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インヒューマニック  作者: ワタリ
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―――3X67年5月28日9時17分

 ボルツは帰宅してから、ひたすら裁縫道具を手に取っていた。約束通りイプスの服を完成させるためである。

 日中、イプスはボルツの所にきて服の注文をつけたり、ボルツとイプスの出会いなどについて聞いたりしながら、自分も手伝える部分を手伝ったりして、平穏でゆったりとした時間を過ごしていた。

 一日だけ、イプスにつれられてエータが来たこともあったが、その時は常にファラデーに対するボルツの態度で怒り続けていた。

 やはり、自分よりも若い女が思い人に近づこうとするのはもしもの事があるかもしれないと気が気ではないのだろう。

 そして、ボルツは試合の前日の夜にやっとイプスの服を作り上げた。次の日の朝に会ったときに服を渡してやるというわけだ。

 翌朝、ボルツはイプスに服の入った紙袋を差し出す。

「これが私の為に作ってくれた服?」

「ああ、そうだ」

「じゃあ、今から着替えて来るね!」

「いやいや待て、そんなに焦る必要はない。今日はせっかく俺の試合があるんだから、それが終わったときに見せてくれよ。試合が終わってから、ファラデーとの待ち合わせまでには少し時間がある」

「なるほどね。楽しみは後にとっておきたいってこと?」

「そうだな。それと、せっかくなんだから、良いシチュエーションで。と思ってな」

「確かに、作るの大変だったからね」

「そうだな。じゃあ、俺はもう試合会場に行くから、二人とも、見に来てくれよ」

「うん! 絶対行く!」

 イプスは楽しそうに返事をしたが、エータは静かに「ちゃんと帰ってくるんだぞ」とつぶやいただけで、それがボルツの耳に届いたかどうかは定かではない。




―――3X67年5月28日12時6分

 スティールボール。大陸アトランティスにおいて、最も人気のあるスポーツの一つである。ルールは単純なもので、2つのチームに分かれて戦い、制限時間内で相手を破損させようが、殺そうが、とにかくボールを相手のゴールに多く入れるか、相手チームを全員戦闘不能状態にした方が勝ちというルールである。しかし、細かいルールは多岐にわたる。たとえば、試合には刃物などの持ち込みは許可されるが、銃の持ち込みは許可されていない。しかし、腕などの体の一部を銃として使用する場合、20グラム以下の弾薬を使用することを許可する。

 むろん、これは試合ごとに、スポンサーや企画部によって細かく調整されるため、出場選手は事前にその日の細かいルールを確認し、それに備えた装備を整える必要がある。当然、基準となる通常の値は毎回ほぼ変わることがなく、その試合のコンセプトとなる部分のみ違う値が設定されるので、その部分に選手は注目することとなる。

 ボルツも、今日の試合のルールに違反があった場合、すぐに装備の変更を行う必要があるため、早めの入場を行っている。

「ボルツ選手、今回のルールの規定、クリアです」

 今回のルールは飛び道具一切持ち込み禁止のルールである。

 刃物なども、投げることができる場合は仕様が禁止されてしまうために、使いたければチェーンなどをつけて、腕と繋ぐ必要がある。勿論、その場合にも長さの規定があり、今回はチェーンを武器として使うことが好ましくないため、30cmと定められた。

 ボルツは左腕に仕込んだブレード以外に特別に装備がない。つまり、肉弾戦にすべてを委ねることとなる。

「おいボルツ、今回もまた舐めた装備だな」

 話しかけてきたのは細長い円の形の鉄のブレードをつなぎ合わせ、ボールの形にし、その中心部分に顔と体が付いた男だ。

「フーリエか。そう言えば、お前と戦うのはこれが初めてだな」

「ああ、お前は強いヤツとの試合は出来るだけ避けてたようだがらな」

「それはつまり、自分が強いヤツだと言いたいのか?」

「それはお前自身が一番わかっている事だろ?」

 ボルツはフーリエのいやらしい笑みを見て鼻で笑う。

「俺は今も昔も変わらず、勝てる見込みのあるやつとしか戦わねぇよ。じゃあな」

 煽られたフーリエは顔を真っ赤にしながら球の中で拳をぶつけようと振るが、球の壁までの長さが、腕よりも長いため、拳は空を切るだけだった。

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