第三章 遠征訓練 (1)
カレンとミコトは、士官候補生としては、異例の休暇を航宙軍より貰ったが、その裏には、航宙軍開発センターオゴオリ大佐の思惑があった。
そして休暇から”アルテミス”に戻ると二人の立場は大きく変わっていた。
第三章 遠征訓練
(1)
カレンとミコトは軍事衛星“アルテミス”に行く航宙軍のシャトルの中で二週間の休暇を思い出していた。
「カレン、ミコト。急に帰るとか言い出したから驚いたわ」
「私もだ。航宙軍士官学校に休暇があるなんて知らなかったしな」
航宙軍士官の紺の制服に胸に准尉の徽章を付けた二人に手放しで喜ぶ両親に
「うん、よくわからないけど、とにかく正式な休暇だよ」
と言ってミコトはフレイシア航宙軍人事部からの正式書類が映るハンディ型のスクリーンパッドを見せた。
「ほう、これが休暇辞令か」
パッドの中にはフレイシア航宙軍の軍旗のマークと辞令が書かれていた。
そんな両親の顔を見ながらカレンは
「お父さん、お母さん、実を言うともう一つあるんだ」
そう言ってもう一つのパッドを見せた。
「えーっ」
驚きながらカレンとミコトの母親のカノンは、カレンから手渡されたパッドを夫に見せた。目を丸くしながら
「本当かこれは。確かに“シーズンランド”は航宙軍の保養施設だが、まだ候補生とその両親が利用できるなんて聞いたことがない」
またまた驚く父親に
「“ランクルト”、“シーズンランド”間はファーストパス、“シーズンランド”の中も“スイートクラス”になっている」
と話すと“もう理解できない“という顔をしていた。
その後の時間はとても楽しかった。半年ぶりの両親との再会で、更に“シーズンランド”でのもてなしに大満足だった。
もっとも航宙軍側もそうしておけば監視の目が行き届きやすいという最大のメリットがあるが。
「シャトルARX21は、まもなく“アルテミス”に到着します。“ボディロック”の確認をして下さい」
アナウンスが流れると二人ともお互いが確認して微笑んだ。
二人は、最初に来た時みたいな“もの珍しさ”は消え、事務的にケースを受け取り、シャトルの反対側にある宙港のゲートに行くとすでにヒサヤマが待っていた。
「お帰りなさい。二人ともさっぱりした顔しているわね」
微笑みながら言うと
「休暇ありがとうございました。両親も喜んでいました」
そう言ってカレンが礼を言うと
「私に言う事はないわ。その気持ちがあるならこれからの教練、いやもう訓練か、をがんばって」
そう言うとまた二人が不思議な顔をした。エアカーに歩きながらヒサヤマは、
「正式に通達が降りると思うけど」
少し黙った後、エアカーに乗り込みながら
「二人とも官舎に行くわね。明日から、また航宙母艦“ライン”での訓練になる。その前に通達が降りる。私が言えるのはここまで。しかし貴方たちの優秀さのおかげでフレイシア航宙軍人事部は、“先例”が台無しだと言っていたわ。もっとも“先例”なんて今の時代関係ないのにね」
ヒサヤマが黙っているとミコトが
「ヒサヤマさん、僕たちがいない間に何かあったのですか」
「いえ、なにもただ、“ライン”が改造された。二人の為に」
「えーっ」
ハーモニーをしながらカレンとミコトが驚くと
「楽しみにしていて。それから、もう二人は候補生では無くなります。フレイシア航宙軍の正式な軍人。但し、身分は准尉のまま。所属は航宙軍戦闘機部隊になります。たぶん次の訓練次第では、それが解けるかもしれないけど。詳しくは、明日の説明で聞いて」
目を丸くして驚く二人は
「他の候補生とはもう会えないのですか」
「そんなことないわよ。他の軍人も普通に候補生と会えるでしょ。同じ」
ヒサヤマに送られて“アルテミス”にある上級士官専用の官舎に戻ると
「カレンどういうことだろう。なんか凄い事になっているような感じ」
「そうね。でもいいじゃない。私たちにとっても良い事よ。もう少し候補生のままで居たかったけど」
それぞれの部屋でドアを開け放して制服を脱ぎながら話していると、ミコトが
「カレン、ちょっとそっちへ行く」
「えっ」
