12、兵士たちの噂話
いくらその存在が機密とされ、緘口令がしかれていようとも、若葉や鈴音たち〝撫子〟の存在は、この数日のうちに兵士たちにとっては既に周知の事実となっていた。
前線の駒にしか過ぎない兵士たちも、詳細こそわからなくても、先日の防空戦闘が勝利と称してよいだけの戦果を得たこと、そしてその勝利が紛れもなくMC4Iシステムとそれを操る彼女たちの力によるものだという事を理解していた。
航空戦においてテクノロジーの比重が極めて高くなった昨今において、世界最強の米空海軍の航空部隊にこれほどの痛撃を与えられる国は、日本しかいない(西欧の数カ国及びロシアならば、可能かもしれない。だが、前者は米国の友軍であり、後者は今のところ直接の交戦事例はなく、輸出用のモンキーモデルが圧倒的な敗北を喫し続けているという不名誉な戦例しか残されていない)。
兵士の一人が、芝生の少女を見やり、感嘆の声を洩らす。
「やっぱりMC4Iシステムってのはすげぇな。この調子でやれば、楽勝かもな」
彼らが知る由もなかったが、実際のところ「アイギス」は本家米海軍の「イージス」より兇悪だ。なにしろ物理法則やら光学特性その他を捻じ曲げた魔術的な力で、敵の感知、識別、管制から照準、誘導、場合によっては敵味方を問わずに支配、統制まで行なうのだから性質が悪かった。
無論、弱点も多い。だが、電子、通信、情報等の総合的な軍事技術において米国に数年以上の遅れをとっている日本帝国が、かの最強の軍事国家と渡り合いながら存続しえているのは、核兵器の保有以外にも、その恐るべき兵器管制システムの存在がその一助になっている事は明白だった。
だが、兵士の言葉に乃木は素直に頷かなかった。
「どうだろうな。アメリカが本気なら、まだこの戦いは危ういぞ。実際、エジリスタンの受けた被害も決して軽微ではないし、兵器の稼働状況や武器弾薬の補充もいつまでもつかわからない。それに、連中は最強の兵器を投入してくるかもしれない」
「うわ、やな事言いますね。最強って、噂のステルス爆撃機っすか?それともトマホークの飽和攻撃とか」
「違う」
乃木は首を振った。兵士たちが答えを待っているのに気づき、言葉を続けた。
「ライフルを持ったマリーンだ」
乃木の答えを冗談と捉えたのだろう、兵士たちは笑い声をあげた。
そのまま乃木が兵士の軽口に付き合っていると、
「小隊軍曹、ちょっといいか」
町屋少尉が不機嫌そうに詰め寄ってきた。兵士たちが慌てて口を噤む。町屋は兵たちを睨みつけた後で、乃木を呼び寄せてきた。
会話を聞かれていただろうか。だが町屋は決して常日頃から兵士たちとは一線を引き、決して兵士たちと混じり合おうとはしない。今も、小隊から少し離れた所で一人立ち尽くしていた。細部までは聞かれていないだろう。
「貴様、何をやっていた」
「知り合いがおりましたので、支給品のお裾分けをいたしておりました。あぁ、勿論自分の配給分から渡しております」
「そういうことじゃない」
町屋は表情を固くする。まるで化け物を見る目で遠くにいる少女たちを見やった。
「あいつら、『栄』部隊の撫子どもだろ?一般部隊の兵士は接触を禁じられている筈だぞ!」
乃木はすっとぼけて答える。
「はぁ、そうだったんですか?その辺り、自分は存じ上げないので自分はてっきり大隊本部付の当番兵かと思っておりましたが」
「そうだと思うなら兵たちにも要らぬ口は叩かせるな」
仏頂面で町屋は告げる。どうやら先の兵士たちとのやりとりが、少し離れた彼の耳にも入ってしまったらしい。
「はっ、気をつけさせます」
まぁ、兵士たちがいる前で面と向かって罵倒されるよりはマシか、と乃木は思った。その辺り、この新米将校も少しは軍隊というものをわかってきたのかもしれない。




