5、邂逅
乃木がその少女たちに出逢ったのは、警備の下番申告を終えたその帰路の事だった。
小隊主力の待つ兵舎までの経路について横着して近道を選んだ乃木は、倉庫やら駐車場やらを突っ切って進んでいた。
戦場には似つかわしくない、かしましくも楽しげな嬌声を耳にしたのは、通信棟のアンテナが見えた頃だった。
声のした方に目を向けると、建物の裏手にできた日陰の部分に、野戦服に身を包んだ少女たちが腰を下ろして楽しげに語り合い、笑い転げていた。
その内の一人が乃木の視線に気づいたらしく、生真面目な顔を取り繕うと立ち上がり敬礼を送ってきた。残りの少女たちも慌ててそれに倣う。
乃木は苦笑と共に答礼を返す。
少女たちはこの場所にまさか誰かが通るとは思っていなかったのだろう。
なるほど、建物の死角になっていて人の往来も通常ならば皆無といってよいその場所は、どうやら彼女たちにとっての聖域だったらしい。
束の間の休息に浸っていた彼女たちにしてみれば乃木は無粋な闖入者であり、また、明らかに正規の休憩場所以外の空間に屯していた現場を見られた目撃者でもあった。うるさ型の下士官ならば、間違いなく説教とビンタくらいは飛ばしかねない。
少女たちから困惑と怯えの入り交じった眼差しを向けられ、乃木はどうしようかと逡巡した後で、声をかける
「ああ、いい。楽にしてよろしい。ちょっと庭先を通らせて貰うだけだ」
こんな所を中隊先任あたりに見られたらまた甘いと叱られるだろうか、などと思いながら乃木は鯱張る少女たちを手で制した。
叱られる心配はないと判断したのか、少女たちはほっと安堵の表情を浮かべた。
腰を下ろす彼女たちに乃木は声をかける。
「いい場所を見つけたな。そこは涼しそうだ」
少女たちは顔を見合わせた。人懐こそうな顔をした少女が悪戯っぽく微笑む。
「はい、ここはおそらくこの国で一番涼しい場所だと思います」
それを受けて別の少女も顔を綻ばした。
「うちらの部屋、エアコンも壊れてるしね」
残る一人の生真面目な顔をした少女だけが警戒と緊張の色を滲ませて、こちらを睨みつけるように見つめてきた。
どう高めに見積もっても明らかに二十には届かないだろう年頃の少女たち。内地の教育隊ならばまだしも、この異郷の戦地で出くわすにはあまりに不自然な存在だ。すぐにその正体に思いあたる。
(……〝撫子〟か)




