第九章 そして未来に (1)
開発センター長ホーランドの試みは未完成の仕組みだが故にミコトは失敗に終わらせた。そしてランクルトにいる母親のカノンからのテレコムに二人は理解できない言葉を聞いた。
第九章 そして未来に
(1)
航宙軍開発衛星の開発センターの奥まったところにあるシークレットスポットで謎の物体からの意志を読み込む為のチップの開発は、結局失敗に終わった。
開発センター長のホーランド大佐は、一抹の疑問を持ちながらも何度改良と試験を行ってもシステムが暴走状態に入る原因が分からなかった。二週間続いた開発も結果的に成功までたどり着かない原因を解明できないままに終了した。
カレンとミコトは、第二軍事衛星アルテミスに戻るシャトルの中で
「うまくいかなかったね」
「仕方ないよ。あのシステム、僕たちの思考まで取ろうとするんだもの」
「でも、本当は謎の物体の思考だけがほしかったんでしょう」
「うん、たぶん切り分けができなかったんじゃないかな」
「でもミコト、システムをいつも暴走状態に持って行ったでしょう。私は、ミコトの意識を入れてしまっているから気付かなかったけど」
「うん、僕たちことあまり知られたくないし」
「仕方ないね」
シャトルが、第二軍事衛星アルテミス静止軌道上に乗るため、少し高い軌道から逆噴射しながら高度を少しずつ落としていた。
「ミコト、彼らはなんて言っていたの」
少し間をおくと
「“仲間とか助けてくれとか”。あと他に言っていたけどよくわからなかった。今度の調査の時、こちらから問いかけてみようか」
「そんなことしたら・・・結果が怖い」
「カレンがいやならやめるよ」
二人はシャトルのコンパートメントで話していると
“シャトルA32便はもうすぐアルテミスに到着します。搭乗の皆様は席にお戻りになりシートホールドをお願いします”艦内アナウンスが流れると二人はシートに体をホールドした。
二人がアルテミスに戻ってから三日後、ランクルトのお母さんから連絡が入った。3Dに映る両親の姿に久々の感傷を覚えながら
「お母さん、連絡してくるなんて珍しいね。何か有ったの」
二人の顔をカノン・アオヤマ、二人の母親は“じっ”と見ると
「ミコト、カレン、よく聞きなさい。あなた達が今、接している生命体を大切にしなさい。決して敵対せずに。詳しいことは、今度会う時に話します。それと・・」
カノンは、自分の体に感じた事を素直に話した。
「いけないとは言いません。私たちはそうして生きてきました。種を守るためです。他の種族との交わりは、私たちの能力を衰えさせるものです」
二人を見ながら少し間を置くと
「カレン、ミコト。二人だけを守りなさい」
カレンもミコトも言っている意味が理解できなかった。
「お母さん、どういう意味なのですか」
「カレン、ミコト、今度会う時にもっと詳しく話します。今度ランクルトに戻る日はないの」
「今度の調査には、まだ二カ月あるから帰ろうと思えば帰れるけど・・軍機なのであまり詳しく言えないけど、新しい航宙機の同期テストをしなくてはいけないから。できればその後がいい」
「どのくらい後になるの」
「たぶん、四か月位」
カノンは、黙ると
「わかったわ。ミコト、カレンを守って」
「分かっています」
そう言うと3Dの映像が消えた。
「お母さんの言ったこと理解できた」
「よくわからない。種を守るためとか、他の種族との交わりはだめとか。どういう意味なんだろう」
二人が、会話を始めたころ、軍事基地内の通信設備のある一室の奥まったところで
「ホーランド大佐。通信が戻りました」
今から三〇分前、ランクルトから二人の部屋に連絡が入ったとたん、二人の部屋に仕掛けてある盗聴器がノイズだけになった。いくら波長調整をしても入らず、システム的な故障もないままにノイズだけが入っていた。それが突然戻ったのだ。
