14
その球を高速で回転させ、ボルツの元へと突進する。
ボルツはそれを回避したが、元居た所に合った階段へ続く扉は、球の形を成すブレードによってグシャグシャに破壊されていた。ボルツもその球に触れようとすれば、同じく手足が斬り落とされてしまうだろう。
ボルツはフーリエを避けながら屋上に設置されている高さ1.5メートル、横幅2メートルのネットが張られたゴールにボールを投げれるか確認するが、屋上への階段の位置と、ゴールは屋上の対角線上の端同士に存在するので、それなりに距離があり、ボルツのコントロールでは入る可能性が低い。それに、入るように転がしたとしたら、一人敵の増援も来たところだしボールを取られる可能性がある。
仕方なく走ってゴールに近づこうとするが、敵は背中を追いかけてくる。このままゴールに近づいてボールを投げれば、その間に後ろからやられてしまう可能性が高いだろう。そういう時はまず、両手を空けて、戦えるようにすることが大切だ。
ボルツは反転してボールをフーリエではない方の敵にパス。敵は突然のことに、両手でしっかりボールを受け止めてしまうが、そこにボルツが襲いかかる。
ボールを受け止めてしまった状態から回避、防御の姿勢に移るのは本来の状況よりも、2、3アクション余計な動きが増えてしまう。当然、彼はこのままボルツに殺されてしまうはずだった。だが、この場にはもう一人居る。
フーリエはボルツがボールを投げたのを見て、すぐに方向を変え、二人の間に割って入った。
回転する刃の中に突っ込む事は死を意味する。ボルツは体制を崩しながらフーリエを回避。
フーリエはそれを確認して味方に激を飛ばす。
「はやく行け!」
ボールを持った者はそれで理解し、屋上からボールを下に投げ、それから自分も飛び降り、ボールを拾って走り出した。
フーリエとボルツは二人屋上に取り残された。
起きあがったボルツは状況を把握してフーリエに話しかける。
「いいのかよ。こんなところで勝負を決めちまって。もっと有利な状況で俺と戦えるかもしれないぞ?」
「卑怯者のお前とこうして一対一で戦える状況の方が珍しいだろうが」
「確かにな!」
ボルツが前進し、距離を詰める。動いてない状態で距離を詰められるとフーリエの動き続ける刃のシールドもあまり効果がないので、強制的に動かなければいけない状態となる。戦いの動きの主導権を握ったのはボルツだ。
フーリエがこの状況で動くとすれば、前か後ろしかない。もしも、後ろに引けばそのまま屋上から落ちてしまうだろう。
だが、前に行けばボルツは避けるために方向転換をするしかないので、この前進以外の行動を取ることになるだろう。
そうすれば、攻めるフーリエ、避け続けるボルツという、フーリエにとって都合のいい構図ができる。
だが、ボルツはそこまで読み切って攻め立てているのだ。ボルツの右足が左側に出て、体が左に向き、曲がって避けようとする素振りを見せた。
それに合わせて、ボルツの進行方向へとフーリエは方向を変える。
だが、ボルツは曲がらずに、その場で回っただけだ。そして、体を回転させる勢いで、円の一番外側を描く左足が加速。
所謂、胴回し回転蹴りに近い形でフーリエの球の横部分、つまり、回転の軸となっていて、回っている最中でも触れることによって刃に切られる危険性がない場所をボルツは蹴り飛ばしたのだ。
無論、その一撃で破壊できるほど甘くはないが、フレームが少し歪み、横に弾き飛ばされる。
そのまま行くと、屋上から落ちることになるので、フーリエは逆回転の力を加えて、なんとか踏みとどまった。
だが、ボルツは一度の蹴りを入れただけで終わったと思うほど温くない。
蹴った後も止まらずに接近し、フーリエが屋上の際で何とか踏み留まったタイミングで手の届く範囲に到達していた。
フーリエはまさに崖っぷちの状況に発揮される異様な集中力によって、ボルツの拳がどう動くのかスローモーションのように見えた。
