好きなポニーテールしてきてるんだ。
余計なことするなよ。そういえば前にポニーテール好きって話をしたような。
それでやってくれたのか、かわいいな。いやいやそんなことおもっちゃだめだ
今日断るんだ。友達続けようって。悲しい顔されても
すぐにその話はできないのでご飯を食べつつなんでもない話をする。
大学の共通の友達がいまどうとか、仕事であった面白いをした。
時折、俺の話で少し笑
ってくれた。それをみるとこの後この顔を悲しませると思うと嫌になってくる。先延ばししたい。先延ばししたい。でも話さなきゃ。
間が空いた。
いましかない。
「あのさ。」
その声のトーンで察したのか香澄は顔がこわばる。
「こないだのライブのあとのカラオケでいってくれたはなしあるじゃん」
「うん」
「正直今でも混乱してるんだけどさ、どうしたらいいか。というのも、ずっと香澄とは友達の期間が長いからなんだよ」
黙って聞いている
「俺の中ですごい大事な人なんだよね。すげぇライブ行ったりして楽しいし。バカみたいなはなしもできるし。いつまででもはなせるなっておもえてずっと話も尽きないし気が楽だし。いままででこんなはなせる女友達できたことなくてうれしくてさ。結構俺女の子と二人きり苦手だからまじで自分でもびっくりするくらい気を使わなくていい存在でさ。」
ながくしゃべればしゃべるほど何が言いたいかわからなくなる。もう舵をきるしかない
一番言わなきゃいけないことだけいいにくくなって、
喉が詰まる。
言葉が重ければ重いほどその質量が伴って物理的に喉を通さないんじゃないか。
声が弱くなる。
喉の奥を押し出すように声を出す
「もうちょっと時間くれない?」
やっとのおもいでだした声が自分の意図とは違うものだった。
香澄は悲しみでも喜びでもない顔をした。
「まだちょっとなんていうか整理したくてさ、それにいまつきあってる彼女のこともあるからさ、そんなすぐにだせないんだ、ごめん」
なぜか頭が空っぽなのに口は動いた。自分で言っておきながら、卑怯な男だと思った。
このタイミングで呼び出して、しかもこんな雰囲気のいいところなんて期待するに決まってるし、向こうは俺にゆだねてくれるのわかっていてそんなことを。
香澄は納得したように、というか納得するしかないみたいにうなづいて
「うん、そうだよね。うんわかった」
でもちょっとほっとしたような表情をみせていた。
俺はいたたまれなかった。逃げただけだ俺は。
閉店時間まで二人でいて、ちょっとトイレいってくると香澄が席をはずしてるすきに
会計を済ませた。
帰ってきて、お金払うと押し問答があったが
かっこつけたいのもあったかもしれないが払わないとなんか自尊心とかいろんなものが保ってられなくなる気がした。
そして出ると、公園内はイルミネーション準備をしているみたいで、ちらほら明かりがついている。
「もうそんな季節か。」
つぶやくと
「そうだね」
と隣から聞こえてくる。
となりにいる香澄は本当におとなっぽくて、歩くたびふわっといいにおいがする。
「手袋もってくればよかったなあ」香澄の白い息が広がって消える。
「今日自転車は?」ときくと
「今日は歩き」
「なんで?」
「自転車が壊れちゃってさ」
「ここから遠いんじゃないか?」
「大丈夫20分くらいだし。」
送っていこうかと言おうとしたらそれを悟ったように
「ひとりで大丈夫だよ。」
すっと違う方に体を向け
「じゃあね」といって体の低い、腰の位置あたりで小さく手を振る。
「あ、ああ」
なんでいままでの香澄と違うことばかりして、女の子らしいことをして
俺の心をくすぐってくるんだろう。
俺も自分の家に向かう。
しばらくして後ろの方で男の集団が騒いでいる声がした
ぱっと振り返ると香澄が絡まれていた
「お姉さんめっちゃかわいいね。今から飲みに行かない?」
ちゃらついた男が率先してはなしかける
「おまえちゃらいなーやめろよーといいつつおれも飲みたい」
「いやおれもおれも」
集団から、とくに酔っぱらいに絡まれるなんて恐怖でしかないだろう。
なんだかよくわからないけど体の中のどこかに火が付いたような気がした。
気が付いたら香澄の手を取って走っていた。
香澄はびっくりしていたがそのまま黙って俺の進む方にしたがって走ってくれていた。
だいぶはなれた人通りの少ない路地裏で止まる。
息を整えると
「ゆうすけ帰ったんじゃ・・・」
「おまえが心配だからきたんだよ」
「彼氏じゃないのに別に友達なんだからそんなのしなくていいじゃん」
なんだか挑発的になっていた。
たしかになんで俺はこんなことしたんだろう。
「そうだけど・・・・一人女の子おいていけないだろ」
そうそう、そういう意味でやったんだよ。俺の口が先に行動の意味を説明してくれた。
「だいじょうぶだよ。ひとりでへいき」
そう笑って香澄は一人で行こうとする。
友達なんだから大丈夫だろ。彼氏じゃない俺がそんなことする必要ない。そうだそうだ。
そうだよ。
だけど俺は香澄を追いかけて
「好きだからおいかけたんだ」
大きい声でそう叫び、後ろから抱きしめた。
ここだけ時間が流れてないみたいだった
時間を置いた後
「さっき考えさせてって言った」
後ろからみても頬をふくらませているのがわかる。でもすこしうれしそうにしている
「そうだけどさ」
「そうだけど?」
「サラリーマンのやつらに誘われてるのを見たらなんか思った」
「なんておもったの?」
「・・・・・」
「いってよ」
「とるなって・・・おもった」
照れておれをどついてくる
「なにドラマの主人公みたいなこと言ってんの?」
香澄は下を見ながら言っている。
それがかわいかった。
「おもったんだからしょうがない」
「そうですか。でも彼氏じゃないじゃんべつに」
こういうときってやっぱ女の人の方が強いのかな。
言わなきゃいけないことを言おう
「あの・・・・」
「なに?」
「おれとつきあってください」
さっきよりもすっといえた。
したをむいて黙っている
したをむきながらぼそっというがききとれなかった。
「彼女いるじゃん」
「いや・・・えと・・・」
「別れてくれるの?」
「・・・うん、別れる」
「ほんとに?