「ホーランド大佐。二人の会話に理解できない言葉があります」
ホーランドは、聞こえるようになった二人の言葉を聞きながら“どういう意味だ”そう思うと腕を組んで考え始めた。
フレイシア星系の外縁部、カイパーベルト付近で先の謎の物体との戦闘で失った無人機アトラスⅣ型改三五機の補充を済ませたアテナ大隊は、新型機のシンクロ調整の為、テスト飛行をしていた。
「ミコト、デルタフォーメーション」
全九六機が二組。カレンとミコト達が率いる四八機とカレン二世、ミコト二世率いる四八機が二つの大きなデルタフォーメーションを取ると小さな岩や大きな岩が点在する岩礁帯に突っ込んでいった。
航宙母艦ラインのスコープビジョンでその訓練風景を見ているA3G航宙戦闘機部隊長アッテンボロー大佐と第二艦隊旗艦アルテミッツのスコープビジョンに映るアテナ大隊の訓練風景を見ている第二艦隊航宙戦闘機部隊長タカハシ准将は、同じ考えを抱いていた。
「いつもながらすごい。同じ人間とは思えない。無人機アトラスの動きは理解できるがそれを率いる二人のアトラスⅣ型もとても人間が乗機しているとは思えない。なぜあんな急激な動きに体が耐えられるんだ。いくらパイロットスーツがスペシャルとは言え」
「私の部下をアトラスⅣ型に乗せてもあそこまでの動きは出来ていない。シンクロできるパイロットたちは、何万といるフレイシア星系航宙軍の中でも選りすぐりのトップパイロットだ。その彼らが足元にも及ばない操機を行っている」
アッテンボローは自分の考え、無人機アトラスによる独立編成部隊アテナを創設した事は間違いがないと感じているが、あまりにも他の隊との差に困惑していた。
「ミコト、シンクロ」
それだけ言うと岩礁帯から急上昇した二組の四八機がそれぞれ三機で一つの編成を組むと五千キロほど上昇したのち、前面急旋回を行った。
そして右舷二時方向有る模擬航宙戦艦に狙いを付けると四万キロ手前から荷電粒子砲を発射した。二つの大きなトルネードのようになった収束型荷電粒子が四万キロ先の模擬航宙戦艦突き刺さった。
側面のシールドにぶつかった荷電粒子はまばゆい光を放ちながら一瞬だけ止まったように見えたが、やがてシールドを破り艦の側面装甲にぶつかった。
じりじり溶かしながら装甲を破ると一気に内部に突き抜けた。そしてその勢いのまま反対側の艦の内側に衝突すると内部から外に突き抜けた。
艦の側面に大穴が開いた時、既にアテナ大隊は二射目を三万キロ手前で放っていた。今度は、距離に応じて変わる荷電粒子の束は、拡散型となり、二隻の模擬航宙戦艦の側面にぶつかった。
艦の側面を大きく包むように荷電粒子が衝突すると既にシールドは破壊されているので装甲に直接そして激しくぶつかった。シールドによるエネルギー減衰がない分だけ強烈な光が輝いた。
すでに穴のをあけられているとはいえ、形を留めていたはずの模擬航宙戦艦の中央部が完全に消滅した。後には、前部と後部が残った艦の残骸が二隻分有るのみだった。
「アッテンボロー大佐、シンクロテスト終了です。不良箇所は修正されています」
何回かのシンクロテストで見つかった不良個所が全て改善されているのが分かるとカレンはアッテンボローに報告した。アッテンボローはスコープビジョンに映る映像に驚きを覚えながらも連絡が入ると
「御苦労。アマルテアに帰還しろ」
「了解」
「アテナ大隊全機帰還」
言葉ではなく思考で伝えると二組の四八機がデルタフォーメーションに戻り、A3G方向に戻り始めた。
「カレン」
「うん」
アテナ大隊が急上昇した。
「どうした。アテナワン」
「アッテンボロー大佐。直上にRA」
「なんだと」
「コーレッジ司令官。アテナワンより連絡。第一象限方向に敵味方不明物体発見」
A3G部隊司令カルビン・コーレッジ少将は、アッテンボローからの連絡に
「レーダー管制官。第一象限方向確認」