と答える前にミコトはカレンの部屋に入って来るとカレンの目を見た。カレンはミコトの目を見ると理由が解った。
「ミコト」
それだけ言うとカレンはミコトに近づいて抱擁した。まだブラとパンティのままである。ミコトもパンツだけだ。ミコトはカレンの背中に腕を回しながら
「ごめん」
というと
“ずーっ”とそのまま続けた。一卵性が故に、人一倍心の揺れをお互いが感じる。なにも言わなくても相手の心の中が見えるくらいに解る。
「ミコト。心が揺れている。心配なのね」
カレンもミコトの背中に腕を回しながら“ずーっ”と抱き合った。
ただ、二人で寄り添うだけ。
長いような短いような時間が経った。ミコトがカレンから体を離すと
「ありがとう」
そう言って自分の部屋に戻ろうとした時、カレンがミコトを後ろから抱えて
「もう少し」
そう言ってミコトの動きを止めた。
カレンの大きな胸がミコトの背中に当っている。ミコトとカレンが目をつむると二人の心臓が同期を取って鼓動しているのがわかる。
“ドクン、ドクン”と聞こえるお互いの心臓に二人はそのまま静かに腰を落とした。
カレンは背中越しに
「ミコト覚えている。小さい頃、二人でよく遊んでいた頃。ミコトと私はそっくりでスカートをはいていないといつもどちらかに間違われていていた」
「うん、覚えているよ」
「大きくなったら少しは違いが出るのかなと思っていたら、顔は“ずーっ“とそっくり。
違いは、あそこと胸だけ」
カレンは、静かにミコトの耳元で話しながら
「ミコト、私の夫になれる人はミコトだけと昔から決めている。もちろん法律ではだめだけど。だから一生結婚しないでミコトの側にいる」
耳元で囁きながら目をつむるカレンの腕をミコトは自分の腕で掴むとそのまま振向いて自分の“おでこ”をカレンの“おでこ”に優しくぶつけると“にこっ”と笑って
「カレン。だーめ。僕はカレンの子供が見たい」
そう言ってカレンのおでこにキスをすると部屋を出て行こうとして立ち上がった。カレンも一緒に立ち上がると少し怒った顔をして、いきなり右手でミコトの左頬を殴ろうとした。
瞬間、身を後ろに引くとカレンの右腕の外側に沿って右手を水平に打ち込んだ。当る瞬間に体を引くとミコトの右の平手を“右手こう”で流しながら体をひねって左ひざ蹴りをうち込んだ。
右手を横から垂直に下に落としながら膝蹴りを避けるとそのままカレンの後ろに回り腕でカレンを包んだ。その腕に力がないことが解るとカレンは、体の力を緩ませて下を見ながら
「ミコト」
と言うと
「カレン。いつも一緒だよ。ずーっと」
そう言って後ろからカレンのくびに自分の頬をつけた。
「ミコト。今日も。ね、いいでしょう」
「うん、そうしよう」
少しの間そうしているとミコトは、カレンから腕を離して
「じゃあ、着替えの続きしようか」
「うん」
と言って二人が微笑んだ。
普段はカレンが姉のせいか、二人でいると対外的にはカレンが受け答え多いが、精神的にはカレンはミコトに甘えることが多い。
ちょっとナイショの二人だけの時間も過ぎ、翌日になるとヒサヤマが玄関のブザーを鳴らした。
航宙母艦“アルテミス”のドックヤードに来るとカレンとミコトは後ろから“じろじろ”見たが、なにも変わっていない。
「カレン、ヒサヤマさんが改造されたといって言っていたけど、なにも変わっていないよね」
「うーん、私もそう見える」
どう見ても変わっていない艦の形状にそのまま中に入ってパイロットウエイティングルームに行くとカワイ大尉が待っていた。二人の顔を見ると
「カレン准尉、ミコト准尉、フレイシア航宙軍からの通達がある。これから私と一緒に司令官公室に来てくれ」
カワイの言葉に二人は目を丸くして
「司令官公室」
いつものハーモニーにカワイは苦笑しながら
「驚くことはない。私も一緒だ」
そう言うと“行くぞ”と目配せした。
司令官公室の前でカワイは自分のIDをドアの左側のパネルにかざすとドアが開いた。
「カワイ大尉入ります。カレン准尉とミコト准尉を連れて来ました」
そう言って航宙軍式敬礼をするとカレンとミコトもそれに習った。
目の前にいる三人の高官が答礼すると腕を降ろして
