第七章 ランドスケープ (2)
カレンのけがで思いもかけず二人のデータを十分採取したオゴオリ大佐は、自分の長年の計画であった無人機アトラスによる自律航宙戦闘機部隊への開発を始める。その開発も完了し、テスト飛行を行いますが思い通りの動きができない無人機アトラスに怒りを感じ、それをヒサヤマにぶつけます。それでも何とか完成までに持って行ったオゴオリは、とんでもない提案をウッドランド大将に提案しますが。
(2)
航宙機開発センターの奥深くにあるシークレットスポットで数人の開発者が、縦横五メートルはあるセンタースクリーンを見ながら作業をしていた。
「オゴオリセンター長、もうすぐです」
「そうか」
小惑星帯の調査が終了してから、半年が経っていた。
オゴオリ大佐とヒサヤマ中尉は開発ルームの中央に置かれた、二つの青白いクリスタルのボールを見つめながら話していた。
「あの二人のデータは取りこみました。今回新たに開発したアトラスⅤ型(RC43)は、あの二人が乗っているアトラスⅣ型より高性能です。もっとも人間への負担を無視できるので、設計は楽でしたが」
ヒサヤマの言葉に“そうだろうな”という顔をすると青白いクリスタルを見た。
無人機アトラス専用に開発されたアルテミス級航宙母艦“アマルテア”の司令フロアにオゴオリとヒサヤマはいた。オゴオリは、コムを口元にすると
「全機発進させろ」と指示した。
「射出ポート一番から二十四番まで解放。アトラスを射出しろ」
オゴオリの指示に射出管制官が操作パネルにタッチすると航宙母艦“アマルテア”の底部にある射出ポートから二機のアトラスⅤ型と二二機のアトラスⅣ型改が射出された。
すぐに一組三機毎のデルタフォーメーションを取ると四組一二機毎の大きなデルタフォーメーションになった。大きな三角形をした編隊が二組直進している。
アトラスⅤ型は、七万キロ前方に有る模擬航宙戦艦に向かって直進する。一万キロ程飛行したところでアトラスⅤ型が、ほぼ垂直に急上昇した。
「すごい、人間では出来ない」
少し先行する二機と後ろの二二機が開き始めた。急上昇の後の降下でアトラスⅤ型の両弦に着くアトラスⅣ型改が追い付いてこない。先行する三機がシンクロモードを取らないと後続する三組もシンクロが取れずにそのまま急降下した。
二四機同時に荷電粒子砲を発射したが、トルネードの様な束にはならず、バラバラに模擬航宙戦艦の側面シールドにぶつかると、何の変化も無く荷電粒子が消滅した。模擬航宙戦艦には、傷一つ付いていない。二四機のアトラスが再度荷電粒子を放っても同じ結果だった。
「なんて事だ。ヒサヤマ、同期調整は行っているのだろうな」
厳しい表情で睨みつけるとヒサヤマは、一瞬後ろに引くような態度で
「はっ、行いました」
「では、あのバラバラなシンクロは何だ」
オゴオリを見たまま、何も言えないヒサヤマに
「すぐに回収しろ。再度調整する」
そういって、自分の目の前にあるボードを蹴った。
「電子クローンは、アトラスの最大性能を出す様プログラミングしています。Ⅴ型は、Ⅳ型改よりも出力が一〇パーセント高い為、この様な結果になったと考えられます」
「どうするんだ」
ヒサヤマは、自分に責任を押し付けるような言い方に腹が立っていた“自分がⅤ型に載せろと行ったんだろう”不満顔は出さない。
「はっ、一番簡単な方法は電子クローン搭載機をアトラスⅣ型改に変える事です。二つ目の選択肢としては、全機をアトラスⅤ型にする事です」
「Ⅴ型は電子クローンを乗せる為に開発した機だ。単純な無人機の様な訳にはいかない」
「では、アトラスⅣ型改に載せる方を選択しますか」
折角開発したⅤ型を使わずにⅣ型改に電子クローンを搭載することに、オゴオリは躊躇した。“ここでⅤ型を使用しなければ自分の立場は悪くなる。だからと言って・・”
「ヒサヤマ、電子クローンを調整する事は出来ないのか」
「難しいです。元々二人の脳波と思考を電子クローン化しました。あの子たちはいつも無人機アトラスと同性能の機に乗っています。あの子たちがアトラスの最大性能を出す思考で動いていたので今回の結果です。あの子達の思考を読み取る形で後続の無人機は追随しています。電子クローンに制限を掛ける事は、あの子たちの思考にバイアスを掛ける形になります。結果としてどの様な動きになるのかやってみないと解りませんが、それでも宜しいですか」
