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カレンとミコトの航宙軍物語  作者: ルイ シノダ
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第二章 宙域訓練 (3)

サキは、レイとの同期飛行がうまくいかないことの悩みをレイに打ち明け、その解決策として”二人で一人になりたい”と考えます。

ミコトはカレンが攻撃を受けたことに感情が抑えきれず攻撃をした航宙艦を宇宙のチリにするまで攻撃をしてしまうが。

(3)


「レイ、お願いがある」

サキが下に顔を向けて少し黙っている。レイは“何だろう”という顔をしながらサキを見ていると

「今日、一緒にいてほしい」

下に顔を向けながら言うサキに

「レイ」

と言うとゆっくりと顔を上げて少しだけ目元を潤ませながらレイの顔を見た。

「サキ」

そう言いながらほんの少しの一瞬を過しながらレイは顔の頭を“コクン”と下げて

「いいよ」

と言うとゆっくりと目の前にいるレイラの手の上に少しだけ手を添えた。

カレンとミコト以外の候補生は、一般の宿舎を割当てられていた。地上と違って男性用、女性用といった建物別の違いがない。軍事衛星だから仕方ないことだが。


 レイとサキは実機教練が終了した後、基地内では無く商用区にあるレストランで食事をしていた。

「私、レイのパートナーとしてやって行けるのかな。貴方の足を引っ張っているだけのような気がする。今日だって」

そう言うとサキは下を向いた。サキの言葉にレイは

「うまく言えないけど、サキ、パートナーって二人で一つになるからうまくやれるんじゃないか。もし僕が厳しい状況に陥った時、君はどうする。見ているだけじゃないだろう。身を挺して僕を助けようとするんじゃないか」

時の流れを感じながら身を任せると

「レイ、ありがとう」

そう言ってサキはレイの目を見るとすがるような目をした。

「レイ、二人で一人になってくれる。今日」

「えっ」

時間が流れた。レイは航宙軍士官学校に入る時、首都星“ランクルト”の宙港に行く時見送ってくれた人の顔を浮んだ。それだけにサキの言葉に心が揺らいだ。

「サキ」

それだけ言うとレイは、サキの下を向いている顔の頬に手のひらをあてた。

「レイ、行こう」

サキの言葉にレイは、テーブルを離れた。


「ミコト」

それだけ言うと思考だけに集中した。

カレンは展開して背面になるとミコトの機体の上部に移動した。まるで背中合わせの二機が一つになって瞬時に左に遷移した。その瞬間二人の機の右側に太い緑色の光が過ぎ去った。

「カレン」

それだけ言うと二人のアトラスの底部にある一機二門の荷電粒子砲、四門が放たれた。

更に右上方に遷移すると

「ミコト二連射」

底部から瞬間の音を感じると更に二射目が発射された。やがて、大型の赤い光点が黄色に変わると

「ミコト、全方位レーダー展開、接近後、三連射」

二人が乗機するアトラスⅢ型が、自分達の体の一部のように動くと、瞬時に黄色に変わった光点に三万キロまで近づくと

「ミコト」

瞬間、二人の底部に有る荷電粒子砲から拡散型荷電粒子砲が発射された。

ダミーの重巡航艦の左舷に大穴を開けられると苦しむようにもだえながら艦全部と後部が真っ二つに割れた。

「ミコト、ミッションコンプリート」

「うん」

とだけ言うと大きく右上方に展開しながらミコトに今まで感じたことの無い何かを感じた。

「カレン」

瞬間最大のモードでミコトは背面に遷移した。カレンは体がシートに押し付けられる様に足元へ引っ張られると、直後背中に信じられないショックを感じた。

「カレン」

ミコトは、カレンの機体上部に受けた衝撃を流すように自分の機に近づけさせると上部にある赤い光点に自分の憎しみに近い感情で荷電粒子を発射させた。

ミコトの顔が邪気のような、すさまじい形相になっている。ミコトはカレンが受けた衝撃を同じように感じている。その痛みをアトラスⅢ型に委譲したのだ。乗機しているアトラスのエネルギー残量が三〇パーセント切ってもその連射は止まらなかった。

