教育とIT
いろいろ説明編です。詰め込みすぎて前話に比べバランス悪っ!ってぐらい長くなりました…。目を休め休めお読み下さい…。
黄色く塗りつぶした1対の逆v字型パーツの天辺を同色の一本の棒で繋ぐ。
次にワイヤーの端から発泡スチロール素材の茶色い平板を通し、平板が底辺になるようにワイヤーをU字型に曲げる。これをもう1セット作り、先ほどの棒パーツから垂らすように等間隔で並べる。
これを土色の土台の上に立てれば、完成。
「…ふむ。やっぱりこれがなくちゃだよな!」
最も思い入れのあるそれを見ながらニマニマしていると、突如起こった大激震によりそれがパタリと倒れる。
震源地は言わずもがな。小さくともブラックホールな腹黒さを持つ神子様である。
「おいコルぁ」
「あ、すみません。寝てました」
自分の課題を人にやらせておいて、寝ぼけて破壊活動を行う神サマ。うん。終わったな。コイツの治める世界は色々終わるしかないな。
「それが本来の僕の役割ですし。いいんじゃないですかね、別に?」
見るものによっては愛らしく、俺にとっては憎たらしく、コテン、と頭を傾けながらタイミング良くそんな事を言う。
「人の心を読むな」
「目つきにイラッときたので」
「うるせーよ。目つきの悪さは生まれつきだ。これも神サマからの贈り物だろーがバカヤロー」
「担当が違うので苦情は所定の窓口にお願いします。壊していいなら僕の方で承りますが」
「いいわけあるか!!」
物騒な事を言うこの神子様は、中身を知ってしまえば納得の「破壊神」候補生である。それも、とびきり優秀な。精神攻撃のみならず物理的攻撃にも優れているとは、末恐ろしいガキである。逃げたい。
そんな雲の上で勝手に暴れてろな神子様に何で平々凡々な俺がこき使われているかといえば、神界の教育プログラムと近年著しく発展しているIT化のせいに他ならない。
ざっくり聞いた話によると、神子様たちは生まれてからの数年間、全員共通の基礎教育を受け、その後それぞれの特性に応じて「破壊神」や「創造神」など特定の神格を得るコースへと進むらしい。そのコースを終了して初めて神サマ(見習い)となれるわけだ。神サマってもっと自由なんじゃねーの?って思ったが、自由にさせてた時代、人間界にちょっかいだして戦争起こさせるは惑星と惑星をぶつけるスケールのでかいビリヤード大会を始めるは、色々大変だったらしい。うん。教育って大事デスヨネ。
ともかく、そんなわけで、俺の目の前にいる神子様も現在基礎教育を受けているわけだが、この基礎教育が意外と大変。自分の得手不得意関係なく学習しなければならない。つまり、破壊神候補であっても「創造」の基礎くらいは実習課題が出されるのである。
「その課題が"世界創造"とか…流石スケールが違うぜ」
やけくそになりながら先ほど神子様に倒されたミニチュアや木々を立ち上がらせて呟く。望めば豊富に素材が現れ、自分の好きなようにあらゆるフィールドを永遠と創れるのは非常に楽しいのだが、いかんせん、創りあげたものの価値をまったく理解してもらえないのだから、少し虚しい。
「人の感覚はよく分からないのですが、"世界創造"といっても、今回は外観だけ創れば良いので、簡単な方ですよ?これが命の創造になったら大変です」
「あぁ…あんたにだけは絶対命の創造とかして欲しくない」
俺はどこともなく、遥か遠くを眺めながら言った。神子様の創ったという作品を見た時、俺は絶句した。あまりにもあんまりな美的センスに。神子様みたいな感性の、ちょっと進路を間違った創造神によって、宇宙人と呼ばれるものが生まれたに違いない。うん。大切な事だからもう一度言おう。教育って大切だ!!