「うん。」
「よかった。えっと、わたしも、付き合いたい・・・です。」
「よかった。えと・・・・」
「うん?」
「好きだ」
「さっきまでかんがえるっていってたくせに」
「それいうなよ」
「うそ。わたしも・・・・その・・すき」
口元をおさえて、恥ずかしそうにいうのがたまらなくなり
もう一度抱きしめた。
さっきまで距離を経てかおっていた香澄の香りが
すぐちかくにあった。
不思議な気分だった。
香澄も腕に手を回してきた。
キスをしようと顔を近づけようとすると
香澄は目を閉じて俺を待とうとする。
そのままゆっくり唇へ、ともっていると
はっときがつくと
人が通った。
ぱっと離れて
通り過ぎるのを二人で見る
「場所考えてよ」
「しょうがねーじゃんたかぶったんだから」
「たかぶったとかいうな。変態みたいだろ」
「変態言うな俺も必死だったんだよ」
「まあいいや、いこ」
手をひっぱられ香澄はどんどん歩いていく
「えっちょっとどこに?」
返事をせずに歩き続ける
「おーい」としつこくきいてると
ぱっとこちらをみて
「わたしのいえ。続きしよ」
もう自分がどうしようもなく抑えられそうになかった。
家につくまで手をつないでいた。
中に入るといつもの香澄の家だった。
でもいつもの時とちがうのは
俺と香澄の関係だ。
そうか今日から付き合うのか。
ということは理香とはわかれなきゃいけないな。
でもいつも不満タラタラだったし
きっと香澄の方がいい彼女になるだろうし
まあいいだろう。
意外と香澄は控えめだった。
言葉ではいろいろいうわりに女の子らしいというか。
もっとさばさばしてるとおもっていたが。
香澄の中にはいろうとするとき
俺の電話が鳴る。
ふたりでびくっとなる
「ちょっとまって」とだれかとみると
理香だった。
やっぱりおんなの勘は怖い
付き合ったばかりで理香から電話かかってくるをみられるのはまずい。
少し離れて、みえないようにしてから、切る
「だいじょうぶ?だれ?」
香澄が心配そうに聞いてくる
「ん?大丈夫。ともだちだった」
「そっか。じゃ・・・きて」
甘ったるい声で言う。
それに誘われて
おれは香澄の中にはいっていった。
理香のときだとすぐ固くなるのだが、
すこし違和感があるようなきがしたが
緊張のせいだろうか少し柔い。
それでもなんとかがんばってことを得て、
そのあと二人で抱き合って眠りについた。
香澄と付き合うんだから理香とは別れないと
ちゃんと言おうと
メールで会う約束をとりつけた。
いつものように池袋で会って
飯の場所を決めているそぶりをしながらどう流れにもっていこうかとかんがえながら歩いている
ちゃんといつもの感じができてるだろうか
通りかかったおしゃれなピザ屋があり、
そこがいいというので入る。
食べ終わったら話そう
そうきめたらきた料理が全然味がしない
心臓の音がうるさくて理香に聞こえてないだろうかと心配になる。
理香が夢中になってしゃべっているのを
口先だけ動かして
うん、とかへえ、とか薄い反応しなできなかった
食べ終わっても
タイミングがつかめずに
店を出ることになってしまった。
でたら理香が手をつかんで
「いこ」といろっぽくいう。
自分から言うなんて
珍しい。本当にこういうときに限ってだ。
超能力でもあるんだろうか。
気が付いたら腰を振って一戦交えていた。
だめだちゃんといおうとしたのに
こんなやっといて別れましょうなんてますますいいづらい。
最後にやりたかっただけじゃない、と猛批判されるだけだ。
だめだ、今日は無理だ。
結局いつも通り3回戦した自分にあきれてしまった。
解散してから携帯を見ると
香澄からメールがあった。
『今日会いたいんだけど』
かわいいこというやつだなあと心がくすぐったかった。
理香といるときには味わえない甘酸っぱい感じ
俺はすぐに香澄の家にいった。
香澄は俺をみるなり
「ちょっと疲れてない?」
というので
「いやまあ仕事がね」
「そっか。まあはいって」
「おじゃましまーす。」
といってドアを閉めた瞬間に抱き着いてきた。
「ど、どうした?」
「あーゆうすけのにおい」
すんすん、と俺の胸あたりでにおいをかぎながらしゃべっている。
たまらなくなって優しく頭をなでた。
「会いたかった」
吐息交じりの声
「おれもだよ」
強く抱きしめた後
キスをしようとしたらふいに
「ねえ、もう別れてくれたの?」
現実に戻された。
でもここでそんなことだすわけにはいかない。そうだ、またあったときにちゃんと別れればいいんだ。
「うん、もう電話で言った。」
「そっか。よかった」
「もう大丈夫。」
「もうわたしだけのもの?」
「うん」
「やったあ」
香澄は強く俺に抱き着いてきた。
そのままふたりはベットに行った。
前とおなじような違和感がはたらく。
なんなんだろう。
