2.作戦会議
縦にも横にもでかくて毛も濃い例えるならば熊のような大男。
それが俺達の親父。ガーレス=トラングルだ。
「ちっ、まさかお前達に負けるなんてな・・・俺ももう引退かもしれないなぁ。がっはっはっは!」
そこは笑う所じゃないだろ・・・おい。
声には出さずにストラが代わりに喋りだした。
「親父はきぐるみを着ていたんだ。視界なんか半分も見えてなかったんだろ、それに親父・・・手加減してただろ?」
これに親父は「うっ」と仰け反った。図星だったらしい・・・。図星!?
「お、親父が手加減!? そんな言葉親父の辞書には入ってないだろ!」
しまったと思った時はもう手遅れだった。親父の「手加減無し」の拳骨が流星のごとく俺の頭に落ちてきた。
「――――ってぇ!」
「・・・まぁ、たしかに俺は手加減なんか大嫌いだ。だがな、そんな変な意地を張って大切な 家族を殺す訳にもいかねぇしな。はっはっは!」
あれで手加減ですか・・・。
声には出さなかったが、全員心の中でそう呟いた。
「いてて。そ、それじゃぁなんでいきなり襲ってきたりしたんだよ」
返答は実に単純だった。
「そりゃ、お前。お前らの実力を測るためだろうが」
たんなる気まぐれ。だそうだ。
「まぁ、お前らの強さは分かった! それなら今回の仕事も大丈夫だろう」
親父はごそごそと何処からともなく取り出した大き目の用紙を机一杯に広げだした。
「これは?」
ランスがヒョコっと顔を出し用紙を確認するが何だか分からないようだった。
「これは、ストレイツェル王国の王都にあるルネリア城の地図だ。今回はこの城の中にあるお宝をいただく!」
これには4人全員ガバッと身をのりだした。
「ス、ストレイツェル王国と言えば世界の3大陸の1つを占める大国じゃないか! しかもルネリア城と言えば盗賊の中でも警備が厳重で有名って・・・」
後を続けようとしたストラの声をリュウが遮った。
「だ・か・ら・こ・そ。狙うんだよ! なっ親父!」
「おうよ! 俺ら家族が力を合わせりゃ怖いもん無しさ!」
「俺達に盗めないものは無い・・・」
「え、ええええ。ぼ、僕は怖いんですけど・・・」
ストラとランス(特にランス)は反対だったが。親父は一度決めたら絶対折れない人間ということを2人は知っていたので渋々承諾する形になり、全員自分の定位置に座った。
「よし、それじゃぁ作戦会議を始めるぞ。作戦はこうだ。今日、ルネリア城で王女の結婚だかで警備が手薄になる筈だ。そこでだ、宝物庫にはリュウとランスで忍び込んでもらう」
・・・・・・まぁ、俺が選ばれたまでは良いとしよう。あまり多人数で行かずに2人で行動するのも良い。
だがなぜそこでランスを選ぶ?
もしやと思い、ゆっくりランスの方を見てみたら・・・。
目に見えておもいっきり震えている。手、足、体、顔。そこだけ地震が起きているのかと勘違いするほど震えていた。
「お、親父。これを見てもランスを連れて行くのか?」
黙ってうなずく。
「ぼ、ぼぼぼ、僕なんかが、そそそ、そんな役目。無理無理無理無理! 絶対無理!!」
今の言葉をきっかけに部屋の端へと猛スピードで移動して、無理無理無理無理とだけ呟いている。
ランスはいつも仕事の前はこんな感じなのだが。今回は特に酷い。見てられない。
すると親父は席を立ち。ランスの所へ歩き出した。
「おい、ランス」
ランスの体がビクッと反応したが、体は回さない。
「な、なに?」
「お前はもう立派な盗賊だ。リュウは知らんが、シンもストラも俺も全員認めている。それにな、この世界に捕まるのが怖くない奴は1人もいないんだ」
「へっ、俺は怖くないぜ!」
親父は俺に背中を向けたまま指を指しながら話を進めた。
「ああいうのはただの馬鹿だ。ああいう奴は長生きしない。お前は臆病ではある・・・が、それ故に慎重に行動できるのは1種の才能なんだぞ?」
だからお前は馬鹿なあいつのストッパーになるんだ。
親父の考えはこうだった。リュウのストッパー役はいつもストラがやっていたのだが、今回は技術はあるが経験が足りないランスに実力、経験共に認めている(精神面に難があるが)リュウと一緒にやらせて、実戦経験を積ませようというのだ。
そんなこんなで作戦は決行へと着実に進んでいった。
――――丁度その時、ストレイツェル王国のルネリア城ではある事件が起きていた。
「まだ僕はやるとは言ってないんだけど・・・」