表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪われた乙女は御曹司に求婚され続ける  作者: 久浪
呪われた乙女は求婚され続ける
3/38


 国軍の軍人でもないのに、魔物討伐の地に姿を現したクラウスとの出会いは彼が生まれたときにまで遡る。

 ジゼルが前の生のときから彼の父親と、さらに遡ればそれまた父親とも少し友人と呼べる関係を築いていたためだ。



 友人の息子は幼い頃は元気いっぱいでそれは微笑ましく可愛い盛りだった。ジゼルはそう記憶している。昨日のことにというのはさすがに転生して身体が新しくなりつつ合計生きること119年目のジゼルをもってしても嘘になるけれど、大きな波のない日々を送るジゼルにはまるで数年前のことのように思える。


 黒みを帯びた青い髪と蒼色の目は紛れもなくその子どもの父親で、ジゼルにしてみると友人の色彩をそっくり受け継いで見えた。顔立ちも父親寄り。


 生後わずか二日目のとき、はじめて顔を合わせることになったのだ。ジゼルが五度目――つまり前の生のときのことだった。


 夫婦揃ってにこにこと、母親に抱かれる第一子をそれはいとおしげに見つめていた。

 ほう、婚約をしたときの変化にも驚いたものであるが子が生まれるとまた変化が起きるらしい。と、ジゼルは子どもではなく友人夫婦を見ていた。

 特に、遊び回っていたということではないが貴族の子息だとは思えない豪快な行いをしていた男の方を。彼の父親とも友人関係を築いていたジゼルは、彼自身が若き頃から自然に面会する流れになったためにやがて彼の父親と同じく友人関係になっていた。だからそれなりによく知っている。


 でも夫婦揃っているところを見ているとき、彼が記憶にあるよりもずっと大人になっていることに気がついた。体つきから、顔つきから、眼差し、全てが。

 何も十数年振りに会ったというのではなく三ヶ月ほど前に、それより以前も何度か会って見ていたというのに。

 そのときになって、はじめて気がついたようになった。


 その間に第一子がよりどちらに似ているのか議論する流れになっており、今まで続けていたような夫婦が今度も揃って今度はジゼルの方を向いた。


 ――「ジゼルはどちらに似ていると思う!」


 鬼気迫る顔で父親側に問われた。

 ぼんやりと夫婦を見ていたジゼルは目をゆっくり小さな小さな赤ん坊に移す。

 ふむ。色彩は言うまでもなく総合的に見て断然父親の方だ。しかし――


 ――「母親に、似ていってほしいわね」


 真面目に本心でそう言った。


 ――「ほらジゼルも言っています」

 ――「『似ていってほしい』ということは今似ていないということだろう。……待てなぜ似ていってほしいなんだ。俺に似てもいいだろう」


 それはともかく抱いてやってくれと言われたものの抱くのは遠慮しておいて、ジゼルが赤ん坊のふにふにした柔らかな頬に少しだけ触れ覗き込んだ。すると、瞳の蒼の輝きが爽快な夏の海のようだった。子ども特有の、何の含みわざとらしさがないのは無論のこと無垢な笑顔は可愛いらしかった。




 ――そうだというのに、本当に時というものは厄介なことがある。ジゼルにしてみるとなおさらに




 子どもが産まれたと呼ばれるほどには仲があるということで、ジゼルはその友人の家にはたまに訪ねて行っていた。そうすると、誕生した子どもは行くたびに何かしらの変化をしていた。


 よたよたと自らの力で歩いて寄ってきてくれる様、小さな柔らかな手。

 無邪気な笑顔。

 走ってたかと思うと、直前で床に顔から転んで行く様。

 泣きっ面。

 使用人に追いかけられているやんちゃ盛りの様。

 いたずらっ子の顔。

 中々に筋よく剣を振っている様。


 いつだろう。

 いつの間にか一人で歩けるようになっていたときか。

 二人目が生まれて招かれたときか。

 剣を手に取り始めていたときか。

 ジゼルの五度目が終わり、六度目にはじめて会ったときか。

 気軽に頭を撫でられる高さを越えていたときか。

 ……等々と改めてジゼルが記憶を掘り出してきてみて、どれだけ考えても曖昧で不確か極まりない。


 いつの間にか時は過ぎていっていたのだから。


 そしてふと気がついたときに、見ていたはずなのにその変化をはじめて目にはしたように気がつかされることになる。かつてその子どもの父親にもそうであったように。


 ――「俺の嫁になってくれ」


 しかし本当にいつだろうか。あの幼い子どもが友人以上に奔放になっていっていたのは。


 ジゼルは『最近』急に起こりだしたことについて首を傾げ、まぁいいかと何度辿ったか細かく覚えていない思考に走った。

 考えても仕方ないことだってある。そしていつの間にかそれらは過ぎていくのだ。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