こんなに幸せなのに。
その腫物みたいなものはずっと頭の中にあった。
忘れるように腰を振った。
土曜日に香澄と新木場へ最近売り出し中のロックバンドのライブにいく。
会場につくと、物販スペースは長蛇の列だった。チケットは結構激戦だったみたいでいけなかったひとが物販だけでもと並んでるせいのようだ。まっすぐだと邪魔になるためつづら折りになって並んでいるが、入り口付近のスペースを大きく使っており、わりとすでに入りづらくはなっていた。
建物の中もぎゅうぎゅうの人がいる。
巻き込まれそうだったのでぐれないように、という名目もあるけど付き合ってのはじめてのデートで手をつなぎたかったというのもあって自然な流れかなと、エッチはしてるくせにドキドキしながら手をつないだ。
そのとき心はなんにも反応しなかった。
そして頭の中のはれものがまた現れた。
正体不明の何かに不安と苛立ちを拭い去るためにものまま進んで
ドリンクを買えるところがあり、香澄はちょっとトイレいくというので飲み物をおれがとっておくよと、何飲みたいか聞いて取りに行った。
トイレが終わった香澄がもどってきて、飲み物を渡す。
もうまもなくライブが始まる
身動き取りづらいまま会場内をすすんでステージ前へ。
人はいっぱいだったので少しはじだがなるべく前でいやすいところを陣取った。
照明が暗くなり入場BGMが鳴る。
観客の拍手と声援の中、メンバーたちが現れた。
よりギャラリーがざわめいた。
それを気持ちよさそうに体で受けながら
それぞれが定位置に着く。
眼で合図しながらドラムがカウントし曲が始まる。
メジャーデビューして初シングルになった曲だった。
アップテンポでライブ映えしそうだとおもったが想像以上だった。
俺はそれがききたかったのでうれしくなって
ノろうとおもいつつふいにちらっと
香澄をみるとすでにノって楽しそうに跳ねたりしている。
それをみて心の方が冷えていった。
なんで?
彼女の楽しそうにしている姿でなんでこんな気持ちになっているんだ?
ぜんぜんわからない。
いままでそばにいてどこかで自分のものになったらなと思っていたんじゃないのか
体の中に鉛がはいりこんだみたいで
いつものように大好きな音楽にあわせてはねたりできずかろうじて
体を揺らしてたのしんでいるという自分を擬態しようとした。
終わって会場を出て
感想を楽しそうに言っている
俺はもう一人になりたかった。
うちにこないといってきたが疲れたので今日は帰るというと
さみしそうな顔をしていたが笑って
そっかといって気遣ってくれた。
その顔をみると頭の中にこびりつきそうで
すぐに顔をそらした。
仕事が終わって会社をでて
たまには小説でも読もうと新宿のブックファーストに立ち寄る
小説コーナーで物色していると横から声をかけられた
スーツ姿のまさとだった。
「こんなとこであうとは奇遇だな」
あいかわらずのひとたらしな笑顔。
「びっくりした。地元で会うのはあるけどこっちはすごいな」
と返す。
「ゆうすけ小説読むの?」
「いやおれ最近よんでなかったから読もうかと。つかまさとは?小説読むイメージないけど」
「いやおれもいい大人だしちゃんと活字読もうかなと思ったんだけどさ。まずどんな内容かって重要じゃん?だから裏表紙とかのあらすじみるじゃん」
「ああそうね」
「何冊もあらすじみてたらなんかいっぱい活字見た感じになってもうつかれちゃったのよ」
「なんだよそれ、あらすじでおなかいっぱいかよ」
「そうそう、やっぱむいてねえ」
まさとは頭をかきながら笑った。
「でも仕事大丈夫なんか?書類とか目を通したりするだろ」
「全然大丈夫じゃない。まじ流し読みしてるなるべく文字読まないように。そしたら流してたところが重要なところで上司に怒られた」
「うけんなー」
最近こういう普通の友達とバカみたいなこと話すってことなかったからなんだかリラックスできた。
「そういやゆうすけ香澄と付き合い始めたんだって?」
嫌な話題に流れた
そんな話やめろなんて言えずに
「あれっ知ってるのか。まあ」
「やっぱそうかーまえみたときもあれカップルじゃねえのかっていうぐらい仲いい感じだったもんな」
「ああそう?」
「いつかくっつくともおもってたんだよまったくよお」
わき腹をつついてくる。
「お、おお」
とへんな反応しかできない。
「でもおかしいんだよなーこないだ鶴野とあったときあいつゴシックいつも語るのにおまえと理香のはなししなかったなあ」
「え?鶴野ってだれ?」
「ん?ほら俺らの下の・・・・理香ちゃんと同級生よ。」
「え?なんでおまえ鶴野しってるの?」
「高校の時の先輩と後輩だからな。たまにあうのよ。俺と鶴野と理香ちゃんであったこともあるんだぜ」
そこにつながりがあったのか
心臓がバクバクいっている。
「鶴野なんかいってた?」