「はっ」
A3Gの上下方向に展開している七光時の走査範囲を持つ哨戒艦が第一象限方向に自艦のレーダーを向けた。
「司令。発見しました。距離一五万キロ。大型艦一。小型艦二〇。敵味方不明です」
コーレッジは、スコープビジョンが映し出す第一象限見た。以前攻撃してきた謎の物体の大型艦が一隻と哨戒艦レベルの艦二〇隻を映し出していた。
コーレッジはその映像に
「全艦、九〇度上方。攻撃準備」
「第二艦隊本隊に連絡。第一象限方向に敵味方不明艦」
第二艦隊本隊より早くA3Gの全艦が九〇度上方向を向いた。
「攻撃態勢のまま待て」
コーレッジは以前と違って艦の少なさを気にしていた。以前攻撃したときは、七隻の輪が七つあり、哨戒艦クラスは千隻以上を超えていた。しかし、今は、攻撃態勢も取っていない。それに数が少なすぎる。見ていた映像に下方からアテナ大隊が入ってきた。
「アッテンボロー。アテナ大隊を下がらせろ」
「はっ」
「アテナワン。帰還しろ。攻撃は無用だ」
「了解」
「アテナ全機帰還する」
カレンとミコトがジュン二世とサリー二世に思考を送った時だった。突然、謎の物体が、ものすごい速度で動いた。アテナとの距離五万キロ。至近だった。
大きく一八〇度方向を展開し、帰還しようとしたアテナ大隊に急激に近付いた。
「カレン」
ミコトの意識に再度一八〇度方向を転換すると謎の物体に向かった。双方が千キロまで近づいた時、突然謎の物体が逆噴射をしながら航宙を停止した。
そして哨戒艦クラスの小型艦が大型艦の周りを周回し始めた。アテナ大隊も航宙を止めると
「カレン」
「ミコト」
二人は意志を集中させた。
「アテナ大隊は何をしているんだ。謎の物体も」
すでに第二艦隊本隊も九〇度上方に向きを変え、スコープビジョンの正面に映る謎の物体とアテナ大隊の動きを見ていた。
一五分後、謎の物体が、元来た方向に艦首を転換すると宇宙空間に穴を開けるように消えた。
「位相転移航法」
第二艦隊総司令官ヘンダーソン中将は、独り言を言った。その言葉にボールドウィン主席参謀とホフマン副参謀、ウエダ副参謀がヘンダーソンの顔を見たが、気にもしない雰囲気に三人は言葉をかけなかった。
“ミコト帰還する”
“了解”
二人の会話をすると自分たちの母艦アマルテアに向かった。
「アテナ大隊、九八機着艦します」
全機が一糸乱れない編隊を組みながらアマルテアの艦底部の逆U字の発着ポートの真下に来ると誘導ビームが各機を包んだ。
パイロットカバーシールドが開けられ整備員が自分のパイロットスーツについている二つのインジェクションからケーブルを抜くのを見てカレンは、自分のヘルメットのインジェクションについているケーブルを抜いた。
ヘルメット部分を自分で取るとアトラスのパイロットシートから抜け出た。アトラスを降りると隣のポートにあるミコトのアトラスを見た。既にミコトも降機している。
“ミコト”
言葉を使わないカレンの問いかけにミコトは頷くとパイロットウエイティングルームに行った。
“カレン、言葉を使わない方がいい”
今度はカレンが頷くと
“ミコト、今回は、私にもはっきりと分かった”
ミコトに意識を移譲していなかったカレンは謎の物体からの情報を意識の中に埋め込んでいた。
“どうするミコト”
“お母さんと話した方がいいかも”
“でもその前に聴取受けるわよ”
“本当の事を話したら僕たちはどうなるか分からない”
“アッテンボロー大佐を信じるしかないわ。そしてヘンダーソン総司令官も。今まで私たちを守ってきてくれた”
“分かった。カレンの言う通りにしよう”
二人の予感通り、しばらくしてアッテンボロー大佐から連絡が有った。3Dに映るアッテンボローに二人は敬礼をすると
「二人に教えてほしい事がある」
一度言葉を切ると