「さすがに命の創造は創造神コースに進む者しか学べません。僕も興味ないですし。…本当は外観の創造さえ学びたくはないのですが…」
珍しく苦虫を噛み潰したような顔で神子様が言う。神子様はお高いプライドを裏切らず、完璧主義者だ。ちょっと裏技を使って人間をレンタルするなんて暴挙に出るくらいには。
今後俺と同じ目に遭う人間が出ないよう、少し説明しておこう。
先ほども少し触れたように、現在、神界ではIT化が進んでいる。神界内はもちろん、神界、人間界間のネットワーク網もあるらしい。まぁ、昔から気ままに神サマ達は神界と人間界を行き来していたというから、簡単な事だったのだろう。色々ぶっとんでる神界では細かい事を気にしてはイケナイ。
さて、ここで厄介なのが、そのネットワーク網が俺達、人間界のインターネットサービスと繋がっている、という事だ。それも一方的に。神界の住人は人間界のインターネット上に流れる情報を自由に閲覧できるが、人間側は神界の情報を見る事は出来ない。これが基本だが、昨今のお客様ニーズを受け、情報サービス神(?)も変化してきた。人間界の物をお取り寄せする、いわゆる通販サービスを開始したのである!そしてこのサービスに便乗して「レンタル」サービスが生まれ、現在の俺の状況に行き着く。
全ての元凶は、もう少し楽したい、とか軽い気持ちで転職サイトを開いた自分にあったのかもしれない。たまたま、模型作りが得意な人材を求める求人票が目に入り、労働条件も悪くなく、試しに応募してみた。とりあえず名前と作品の写真を送れば選考にかけてくれる、という手軽さも良かったのだ。
しかし、世の中そんな上手い話があるわきゃない。
その晩、夢と現の間で渋いおっさんに会った。おっさんは煙草をくわえながらニヤリと野性的な笑みを浮かべると、「ご登録、ありがとうございます。これから貴方をお客様の元に移送させて頂きます」と宣った。俺はいつの間に不法なドナー登録をしてしまったのかと。わりと真剣に苦悩したものである。
その後移動中、呆然と話を聞いていれば、あの求人は神界のよろずレンタルサイトへの登録窓口であった事、俺の作品写真を見たお客さんから「技術」レンタルの注文が入った事などを知らされた。そういう事は求人票にちゃんと書いて下さい!!
ちなみに求人票に載ってた労働条件について恐る恐る聞いてみれば、小せぇ事にこだわるな、と豪快に笑われた。レンタル終了後には人間界での元の時間に戻すし全部忘れるんだから、働いた事にはならないだろう、と。さすが神スケール。これ以上ない隠滅方法をしてくれる。気分はgo◯leで運ばれていく名もなき商品の如し。今後通販商品は大切に扱おうと、この時心に誓った。
そんなこんなで、おっさんにビビりながら着いた先で待っていたのがこのちびっ子だったのだから、一発教育的指導をくらわせてしまったのは仕方のない事とご理解頂きたい。
無制限なIT活用、反対!!
「どうしたんです?凶悪犯みたいな顔して。また通報しますよ?」
「ヤメテクダサイ」
座っているのをいいことに、俺の目を極限まで吊り上げて遊ぶ神子様へ平謝りする。誰に通報するかって?イカツイ戦神様ですよ。常に戦う相手を求めて徘徊している…。神子様に教育的指導をした際、大いにトラウマを残してくれた。あんなのを野放しにしてる神界マジ寛容。マジ恐怖。
「それじゃあ今後、僕と話している時に意識を飛ばすなんて失礼な真似、やめて下さいね?」
なんと。崇拝しろ宣言が下ってしまった。俺は今後、この神子様を崇め奉らなければならないのだろうか。お供え物忘れたら家壊されそう。嫌すぎる。
「何ですか明らかに不満そうなその顔は」
「いえ、別に…。はい、どうぞ。こちら完成しましたのでお納め下さい」
ははぁ〜と地主様に年貢を納める小作人気分で出来たてのフィールドを献上すれば、何やら忌々しそうな表情をされた。何でだ。
「…憩いの場所、とか言ってましたけど。結局これ、何なんです?」
不機嫌そうな表情はそのままに、フィールドをじっくり眺めて言う神子様。これまで創ってきた町や山々とは違う造りに、珍しく疑問が生じたらしい。まぁ遊びの規模が惑星、な神界じゃ、見ることもないものだろう。俺たちにとっては、とても一般的な遊び場だけれど。
「公園」
果たして神子様は、やはりコテン、と子どもらしく首を傾げるのだった。