「いやだからいってねえって。珍しいこともあるもんだよそういうのばっか好きなのに。根性おんなだから、モテねえんだよなあ」
まさとの笑い声が遠くなる。
このままでは二人とつきあってることがばれてしまう。
どうしたらいいか頭のなかをめぐらせていた。
仕事中も上の空でたびたび上司に怒られてしまった。
気を取り直してコーヒーでも飲もうと給湯室にいく。
ポットが空だったので水を入れてお湯が沸く間携帯を開く
理香からLINEがきてた
『今日会社って何時に終わるの?』
そんなに会いたい気分じゃない、それに仕事がたまっている
『今日仕事がいそがしくてさ』
『んじゃあ会社にずっといるの?』
『まあそうなるな』
『ふーん』
『ふーんってなんだよ』
『べつにーじゃあね』
なんなんだ。
気が付いたらお湯は沸いていた
携帯をしまいコーヒーを入れて自分のデスクに戻る。
夜6時くらいになったら受付から電話が来た
『お客様がおみえです』
客?だれだろう
オフィスを出て下に行く。外に出ると
見知った顔こちらをみつけるとぱっと顔を明るくした
「きちゃったー」えへへと笑っている。
忙しい時になんできてるんだといいかけたが
「これ」といって紙袋を差し出してきた
受け取って中身を見ると
チョコレート菓子とティーパックなどがはいってた
「えっこれ・・・」と中身と理香を見合わせていると
「忙しいってきいたから少しでもほっとしてやってもらえるかなとおもって」
もじもじしながらい理香は言う
「それに最近なんか疲れてそうだったから・・・」
怒ろうと思ったのにふいにそんなことされるので行き場がなくなった。
「んじゃあ忙しいのにごめんねそれじゃ」
そういって去っていった。
ぽかんとしたまま立ち尽くした。
視界がじんわりと霞んでいく。
俺はよそで他の女と浮気したりしてるのに
こんなに考えてくれていて、それをしらずに追いかけそうとまでしようとした自分をかえりみて罪悪感に押しつぶされそうだった。
俺は走っていた。
まだ離れてないはず。
走って走って探す。
遠く向こう側で信号を待っている姿を見た
運動不足がたたって足がもつれるが何とか走って
追い付く
あせだくのおれをみて理香は驚いた
ぜーぜーいって汗をぬぐってもぬぐってとまらない。
「まだもどってなかったの。仕事は?」
いつものバカみたいな口調の彼女じゃなくて
それはちょっとそそっかしくてあぶない子供にはなしかけるような
優しい声だった。
「まだ・・・あるけど・・・いってなくて」
「ん、なにを?」
息切れが続く聞こえづらい俺の声をちゃんと聞き取ろうとしてくれた
「あの・・・これ」
俺はやっと顔をあげられた。そして紙袋をもちあげて
「ありがとう」
その言葉を聞くと
「どうしたしまして」と
理香はただほほ笑んだ。
「あの・・・」
「うん?」
さっきから無性に言いたかった言葉があった。
「つぎ、いつあえる?」
走ったからじゃなくて、
心の芯があったかい気持ちが俺の中にあった。
「次の金曜日は?」
「大丈夫」
「わかった。」
「さむいからはやくもどりなよ」
「うん。」
今ちゃんと自分と理香の目線が一緒になったきがした。
彼女が見えなくなるまで見送った。
そしてみえなくなるまで時折こちらを振り返って手を振った。
こんな感じ、久しぶりな気がした前までずっとやっていたはずなのに、いつからしなくなったんだろう。
思い出した。
そうだ、おれ理香のこと好きだったんだ。
忘れていた。
なんだか頭のなかのもやが晴れていった。
香澄にその旨をかいたメールを送り、携帯をしまった。
周りの人が着こんでいるのを見て、寒さがもどってきた。汗をかいているのでよけい寒さが感じられる。俺も会社に戻ることにした。
香澄と中野で待ち合わせた。
香澄はあいかわらず会うたびに大人っぽくて俺好みで一緒にいるとドキドキするような女性になっていく。ポニーテールが揺れている。
俺がもうどういう気持ちか知っているうえで
俺が好むような恰好をしているのがなんだか悲しいというか切ないというか。
でもきめたことだ。
店に入ろうというと外がいいというので少しあるいてベンチに座る。
そして
「メールでもいったけどさ」
その言葉に香澄がビクっとなった
「別れよう」
この関係をはじまるとき、あんなに時間かけて苦労したのに
終わらせるときはあっさり言えるんだなと思った
でもそれくらい自分の思惟が強いんだと自分自身気が付いた。
いろんなことを考えているようだ
「なんで?」
香澄は苦しそうに問いかける。
「友達の方がいいと思ったんだ」
「何で友達の方がいいの?」
「なんでなんで?好きって言ってくれたじゃん。しかもそんなに時間もたってないのにわたしのなにがわかったの?」
「いや・・・」
「なにやるだけやってポイなの?体目的だったの?んで相性悪いしもういいやってなったの?」
