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インヒューマニック  作者: ワタリ
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08

―――3X67年5月22日17時3分

「なぜだ。なぜどの遺伝子も正常な反応を示すんだ!」

 アヴィセントは自分の頭を抱えて絶望した。

 本来、遺伝子操作された改造人間ならば、遺伝子に通常の人間とは違う改造の跡が発見されるのだが、イプスの遺伝子は正常そのものだった。分子レベルまで検査を施しても、普通の人間と何ら変わりないという結果ばかりが返ってきたのだ。

「僕の検査方法が間違ってるのか? いや、そんなはずはない。こちらの研究設備はすべて僕が作った改造人間で正しく反応するのを確認済みだ。ミスはあり得ないんだ!」

「確かに、この検査結果だと、普通の子供がすべてがトップクラスの身体能力を持ってることになるからな。それは考えられん。いや、まてよ。そういう教育を施した人間を送って来たんじゃないのか?」

「それだと、わざわざこっちに送る意味の説明がつかない。遺伝子操作をした人間をこっちに送るなら、どの程度生活に適応できるか、データを取る価値があるが、ただ生まれてから身体能力の面で英才教育しただけの人間など、今時作る意味もない」

「じゃあ、やはり何らかの形で改造された人間と言うことになるんじゃないのか?」

「そうだろうな。一応、CTも取ったし、血液も取った。ついでに、口内粘膜も培養してるから、これから色々することはあるだろう」

「おいおい、お前この半日で色々やりすぎだろ。他の客はどうした」

「大丈夫だ。彼女のデータはほとんど看護婦が取ったよ。その分、今日は客の相手を僕が普段より多くしたから、大変だったけどね。まぁ、本当に大変なのはこれからさ。時間のかかる検査は、採取したサンプルに色々試してみるとするよ」

「そうか。それと、今日は帰りにイプスと一緒に親父に会いたいんだが」

「ああ、わかった。今会える状態なのか確認してくる」

 しばらくしてアヴィセントが戻ってきて、問題ないという返答が得られたので、ボルツは検査が終わったイプスを迎えに行った。

「イプス、やっと終わったみたいだな」

「うん、ほんっとうに長かった。でもね、いろんなことをして、看護婦さんたちがわたしの事をすごいって言ってくれて嬉しかったよ」

「そうか。そいつはよかったじゃネェか。これから、俺のオヤジに会いに行くんだが、来るか?」

「ボルツのお父さん? 行く行く。いったいどんな人なんだろう」

「じゃあ、こっちだ」

 そう言ってボルツはイプスの手を引いて行った。

 着いた部屋のプレートには『アンペール』と記してあった。

「ああ、それが俺のオヤジの名前だ」

「アンペールね、わかった。じゃあ、入っていい?」

 ボルツが頷いたので、イプスはドアをノックして、部屋の主に入っていいかの確認を取った。

『YES』

 部屋の中から電子的な音で返答が返ってきた。イプスは疑問に感じながらも、扉を開いた。

 部屋に入ると、白いカーテンで入り口側と、奥側で仕切りがされており、奥のベットに一人の人がいることがシルエットからわかった。

「ボルツ、なんでカーテンがあるの?」

「自分の姿を見られたくない、恥ずかしがり屋なのさ」

「へぇ~。じゃあ、アンペールさんに聞くけど、あなたはボルツのお父さんで間違いない?」

『YES』

 その音は正面に居るアンペールの方からではなく、右上の方から聞こえてきたのでそちらを向くと、天井にスピーカーがぶら下がっていた。

「えっと、アンペールさんはロボットなの?」

『NO』

「じゃあ、なんで機械で話してるのよ」

 それにはボルツが答えた。

「俺のオヤジは今、体がボロボロで話せるような状態じゃないんだ。だから、カーテンの向こう側には意思を表示するためのボタンがいくつかあって、それを押したらスピーカーから音が鳴るようになってる」

「ふ~ん。じゃあ、ボルツの昔話とか聞こうと思ったけど、そう言う話はできないね」

「まぁ、そういうことになるな。俺が来た時も、基本的に世間話をしてやる感じだ。なぁ、オヤジ」

『YES』

「な? ああ、オヤジ、この子は今預かってる子だ。この子も、今の所は生身の体だから、今度はヘマしないように、預かってる間は俺が見てやることになってる。まぁ、そんな感じだ。あんまり長居しても疲れるだろうし、そろそろ帰るよ」

 それを聞いたアンペールは、カーテンの向こうで手を振った。

 シルエットでそれがボルツ達にも伝わり、別れを告げてから部屋を出た。



「ボルツ、アンペールはどうして話せないような事になってるの?」

 イプスは帰り道でボルツに質問した。

「そりゃまぁ、生身の体だから、それを気に入らないヤツに襲われたんだ」

「今までは大丈夫だったのに?」

「歳で動きと判断力が鈍ってたからな。それでやられたんだろう」

「だろうって、ボルツは見てないの?」

「俺が気づいた時にはもう病院に運ばれてたからな。金はずいぶんかかっちまったが、なんとか命を取り留めることはできたし、徐々に回復してる。アヴィセントのおかげだよ」

「ふ~ん。あの人、そんなに良い人なの?」

「あ~、いや。イイヤツではないな。自分の好きな研究をするためには他人がどうなろうと知ったことか。と言った感じだな」

「じゃあ、アンペールを入院させるのは危ないんじゃないの?」

「いや、あいつは金には正直だ。研究ってのは何かと金が必要だからな。俺が良い金づるのウチは何もしないだろうよ」

「じゃあ、アンペールの怪我が治ったら?」

「カーテンが空いても良いぐらいに治ったら、引き取るつもりだ」

「カーテンって、シャイだから付けてるんじゃないの?」

「うん、まぁ、あの時に言ったのは嘘だ。本当は、オヤジが自分のボロボロになった姿と、機械に生かされてる姿を俺に見せたくないらしい。プライドの高い人だったからな」

「ふ~ん。どうして嘘をついたの?」

「本当のことを言ったら、オヤジが傷つくからだよ」

「なんか、エータもおんなじ様な事言ってた」

「オヤジの事、何か言ってたのか?」

「違う。本当のことを言ったらボルツが傷つくって」

「……そうか」

 ボルツはそれを聞いて、少しだけ悲しそうな顔をした。

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