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17、被害状況

 ようやく轟音と振動が収まった。

 乃木は、クラクラする頭を振りながらゆっくりと身を起こす。爆風の衝撃で防空壕の壁に打ちつけた肩がズキズキと痛い。

 ほんの僅かな時間だが意識を失っていたようだ。

覚醒半ばで混濁する頭が呼び覚ましたのは、よりによって不快な過去の記憶だった。思えばあの時も、彼は何度も敵の砲撃に煽られては塹壕に叩きつけられていた。

 ようやく脳裏から悪夢を振り払った乃木は周囲を見回す。狭く薄暗い防空壕は、舞い上がった粉塵と詰め込められた男たちの人いきれで、息苦しい。

「無事か!?各分隊長、状況報せろ!」

 すぐに部下たちの点呼をとり、小隊の状況を把握する。幸い、小隊の被害は軽傷者が4~5名出た程度で済んだ。すぐに町屋少尉の姿を探す。

「小隊軍曹!」

町屋少尉が叫ぶ声が聞こえる。

「乃木軍曹、現在地!」

 声を張り上げながら、乃木は急いで小隊長の下に駆け寄る。

「小隊長殿、ご無事でありますか?」

「あぁ、小隊の被害状況は?」

「現在員42名、内、軽傷者5人ですが戦闘行動には異状ありません」

「わかった。クソ、ひどくやられたみたいだな!?中隊本部との連絡は?」

 町屋の問いかけに乃木は顔を曇らせた。

「現在、連絡を試みておりますが――」

 彼の示す先で、通信兵が必死に呼びかけを行なっていた。

「本部、本部、こちら第三小隊、送れ」

 幾ら待っても応答はなかった。こちらの無線がいかれているのか、本部側に応答できない理由があるのか、或いはその両方かもしれない。

「至急、伝令を出すべきです」

 彼ら第一小隊は施設の周辺警備を第三小隊に引き継いだその直後、戦闘待機のまま防空壕に退避して先の爆撃に遭っていた。

 壕が崩れるのではないかと思う程の衝撃だった。外の施設にも間違いなく被害が出ているだろう。

 乃木は町屋と共に防空壕から外に顔を出し、絶句した。

 至る所で建物が破壊され、或いは倒壊していた。彼らが居住していた兵舎は三階から先が消し飛び、窓ガラスが全て割れていた。大きなアンテナのついていた通信塔は半ばから折れて隣の建物を押し潰し、そして中隊本部が置かれていた建物もあちこちが崩落している。

 そこら中で悲鳴や怒声が飛び交い、死傷者が転がっていた。

「……これは」

 町屋が蒼ざめた顔で周囲を見回す。軍歴の少ない彼でも、通信所が先の一撃で基地機能を喪失した事くらいは一目でわかる。膝が震えるのを部下たちに見られる訳にはいかなかった。

 真っ白になりそうな頭で必死に考えようとした。思い浮かばない。

「小隊長殿、中隊本部へ向かいましょう」

 横合いから、乃木が進言してくる。

 乃木の目にも周囲の光景は映っているのだろう。だが、この小隊軍曹はさほどこの惨状にショックを受けていないかのように町屋には見えた。或いはこれが戦場慣れというものなのだろうか。今はその落ち着き払った乃木の存在が心強かった。

「あぁ、急ごう小隊軍曹」

 彼らは中隊本部を目指した。倒壊した構造物を幾つも乗り越えなければならなかった。


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