「違う」
「じゃあなに」
「おれは理香が好きなんだ」
「はあ?あんだけわたしに愚痴っておいて?」
「そうだけど・・」
「あんなに別れたいみたいな感じだして私そそのかして、いけるみたいな空気出してつきあったらあわねえからやっぱ別れます。友達に戻りましょうってなに。ふざけないでよ」
雪崩のような言葉の群れをただ受ける。
「彼女いるくせに彼氏なしの女のほとり暮らしの家に毎度きて遅くまでいてさ、こっちがなにもおもわないわけないじゃん。友達とか言って彼女にするみたいなやさしさふりまいてさ、私を好きにさせて、遊んでたの?こいつちょろいなってからかってたんでしょ。今の彼女にあきて都合良い女できて彼女じゃないけど彼女みたいな関係でいて楽しい気分でいて、いざ女の方が迫ってきたらいたしかたなく付き合って、でも合わないからやめますってことでしょ。なんなの、ほんとなんなの」
激流であり、こころのどろどろとしたものがながれる濁流だった。
「なんでよ・・・・なんで・・・・」
泣き出しおさえられず手で顔を押さえる
そうおもわれてもしょうがないことをしたのはわかっている。
でもいわなくちゃ
いやなことほど伝えなきゃ伝わらない。
「俺が好きだったのは」
俺は一息ではいえなかった。いうのは助走が必要だった。区切ってからだのどこかにちからをいれるようにまた言葉を放った
「俺が好きだったのは友達の時の香澄だったんだ」
また彼女を苦しませてしまった。
でもこの関係を続ける気がないのにやっても意味がないし
いつ終わらせるかという早いか遅いかでしかない。
長い間偽ったまま
彼女が笑ったり喜んだりする姿を見続けるのは
耐えられない。
彼女は聞きたくないであろう言葉が,毒のように
体中に侵入してきて苦しんでいるようだ。
告白してきたときと逆の立場だ。
頭の中で考えをためこんでためこんで放出し
それをうけとった人は体の中を巡って巡って苦しんで
時間をかけてそれを納得させる理由をつくり、その毒の抗体を生み出す。
そんな毒と治癒のメカニズムみたいな
そんなエネルギーのいる恋愛をしたようだった。
お互い何も言わない時間がしばらく流れた。
俺はずっと前を見てるしかなかった。
楽しそうにはなす男女が歩いてた
カップルなのだろうか。それとも仲いいだけなのだろうか。関係性はわからない。
でも本当に楽しそうだ。いまだけを輝かせている、そんな風に見えた
俺たちもあんなふうだったのだろうか。
なんであんなふうにずっといられなかったのだろうか。
なぜ超えてしまったのだろう。
友達でい続ければなにも壊れることなくそのままだったのに。
香澄が下を向いたまま言う
「あのさ」
俺は目だけ香澄の方にむけた。
「ほんとうにだめなの?」
「うん」
「そっか」
また沈黙が続く。
もうここに一緒にいてもお互いただつらくなるだけだ
「それじゃあおれいくよ。」
「・・・・・・」
返事はない。
「じゃあな。」
俺は立ち上がって離れた。
しばらく歩いて振り返ると
香澄は下を向いている
俺は振り返るのをやめて前に進んだ
寒かったのでコンビニに立ち寄る
みたくもない雑誌をパラパラみて
あったかいコーヒーをかってのみながらかえろうとすると
まだきになってちらっともどると
まだ香澄はいた。
同じようにうつむいている
たしかあいつ自転車まだないっていってた
これから歩くのに冷えるんじゃないだろうか
俺はあたたかいココアををコンビニで買う
香澄に近づいて渡した。
驚いてこちらをみる
少しだけ顔がほころぶ香澄を見て目をそらし
こんなことして余計傷つけるだけじゃないかと気が付いた
変な希望を抱かせてはいけない。
「友達として、だからさ。寒いところにずっといたらかぜひくからこれ飲んで帰れよ」
香澄の表情の変化をみて
ちゃんとわかってくれみたいだと思った。
差し出したココアを受け取ってくれた。
「わたしさ」
香澄が口を開く
「こういうやさしいところ、好きだったんだ。ありがとね」
そのありがとうはさよならに聞こえた
「それじゃきをつけて」
「うん、ばいばい」
もう俺は振り返ることはなかった。
久しぶりに理香と出かけて
付き合いたての時みたいな気持ちを取り戻して
デートをした。
いろんな話をした
出会った頃の話や
初めて勇気を出して電話をかけた日や
喧嘩して別れそうになったけど
二人で泣きながら別れるのは嫌だと伝えあって
本当に分かり合えた日
いろんな出来事を話した
俺はこの子を大事にしようと思った。
これからいろんなところにでかけていろんなものをみよう
そしてわからないけどもしかしたら一緒にずっと生きていけるかも、生きていきたいと思った。
彼女の笑う姿をずっと見たかった。
俺はそう思ってた
ある日から連絡が来なくなった。
メールも電話も出ない。
それなら直接会うしかない。