「カレン准尉、ミコト准尉。私はラウル・ハウゼー、この“ライン”の艦長だ。そしてこちらが、もう知っているだろう。ルイス・アッテンボロー大佐。航宙軍航宙戦闘機部隊の大佐。そしてヘラルド・ウオッカー軍事衛星“アルテミス”の航宙軍士官学校の長官だ」
言葉を一度切るとヘラルド・ウオッカーの顔を見た。
ウオッカーが二人の前に来るとスクリーンパッドを目の前にして
「カレン准尉、ミコト准尉、フレイシア航宙軍司令ジェームズ・ウッドランド大将からの通達だ」
そう言うと
「カレン准尉、航宙軍通達第二一条第四項に基づき航宙軍士官候補生の身分を解き、フレイシア航宙軍准尉として二人を航宙軍航宙戦闘機部隊ルイス・アッテンボロー大佐の部隊所属とする」
カレンに正式通達のパッドを渡すと
「ミコト准尉、以下同文」
そう言って笑顔を見せた。
「おめでとう、カレン准尉、ミコト准尉。これで正式に我々の仲間だ。よろしく頼む」
笑顔を見せるアッテンボロー大佐に、二人は緊張した面持ちでなにも言わずに敬礼をしていると
「そんなに固くなるな。これからは仲間だ」
そう言ってカワイ大尉も笑顔を見せた。
カワイを先頭に二人はパイロットウエイティングルームに戻るとカワイの部下が並んで待っていた。そして二人が姿を見せると一斉に敬礼して
「カレン准尉、ミコト准尉。カワイ部隊にようこそ」
二人が拍手で迎えられると、カワイが部下に笑顔を見せながら、
「二人は、特別独立編成部隊“ツインズ”を構成する」
「特別独立編成部隊“ツインズ”」
“なーにそれ“という顔をすると
「私が説明しよう」
そう言ってパイロットウエイティングルームにオゴオリ航宙軍開発センター長が入ってきた。
「二人ともついて来なさい」
オゴオリの後をついて行くと航宙戦闘機射出庫に連れて行かれた。中に入ると横八機、縦一二機の発着ポートの前二機その後続に二機ずつ見たことのない機体が並んでいた。
「カレン准尉、ミコト准尉。これがフレイシア航宙軍最新型航宙戦闘機“アトラスⅣ型”だ。この六機のうち、君たちが乗るは、前の二機だけだ。後ろの二機は君たちにシンクロして飛ぶ。それぞれに名前を付けてくれ。君たちの言葉や思考しか聞かない。この六機が、特別独立編成部隊“ツインズ”を構成する」
一度言葉を切ると
「君たちはお互いにシンクロをしていたが、それをそれぞれに二機に対して行ってくれ。君たちのデータは全てこの二機ずつに入っている。いつもと同じ感覚で飛んでくれ。早速だが、今日の航宙訓練で出てもらう。細かい事はまた、後で説明する」
そう言ってサングラスの下で微笑んだ。
「カレン准尉出ます」
「ミコト准尉出ます」
そう言って二人がハーモニーするように言うと発着艦管制センターから可愛い声の女性が
「カレン准尉、どうぞ」
「ミコト准尉、どうぞ」
とヘルメットの中に聞こえてきた。
同時に六機の“アトラスⅣ型”が航宙母艦“ライン”の底部から射出されるとカレンとミコトは強烈なダウンフォースを感じながら“ライン”から飛び出した。
カレンは、自分に追随する二機に思考を送ると一瞬“えっ”と思った。“ミコト”心の中でそう感じると二機に意識を写した。
ミコトも同じだった。追随する二機の無人機にカレンの意思を感じる。いつもと同じように思考すると二機は“ピッタリ”とついてきた。
「カレン、ミコト、“デルタスリー“」
カワイの声が二人のヘルメットに入ってくると二人は、後続する無人戦闘機“アトラスⅣ型”を二列に並ばせてその上に自分の機を合わせた。
二人は、二機を従えながら〇.一光速の速度で直進すると、急激に上昇しV字形に分かれた。三機がそれぞれに背を三角合わせるようにすると両舷に装備されている荷電粒子砲が航宙戦闘機の底部に移動した。
「ミコト」
その声に反応するようにV字で一度離れたカレンとミコトは、今度は近づきながら一編隊三機、一機二門、合計六門の荷電粒子砲が発射された。トルネードのように束になりながらダミー航宙重巡航艦の右側舷に、カレンは右舷前方からミコトは右舷後方から計一二門の荷電粒子の束が同じ場所に突き刺さると側面防御シールドが強烈な光を出し、荷電粒子の通過を阻止した。
