prologue.1
「先生~、ベン先生!! ちょっとあんなの私の手に負えませんよ~」
「諦めるのかエイダ!? キミは聖戦士ヴァルキュリアスの称号を持つ戦士なんだぞ!!」
「重々承知してますけど、ちょっとアレは“ムリ”です!!」
「なんと弱気な。歴代のヴァルキュリアスはどんなに戦況が劣勢であっても、その類稀な知恵と勇気によって戦況を打開し、味方に勝利をもたらしてきた」
「はぁまたその話ですか……」
「だからこそ、人々はヴァルキュリアスを“闘いの神”と讃えてきたんだ。ましてキミは歴代最強のヴァルキュリアスのはず。そんなキミが弱音を吐いたら、部隊の士気にも影響して全滅するぞ!!」
“キミは空っぽの私に生命を吹き込み”
「ただそうは言っても先生、今回の相手はアレですよ、アレ。あんなの相手だったら歴代のヴァルキュリアス様もきっとお手上げですって」
「今さら何を!!」
「だって、拘束衣に包まれた人型の物体が呻き声を上げながら空から降りてくるとか、もうホラーですよ、ホラー!」
「だからなんだ!!」
「だから~ああいうのを退治するのはヴァルキュリアスじゃなくて、僧侶とか神父とか、あとは特殊部隊に所属する警察官とか、とにかくそういう人じゃないですかね。私って虫とバケモノがほんとムリなんですよ」
「虫でもバケモノでも何でもいいが、そもそもヴァルキュリアスは国や人種あるいは種族に関係なく、人の生命、身体や財産に対し不法に損害を与える危難が発生した場合、その身をもって発生した危難からそれらを守る責務を有している。そもそも、ヴァルキュリアス法第1条には……」
「あ~わかりました。やりますよぉ、やればいいんでしょ!!! こんな状況下で先生のつまんない講義とか聞きたくないですから」
「こんな状況下でへらず口とは。私は、ただヴァルキュリアスとしての道理を説こうとしただけだ」
「それなら、ベン・ドリントル大賢者先生様も何か打開策を考えて下さいよ。私の後見人なんだし、それに五大賢者のお一人なんでしょ」
「わかっている!!」
「先生クラスの人なら、秘技○×拳とかシャイニングフィンガーナントカとか、あとは“ミンナノチカラヲオラニワケロ”みたいな必殺技を隠し持ってるのがアニメ界ではセオリーなんですけどね」
「まだへらず口を……仮にそんな魔法があったらすでに試しているよ!」
「はいはいそうですか。とにかく先生も一緒に考えて下さい打開策を」
「もちろん打開策はずっと考えている。ただ、今の情報から分かることはヤツが魔法で実体化されたバケモノということくらいだ」
「え!? アレって魔法で実体を組成してるんですか??」
「推測の域を出ないが、ヤツの回りからは常に魔法を使用した時と同じユラギの現象が生じている」
「ユラギが起きてるんだ……」
「エイダ!! どうやらあまりおしゃべりしている時間はなさそうだ。どうやら、ヤツは大地に降り立つ気らしい」
「アカデミーでは、こういうピンチの時に役立つ知識を重点的に教えて欲しいですよね~」
「確かにな。では無事に戻ってキミがアカデミーの教壇に立てばいい」
「そうですね! あと、トシエ先生に会ったら天から降りて来たのは天女様じゃなくて“拘束衣に包まれたまま変態ヤロー”でしたって伝えます!!」