第七章 ランドスケープ (1)
小惑星帯から帰還した第二艦隊率いるヘンダーソン中将は、小惑星帯で取った行動について星系評議会に説明を求められます。一方、カレンは左大腿部損傷という怪我を負いますが、医者も信じられない回復を見せます。そしていよいよ、オゴオリ大佐とヒサヤマ中尉の計画がはっきりしてきます。
第七章 ランドスケープ
(1)
ヘンダーソンは、軍事衛星アルテミスに帰還後、間をおかず軍事統括ウッドランド大将のオフィスに来ていた。
「ヘンダーソン中将、報告書は読んだ。小惑星帯に集落を築いていた謎の物体は、“極めて好戦的で話し合う余地がなかった”と言うのだな。その上、航宙戦闘機部隊へ攻撃を受け、それを守ろうとして更に艦隊まで攻撃を受けた。だから仕方なく集落を破壊したという事か」
「はっ、仕方有りませんでした。そうしなければ、もっと艦隊の被害は拡大したと考えます」
「破壊しないまでも攻撃を仕掛け、攻撃力が弱まった段階で距離を置くという手は無かったのかね」
「あのままでは、謎の物体の“光る攻撃”に対処できないまま、消滅する艦を増やすだけだったと考えます」
ウッドランドは、いずれ招聘されるフレイシア星系評議会での質問を想定してヘンダーソンと打合せをしていた。
「いずれにしろ、あの小惑星帯をどうするかは、星系評議会が決める。もし再調査と言う事になれば厄介だな」
その言葉にヘンダーソンは、
「あれだけやってしまった以上、謎の物体の対応も和平という考えにはならないだろうと思います。そもそも謎の物体が動く仕組みも生命体も発見されていませんが」
「生命体・・」
ヘンダーソンの言葉にウッドランドは、眉間に皺を寄せた。
「ウッドランド提督、ヘンダーソン提督」
星系評議会代表ヤン・マクリーンは、嬉しそうな顔をして握手を求めた。アイゼル議員他、主だった評議会委員が出席している。
「お二人に今回来て頂いたのは、小惑星帯に存在していた謎の物体と二連星の件に関してです」
一度言葉を切ると
「星系評議会としては、第二艦隊の戦闘、つまり相手が全く分からないままに戦闘を行い、小惑星帯の一部を破壊した事を危惧しています。つまり、あれがどこか他の星系の実験施設という可能性が有ります。もしくは新たな生命体か。いずれにしろそれをはっきりしない事には、対応のしようがないと考えています。もし他の星系の実験施設で有れば、それなりの対応が必要になります」
評議会代表は、一度言葉を切るとウッドランドとヘンダーソンの顔を見て
「もう一度行って頂きたい。目的は謎の物体の正体とそれを操る星系を調査する事です」
ウッドランドは、
「謎の物体を操る者が人間でなかったら如何するつもりですか。会話の方法さえ見つからないのです。その上、いきなり攻撃を仕掛けてくる奴らです。正体を掴めといっても無理が有ると思います」
評議委員の一人が、
「その方法は君たちに任せる。その為に君達がいるんだろう」
言葉の主を見て眉間に皺を寄せて睨むと
「マクガイヤー委員。あなたも一緒に行けば良いのでは。如何ですか。そうすれば、第二艦隊の大変さが分かるというものです」
「何だと」
アイエン議員の言葉に顔を真っ赤にして大きな声を出すと
「ヘンダーソン提督、今回の調査では、例の双子もけがをしたと聞いています。すぐにとは言いません。まずは準備にかかる時間を教えてください」
「代表、解りました」
その後、会議は難航した。結局、ウッドランドとヘンダーソンが星系評議会ビルを出たのは、三時間後の一七時過ぎであった。
ウッドランドと分かれたヘンダーソンは、武官にアルテミスへ戻るというとエアカーに乗り込んだ。
「何を考えているんだ。評議会は」
納得いかないままにヘンダーソンは、エアカーの窓の外に映る景色を見ていた。
「カレン、どう左大腿部の調子は」
「うん、問題無い。でもまだ本調子じゃない感じ」
官舎の部屋で、カレンの左足を見ながら言うと
「じゃあ、まだ休暇も有るし、お母さんと会う」