ヒサヤマの言葉にオゴオリは、少しの間、黙った後、
「分かった。やってみてくれ」
結局、最初の完全無人機のテスト飛行から二カ月後、完全な無人機による編隊が完成した。
「これを更に追加で開発すれば私の立場は不動のものになる。しかし、あいつらを何とかしないと」
口元をゆがめながら笑った。
オゴオリは、軍事統括ウッドランド大将のオフィスに来ていた。
「何だね。オゴオリ大佐。私に頼みと言うのは」
「はっ、完全な無人機による自律航宙戦闘機部隊が完成しました。一度、本格的な航宙戦を行いたいと考えています。ついてはウッドランド提督のお力を頂きたく伺いました」
「本格的な航宙戦」
眉間に皺を寄せながら“何を言っているんだ”そう言う顔をすると
「特別独立編成部隊“アテナ”と模擬戦闘を行いたいと思います」
「何だと」
「例の双子は、この日の為に一〇年以上前から彼らのデータを採取する目的で、フレイシア航宙軍が監視していました。全て無人機による編隊とあの子たちが率いる編隊のどちらが強いか確認したく思います。これからの改良の為にも」
そう言って口を閉じたオゴオリをウッドランドは、怒りの形相で見ていた。
“この男、あの子達を道具にしか見ていないのか”怒鳴りつけたい気持ちを抑えながら
「オゴオリ、許可しない。考えても見たまえ。その模擬戦であの子たちが傷つくような事があれば、お前の首の一つや二つでは、済まないぞ。あの子達は今やフレイシア航宙軍航宙戦闘機部隊のシンボルだ。絶対に許可しない」
そう言って、オゴオリを睨みつけた。オゴオリはウッドランドの気迫に押されながら
「はっ」と言って敬礼するとウッドランドのオフィスを出た。
“何がシンボルだ。あの子たちは、わが航宙軍の為のデータにしか過ぎない。ウッドランド、いつまでもその椅子が安泰と思うなよ”そう思いながら軍事基地を出て行った。
“あの男何を考えている。危険な思想だ”そう思うとウッドランドは、スクリーンパネルにタッチした。
「どうした、オゴオリセンター長。突然の連絡で。何か有ったのかね」
ロナルド・マクガイヤー、マクガイヤー重工の経営者であり、財力にものを言わせフレイシア星系評議会の委員になっている。アトラスの開発にも相当の資金を注ぎ込んでいた。上手く行けば自分の所で一手に受注する事が可能だ。
「マクガイヤー評議委員。頼みがるのですが」
“なんだね”と言う顔をしながら自分の息の掛ったセンター長に尋ねるとオゴオリはウッドランドに却下された計画を話した。
「オゴオリセンター長、またずいぶん大胆な計画を立てたものだな。ウッドランド提督が怒るのも無理は無い。しかし面白い話だな」
“興味あるぞ”という顔を出すと
「もう少し、具体的に説明してみろ」
と言ってオゴオリに催促した。
フレイシア恒星から遠く離れた惑星周回軌道よりもっと外側、フレイシア星系を取り巻く様に外縁部に漂うカイパーベルト(岩礁帯)。フレイシア恒星が引き寄せることの出来なかった宇宙のデブリだ。厚さ、奥行きともに小惑星帯ほど大きく広いという訳ではないが、次のミッション“第二次小惑星帯調査”の為の訓練には最適な宙域で有る。
既に評議会から再度の調査を行う様に命じられている第二艦隊は、この宙域で小惑星帯を想定した訓練を行っていた。先の調査で多くの有能なパイロットが死んでいる。同じ事にならない様に十分な訓練を必要としていた。
“小惑星帯に有った集落が、他の星系の実験施設か、新たな生命体の発見になるかは分からないが、この前の様な事は断じて起ってはならない”その思いがヘンダーソンと第二艦隊航宙戦闘機部隊司令タカハシ准将、そして部下に一番の被害を出したA3G航宙戦闘機部隊長アッテンボロー大佐にも有った。
「ヤング大尉、包囲網の右が薄くなっている。応援に回れ」