「謎の物体が至近に来た時、お前たちも航宙を停止した。あの時一体なにが有ったんだ。大型艦の周りを小型艦が周回していただけだ。我々には分からない」
また、言葉を切ると
「君たちには、我々にない色々な能力を持っている。同じ人類と考えたいが、あまりにも優れている。突然変異とか何とかという言葉は使いたくない。今回君たちが彼らとしたことを教えてほしい。私は君たちの上官として君たちを必ず守る」
アッテンボローの言葉に
“ミコト”
“カレン”
二人の意志の会話の後
「アッテンボロー大佐、お気持ち大変ありがたく思います。はっきり言いますが、確かに私たちは彼らと会話しました。言葉を使わずに」
アッテンボローは一瞬だけ目を大きく開けると“やはり”という気持ちが広がった。
「お願いがあります。アルテミスに戻るまで時間を頂けないでしょうか」
アッテンボローは腕を組んで少し考えると
「分かった。総司令官にはそのまま伝える。総司令官に判断をゆだねるしかない」
そう言って短い会話の後アッテンボローの3D映像が消えると
“カレン、当分、これで会話しよう”
“うん”と言って頷いた。二人の周りには色々なところに監視装置がある。それだけに変に疑われたくなかった。もっとも二人には困らないことだが。
ヘンダーソンは二人からの報告をアルテミス帰還後とすると、謎の物体の出現に訓練を切り上げ、軍事衛星アルテミスに戻った。第二艦隊は、その姿を基地の港に現わしていた。
“ミコト、お母さんに連絡しよう”
“うん”
“じゃあ、ジャミング始めるね”
“うん”
しばらくして3D映像にカノン・アオヤマ二人の母親と父親の姿が現れた。
「聞こえていたわ。あなた達の意識を通して」
「えっ」
という二人にカノンはほほ笑むと
「同じよ。私たちの意識は全てに渡るの。いずれあなた達も分かる時が来る。既にカレンとミコトが体を合わした以上そんなに遅くはないわ」
「えっ、そこまで知っているの」
“ふふっ”と笑うと
「当り前よ。二人は私の大切な子供たち。お父さんとお母さんも同じよ」
「えーっ」
始めて聞く言葉に二人は少なからずショックを受けた。
「そんなに驚くことはないわ。この前も言ったでしょう。私たちの血は他の種族の血を混ぜることは許されない。あなた達がそうなることは当然の事なの」
二人が理解できるように少し時間を置くと
「人類に私たちの事を知られてはなりません。“インシュリア”は、人類と違った道を歩んできました。フレイシア星系だけでなく、その星系に合わせた体を持って、我々の仲間は生きています。あの岩礁帯に残った者たちは外に出る事の出来なかった者たちです。あなた達の手で攻撃してはいけません。同じ種族が殺しあうなど有ってはならないことです」
母親の顔が、いつもの自分たちを包むような優しい顔から、まるで絶対に背くことを許さないような目で二人を見つめながら言うと
「カレン、ミコト。人類への報告は共存の道を望んでいると伝えなさい。我々も人類との戦いを望まない」
“じっ”と母親の言葉を聞いていた、カレンとミコトは、頷くとハーモニーのように
「分かりました」
と言った。その言葉に急に母の優しい顔に戻ると
「たまにはランクルトの我が家に戻ってきて。二人の顔を近くで見たいわ」
そう言ってほほ笑んだ。
「ホーランド大佐、だめです。全くノイズしか聞こえません」
「ランクルトのどこから発信されているのか、分からないのか」
「だめです」
ホーランドは苦り切った顔をしながら“あの子たちは一体何者なんだ”そう思いながらも強制的な事は自分たちに何も得るものがない、言いかえればあの二人を敵に回しても何も得るものがないことを知っていたので、ただ諦めるしかなかった。
ついに二人の育ちが少しだけ見えてきました。あまりにも人類より優れた能力を生まれた時から持っていた二人。次回はいよいよ最終回です。
お楽しみに。