カレンの機からも発射されている。更に強引なまでに近づくと荷電粒子砲を三連射。完全に二つに別れた艦を正面から蒸発させるまでに打ち据えた。

「ミコト准尉。止めなさい」

カワイの声はミコトには聞こえなかった。完全に重巡航艦が分子レベルまで消し去ると

「カレン」

と言って、シンクロを解いてカレンの機の背中に回った。実戦であれば完全にカレンに機体は縦割りの状態で削り取られていただろう。真白になったカレンのアトラスⅢ型を見ながら

「カレン、大丈夫か」

少しの沈黙の後

「大丈夫、ちょっと油断した」

「体は」

「うん、少しショック受けたけど大丈夫」

「カレン、“ライン”に帰還する」


ミコトは、“ライン”に着艦すると整備員のインジェクタクションのケーブルを抜くのももどかしく、カレンのパイロットシートに昇り

「カレン」

と言ってパイロットシートに体を入れた。

「ミコト、大丈夫」

ただでさえ狭いパイロットシートにミコトの体が入るとカレンは、笑いながら答えた。

「ミコト、模擬弾を受けただけなんだから」

そう言ってミコトの体を押すように体をパイロットシートから起き上がると

「ふーっ」

と言ってパイロットシートから起き上がった。


「しかし」

「諸刃の剣だな。完全にセルフコントロールを失っている」

「だが、あのシンクロは片方が完全にアンコントロールになっても片方の思考で攻撃を続行できるという証明ではないか」

「いえ、自分が言っているのは、あれは我々には出来ないコントロールです。あんな機能がアトラスⅢ型についていたとは自分も知りませんでした」

「当たり前だ。あれは、パイロットの脳波、神経系と体液の流れを感知して機能する。別々の人間が出来ることではない」

その声にルイス・アッテンボロー大佐とユウイチ・カワイ大尉が振向くとタカオ・オゴオリ航宙軍開発センター長が厳しい目付きでスコープ・ビジョンに映る映像を見ていた。

「どういうことですか」

「知らなくていい」

それだけ言うと口元を歪ませた。

カレンとミコトのアトラスⅢ型には、他の機体と違う装備が追加されていた。もちろん最初からあったわけではない。オゴオリが二人の能力を見越して宙域訓練に入る時、追加させたものだ。カワイたちが乗る機体にはついていない。

