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短編集

ふんわり

作者: 雪原たかし

 ふんわりっていうのはさあ、ほんの少しだけでも触れた途端にふんわりじゃなくなるんだよね。


 どんなに小さな力でもさ、誰かがふんわりに触れたら、その誰かを拒むように押し返そうとするの。抗力っていうんだってさ。もしふんわりが質量のない幻みたいなものだったら、それもなくなってよかったんだろうけど、それだとふんわりと呼べないんだよね。だっていないのと同じになっちゃうから。


 みんなわたしが求めれば必ず跳ね返ろうとする。みんなにとっては、ふんわりってなんでも受け止めてくれて包み込んでくれて温めてくれる、そういうものなんでしょ。そうみんな思ってるんでしょ。じゃあみんなは気づいてないんだね。そうだよ、ふんわりはね、ぽつりとひとりでみんなをながめているだけだからふんわりなんだよ。


 それにさあ、ふんわりはとても形が変わりやすくて柔らかくて弱いのに、人はたいてい、ふんわりを欲望のままにぎゅって抱きしめるでしょ。もうその瞬間にふんわりは押し込められて、もう元には戻れなくなっちゃう。必死になって抗っても、本当にあるのかなって思えるくらい小さなふんわりの力は、それに比べたら途方もなく大きな力で押さえつけられちゃう。それに、抗った瞬間にみんなはそれをふんわりじゃないとみなすんだ。

 腕の中で自分がどんどんつぶされていくのがひどく緩やかに見えながら、人に求められちゃった自分を呪いさえするかもしれないね。


 ああ、こう思っちゃったらふんわりにはなれないよね。でもね、わたしは本当はふんわりになりたかった。なりたかったんだよ?


 言ってしまえば、ふんわりはそうやって誰かに求めさせるためにあって、そのからだがいつか押し込められて縮められて小さくなって元に戻らなくなるとしても、今を確かに存在するふんわりはふんわりなんでしょ。たったひとりのために今はふんわりでいるんでしょ。でもその時が来れば、ほんの少しだけでも、わたしはちゃんといるんだよって押し返そうとするんでしょ。


 今のわたしはどうかな。わたしのほうがむしろ誰かが来ても押し返せないんじゃないかな。誰のものにもなってきたし本当に誰のものにもなれた。ちいさな頃の自分がどんなだったか思い出そうとしても、まるでそんな時間はなかったみたいになんにもない。


 誰からも触れられなければ誰でもよくて、でも触れられた時にその人だけのものになるふんわりは、わたしの憧れだよ。でもふんわりは生まれもつものだから、わたしにはなれないんだ。わたしはいつまでもその「誰か」が「誰でも」なんだ。


 また今度なら、わたしはふんわりに、なれるのだろうか。

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