第二艦隊は三二隻ある航宙母艦を四つの部隊に分けていた。アッテンボローが指揮するA3G部隊の航宙戦闘機総計一六八〇機の半数が訓練に当っている。A3G航宙戦闘機部隊旗艦“ライン”の司令室で訓練の状況を見ながら指示を出していた。
「“アテナ”の動きはいつもながらすごいな。あれだけの岩礁帯を苦も無く飛び回っているように見える」
「素晴らしい動きです。我艦隊の腕利きパイロット達も感心しています。ただ、もう“技術を教えてくれ”という者はいません。聞いても参考にならないようです」
難しい顔をしてアッテンボローは、3Dに映るヘンダーソンに言った。“いよいよあの計画を実行に移す時が迫っているな。しかし、あの子たちがどう思うか。まだ確か二一になったばかりのはずだ。もう少しそばに置いておいた方が良いと思うが”そう思いながらアテナ二個中隊の動きを見ていた。
二週間続いた今回の訓練も終わりに近付き、最終的な謎の物体の捕獲作戦の訓練を行っている時、第二艦隊旗艦“アルテミッツ”の司令フロアにブザーが鳴り響いた。
「どうした」
「左舷九時方向より、飛行物体接近。高速です」
「敵味方識別は」
「認識できません」
“ここはフレイシア星系の宙域内だぞ”そう思いながら次の報告を待った。
「近づく物体はアトラスです。先頭の二機は新型。後続の四六機は、Ⅳ型改です」
「訓練宙域に近付かない様、忠告しろ」
「反応有りません」
「どこから来たんだ」
既に一〇万キロを切っている。
「敵味方識別無し。アトラス新型とⅣ型改。まさか」
ヘンダーソンは、ウッドランド大将から伝えられていた件を思い出した。
“ヘンダーソン、オゴオリ大佐が良からぬ事を考えている。アテナと新しく開発された自律航宙戦闘機部隊を戦わせろと言ってきた。あの子達から目を話さないでくれ”
その言葉を思い出した。コムを口元にすると
「アッテンボロー大佐、“アテナ”をA3Gの後ろに下がらせろ。左舷からの戦闘機は他の部隊で対応しろ。新しい機体とはいえ、数の勝負だろう。全機撃ち落とせ」
アッテンボローは、一瞬驚いた顔をした後、
「はっ」
と言って敬礼をするとすぐに指示を出した。
アッテンボローからカレンとミコトに伝えられた命令はすぐに実行に移された。“アテナ”がA3G部隊の後ろに動くと九時方向からの識別不明のアトラス二個中隊が急上昇した。
「全機、行かせるな」
急上昇した識別不明機に八〇〇機以上のアトラスⅢ型が覆いかぶさるようにするとまるで相手の機の動きが解るようにすり抜けていった。攻撃をする時間が無かった。
Ⅲ型より二〇パーセントも出力が大きいⅣ型は、最高速を出すと至近ではⅢ型に捉えることが出来ない。
「早い」
「そんなバカな」
腕利きのパイロット達が何も出来ないままに四八機がすり抜けるとA3Gを大きく迂回して後ろに回って来た。
「ミコト」
「うん」
既にヘッドディスプレイに映る認識不明機に“アテナ”はすぐに反応した。
“ジュン”、“サリー”、二人は意識の中で呼ぶと二編隊二四機ずつが急上昇した。双方が全く同じ隊形で突っ込んでいく。一瞬のすれ違いの後、双方一機ずつが被害を受けていた。大きく展開しながら再度、交戦する。
“ミコト”意識の中で感じながらすぐに機体を上に反転させると、まだ展開が終わっていない認識不明アトラス群の最後尾に向けて既に向きを変えた二四機のみで四八本の荷電粒子を発射した。
後続にいた識別不明六機が一瞬にして消滅する。そのまま後ろを取るように近付いて“アテナ”が撃つ瞬間、人間では出来ないほどの急旋回で、向きを“アテナ”方向に変えると残り四一機が荷電粒子砲を発射した。
“カレン”と“ミコト”と後続するアトラスが急速に下方にのがれたが、最後尾の四機がやられた。
そのまま前面展開しながら向きを遷移すると識別不明機群がちょうど底部を見せて展開に映るところだった。
“アテナ”の四三機が底部にある制御スラスタを吹かせながら姿勢を維持し、一斉に荷電粒子砲を発射すると狙いたがわず、半数のアトラスが一瞬にして荷電粒子の餌食になった。
「すごい。信じられない。アトラスの本当の能力はこれなのか」
アッテンボロー自身アトラスⅢ型に乗るとはいえ、こんな動きをしたら体が“ボロボロ”になっている。それ以前にこんな動きが出来ない。