バイト先にいこう。
土日はかなりの頻度でバイトを入れているはず。
大宮の向こうの土呂だったな。
俺は土曜日に用事を済ませた後夕方から向かった。
池袋にでて、そこから湘南新宿ラインの宇都宮線直通に乗って大宮を経由していく
窓から見える空はグレーがかっていて雲行きはよくなかった。
そのまま走らせて
土呂についたころには暗くなりかけていた。
駅はドラックストアやコンビニが離れた間隔で点々としていた。
早く会いたくて地図も見ずに記憶を手繰り寄せて駆け足で向かっていった
小学校や大きな団地やマンションをとおりすぎていく。
しかし進んでもなかなかショッピングセンターはみえない。
あきらめて携帯をとりだし地図を見ると曲がる角を間違えて全然違う方向に行っていた
ちゃんとみればよかった。
大きく方向転換して
進んでいくとやっとたどり着いた。
エントランスの方ではちらほら家族連れが帰ろうとしていた
あわてて中に入ってこっちだと思って進んでいったらまた違った見知らぬところにでてしまった。
近くにいた受付の女性にコーヒーチェーンのお店を聞くと下の階のま反対の方にある教えてくれて
急いで向かった。
緑の看板が見えて足を急がせた。
中に入ってカウンターを見るとエプロンを着てポニーテールにした女の人がいた。
一度いったときに普段はポニーテールは嫌がってたがここでは仕事上仕方なくしているのをみたシルエットは頭の中にあった
それにそっくりだったので、声をかけようとしたらこっちを向くと全然違う人だった。
このままだと不審な人になりそうなのでその勢いのまま
理香の知り合いだが、いまいるかということをきくと
「さっきまでいたんですけどね」と残念そうに言う。
あわてなければちゃんと会えたはずなのになにやってんだ俺は
自分が嫌になった。
「次いつきますか?」と聞くと
「今日でバイト終わりなんですよ。」
「えっそうなんですか・・・・・」
会える手段がまた一つ消えた。すがるように
「えっと・・・ちょっとあわなきゃいけないので住所っておしえてもらえますか?」
その女性はちょっと困り半分不審半分でいた
「えっと・・・・それは個人情報なのですみません・・・」
「僕彼氏なんですちょっと最近連絡取れなくて心配になって・・・」
声を荒げてしまって周りのお客さんに見られてしまった
恥ずかしくなって、小さい声で
「お願いします」
というと俺に対してなにか悟ったように
「すみませんが・・・申し訳ないです」
俺は頭を下げて出ていく
後ろの方で
店員さん同士がどうしたの?とはなしあったり
客同士が何か言ってるのが聞こえた
聞こえないところまで走って離れた。
ちくしょう。なんなんだよ。
デパートをでたあと、いもしないのにわずかな希望で
まわりをみわたしたがもちろんいるはずもない。
前に家まで30分くらいでたしか一戸建てだといってた気がした。
その30分で行ける圏内に家があるならしらみつぶしに探そう。
そうおもって一軒づつ見て回った
暗くなってるので表札がみえづらい。
近づいてじろじろとみていると
通りかかった買い物帰りのおばさんに不審な目で見られた。
たしかにはたからみれば怪しいのだろう
疑われるのも嫌なのでそんなにじろじろみるのはやめることにした。
苗字が浅野なのでちらほらいてまぎらわしい。
珍しい苗字だったらいいのに。
家の一部分をみたことはあるがドアの前で両親と撮ってる写真で、
結構オーソドックスな玄関なので
特徴的ではないから判断材料にできない。
駆けずり回って探すけど
みつからない。
よく考えたら20分の圏内といってもどこの方向に進むかによる
30分は意外と範囲が広い。
自分じゃ全然探せない。
電話もメールも直接も会えない。
そうなったとき、どうやってれんらくをとればいいかわからなかった。
人は意外とつながっているようですぐ断絶されるんだと知った。
春になっても連絡は来なかった。
カップルアプリは消せずにそのままでいたら
『今月の思い出をアルバムにしました』
『今日で付き合って3年9か月です』とお知らせが来たりする。
新年度になって気持ちを切り替えるためか
一人暮らしを始めた。
自分で洗濯したり飯作ったりするのが大変だったが慣れてしまえば
意外と大丈夫だった。
むしろ楽しくなった。
こまめに掃除もしたりした。休みの日は家事で終わったりする。
ある日の休みも洗濯物を回してたり掃除をしたりしていた。
電話が鳴った。
カバン中にしまっていたのでとるのに時間がかかった
ぷーさんのシルエットのケースを付けたスマホをとりだす
たかよしからだった。
「今月末の土曜あいてる?のみにいかねー?」
はつらつとした声が鼓膜に響く。
「ちょっとスケジュールみるからまって」
私服のカバンから手帳を探す。
奥の方にあった。