「ミコト、連射」
さらに三角形の二編隊からそれぞれ六本の荷電粒子が射出されると先ほどと同じ側面防御シールドにぶつかった。今度はシールドが少しの光の後、破れると、軽巡航艦の側面に当った。
一瞬抵抗したが、やがて徐々に解けていくと途中で止まったが、瞬時に発射された二射目が同じ側面に当ると今度は一挙に艦の中まで行き反対側の舷側に内側からぶち当たり半分以上を解かした。
「ミコト止め」
“赤い大きな光点”から“黄色い光点”に変わったのを見て取るとカレンは、ミコトに脳波で呼びかけた。別に声を出しているわけではない。
三機一編隊の二編隊が“悶え動く”重巡航艦に荷電粒子砲を射出すると一挙に右舷上方二時方向に上昇した。やがて”黄色い光点“が消滅すると
「カレン、左舷後方、エネルギー波」
一瞬で六機が一糸乱れぬ編隊で三機ずつ両方に分かれると、今まで六機が居た場所に六機まとめた大きさより巨大な閃光が走り去った。
「カレン、左舷上方背面展開後、後方の戦艦を撃つ」
六機が一糸乱れぬ形で大きく背面展開すると六機の底部にある荷電粒子砲から眩いほどの光が射出された。
司令官フロアの“多元スペクトル・スコープビジョン”通称スコープビジョンで見ていた三人も、パイロットウエイティングルームでその映像を見ていたパイロット全員が、声も出なかった。
パイロットの何人かは、自分のコップが手から離れて空間を浮遊しているのに気付いていない。
オゴオリもこれほどとは思っていなかった。
「初めて乗せた。どういうことだ。まだあの二人はシンクロしている機についてなにも知らないはずだ。何故あんなことが出来る。今日は飛ぶのが精一杯と思っていたのに」
オゴオリは二人の能力に“怖さ”を感じ始めていた。
ルイス・アッテンボローもラウル・ハウゼーも開いた口が閉まらなかった。
「オゴオリ大佐、彼らに前もって何か情報を渡していたのか」
厳しい目で見るアッテンボローに
「なにも渡していない。今日始めて乗機したんだ。あの二人は」
ふと思い出すように
「二人のシンクロ率は」
「カレン准尉、ミコト准尉共に無人アトラス機に対して一一〇%です。ほぼ完璧です」
「何だと、今日が初めてなんだぞ。どういうことだ」
「オゴオリ、あの二人の無人機に何を覚えさせた」
目を緩めていないアッテンボローは更に厳しい口調で言うと、さすがにオゴオリも“たじろん”で
「カレン准尉のシンクロ機にはミコト准尉の脳波と癖を、ミコト准尉のシンクロ機にはカレン准尉の脳波と癖をインプットしてある。だがそれは、あくまで理論値だ。徐々にシンクロに慣れてくれればいいと思っていた。まさかこんな結果が初日から出るとは」
アッテンボローも六機で航宙巡航戦艦の両舷から矢継ぎに攻撃しながら沈めた二人に“怖さ”を感じていた。
「カレン准尉、エネルギー二〇%帰還します」
「ミコト准尉、エネルギー二〇%帰還します」
その声に司令フロアの三人は我に返ると
「射出管制センター。無人機のエネルギー残量値は」
アッテンボローの問いに射出時管制をしていた女性が
「カレン准尉同行無人機エネルギー残量三〇%、ミコト准尉同行無人機エネルギー残量三〇%」
アッテンボローとオゴオリは顔を合わせるとどちらかとも言わず笑った。それも声を上げて。
カレンとミコトそして他の四機が“ライン”の底部に来ると誘導ビームがそれぞれの機を包んだ。ゆっくりと底部の射出ポートに入っていくと“アトラスⅣ型“のポートの底が閉まった。そしてポート内のランプがレッドからグリーンに変わると
「エアーロック完了。カレン准尉、ミコト准尉。お疲れ様」
その声がヘルメットの中に流れてくると射出ポートの壁が上から両側に開いた。カレンは、機の上側が開けられ、整備員がパイロットスーツのインジェクションから二本のケーブルを外すと自分もヘルメットについているケーブルを外した。
「ふーっ」
という声を出して、ミコトの機を見ると同じ様な仕草でヘルメットを外した。まだ、パイロットスーツを着ているとまだシンクロモードだ。