誰もが各艦の各部のスクリーンで高速で動きまわりながら交戦するアトラスを見ていた。
“ミコト”思うとすぐに左前方に行こうとすると認識不明機群の先頭にいる一機が同じ動きをした。
“カレン、間違いない”
“ミコトも分かる”
“じゃあ、あれで行く”
カレンがミコトに意識をゆだねた。一瞬にして二人の機が背中合わせなるとミコトは底部前後に着く制御スラスタを全開しながら姿勢を変化させ、認識不明機先頭の一機を視認すると一挙にその隣を駆け抜けた。
二人が飛び去った後には、コンパートメントだけが残った機体があった。カレンとミコトが背面接近しながらアトラスⅤ型の前方と後方を削り取ったのだ。
すぐに二人が離れると二人の居た場所に荷電粒子が突き抜けた。二人はお互いが前面展開すると認識不明機のもう一機のアトラスを視線に収めた。
瞬時に今度は、背面展開しながら離れる。もう一機も同様な姿になっていた。コンパートメントしかない。
この二機が機能しなくなった途端、他の認識不明機群が推進を止めた。
“ミコト”そう意識すると心の中で“にこっ”と笑った。
「ヘンダーソン総司令官、カイパーベルトの外に航宙母艦“アマルテア”を発見。岩礁に隠れていたと思われます」
「なに」
ヘンダーソンはすぐに
「A2G司令キャンベル少将、すぐにカイパーベルトの外にいる“アマルテア”を捕獲しろ。撃沈するなよ」
「はっ」
「くそ、発見されたか。逃げるぞ」
アルテミス級航宙母艦は、前部に口径一〇メートルの荷電粒子砲を四門持っている。重巡航艦以上の破壊力だ。近づくA2Gに対して二度斉射すると一挙に向きを変えた。
「逃がすな」
航宙母艦の装甲は厚く防御シールドも強力だ。航宙駆逐艦のレールキャノン程度では、破れもしない。
「近距離ミサイル発射」
A2Gがミサイルを打ち出すと同時に“アマルテア”はアンチミサイルを射出した。それでも数の勝負だった。航宙母艦一隻当たりのアンチミサイル一二門に対して飛んできた近距離ミサイルは先行する航宙駆逐艦六隻から放たれた三六本だ。
更にアンチミサイルをくぐりぬけたミサイルに、今度は防御用のパルスレーザー砲一〇門が火を噴く。それでも一四本の近距離ミサイルが後部シールドや側面シールドに当ると眩い光と共に消えた。一度では破れないシールドも二度目のミサイルは突き抜けた。側面装甲に当ると装甲を削り取るように破壊する。
やがて、重巡航艦から放たれた荷電粒子が後部シールドに当ると徐々にシールドを壊しながら推進装置にぶつかった。航宙巡航戦艦や航宙戦艦の主砲では、航宙母艦を完全に破壊してしまう為、荷電粒子砲は撃てない。
後部推進装置に何発かの荷電粒子を食らった“アマルテア”は、やがて徐々に航宙速度を落とした。
「アシュレイ少将、陸戦隊を送り込んで制圧してくれ」
「はっ」
と言うと厳しい顔つきの陸戦隊長が3Dから消えた。
「ウッドランド提督、にわかに信じがたいが。あのマクガイヤーが」
「マクリーン代表、“アマルテア”で拘束した航宙機開発センター長のオゴオリ大佐と衛生担当官ヒサヤマ中尉の自白によるものです。本人に問いただすしかないでしょう」
苦み虫をつぶしたような顔をしながら評議会代表ヤン・マクリーンは、スクリーンパネルにタッチした。
航宙機開発センター程ではないにしろ、必要な設備が整っているアルテミスの軍事基地内の整備室で捕獲されたコンパートメントに装着されていた青白い電子クローンを見ていた。
“ミコト、これってそうだよね”
“うん、間違いない”
“しかし、すごいね。僕たちの会話も聞こえているのかな”
“まさか”
カレンとミコトはオゴオリとヒサヤマの自白でカレンとミコトのデータを取り電子クローン化している事が分かった。
「カレン大尉、ミコト大尉。わざわざ呼び出して申し訳ない。実は二人に協力してもらいたい事が有る」
そう言って技術主任が微笑むと青白く光る電子クローンを見た。
オゴオリとヒサヤマの強引なまでのテストは、カレンとミコトによって見事に打ち砕かれます。しかし航宙軍は、別の視点からこの計画を実施しようとします。
次回もお楽しみに。




