prologue.3
「幻獣神だと!? それはどういうことだ」
「詳しいことは今の私にも分かりません。というか、まぁこれは私の勘です。ただ、アイツが人的に召喚された幻獣神であるってことはなんか確信があるんです」
「エイダの第六感、ヴァルキリアスセンスがそう感じるのか……」
「しかし、人の意志で幻獣神を召喚するなど、少なくともこれまでの魔法法則から考えたらその負担に人の心や体が耐えられないはず」
「ニシさんが言ってたみんなの体が原型を保てなくなるっていうのは、おそらく幻獣神召喚に伴う負の反動だと思うです」
「う~ん……しかし、そもそも幻獣神召喚のような異次元級の魔法に人の心が耐えられるとは思えんが……」
「だから、アイツは常にたくさんの心を奪ってるんじゃないですかね」
「どういう意味だ!?」
「一度に複数の心を利用して召喚すれば、精神的な負担が分散される。そうすれば、多少は負の反動に対して心が耐えられると思うんです。まぁそれでも長時間は無理だと思いますが……」
「エイダはつまり幻獣神を召喚し続けるために、皆の心が無差別的に奪われていると考えるわけか……となると、ヤツを召喚した黒幕は、クソ野郎だな」
「そういうことになっちゃいますね。まぁこう考えれば私たちがまったく歯が立たないのも説明がつきます。相手は神様みたいなもんですから」
“私はキミのいなくなった世界を何度も何度も生きてきた”
「エイダの言うとおり、もしヤツを召喚するために複数の心が犠牲になっているとしても、魔法を発動するためには、それらが同じ意志を持たなくてはならないはずだ。しかし、何の統一性もない単なる心の集合体が寸分の差もなく一つの意志を持つなんてことはあり得るのか……」
「そこなんですが、私、先生のあの指摘からピンときたんですよ。もしかしたら、誰かが魔法でみんなの心をコントロールしてるじゃないかって」
「サイコジャック!? あ、有り得ない。心の壁を超えて他者の意志に介入できる魔法など……現実的な思考とは到底」
「先生! あんなイカれた変態を目の前にしてまだそんな思考しかできないんですか。ようは魔法式さえ定立できればいいわけでしょ、サイコジャックを発動できる」
「簡単に言うが、目に見えない人の内面を魔法数式に当てはめること自体が雲を掴むようなことであるのに、それらを使ってさらに魔法式を定立するなど。そもそも、自然界にある」
「ちょちょっと先生こんなピンチな場面で講義とか止めてもらえます!? 今は生まれてすぐ立って喋っちゃうような“ちょ~天才”が若くして悟りを開き、そういう魔法式を考えたってことにしてもらっていいですか!!」
「わ、分かった……確かに、この分野は学者が考えることであったな」
「そうですよ。そういう小難しい話は帰還してからゆっくりお考えて下さい」