05 自覚
その日以来、沙菜と泉は面会時間終了前後に中庭で会って話すことが増えた。沙菜が病院へ来る時は昼から夕方くらいに来て静香や世奈に会い、中庭で泉と話して帰ることがほとんどだった。話す話題は沙菜の部活の話題や病院の話が中心で特に深い話をするわけでもなかったが言葉を交わすことが楽しかった。
「ねぇ沙菜。最近帰る前に先生とここで話してるんだって?」
五月も終わりに差しかかったある日、中庭で話していると世奈に突然言われた。
「え?」
沙菜は世奈が何のことを言っているのかわかっているにも関わらず思わず聞き返した。
「神浦先生だよ。この前、塚本さんに聞いたよ?」
「あぁ……」
沙菜はあいまいに返事をした。泉と会っていることは何となく誰にも言っていなかった。
「いつの間にそんなに仲良くなったの?」
「うーん、たまたまよく会うだけだよ」
「嘘だ。沙菜、前までは面会時間終わったらすぐ帰ってたじゃん。わざわざ先生のこと待ってるんじゃないの?おかしいとは思ってたんだよね、最近私が病室戻っても沙菜は帰らないでここに残ってたから」
世奈の勘はするどい。沙菜は言葉に詰まって、
「うーん」
と、だけ言った。
「前に嫌、とか言ってなかったっけ?」
「嫌とまでは言ってないけど……」
「何があったの?」
もう世奈はごまかせない。話すつもりはなかったのだが沙菜は観念して、
「前に部活の相談、みたいなの聞いてもらって、それからはたまに話してるよ」
と、言った。
「ふーん。それで好きになっちゃった、ってこと?」
「……は!?」
世奈の言葉に沙菜は驚いた。
「何言ってんの?そんなわけないじゃん!」
自分でも大げさだと思うくらい慌てて否定した。
「気が付いてないわけ?」
「……どういうこと?」
今度は沙菜が聞き返した。
「沙菜、私と話しててもチラチラ周り気にしてるじゃん。先生のこと探してるんでしょ?」
「なっ……!そんなことないから!」
沙菜は顔を赤くして否定した。泉を目で追ったりしている自覚はなかった。
「ま、いいけど。じゃあ私はそろそろ戻るから」
時計を見ると面会時間終了まで30分だった。世奈は立ち上がって沙菜を見下ろして、
「ごゆっくり~」
と、言ってそのまま振り返らずに病棟へと戻っていった。
世奈のやつ……
沙菜は顔を赤くしたままベンチに座り直した。
私が泉ちゃんを好き……?そんなわけないじゃん、相手はおじさんだよ。年齢だって一回りも違うんだから。
沙菜は心の中で否定した。確かに泉ははじめに思っていたより悪い人ではなさそうだ。病院に来て泉と話せることを楽しみに思っている自分もいる。でも『好き』という感情ではない。
……本当に?
沙菜は自分に問いかけた。年齢なんて関係ない、そう思ったらどうなんだろう。泉と話していると不思議と落ち着いた。会ったばかりなのに昔からの知り合いのような心地よさ。それなのに時折感じる胸のときめき。
これは恋じゃないの……?