“アトラスⅣ型”から降りてくるとカレンに
「カレン、お疲れ様。消費モード六〇%少し休んだ方がいい」
目を丸くしたカレンは、
「貴方たち話せるの」
「カレン、もちろんだよ。出来れば私達にコードネーム付けてくれるとうれしいな」
「えーっ」
という顔をすると笑い顔に戻りながら右手で右側の機を指差して
「ジュン」
左側の機を指差して
「サリー」
「これでいい」
無人機アトラスの丁度パイロットシートに当る部分がグリーンに“チカチカ“すると、カレンは二機が嬉しそうに微笑んでいるかのように見えた。
パイロットウエイティングルームに戻りながら
「ミコト。無人機に名前付けた。私は“ジュン“と“サリー“」
「カレン」
と言って困った顔をすると
「僕も同じ名前付けてしまった」
二人で顔を見合わせると声を出して笑った。アッテンボロー大佐が前から歩いて来たので航宙軍式敬礼をすると
「見事だったぞ。二人とも。初日からあそこまで出来るとはな」
自分の言葉に不思議そうな顔をする二人に
「どうした。何か疑問でも」
と言うと
「いえ、有りません」
アッテンボローが答礼を止めるのを待って自分達も手を下げると
「これからもがんばりたまえ」
そう言って航宙機射出庫のほうへ歩いていった。
「カレン、ところで今回射出される時、ヘルメットに入ってきた声誰だろう。いつもと違う女の人の声だった」
「うん、私もそう思った。可愛い声をしていたね」
「そうだね」
特に気にもせずに歩いているとカワイ大尉が准尉の徽章を付けた女性と歩きながらこちらに向ってきた。
カワイは、二人を見ると
「カレン准尉、ミコト准尉、紹介しよう。君たち二人の専任射出管制官だ。君たちの機の状況や射出時、帰還時のコントロールを全て行う。マイ・オカダ准尉だ。君たちと同じだ」
その女性が敬礼をしながら
「マイ・オカダ准尉です。フレイシア航宙軍の宝、“アオヤマツインズ”の管制官に任命され光栄の至りであります」
二人はその言葉に唖然としていると
「オカダ准尉、冗談はやめよう」
と言ってカワイ大尉がたしなめると
「半分本当よ。でも本当に似ているわね。パイロットスーツを着ていると全く解らない。それに噂以上に可愛い」
それを聞いたカレンとミコトは准尉の徽章の隣にあるネイムプレートに指をやった。
「なるほど。そういうことか」
そう言って、ネイムプレートを見ると
「これからよろしくね」
そう言って二人の手を握った。
オカダ准尉は一瞬“はっ”としたが、ばれないように顔を笑顔のままにしながら、
「またね。君たちの休憩中は私も休憩中だから」
と言って微笑みながら士官食堂に歩いて行った。
「ユーイチ、あの二人」
“どうしたんだ”という顔をしてオカダ准尉の顔を見ると
「ううん、なんでもない。でも」
「どうしたんだ」
今度は声を出していうカワイにオカダは、目を“じっ”と合わせると
「二人の手をさっき握って握手したでしょ。その時」
少し間を置いてから
「カレン准尉の手を握った時、“えっ”と思ったの。手の柔らかさは、女性なんだけど、握力は、男性並み。その握力が、ミコト准尉の手を握った時と全く同じだった。いくら双子だって、そこまで一緒とは」
そこまで言うと自分の言った事がやっぱり理解できない顔になったオカダにカワイは、微笑んで
「マイ、不思議がらなくていいよ。あの二人、特にカレン准尉の体力はその辺の男性パイロットの体力を遥かに上回っている。ちょっと気になって女性パイロットにロッカールームのでのことを聞いたら体は全く女性そのものだって・・」
そこまで喋った時、カワイは自分の左頬に強烈な痛みを感じた。気がつくとオカダの右手がカワイの頬を強くにじっていた。
「ユーイチのエッチ。そこまで聞いてない」
左頬に可愛い痛みを感じながらカワイは、自分が失言した事を悟った。
初めて乗機したアトラスⅣ型を苦も無く乗りこなした二人にオゴオリ大佐、アッテンボロー大佐は、恐れを感じた。ただそれは、恐怖ではなく将来性への未知数に対してだ。そして二人は更なる新しい訓練に挑む。
次回をお楽しみに。