01 定位置
「静香さーん!!」
一番先に三人に駆け寄っていったのはやはり世奈だった。近くまで行くと腰を屈めて車椅子の女に優しく抱きついた。
「世奈、久しぶり」
静香は世奈の背中をあやすように優しくトントンと叩いた。
世奈に遅れて海斗が三人の方へ向かった。カートを持つ男の方へ向かい、
「よう、龍」
と声をかけた。龍と呼ばれた男は、先程沙菜に向けた不機嫌な顔を崩して少し笑顔を見せた。
「兄ちゃん、久しぶり」
それを横目で見ながら沙菜はゆっくりと三人の元へ向かっていた。もう静香の車椅子を押す男からは目を離し、まっすぐと静香を見つめていた。世奈との抱擁を終えた静香がそれに気がつき沙菜と目が合った。
「沙菜」
静香は一段と優しく、嬉しそうに沙菜に声をかけた。世奈はすっと後ろへ下がり海斗と龍も二人に目を向けた。静香は両手を広げて沙菜を待った。
「静香ちゃん、久しぶり」
沙菜もようやく顔を綻ばせ静香と抱擁を交わした。
「大丈夫?疲れてない?」
短い抱擁の後、沙菜は気遣いの言葉を静香に投げかけた。
「大丈夫、ありがとう」
静香はにっこりと笑った。
「でも、そろそろ行こう」
車椅子を押している男がはじめて声を発した。その声にぴくっと反応したが沙菜はその男の顔を見ることができなかった。
「そうだな、行こう。車停めてあるから」
海斗がそう言って龍が持っている荷物の乗ったカートを受け取るとゆっくりと歩き出した。
「沙菜」
車椅子を押す男が沙菜の名前を呼んだ。沙菜は少し動揺した顔をして、男の顔を見た。男はそれ以上何も言わずすっと身を引き、車椅子を沙菜が押すように促した。沙菜も何も言わずにうなずくと車椅子を押して海斗たちの後を追った。
「ありがとう沙菜」
「ううん」
「こうやって沙菜に車椅子を押してもらうのも、久しぶりだね」
静香は嬉しそうに言った。
「先生元気そうじゃん!」
後ろから世奈の明るい声が聞こえる。
「世奈もな」
その声を背中で聞きながら沙菜は静香の車椅子を押して歩いた。
沙菜が海斗たちが乗ってきたワゴン車のところに着くと海斗と龍は既に荷物をトランクにつめているところだった。静香を乗せた車椅子を車の近くへ寄せたとき沙菜の後ろからすっと先生と呼ばれた男が来て、車の後部座席のドアを開けた。それで沙菜は自分の役割が終わったことを悟り後ろの世奈のところまで下がった。先生と呼ばれた男は慣れた手つきで静香を抱え上げた。沙菜はその光景に思わず目を逸らした。そんな沙菜をちらっと見てから世奈は、
「私、静香さんの隣~!!」
と、元気よく言って車へ乗り込んだ。車内で静香と世奈が笑って話しているのが見える。先生と呼ばれた男は車椅子を畳んでトランクへ入れた。
「兄貴、病院に寄るんだよな?」
続いて龍が車の後部座席に乗り込み、外で海斗が先生と呼ばれた男に話しかけた。
「あぁ、俺が運転するよ」
先生と呼ばれた男はそう言って運転席に回った。海斗は立ち尽くす沙菜を見てから、後部座席から車に乗り込んだ。残った席は助手席だ。沙菜は、
『やっぱりそうなるか』
と、思いながらふぅと一つ息をして車に乗り込んだ。