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―――3X67年5月23日9時35分
また日は上り、エータと共に店の前に現れるイプスをボルツは迎えに来た。
昨日の事を聞いて、エータが自分の事を恨んでいるのだろうと思い、少し顔が合わせ辛い。
「ボルツ、おはよう」
そんなことも知らずに、イプスの態度はいつも通りだ。
「ああ、おはよう。今日はお前の服を作るための生地を買いに行こうと思ってる。ここ何年も服なんて作ってないから、生地はほとんど持ってなくてな」
「わかった」
イプスがそう言ってエータの元から離れて、ボルツの方に歩こうとしたが、エータも後ろからついてくる。
「ん、なんか用か?」
「今日は仕事が休みだ。買い物に行くなら、私も付き合おう。最近の流行とかはお前らではわからんだろうからな」
「まぁ、そりゃそうだが……なんか変なこと考えてないよな?」
予想通りボルツは何かあるのではと疑ったが、エータは当然ボルツが納得しそうな言い訳も準備している。
「安心しろ。私もたまには休みを貰って外に出歩きたいと思っていたから、丁度良い機会だっただけだ」
「そうか。好きにしろ」
「そうさせてもらう」
こうして、ボルツ、イプス、エータの3人によるショッピングが始まった。
しばらく歩くと多くの店、商人、客が入り乱れる市場へとたどり着いた。
だが、ボルツとしてはエータが付いてきたことが気がかりだった。エータとは離婚して以来、店の中以外では会っても軽く会話をする程度で、どこかに一緒に出掛けたことなどなかったのだ。
いったいどういう風の吹き回しだと考えてみる。真っ先に思い浮かぶのはイプスの存在。
おそらく、イプスが何らかの形で二人の仲を取り持とうとしているのだろう。
子供ではやはり、エータ「本当のことを言うと傷つく」という発言から意味を読み取ることができないのだろう。正直、ボルツにとっては有難迷惑だった。
「ボルツ、どれを選べばいいと思う?」
イプスは露店に置いてある多種多様な柄と材質の生地を見ながら、ボルツに問いかけた。
「そうだな。これなんかいいんじゃないか?」
そう言ってボルツが手にしたのは、白地に大き目の黒の水玉模様の柄だった。
だが、それをエータが止める。
「お前、なぜそれを選んだ」
「そりゃ、女の子にはこういうのが丁度いいと思ったからだよ」
「やはり、お前に女心はわからんようだな。年齢相応な子供っぽい物を女の子が求めてると思うか? もう一回り大人の自分になりたがるのが女の子と言うものだ。それを考慮して選んでやれ」
そう言われてボルツは考える。
「じゃあ、ブラウンの革生地でコートを作って、インナーはニット生地に。ズボンは――」
「スカートだ」
「いやでも、生身の足だから、何か尖った物に当たったら大事だろう」
「そんなものは、普通に足元を見ながら歩いていれば問題ない。それに、お前はこの子にゴミ捨て場でパーツ漁りでもさせるつもりなのか?」
「また極端な話を。俺はただ心配してるだけだ。怪我も危ないし、下手に露出した服を着て周囲を煽るのも危険だ」
「じゃあ、本人に聞いてみよう。イプス、お前はズボンとスカート、どっちが良い?」
「わたしは、スカートの方が女の子っぽくていいと思うな。エータもたまにはスカートでも履いてみたら?」
「いや、私はこれでいいんだ。パンツの方が動きやすいからな。それに、こっちの方が喜ぶヤツも居る」
エータはそれが誰とは言わずにボルツの方を見た。
「……わかったよ。イプスにはスカートを作ってやるよ。言っとくけど、スカートってのはお前が思ってるよりも作るのが面倒なんだからな」
「お前なら大丈夫だろ」
エータは何でもないかのようにボルツを肯定する言葉を言ってくれたのがボルツには少し嬉しくて、バレないようにエータから視線を外して口元を緩めた。
「まぁ、そう言われると引き下がるわけにはいかないな」
ボルツの承諾が得られたので、2人はあれでもない、これでもないと、服の柄を選び始め、ボルツは先ほどの嬉しさなど消し飛ぶぐらい待たされる事となった。