「えっ、ランクルトへ降りるの。行きたいけど、私達勝手に動けないし。ちょっと大変」
「そうか。そう言えば、あれからヒサヤマさんと会っていない。どうしているんだろう。連絡を寄越したけど行ってもいなかったし」
「うん、確かに最近は基地の衛生室もヒサヤマさんじゃないよね」
「もし、何か急ぎでも有れば、また連絡してくるよ」
「そうね」
二人がそんな会話をしている頃、ヒサヤマとオゴオリは、航宙機開発センターの極秘中の極秘と言われるシークレットスポットにいた。
数人の研究者と共に縦横五メートルはあるスクリーンパネルを見ていた。右のスクリーンに映る縦のバーと左のスクリーンに映る縦のバーが上下に激しく動いている。そして一段高いスクリーンに波長の様な映像が何本も左から右へと流れていた。
「信じられません。あの子たちの体から出ている波長は、我々には無いものです。意識的に出しているようです」
「なんだこれは」
「どうも言語中枢から発信されている波長と思考中枢から出ているものが有ります。前者は、まるで会話しているようにお互いが反応していますが、後者は全く解りません。何か同期しているように見えるのですが、それがなにか解りません」
「意味が解らない」
「前者は脳波だけで会話しているという事です。それも距離を選びません。波長と言うより量子の様なものです。後者は、全く不明です」
「何だと」
「センター長こちらを見て下さい。これはあの子たちの体内蘇生のデータです。信じられません。細胞が再生していきます」
オゴオリは、カレンが基地内の病院施設にいる間、二人の体から出る全てのデータと体内のデータを収集していた。もちろん二人には言わずに。
“あの二人は、我々と同じ人間なんだろうか。あの運動能力。パイロットセンス。そして回復能力。まさか蘇生能力まで有るとは。全く常人とは、かけ離れている。一〇才の時から星系軍の完全監視下に置いていたが、このようなデータとは思ってもみなかった”
スクリーンに映し出されたデータを見ながら
「このデータを元に彼らの電子クローンを作りアトラスに載せる。そうすれば、完全な自律航宙戦闘機部隊が完成する。それも常人を超えた戦闘力を発揮してくれるだろう。これは、我フレイシア星系の為に絶対成功させなければならないプロジェクトだ」
そう言って、研究者たちの顔を見た。全員が期待と希望にあふれた目をしている。全員がはっきりとした声で「はい」と言うと自分の前にあるスクリーンに向かった。
“アッテンボロー大佐に呼ばれたけど何だろう”
“解らない。でも悪い事ではなさそうな感じだったけど”
“カレンが言うから間違いないだろうけど”
基地内の通路を歩きながら慎重一七八センチのとても可愛い二人が歩いている。顔も髪型も同じ。手も足もそっくりの動き。違うのはカレンがスカートでミコトがスラックスと言うだけだ。反対側から来る士官や兵が、見ない様にして二人を見ている。尊敬と興味のまなざしで。
二人は、アッテンボローのオフィスのドアの右にあるパネルに自分のIDを近づけるとドアが開いた。中に入り敬礼するとアッテンボローも答礼した。手を降ろして
「休暇中だというのに来てもらって申し訳ない。早くこれを二人に渡したくてな」
と言って、自分の前の机の上に有るケースを一つ取るとふたを開けた。
「大尉の徽章だ。フレイシア航宙軍人事部から届いた。貰っておけ」
そう言って、椅子を立つとカレンとミコトの前に来てケースを二人に渡した。
「大佐。私たちは、これを頂くほどの成果を上げていません。それどころか、敵の攻撃を受け仲間に迷惑を掛けました」
アッテンボローは、軽く笑うと
「いつもながらだな、お前たちは。お前たちの活躍のおかげで主要集落を発見できた。もし、あれを残しておけば、今後ともあそこのそばを通る艦は、攻撃を受けたかもしれない。それを今後は防ぐ事が出来る。十分昇進に値する成果だ。航宙軍人事部は同情や人情で昇進はさせない。フレイシア航宙軍は甘くない」
少し真面目な顔をして言うと