スヌーピーの皮肉のエッジが効いた表紙のやつだ。
それを開いて確認して電話に出る
「あいてるよ。」
「おっし!いこう!他のやつも誘うわ。またきまったら連絡する」
「はいよー」
電話を切る。
しゃべって喉が渇いたので冷蔵庫をあける。
最近日常的に飲むようになったバナナジュースを飲んでのどを潤した。
トイレットペーパーとゴミ袋が切れてたことに気が付き、
買いだしにいくため着替えて
新しくした靴を履いて出ていく。
近所のドラックストアに
洗濯用品のコーナーを通ると
そういえば柔軟剤も切れたことに気が付く
親がいつもつかってたのを買っていたがたまには他のを使ってみるかいろいろ探してみる。
そういえば理香からいつも香っていたあのにおいの柔軟剤はどれなんだろう
ためしににおう用の香りの詰まったビーズがはいった容器が何個か設置されていた
ためしてみたが違った。
すべての柔軟剤にそれがあるわけではないので
実際使ってみないとわからない。
不便だなと思いながら山を張って何個か買ってみた
家に帰って使ってみると全部違った。
洗うものがなくなったのでまた今度にする
また別の日に柔軟剤を買ってきて
ためす。
そんな日が続いた。
水回りの用品を置くスペースの大半が柔軟剤になってしまった。
それでもやめられず何個も買っては試す
全然わからないでいると
別の日に
ちょっと女の子すぎて敬遠していた柔軟剤を買ってみて試したら
同じ匂いだった。やっとみつけたとうれしくなった。
それから洗濯物は全部その柔軟剤をを使った
今まで買った柔軟剤はすべて捨てた。
切らさないように何個も買い置きをしてなくなったらまた買ってを繰り返した。
洗濯ものだけじゃなくて、自分の持ち物洗えるものは全部その匂いにした。
布団も枕も
その匂いにしないと寝れなくなった。
休みの日に池袋のいってジュンク堂でほしかった本を買った帰りに
行列ができている店があった。
理香が行きたいと言っていたパンケーキ屋さんだった。
どんなものかしりたくて
並んでみた。
女性客ばかりで男一人だと居心地悪かった。
パンケーキなんて普段食べないから
ほぼ初体験だった。
やっと店の中に入れて
席に案内される。一人用の席がないので二人掛けのテーブルに座らされた。
外で待っている二人組に申し訳なくなった。
周りはやはり女性と彼女の付き添いで来た少し居心地悪そうな男性客といったカップルばかりだった。
おすすめのパンケーキを頼んだ
すると来たのは中央のパンケーキのまわりをふちどるように色とりどりのフルーツがのったものだった。
もってきた女性の店員さんはこれもお好みで使いくださいとシロップを置いていった。
それをたっぷりかけた。
パンケーキってこんなにおいしいのかとびっくりした。
前を見ると
彼女が浮かび上がってしゃべりだす
「おいしすぎるー!」
口いっぱいにほうばってしゃべる
行儀悪いなあ
口の中にいれてしゃべるなよ
「いいじゃんーってかほらゆうすけもおいしそうにたべてる。あんなにいやそうにしてたくせにい」
からかわれた。
なにかいいかえそうとしたら
いつのまにか彼女はきえていた
休みの日は池袋や渋谷に行くことが多くなった。
今日は渋谷をプラプラしてる。
スクランブル交差点で信号待ちをしていて
青になって大勢の人が行きかう中
目の前にからくる
女子大生らしき女の子の口元にほくろがあり
それをじっとみてたら不審な顔をされた。
また歩くと横顔が見ている人
髪型が似ている人
声が似ている人
においの似ている人。
目や鼻が忙しい。
街にはこんなにもあの人に似ているものがあふれているとは思わなかった。
いや、自分で見つけているだけかもしれない。
自分自身が高感度のセンターみたいになっていた。
いやだなあ。
ロフトの前通る。
通り過ぎようとしたが吸い込まれるようにして入っていった。
母の日のプレゼントコーナーが展開されていた。
そこをちらっとみながら
通り過ぎて2階に上がると、
化粧品コーナーがあった。
目が眩むほどの数がそろっていた。
リップのコーナーに行くと、
理香がどっちがいいときいていたリップがあった。
見てみるといろんな色があるんだと気が付いた
全然違いなんかないと思っていたが
今見ればちゃんと微妙なニュアンスの違いがある。
あんまり化粧品コーナーを男がじろじろみてても
居心地が悪い。さっさと退散しよう。
移動しようとして
ふと設置されている鏡をみたら
自分の口元がみえた。
それが理香に似ていた。
そういえば友人に
口元が似ていると言われたのを思い出す。
いまはじめてちゃんとみた。
さっききみてたリップに目を移す。
周りにだれもいないことを確認して
それを口に塗って
鏡を見ると口紅を塗っていた理香だった。
うまくぬれなかったのでもうちょっとためそうとしたが