オゴオリは“予定通りだ”そう思うと司令フロアを出て行った。

アッテンボローとカワイは、面白くない顔でオゴオリの出て行く後ろ姿見送るとカレンとミコトが帰還する様子をスコープ・ビジョンで見ていた。


ミコトは自分達の官舎に帰るなりカレンに抱きついて

「カレン大丈夫か」

ミコトは自分の体の半分が衝撃を受けた感じだった。カレンもミコトと抱き合うと

「大丈夫。でも怖かった」

そう言ってミコトの体に回している腕に力を入れた。

「カレン、ちょっと苦しい」

「あっごめん」

カレンは顔と体は女性だが、身体能力はミコトを上回る力を持っていた。一卵性双生児の性かも知れなかった。

「ふふっ、ミコト今日も一緒に寝よう」

そう言っていたずらっぽくミコトの頬に自分の頬を付けると自分の胸をミコトの胸に押し付けた。


カレンとミコトが、ヒサヤマに送られて航宙軍基地内に入り、航宙母艦“アルテミッツ”に向っていると

「アオヤマたち」

そう言って二人を呼ぶ声が後ろから聞こえてきた。

振向くと

「カレン、ミコト。どうだ。アトラスⅢ型の実機教練は」

例によって質問の意味が分らないという顔をすると

「サキと俺はまだ、アトラスⅡ型だが、お前たちの実機教練の状況を聞きたくてな。今度時間ないか」

カレンと、ミコトが顔を合わせると

「うーん、いつ」

とカレンが聞いた。

「なるべく早い方が。実は俺たちペアなんだけど、いま一つうまく行かなくて。そこでお前たちの話を聞けば何かヒントが出るかなと思ってさ」

そう言ってレイはミコトに“どう”という顔をすると

「どこで」

と聞いた。

「出来れば、基地の外で。今日とか無理」

「今日は無理。実地教練の後、アトラスⅢ型の新しい機能の説明がある」

「新しい機能」

不思議そうな顔をするサキを横目で見ながら

「じゃあ、明日は」

レイの強い誘いにミコトはカレンの顔を見ると“仕方ない”という顔で

「いいよ。今日の夜のうちにメッセージ入れといて」

「了解。じゃあ明日」

そう言って自分達とは別の方向のある航宙母艦にサキとレイは歩いていった。

「ミコト、レイとサキを見た」

「えっ、今見たけど」

「そういう意味じゃない。何か違う。直感のようなものだけど」

「ふーん、全然」

「やっぱりミコトは男ね」

そう言って両方の手の親指と人差し指を合わせると両方のリングを結合した。

「えーっ、でも」

「間違いない。候補生期間中だからいけないなんて規則ないはずだし」

「そうか、まあそんなものか」

答えにならない理解できない言葉をミコトが言うとカレンが微笑んだ。

「私たちは目の前にある私たちの夢を実現する事よ。ミコト」

そう言ってカレンはミコトの顔を見ると目だけで微笑んだ。

二人が“ライン”の中に入り、パイロットウエイティングルームに来ると見たことのないサングラスの男が立っていた。二人を見たカワイ大尉が

「アオヤマツインズ、紹介しよう。こちらは航宙軍開発センター長のオゴオリ大佐だ。本日の実地教練の後、アトラスⅢ型の新機能について説明をしてくれる」

そう言って二人とオゴオリを見ると二人は直ぐフレイシア航宙軍式敬礼をした。

オゴオリはサングラスを外すと

「カレンさん、ミコト君、始めまして。オゴオリだ、宜しく頼む」

そう言って直ぐにまたサングラスを掛けた。


二人はパイロットウエイティングルームを出て、航宙戦闘機射出庫に向いながら

「カレン、昨日やった片方のアトラスによるシンクロを試してみないか」

「大丈夫かな。カワイ大尉からの今日のメニューだと、最初は通常編隊飛行フォースデルタで航宙駆逐艦の直上からの攻撃練習の後、同期飛行による模擬戦闘だよ」

「それ、その同期飛行の時、カレンの機を僕がシンクロしてみる。この前カレンが、攻撃を受けた時、夢中でカレンを助けようとして自然にシンクロしたけど今回はそれを意図的にやってみたい」

「でもミコトが私の機をシンクロさせたってどうやって私は分かればいいの」

「あれだよ。二人しか知らないこと」

「えーっ」

カレンは、ちょっと驚くと

「分かったわ」

そう言って右目でウィンクした。


二人は、既に十分になれたアトラスⅢ型の自機に体を沈めると射出管制に入った。

「カレン准尉、出ます」

「ミコト准尉、出ます」

微塵の差も無く、管制ルームに射出申請をすると

二人は、強烈なダウンフォースを感じながら航宙母艦から射出された。

「カレン、ミコト。フォースデルタ」

カワイ大尉の声がヘルメットに届くと二人は、カレンが下にミコトがカレンの後部上方に少しずれて位置した。そしてそのまま右上方に遷移すると更に同じ位置をお互いに保ったまま右下方に遷移しながらミコトだけ背面になると双方の機の底部に装備されている荷電粒子砲が、三万キロ以内とアトラスⅢ型が判断したダミーの航宙駆逐艦に拡散荷電粒子を発射した。

口径一メートル四門の荷電粒子の束は、航宙駆逐艦に近付くにつれ徐々に拡散していくと全長二五〇メートル、全幅六〇メート、全高五〇メートルの航宙駆逐艦の真上から衝突した。

航宙駆逐艦の上方エネルギーシールドは薄い。簡単にシールドを破ると艦上部が最初は耐える様に見えたが、やがて上部から徐々に解け始めると一挙に艦艇部まで一挙に突き抜けた。

「ミコト、二連射」

二人のアトラスの底部に回っている荷電粒子砲から一射、そして輝きが砲の口から覚めやらぬうちにもう一射すると、既に二万五千キロまで迫っていた航宙駆逐艦のシールドが破壊された上方から一挙に艦内を突き抜けた。

全長二五〇メートルの航宙駆逐艦は、真っ二つにされて宇宙のデブリと化していた。


「なんということだ」

「信じられない」

航宙母艦“ライン”の司令フロアの声は二人にも聞こえるはずも無かった。


今の映像に感心しているカワイとアッテンボローは、次に今日の実機教練“同期飛行”を行うように見えた。

ミコトは、目を真直に見ながら心の中で“カレン”とだけ言うと、二人の機は急速に接近し、双方に背面になると四方に散らばる赤い光点を目指して遷移した。その距離は五メートルも離れていない。常人の知識では、全く想像の外だった。亜光速に近い速度で距離五メートルは、接触しているに等しい。

