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インヒューマニック  作者: ワタリ
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02

―――3X67年5月17日0時18分

 自警団に会うこともなく、無事に死体運びの仕事を終えたボルツは自宅に戻っていた。

 薄暗い部屋の中で唯一の光を放つ古ぼけた液晶の右下に四角いポップアップが現れては点滅する。

 ここはオイルと金属の臭いにまみれた廃工場である。ボルツはそこで勝手にパソコンやらなんやらを持ちこんで暮らしているのだ。

「また仕事か……今度は胸糞悪いのじゃないのにして欲しいもんだ」

 そう言って、飲みかけのビール瓶を研磨用の機械の上に置いてメッセージを確認する。

L:ボルツ、新たな依頼があるんだが、君にその仕事を頼みたい。請け負ってもらえるだろうか?

「差出人がLってことは、“向こう側”からの依頼か。こりゃ面倒事だな」

 ボルツは右手でキーボードを手繰り寄せて文字を打ち込む。

ボルツ:受けるよ。俺に拒否権はないんだろう?

 数分待つと、向こうもこちらの返信に気づき、文章を打ち込む。

L:そんなことはない。拒否すれば君は我々の取引相手でなくなると言うだけだ。

L:我々は君たちの行動記録をデータとしてもらっているだけで、行動を強制する権限はない。私達に従わないのも、それもまた一つのデータとして貴重な資料となるだろう。

 Lの他人事のような態度はボルツの気に障るが、いちいち怒ってられない。所詮、こちらと”向こう側”の関係はモルモットと観察者なのだから。 

ボルツ:そうかよ。俺はあんたらの金払いが良いうちは確実に請け負ってやるから安心しろ。

L:協力に感謝する。では、仕事の内容と報酬の話に移ろう。5日後のブロステン港で開かれる競りに参加して、その日の一番最後の品を落札して欲しい。その後は、指示があるまでその品を守ったまま待機だ。

ボルツ:最後の品って言うと、その日の目玉商品か。悪いが、そんなものを落札する金は持ってないぞ。

L:心配する必要はない。必要経費として100万ドルほど、用意したルートで渡す予定だ。

 ボルツはその金額の大きさに驚き、キーボードを叩く指を一旦止め、ビールを胃に流し込んで落ち着く。

L:説明は以上だ。何か質問はあるか?

ボルツ:待機って、いつごろまでそれは続くんだ? 任務があまり長引くようじゃ、商売あがったりだ。

L:最低でも2~3週間待機してもらうことになるだろう。待機の期間が長びけば、それに応じて追加報酬を支払うことにしよう。

ボルツ:ありがとよ。それなら今回も仕事を請け負うことができそうだ。それで、詳細な報酬の金額は?



 その後、ボルツはLに報酬の金額と、今回の前金の受け取り先を聞いてパソコンの電源を落とした。

 ベットに寝そべると、ボルツの130kgを超える体重にベットが軋む。

「今度はどうやら、デカイ仕事になりそうだな。事が起きる前に、パーツのメンテナンスをしてやらねェとな」

 そう言って、腕を持ち上げて指の関節を動かし、可動部に異常がないか確認。右腕中指の関節に少々の抵抗感有。

 その場しのぎに枕元に置いてあるオイルスプレーを関節部に吹きかける。

「よし、明日指のパーツでも取り替えてやるか。金も入ることだし、奮発してやらねェとな」

 もうわかっていると思うが、彼は体の大半が機械で出来ているサイボーグだ。しかし、彼のようなサイボーグはここでは珍しい存在ではない。裏路地で危ない薬を売っている男も銃が仕込まれた機械の腕を持っているし、バーでウェイトレスをしている女性も銀色に光るセクシーな機械の足をつけているし、その店の一番奥に座る客に至っては顔以外完全に人の形を成していない。

 そう、ここはサイボーグが住まう大陸アトランティス。ボルツはその中の一般的サイボーグの一人にすぎない、依頼が来れば金次第で何でも請け負う何でも屋なのだ。

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