4.紅茶の香りは危険な薫り
賑わいに賑わうミネリア城下。そこに四兄弟の長男。ストラ=トラングルがいた。
「おーおー。どこ見ようが飾り飾り飾り・・・あぁ、いいよな。祭りって・・・」
その性格からは予想がつかないほどストラは祭りが好きだ。町中が熱気に溢れるこの感じは堪らない。
しかし、この趣味が自分の性格とは不釣合いなのは自覚している。だから兄弟の前では隠してきたつもりだ。
それにしてもここは店が沢山並んでいる。商店街かなんかか?
そう見回していると一つの店に目が留まった。正確にはその店にいる1人に。
「シン・・・? 何しているんだ」
声をかけると確かにシンだった。妙に慌てている。
「紅茶が切れそう・・・」
最小限の言葉での説明だった。
そういえばこの店から紅茶の香りが混ざり薬っぽいつ〜んとした匂いが出ていた。紅茶は好きだがこの何とも言えない香りは・・・。
シンは何時も飲んでいる安物と香りが気に入ったのか、少し高めの物を購入した。
紅茶が入った包みを貰うと、ただ一言。
「飛空挺に・・・戻ってる・・・」
そう言うと返事を返す前にシンは消えていた。あいつは諜報と工作に向いているとつくづく思う。実際にあいつの情報等に何度か助けられた。ただそんな隠密活動をこなす所為か、無意識に気配を消していたり、いきなり横に立っていたり。心臓に悪い奴でもある。
根は好い奴なんだよなぁ・・・。とか思いつつ、つ〜んとした匂いを後にする。
街を彩る装飾を見物しながら歩いていると、遠くの方で人の大群が来るのが見える。一瞬パレードか? と期待に溢れたが違った。
「あれは・・・なんだ。王国の騎士達じゃないか・・・」
白金に輝く鎧をガッシャガッシャ音を立てながら街の大通りを歩いて回る。どうやら何かを探しているようだ。だが、ストラは興味を持たない。自分には関係無いっス。と言わんばかりに目をそらし騎士達とすぐさますれ違った。
数時間後この大群に追われることになるとも知らずに―――
―――ストラ→→→ランス―――
一方―――。
こちらも賑わいに賑わうミネリア城下。そこに四兄弟の末っ子。ランス=トラングルがいた。
「あわわわ。ここ何処? 私は誰?」
私はランス=トラングルです。ここは何処だか全然わかりません。と自問自答。一種のパニック状態です。
ランスは初の大仕事を任されたことで不安。迷ったことで不安。不安×不安=パニック!!
と言う公式が頭の中で出来上がっていた。
ランスはこれまで補助位しかやったことがなかった。逃げ道確保、外からの下調べ等だ。もちろん盗みの最前線にたったことはない。今日が初めてになる。
その不安から上の空になり、よって迷子となる。そして上の公式の出来上がり。
―――等ということをランスは声に出してぶつぶつ言っていた。かなりの重症です。
「そ、そういえば。リュウ兄が時計台に行くとか言ってたような・・・」
兎にも角にもこのままでは家(飛空挺)に戻れなくなりそうなので。時計台に向かうことに決めた。あのばかでかい時計台はいくら方向音痴なランスでも見失うはずが無かった。
向かう途中、一人の青年に出くわした。というかぶつかった。
瞳の全てを燃え尽くしそうな紅はどこかで見た気が・・・。あ、リュウ兄も同じ紅色の眼をしてたっけ。
「あ、すいません。怪我はありませんか?」
明らかに向こうが突っ込んできてこちらの方が大きく飛ばされたのだが。面倒はごめんなので謝っておいた。
そしたら向こうも謝ってくれた。よかった、好い人そうな人で。
「・・・急いでいる様でしたがなにかあったんですか?」
青年はとても言いにくそうにしていた。言おうか言わまいか迷っているようだった。
「実は・・・人を探しているんです。この方なんですが・・・」
写真を見た瞬間仰け反った。か、可愛い・・・。
「おっと、申し遅れました。私、ゼロ=エルディアンともうします」
「あ、僕はランス=トラングルです。どうもご丁寧に・・・ん?」
エルディアン。えるでぃあん・・・エルディアン!? エルディアンと言えば三大国に入らないまでもとても資源に溢れた国じゃないか。そしてゼロといえばそこの王子でストレイツェル国の王女、ミラエスタ姫との婚約をしているとても偉いお方じゃないか!
やばいっ! 一国の王子に尻餅を付かせてしまった! 下手すれば捕まるっ。
あわあわしていたのに気づいたのか。大丈夫ですよと言ってくれた。ああ、なんて慈悲深きお方。
つまりこのえらく美人のお方はミラエスタ姫・・・?
「僕・・・ストレイツェル国が好きになりました」
正直にいいすぎたと後で後悔。
そんな言動もゼロさんは許してくれた。
「一国の王子ともある人がお供をつけないんですか?」
数秒の沈黙、そして。
「実は抜け出してきたんです。止められたんですけどね」
爆・弾・発・言。この人は「あ、言っちゃダメでした? やっぱり?」と言う顔でこちらを見る。見た目よりどじなんだな、この人は。
「でも、婚約者の為ですもんね。好きになった人の為って言うなら分かります」
この言葉が後に後悔することになった。
ゼロは眼を輝かせて。そうですよね! と手を思いっきり掴んで振ってくる。それじゃあ一緒に探してください。一人じゃ不安でしょうがなかったんですよ。とぶんぶん振りながら言ってきた。
やっちまったーーーー! 心の中で自分が叫ぶ。ここまで来て下がれない。しかも一国の王子、後の王に今逆らったら・・・。汗が額から流れる。
ランスに選択の余地無し。
「そ、それじゃああの時計台に言ってみません? 兄貴がいると思いますし。高い所から探すのも悪くないかと・・・」
しどろもどろなんとか提案を出す。
「そうですね。行ってみますか!」
後に敵になることも知らずにただランスは笑う―――
全ては繋がっているんだ