七星帝の姉ちゃん
「この世界の頂天、天下無双。それが、ルキナにどうさせられるんだ? 」
「そーですよ。 私への愛が強すぎて、おかしくなっちゃいました?」
「意外とあるかもな。70パーセントぐらい?」
「真顔で言わないでくださいっ!!」
昔のことだった。空は真っ赤に染まり、少し肌寒い頃だった。
一部が血のように俺に落ちてきて、生きているのか、
形を変えながら俺を囲んだ。その液体は一箇所に集まり、赤のフードの男を作りだした。
「天下無双になってみたまえ。君は影だろう?
影は光も闇も良く分かる。
君には全てを変えられるだろう。」
最初で最後の言葉だった。変えられる。その言葉は
俺の頭に深々と根付いた。
「その話、本当 、、、なんだな、、?」
「ライゼンさんのことでしょう。お地蔵さんの下に生えてた、キノコでも食べてたんですよ」
なんで、信じてくれないんだよ。
というか、俺はそんなとこに生えているキノコを捥ぎ取るような行ないはしていないぞ。
「そういうことなのかっ!ルキナ!」
「いや、納得しているんじゃねえ!!」
ナハハハハ、と刀から聞こえてくる笑い声。いつか、お仕置きをしてやろうと心より誓った。
姉ちゃんは笑いを抑えると、あぐらをかいて顔をしかめる。真剣な空気になったのに、ルキナはクスクス笑い続けている。
「お前が天下無双を目指し、世界に反抗することは分かった。でも、お前の意志がわからない。長い道程だぞ?」
天下無双になる方法。
この世は力が絶対の世界だ。
中央都最大にして最強を決める剣術闘会、上級修練生剣術闘技。そこで優勝して、守護十神の一人に決闘を申し込まなければならない。
それに勝ち、十神団長になり、天下無双に決闘を申し込む。
なんと言うループ。年数がかかるがこれが飛躍的に楽で確実である。
もう一つ方法がある。
それは、七星帝に決闘を申し込むこと。勝てば七星帝になれ、天下無双に会うことができる。
無論。上記に書かれた決闘は片方が殺されるものであり、どちらも命がけである。いつ死んでもおかしくない状況。 まあ、今もそうなのだが。
俺は姉ちゃんに答えた。
「確かに長い道程だけど、行かないといけないよ。
もう、色々な物を踏みにじっている」
「ということは、、、」
絆奏は気付いた。 俺の言葉の核心に。
「お前は天下無双になると言った。でも、その肝心の
上級修練剣術闘技に出られるのか?
お前は中央都の法を破ってここまで来たのだろう。
出場できるどころか、八つ裂きにされて天国だ。
一つ目の方法はできない。
ということはだ。 お前がここに来た理由とも合点がつく。 お前は
私を殺して高みに上がるつもりだな?」
否定はできなかった。この方法しかないとは思った。
しかし、姉ちゃんを殺すとは決意はできない。
確かにいつかは、七星帝の一人を殺さなければならない。 その時に殺す相手は誰かは、わからないのだ。
そして、ここに来た理由は違うのだ。 まだ、俺の力は足りない。
俺は冷たい本殿の床に頭をつけ言った。
「確かに、高みに上がるつもりだ。でも俺には、まだ力が足りないんだ!! 今のままじゃ、この泥の中からも這い上がれない!!!
どうか、俺を鍛えてくれないか!!」
「私からも、、いや、私にもお願いします!!!
こんな体でできる事は限られてますけど、私も少しでも力になりたいんです!! 見てるだけなのは、もう
無理なんです!!!」
「 いいだろう、、、!!」
即答だった。その力強く、自信のある声は空気を伝い、俺たちの頭に響いた。
姉ちゃんはもしかしたら、自分を殺すかもしれない奴を鍛えてやろうと言っているのだ。そんなのは、優しすぎだろう。
気付いた時には床は濡れており、俺の頬を伝う涙は止まる事を知らず、流れ続けてた。
「あり、、、が、、とう、、! 姉ちゃん、、!
あっ、、、、り、、がとお、、、う、、!!」
声を煩わせ、何度も何度も感謝の言葉を言い続けた。
姉ちゃんは肩を叩き、真剣な声色で言った。
「いいか、私は鍛えると言った。しかし、一つだけ
絶対の絶対なる条件がある。
それは強いこと。我が弟といえど、強いとはわからない。
私はお前の姉ちゃんだからな。見届けてやるよ」
スッと本殿の入り口を指差す。
そこには8人の真っ黒スーツの男女と 真ん中に純白のスーツを着たメガネの男がメガネを二本の指であげていた。
「お前は、、、ライゼン・ガルト、、だな。」
中央都制裁隊。中央都の法を破ったものに制裁を全うする特殊部隊だ。
体術はおろか剣術、魔術をも使いこなす、抹消のスペシャリスト。特に真ん中の白スーツは、ギャルゴ・バターフ。過去に渡って、二回も上級修練剣術闘技を制覇してきた実力者。制裁の鏡の二つ名を持つ。
ここで会えたのは、ラッキーなのかアンラッキーなのか。
「、、ウッ ウン、確かに、俺の名前はライゼン・ガルトだが、、それがどうした?」
「お前は我が中央都の、、、、」
「いっやいや〜なに言っちゃてんですか?ライゼンさん」
変なときに、変な奴が出てきたな。今まで感動で胸でも打たれたかと思ったのに。
「コイツは、ライゼンさんは強すぎて失うことが怖いから、領地に戻れーそしたら罪はなくしていいぞ〜
って言っているんですよ」
「なるほどー、、!!」
敵の9人は唖然としている。
俺はこういうノリは好きだぜ。
俺は立ち上がり、右手でピッと涙を払い、口角を上げる。
「この場合は一人残さずぶっ飛ばしちゃいましょう!!あの青く澄み渡った天まで!!」
「リョーカイ!!」
俺はスラリと剣を抜く。相手もこのノリに気圧されたか、左足を後ろに引く。かのギャルゴさんも臨戦態勢のようだ。
さあ、楽しい血肉舞い散る紅き祭りの始まりだぜ。
「行くぜ!!!ルキナ!!!」