若い女性二人組がちらちらこっちをみて
何か言ってるのに気が付き
手で口紅を拭いて走って退散した。
もう一度理香に会える方法を思いついた
私はゆうすけに振られてから
仕事に打ち込んだ。
遅くまで仕事をして
少し体を悪くしたりした時もあった。
だけどそのがんばりは報われて
会社でもいい成績をのこせた。
一緒のプロジェクトになった2つ上の人と
いい感じになって
付き合うことになったが
すぐに別れた。
別れ際
「なんか俺を見てない気がする」といってきた
「そんなことない」と反論したかったが
たしかにどこかにその気持ちがあることに気が付き
その別れを受け入れた。
もっと私は仕事に打ち込んだ。
海外出張も増えていろんなところに行くようになった。
風のうわさで理香とゆうすけが別れたと聞いた。
かといっても私に戻ってくるわけではない。
なんでそんな情報が耳に入ってしまったのか。
うっとおしい以外の何物でもなかった。
イギリスに出張の帰りの便
毛布をもらって寝ようとしたとき向こうの方で対応しているCAの人に目がいった。
理香だ。だいぶかわっているがきっとそうだろう。
あの件があるしなんて私となんてはなしたくもないだろう。
私だってなに話したらいいかわからない。
顔を見られないように
毛布で顔を隠しながら見ていた。
それにしても理香は
大人っぽくなって綺麗になった。顔も何もかも映えが違う。
華やかな場所で働くと華やかになるものなのだろうか。
私は仕事にばかりでどうなっているだろうか。
考えるのは嫌になる。
むりやり目を閉じて眠りの世界に入った。
仕事以外とくにやることもなくなった。
大好きなバンドのライブもいかなくなったし、
曲を聞かなくなった。
それはおもいだしてしまうからだろう。
あの時と今では聞く音楽が全然違っていた。
趣味が変わったんだろうとおもっていたが
塗り替えようとしていただけだ。
休日は家でぼーっとしてるだけだ。
たまにテレビをつけて
とくにみたいわけでもなく流し見をしてる。
最近ブレイクしている俳優が買い物ロケをしている。
その俳優はなんだかしらないけどやけにみいってしまう。
その俳優がでてる番組を録画したり出演している映画を見に行ったり。
おっかけみたいなことをやっていていい年して何やってるんだろうと思う。
「最近お金いっぱいはいってるでしょー最近なにかったんですかー?」
進行の芸人がいじりながら聞く
「いや全然ですよーぼく心配性なんで全然使わずに貯金してます」
「そんなテレビ用はいいからおれにだけなにかったか教えてよー」
「いやほんとですって」
その俳優が笑った顔が誰かに似ていた。
そうか、だから見ていたのか。
反動でテレビを消す。
最初からわかってたくせに驚いた自分が嫌になる。
気分転換に外に出よう。
クローゼットをあけ最近服買ってないなと思いながら
袖を通し、メイクをして
外に出る。
たまには本でも読もうと池袋のジュンク堂に行く。
適当に何冊か買って外に出る
本をカバンにしまう。
これもそんなに読まずおいといてしまうんだろう、その重みを感じながら東口方面へ向かう。
遠くで見覚えのある顔がいた。
理香だ。
こないだもあったのにまた会うとはいやな運だけはもっているのだなと自分にあきれた。
顔を合わせないように別の道を行こうとする
しかしもう一度見てみるとなんだかおかしい。
なにがおかしいんだろう。
理香はそういえばやけに若い格好をしている。女子大生みたいな
こないだあったときの大人っぽかったからそのギャップなのか?もっと大人っぽい滑降するだろうという自分の思い込みによる違和感?
いや違うもっとなにか。
近づいてきてもっと見てみる
若い格好をしているというか、さかのぼっている?
あの時の理香の恰好を再現しているみたいな?
なにをいってるんだろう。
バカなことを考えている。
そもそも理香じゃないかもしれない。
でもそれにしてもそっくりだ
あの時の理香の恰好をしているのはたまたまだろう。
そうに違いない。
向こうがこっちをみた
目が合った
理香は目を見開く。
すると後ろに向き逃げていく。
私のことを知っている?
やっぱり理香?
きになって追いかける。
普段からランニングをやっているので
並みの女子よりは体力はあるはず
向こうはすぐにばてて
捕まえると
理香らしきひとはぜえぜえいっている
その人が声を出す
「香澄・・・・・」
女の子の声だったがわかってしまった。
声も顔も形も恰好も変わっているが
わかってしまった。長いこと一緒にいたからわかる
これはゆうすけだ。
顔はメイクだけでは変えられないほど精密になって声も変わっていた。
背も理香とおなじにしていた。
いまスカート姿で仰向けになっているが、
男性のあるべき部分へこんでいた。
私はそれをみて
祐介を抱きしめ泣いていた。