6.仕事をしている暇も無し
「―――でわ、忙しい所すいませんでした」
ゼロは飛空挺を後にした。
エルディアン王国の王子がランスに連れられてきた時にはどうしようかと思ったが、なんとか切り抜けられたようだ。
ゼロの姿はもう見えなくなったのをストラが確認する。
「親父……どう思う?」
答えは分かっている。だがあえて聞くことにした。
「……ばれているな。確実に」
全員やっぱりとため息をついた。現状を把握出来ていないのはランスただ一人―――。
いや、もう一人いた。
「どういうことですか?」
事件の発端。ミラエスタ王女だ。
「譲ちゃ……いや、王女さん」
親父は出来るだけ分かりやすく説明しだした。
「つまり、あんたがここに居たことがばれてしまったのです。あのゼロって男はあんたがここに居たことを知って帰ったんですよ。そして、城に報告へ行った。自分一人では王女に逃げられると思ってね」
もうすぐここに王国軍が来るはず……。
そう、もう王国にはばれてしまっている。ここで王女を帰した所で確実に追われる事になるだろう。
全体が重い空気に包まれている。そんな中に場違いな叫び声が響き渡った。
「へっ? えっ? なんで写真の子がこの飛空船にいるのさ。それにばれてるってやばいじゃんか、もうすぐ王国軍が来るって…早く王女様をお返ししなきゃ!」
「嫌ですっ!」
王女がこれまでにない血相で叫んだ。そして小さい声で続ける。
「私は、これまで世界がこんな広いことを知りませんでした。城に閉じ込められて。決められたことしか出来なくて。そして今日、国のための道具として結婚することになっていました。それが運命だと私は割り切っていました。だけど……。
だけど、彼方達に出会って、話して、笑って、世界がどれだけ広いかを知りました。
もう一度お願いします。私をこの国から連れて行ってください!」
全てを言い切った後。王女は顔を赤くし、息を切らしていた。これほど自分を主張したのは初めてなのかもしれない。
最初に連れて行けと言われたときには何があっても断るつもりでいたが、今は違う。
「世界が知りたい……か。確かに俺たち盗賊は世界中を旅するな」
「世界を旅したいから盗賊になる奴なんて聞いたこと無いぜ」
「なに、野郎共ばかりでむさ苦しいって思っていたところだ。丁度いいじゃねぇか」
「ま、まぁもともと追われる身だしね…綺麗な子がいるのは嫌じゃないし…」
「……構わない…」
全員、ミラエスタを乗せることに曲がりなりにも賛成した。
「てめぇら! もうすぐ騎士共がここに来る。決まったらすぐに出発だぁ! 総員持ち場に着けぇ!」
「おおっ!」
ガーレスの豪快な怒鳴り声に全員一斉に動き出す。っとその時。
「おわっ! 皆、王国騎士がすぐそこまで来てるよ」
不運なことに王国騎士の軍がそこまで迫っていた。
むこうは迷いなど無く、まっすぐこちらに向かってきている。
数は百数十人かそこら…とても5人じゃ太刀打ちできない数だ。
「おぅ! ストラ。魔動力炉はどうだ」
「ああ、問題ない! だけど出発まで十分はかかるよ」
この世界の飛空挺はほとんどが魔動力。つまり魔法の力で動いている。
魔法といっても直接対象者に致命傷を負わせれる術者は少ない。大体は剣や槍に魔法をチャージするものが主流だ。
飛空挺もそれの応用で、魔法をチャージした動力炉つまり魔動力によって動くわけだ。
普通の動力炉でも多少は飛べるが、魔法を使ったものと比べてスピードが出ない。
飛空挺には魔動力炉は無くてはならないものなのだ。
っと説明しているうちに騎士達は立ち止まった。後方から何かを運んできている。
「ありゃぁなんだ……?」
ガーレスが眼を細める、でっかい筒に車輪がついたあれは……。
「―――っ! 馬鹿なっ! 大砲だと!?」
事実、それはどう見ても大砲だった。
しかもそれに点火…つまりこちらに打ち込もうとしている。
まだこっちには王女がいるんだぞ? なぜそんなことをしようとしているんだ。…まさか、向こうは気づいていないんじゃないか?
その可能性は皆無だった、この国ではまだ俺達の盗賊団は指名手配なんぞされてないはず。向こうが攻撃してくる理由がない。……っと言うことは…。
王女がいることを知っていて攻撃してきている?
信じられないがそれしか考えられなかった。
そして、小さな岩ほどもありそうな砲弾が飛んできた。
直撃。そして大きな振動。
あの砲弾の大きさからは考えられない爆発音が響いた。
こんなのを何発も耐えられるほどこの飛空挺は頑丈に出来てはいない。
「……任せろ…」
シンが席を立つ。彼の身長ほどもある銃を持って。
盗賊団の運命は無口な男とその得物に託された。