3.運命の時計台
国のために生まれ
国のために育ち
国のために学び
国のために生きてきた
そして今日。国のために他国の王子と結婚することになる。
今まで、いやこれからも私は国のために生きることになるのだろうか。
それが私、ミラエスタ=ストレイツェルの、1国の王女の運命なのだろうか・・・。
この前まではそう割り切って生きてきた。だが最近・・・7日くらい前から変な夢を見続ける。
私と同じくらいの少年が私に色々質問してくる夢。その中の一言。それが私にこれまでの生活に疑問を感じ始めた。
君は何のために生きているんだい?
私がこれに答えようとする所で夢が終わった。
それが不思議なことに「国のため」と答えようとしたのだが声が出なかったのだ。
これは私にこのままではいけないと訴えかけているのではないか? そう思い始めていた。
運が好いのか悪いのか。この階は警備は手薄だ。っと言っても地上数十メートルはあるだろうこの場所では忍び込もうとしても無理だろうという所からの配慮だ。
部屋の外には誰もいない。今なら抜け出せる。
一応すぐにはばれない用に顔まで隠れるローブを身に纏った。これで準備は完了だった。金目のものは何も持っては行こうとはしない。これまで生きるのに不自由なことはなかったし、外へ出向くことなどほとんど無かった。それ故、外での暮らしなんか全然知らなかった。
ミラエスタ=ストレイツェル。初めて親に・・・国に背くときが来た。
あれから数十分はたっただろうか。やっと城の者たちはその異変に気づいたようだった。
「お、王女様がいなくなった!」
「どこかの賊に誘拐されたのか!」
「わからない! とにかく何処にもいないんだ!」
この騒動はすぐさまに王と王女のもとに知れ渡ってしまった。
「ふむ・・・・・・」
王は意外と落ち着いた雰囲気だった。いずれこうなると思ったといった顔つきだ。逆に女王の方は怒りをあらわにしている。
「な、なんですって! 早く見つけ出しなさい! 式まであと半日もないのよ!」
古典的にもハンカチを加えて「キィィィー!」とやっている。王はそれにも動じない。
ただ小声で―――。
「あいつもまだ子供だ。まだ色々知りたい年頃だろうに・・・。この国を抜け出してもらっても構わないと私は思っているのだがな」
誰にも聞こえない声でそう呟いた。
ルネリア城→→→ルネリア城下町
そんな騒動が起きている最中。ある5人の盗賊団はここ、ルネリア城の城下町に到着していた。ルネリア城下町は式の準備だかで大いに賑わっていた。
「っかぁ〜! まさかこんなに早く着くとは・・・我ながら「俺達の飛空挺」には惚れ惚れしちまうねぇ」
親父は頭に手を当てて「がっはっは!」といつもに用に笑っていた。
「それはそうと親父。早く到着しすぎたみたいだ。まだ作戦決行まで10時間以上あるぜ?」
ストラが問う。
「そうさなぁ・・・」
数分考える。あるいはただ焦らしているだけかもしれない。
「・・・よしっ、お前ら自由にしてきていいぞ! 作戦決行までには戻ってこいよ」
遅れたら拳骨な! と付け加えたが誰も聞いて(耳に入れようとして)いない。
これには誰も反対するものは無く、ストラまで小さくガッツポーズをし、シンは何も言わずに消えていった。
「んじゃぁ俺はあのデッカイ時計台にでも行ってみるかな。あそこの風は気持ちよさそうだ」
リュウは特にやることも無いので時計台に上りそこで昼寝でもしようかと思っていた。
他の奴等ももう姿は見えない。リュウは腕を伸ばし、あくびをしながらとぼとぼ歩いて時計台を目指す。
「といっても。高だか姫さんの結婚ごときで張り切りすぎだろここの連中は・・・」
歩きながら思う。そんなに張り切っても誰も見向きもしないだろうに・・・。
その後も飾りに飾られた町並みに呆れながら、とぼとぼよたよた・・・。
気づいたら巨大な時計台のすぐそばまで来ていた。近くで見ると余計高く見える。
中は梯子で登れるようになっていた。梯子でこの高さを上るには少々骨が折れるな。とは思ったものの自分を引き止めるまでには至らなかった。
登り始めて数分経過―――。
「――――45,46,47,48,49,50・・・つ、ついた・・・」
頂上まで丁度50段。流石に堪えた。
時計台の頂上。柵は高めに作ってあり、これと言って目立つものも無い。作業員が時計の整備等で使うための頂上のようで人はあまり来ないようだ。
だが、そこには1人の少女だけいた。フードを被っていて顔は好く見えないが、こちらにはまだ気づいていない様子だった。そ〜と近づく・・・。そして―――。
「おっす! ここまで登るのは大変だけどいい景色だなぁここ」
しかし、返ってくる言葉は無かった。一瞬だったがとても驚いたような表情をした。その驚き様は不思議に感じたがすぐその顔は消えその後は警戒するような目でこちらを見ていた。
「まさか・・・。私を捕まえに?」
透き通るような声音で問う。もちろん何のことだかさっぱりだ。
「へ? ツカマエル? そんなわけ無いじゃんか。俺はただここの風は気持ち好いと思って来ただけさ」
「風を?」
「そう。風」
謎の少女はもう一度「風・・・」と繰り返す。
「それじゃぁ、追っ手では無いのですね?」
ああそうだ。と答えたら彼女は安心したのか大きく息を吐いた。そこでやっと被ったフードを脱いだ。暗くて見えなかった顔が鮮明に見える。
腰の辺りまであるだろうと思う青く輝く髪。全てを吸い込みそうな深い色をした蒼い瞳。
間違いない。夢で見た少女だった。
この出会いが。世界を揺るがすことになるとは誰も知るはずが無かった―――。