カレンは、なにも考えずミコトに意識を委ねた。


「なにっ」

始めは、同期飛行による模擬戦闘と見ていたカワイとアッテンボローは、段々少し違和感を感じ始めた。そして、手に段々汗をかき始めると

「これは」

そう言ってアッテンボローの顔を見た。アッテンボローは、なにも言わず、顎だけ引くと

「管制、シンクロ率は」

「はっ、一二〇%を超えました」

「なんだと」

管制フロアの誰もがカレンとミコトの機の動きに注目していた。いや、釘付けになっていると言った方が正しい。

アトラスⅢ型がお互い背面で、たった五メートルの近さで速度〇.一光速で飛行しながら一糸乱れないままに回りの赤い光点を次から次へと消していく。

「アッテンボロー大佐。シミュレーションの必要はないようだ」

そう言ってサングラスの下で笑うオゴオリが後ろから声を掛けた。


ミコトは意思の中で“カレンもうないよ”と言うと

「ミコト、左上方極大」

瞬時に左舷上方に遷移しながら荷電粒子砲を一射した後、三連射で航宙重巡航艦を仕留めた。

「信じられない。何故ぶつからない。あの距離で飛行するなんて」

「理解できない。全く二機で一機だ」

「オゴオリ大佐。一般人では参考にならない」

そう言ってアッテンボローは、オゴオリの顔を見ると

「ふん、誰が君たちの参考にすると言った」

そう言って満足そうにサングラスの下で笑った。


「カレン、帰ろう」

「うん、でも寝てただけなんだけど」

「あはは、じゃあ今度は僕が寝る番だよ」

「ミコト、聞かれてる」

「あっ」

「カレン准尉、ミコト准尉、訓練は終了した。早く帰還しなさい」

訓練とは違うカワイ大尉の声に

「はーい」

と答えるとヘルメットの中で

「ったく」

と声がした。


二人がパイロットウエイティングルームに行くとサングラスの男がいなかった。

“あれ”という顔をすると

「アオヤマツインズ。やりすぎ。オゴオリ大佐は、“もう説明は要らない“と言って帰ってしまった」

“とてもまずい事をしたのでは”と思った二人は、カワイ大尉に助けを求めるような顔をすると

「ははは、能力は他の追随を許さなくても心はまだ子供だな」

と言って笑顔を見せると

「心配するな。ところで“あれ”どっちがやったのだ」

そう聞くとカレンはミコトを見た。

「そうか。まあいい。見事だったかが、今日だけだぞ。わがままは」

そう言ってカワイはアッテンボローと顔を合わせると二人で笑った。


「カレン、やっぱりばれてたね」

「当たり前でしょ。私も最近少し感じているのだけど。どうも私たち少し違うみたい。前はミコトとは二人で一人だからと思っていたけど、それだけではないみたい」

“なんで”という顔をしてミコトはカレンの顔を見ると

「ふふっ、私にも分らない」

ミコトは中級士官食堂のテーブルからすべり落ちそうになった。

「カレン」

「でも、アトラスⅢ型にシンクロモードが有るなんて知らなかった。この前は、カレンの事だけが頭の中に入って、カレンの思考に自分を入り込ませただけなんだ。まさか、僕たちの機に装備されていたとは知らなかった」

「でも、ミコトの意思を私から出しても私の機はなぜうまく動いてくれたのかな」

「たぶん、僕の意思をカレンに写した時、カレンの機体は、それがカレンと思ったんじゃないかな」

「なるほど、それなら説明つくね」


「それを、説明しにオゴオリ大佐は来たんだ。お前達が、先に行ってしまったから、オゴオリ大佐は、“説明の必要がない”と言って、ウエイティングルームに来なかったんだよ」

二人で声のする方向に振向くとカワイが立っていた。

「あっ」

二人ハーモニーをするとカレンは

「聞いてしまったんですね。私たちの“こと”」

「ああ、まあいい。ただ、こんな誰でも耳が立つところで話さないほうがいい。お前たちだけが持っているものだからな」

それを言いながらカワイは、オゴオリがこの二人に何をさせたいのか少しだけわかったような気がした。



カレンとミコトは、常人では考えられない”こと”が出来ていたんですね。結構普段役に立つかも。なんていいながら、それにしても一卵性双生児の力とは凄いものです。

次回もお楽しみに。

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