許さないよ、優
咲にとって待ちに待った日がやってきた。
あの日、咲は両親を殺された。その直後に地震に遭い、何故か咲の両親を殺した優に助けられてしまった。屈辱的な瞬間だった。側にあった釘で優を刺したが、そんなものでは死なない、とあしらわれ一層腹が立った。しかし、時間が経てば経つほど優に対する憎しみが薄れていった。それが正常ではない事は咲にも分かっていた。だけど、どうしても自分を救ってくれた優を殺せなかった。殺したくなかった。殺す事だけが償わせることにはならないと感じた。殺しても誰も喜ばない、両親も帰ってこない、そう感じた。だから、
こうして今でも優と繋がっている。
人混みだらけの都市を抜け出し咲がやってきたのは郊外のさらに外れにある刑務所。コンクリートと電気鉄線に囲まれており、近づくだけでヒンヤリと冷気が漂ってきた。
«ガチャ…ギギギィィ…»
コンクリートの壁に作られたドアから2人の男が出てきた。男は警官に深々とお辞儀をした。警官は嬉しそうな顔をしながら何かを口にした。
バッグを抱え男が歩いてきた。咲はわざと黙っていた。男が気付くまで。
「…………ん?」
気付いた。
そして、咲の身体にぶつかる形で停止した。
突然の勢いで咲は後ろへ倒れそうになった。
「わっ!?ちょっ…優!!」
咲の身体を抱き締めながら優は咲の首筋に顔を埋めた。
「疲れた〜」
「…久しぶりに会っての最初の一言がそれ?」
「じゃあ、何て言って欲しかったんだ?」
「えっ?うーん、そう言われたら…分かんないけど……お帰りなさい」
「ただいま、そして…ごめんなさい。咲」
優の優しい声に溜まっていた寂しさが一気に込み上げてきた。
「俺はお前に対して酷い事をした。…お前にしてやれる事は……一生傍で守ってやる。もちろん…咲が
……俺を許してくれるなら」
「………………」
咲の答えは決まっていた。
「許さないよ、優。私は許さない」
咲の言葉に優は俯く。
「だからね、優。……ずっと私を見守ってくれませんか。私の傍で……ずっと一緒に居てくれませんか?」
「………うん」
優はその一言しか言えなかった。
涙が溢れて止まらなくなったからだ。
咲はそんな優を優しく抱き締めた。
優の身体は咲を瓦礫から守ったあの時の様に大きくて暖かかった。