「そう言う訳だ。お前達は、正しく評価されている。ただ昇進に付き物だが、お前たちは、今まで無人アトラス一個中隊二四機を統率したが、これからは、それぞれに一個中隊二四機を統率してもらう。今回の件で無人機アトラスの重要性が十分解ったらしい。これだけでもすごい成果だ。貰っておけ」
そう言ってケースをそれぞれの手に渡した。
アッテンボローの前で胸にある徽章を取りかえるとアッテンボローは敬礼をして
「用はこれだけだ。もう帰ってよろしい。カレン大尉、ミコト大尉」
二人は、きっちりと敬礼すると部屋を出て行った。その後ろ姿を見ながら
「二一才の大尉か。俺は航宙軍に入って五年も必要だったぞ」
と独り言を行って微笑んだ。
アッテンボローのオフィスを出て通路を歩きながら
“ミコト、大尉になったよ”
“うん、何か早いね。責任も増えたみたいだし。一個中隊を見るなんて大変だ”
“ジュンとサリーにそれぞれ一二機ずつ付けるとしても。今まで六機ずつだったから大変だね”
“大丈夫だよ。あの子たち優秀だから”
二人の会話をしながら大尉の徽章と“フレイシア航宙軍トップパイロット”の徽章が胸に輝いていた。
“あれ、レイとサキだ。どうしたんだろう。二人とも休暇中のはずだけど”
“声掛けてみる”
「サキ、どうしたの。二人とも休暇中でしょう」
「うん、ちょっと用事が有って。カレンたちは」
「うん、アッテンボロー大佐に呼び出されて、これ貰った」
レイとサキがカレンの指先を見ると“えっ”と思って敬礼をした。
「ご昇進おめでとうございます」
直立の姿勢で敬礼すると
「ちょっと、ちょっと待って。レイやサキに敬礼されても」
二人は手を降ろすと
「すごいな。航宙軍に入った時から少尉と中尉だったけど、今は少尉と大尉だもの。かなわないな、二人にはやっぱり」
そう言ってサキが微笑むとカレンも微笑んだ。
「あまり実感沸かないんだ。それにこれから一個中隊を見ろと言われて」
困った顔をするミコトに
「えーっ、一個中隊の隊長。すごーい。僕たちは、まだ三番機の位置なのに」
レイは“参った”と言う顔をすると
「僕たちは、休暇返上でアトラスⅢ型のシンクロ訓練。ミコト達の様な驚異的なシンクロは出来ないけど、少しでも腕上げないといけないから」
「そうか」
「じゃあ、急ぐから」
と言ってレイとサキは、基地の中にあるシミュレーションルームの方向へ歩いて行った。
後ろ姿を見ながら
「頑張っているんだ。二人とも」
そう言ってミコトはカレンの顔を見た。
休暇を終えた二人は久々に“ライン”の航宙戦闘機格納庫にいた。
「“ジュン”、“サリー”」
声を掛けると
「カレン、体は大丈夫」
「えっ、何で知っているの。新しい機体と思ったのに」
「うん、機体は新しい。でも頭脳は前のデータを引き継いでいる。そうしないと、壊れる毎に一から覚えないといけないし」
「理屈はわかるけど」
カレンは嬉しいのか何なのか解らないが、とりあえず“サリー”の声に安心した。
特別独立編隊“アテナ”は、無人航宙戦闘機アトラスⅣ型改が二個中隊四八機で構成する布陣となった。この一個中隊ずつをカレンとミコトが率いる。
アッテンボローは、特別独立編隊“アテナ”の母艦で有る“ライン”の射出庫を見ながら、“いずれは、こいつらだけで構成されるようになるんだろうな。時代は変わって行く。航宙軍の方針も考え方も正しい方向だ。人命を大事にし、危険な任務は無人機で行う。正しい。だが俺たちは、今後どうするんだ。・・・いずれにしろ、俺が引退する時までは、人間が飛ぶんだろうが”そう思いながら、横幅一〇〇メートル、縦二五〇メートルは超える空間を見ていた。
「ミコト」
それだけ意識するとミコトの率いる二四機は、右舷方向に大きく展開した。更に“ジュン”と“サリー”が大きく展開し、その両弦後方に三機ずつ付く。その三機を三角形の中心として各支点に三機ずつの無人機アトラスが編隊を組んだ。ミコトは、その最上位にいる。ミコトを含む二四機のアトラスⅣ型が右上方に、急激に上昇すると左舷下方六万メートルにいる模擬航宙戦艦に機種を向けた。全機が三機毎のシンクロモードになると底部にある一機口径一メートルの荷電粒子砲二門を同時に発射した。まるで、口径五〇メートルの巨大な荷電粒子の束が模擬航宙戦艦に向かった。同時に左舷カレンの中隊からも同じ太さの荷電粒子が同じ場所に向かった。