だが、それに対処すべき己の腕は球の内側に存在する。これが通常の人型だったなら、避けるまではいかなくても、拳の軌道をそらすことぐらいはできただろう。
せっかく見えていても、対処するための腕は球の内側であり、今から球を回転させるには遅すぎる。ボルツの拳は球のフレームをゆがませるほどの力で打ちつけられ、フーリエは屋上から放り出された。
地面までは障害物と呼べる物は存在しない。そのために、一切の減速を行うことなく、重力加速度に従って地面に衝突。
球を形成する外側の刃は折れ曲がり、もう球とは呼び難い形に変形していた。中のフーリエは落下の衝撃を球との接続部分が耐えきれずに、地面に落下。幸い、刃の破片が体に刺さることはなかったので、命に別状はない。とは言っても。腕や肋骨にヒビが入るほどの重傷だ。この試合中に再び動くことはなかった。
これにより、4対4になったが、ボルツは足止めされてしまっていたので、人数の差で良いようにされてしまい、フーリエ側のチームは1点を獲得した。
そして、1点を獲得したときに屋上から地上を見下ろして、フーリエが地面でつぶれているのを発見。それによって、今自陣に守りが一人も居ないことに気づく。
ボールをゴールに入れた後は、最初のボールが置いてあった位置に1~2分後にボールが出現する。台座の中からタイマーが感知してボールが出現するというわけだ。
そして今、その台座のすぐそばまでボルツが来ているのに対し、フーリエ側のチームは全員建物の上の方に集まってしまっている。
彼らの予定では、フーリエが勝つ、最悪でも引き分けていれば、守りに一人いるので、なんとかなるという考えだった。
しかし、こうなってしまった以上、とにかくボールが出現するまでに降りるしかない。
飛び降りることができる二人が飛び降り、残りの二人は敵を足止めしようとする。
何とか飛び降りてボールの元に向かおうとするが、そこにはボルツが待ちかまえていて、ボールを簡単に取らせるわけがない。
二人とボルツは一定距離でにらみ合ったままだったが、ボールが出現した瞬間に全員が前に飛び出した。ボルツは一歩遅れてボールを取り損なったが、腕を怪我している方の敵のもう片方の腕を破壊し、前進。ボールを持っていた者にドロップキックをし、ボールを奪い取り、そのまま敵陣に走り込んだ。
途中、敵に追いつかれたものの、両手を失った者は恐れをなしてあまり攻め込もうとしないし、もう一人もその負傷者と共に攻め込もうとはするが、なかなか攻め込む機会に恵まれない。結果、ズルズルと屋上まで行ってしまい、ゴールを許すこととなった。
だが、ここでボルツをしとめれば流れは変わるだろう。両腕を失った者も腹をくくったのか、もう一人と共にボルツに向かって突進した。
しかし、両手が無事な方の歩みが途中で止まった。
ボルツが手に握っていた砂を巻いたのだ。
「がっ! 卑怯者!」
砂を投げつけられた男は、視覚を失ったまま命のやりとりをするほど命知らずではない。サイボーグの拳は人の頭を砕くことができるのだ。一時停止して、目の砂をぬぐい取る。
だが、そんなことをしていては両手を失った方が死ぬのは必然だ。
急に止まった仲間に気を取られ、ボルツの拳がすぐそばまで寄った。これも両腕があれば、もう一人が復帰するまでは持ちこたえられたかもしれないが、今回は何もできずにただ拳を受け入れることしかできなかった。
目を開いてみれば味方の一人が倒れ、すぐそばまでボルツが迫ってきているのだ。このまま戦うのは状況がよくないと判断し、すぐに屋上から飛び降り、次のボールが出て、流れが変わるのを期待した。
しかし、敵の要ともいえるフーリエを倒したボルツの勢いは止まることなく、その後味方との連携でもう一人戦闘不能にし、さらに1点を獲得したことにより、2対1で試合はボルツ側チームの勝利で幕を閉じた。
試合が終わったボルツは近くにあった監視カメラに向かって親指を立ててアピールした。それは、観客席で見ているはずのイプスとエータに向けてである。だが、二人はもう試合会場には居なかった。