側面を最大防御にしてシールドを展開している航宙戦艦は、一瞬だけシールドが絶えると艦の真ん中に穴が開いたと思った瞬間、粉々に飛び散った。
「一機、一機の攻撃では、歯も立たない航宙戦艦が、一撃で破壊された。航宙戦艦同士の戦闘でもこうは行くまい」
スコープビジョンに映る、“アテナ”の訓練風景を見ていたヘンダーソンは、その圧倒的な破壊力に感心していた。
“あの子たちを必要とする時代が来なければ良いが”そう思いながら、別の宙域でも訓練している有人アトラスⅢ型四八機の訓練を見た。こちらは、模擬航宙戦艦一隻に手間取っている。
「アッテンボロー大佐、ミッションコンプリート」
「ミコト、全方位レーダー展開。“ライン”に戻る」
四八機の無人機アトラスⅣ型改と二機のアトラスⅣ型が、一糸乱れぬ遷移をしながらデルタフォーメーションで帰艦しようとしている。
「最近は、あの子たちの飛行が芸術に見えてくる時も有ります」
ボールドウィン主席参謀の言葉にウエダ副参謀が
「同感です。見事です。そして綺麗です」
ヘンダーソンも全く同感だった。
「“アテナワン”カレン大尉以下二四機着艦します」
「“アテナツー”ミコト大尉以下二四機着艦します」
一糸乱れぬ飛行のまま“ライン”の射出ポートに揃うと同時に誘導ビームが全機を覆った。カレンは機を降りて“ジュン”と“サリー”の所に行き
「“ジュン”、”サリー“お疲れ様」
「カレン、お疲れ様。体内疲労度七〇パーセントを超えています。よく休んで下さい」
「分かったわ」
完全に治ったとはいえ、左大腿部が少し気にはなっていた。
「ミコト、指揮所にレポートパッド出したら、レコーダールームに行くよ」
「うん」
最近、中隊長として腕を上げて来た二人は、必ずいつも訓練後はレコーダールームで訓練を確認する。一点でもミスが有れば、次に生かそうという勤勉さだ。
「カレン、上昇後の降下ポイントが少しだけ、僕の“ジュン”と“サリー”の方が高い」
「そうね、私がもう少し引けば良かったかな」
「そうじゃないと思う。“ジュン”と“サリー”が後続の機との間隔を無理な展開で詰めない様に大きめの旋回をしたからだと思う。ここを見てごらん。あの子たち、ちょっとだけ展開径が大きい。その為に降下ポイントを低めに取ったんだよ。降下後は同じ位置にいる」
本来のライン、青い線に対して無人機が描いた黄色い線がほんの少し膨らんでいる、幅にして一〇〇メートル程度だ。宇宙では、目と鼻の先だ。
「そうか、気を遣いすぎだね。でも僕たちは何も指示しないし。新しい無人機達がなれればもっとうまく行くんじゃないか」
「そうね。今日はここまで」
二人の訓練レコーダーを見ようと他のパイロットも一緒にいるが、全員が頭の上にクエスチョンマークを付けている。二人が出ていくと
「お前解るか」
「不可能だ。俺たちはシンクロでも三〇〇は離れている。まして縦旋回なんてバラバラに近い。降下してから再度調整する」
「その通りだな」
今いるパイロット達も“ライン”に乗っているからには第二艦隊でも凄腕のパイロットだ。
「まあいい、俺達には、俺達の分がある。同じ事をしようとしたら“事故る”だけだ」
アッテンボローは、その会話に悩みを感じた。“連中は双子の事を嫌っている訳ではない。むしろ好意を持って仲間として迎えている。だが、技量の差が有り過ぎるのだ。やはりあの計画を上に進言するしかないのだろうか”
そう思うと少し寂しい気がした。
カレンの怪我も完治し、いつも通りの訓練に励む二人。しかし、他のパイロットとの能力差にアッテンボローは以前から考えていた計画を実行に移す時が来たと考えます。
来週もお楽しみに。




