第五章 ファーストミッション (3)
二連星付近で突然発生した宇宙風の調査と新たに無人機が増設された特別独立編成部隊”アテナ”の航宙テストの為、二連星宙域に再度来た第二艦隊は、予想もしない謎の物体から突然攻撃を受けた。それを本星に連絡すると意外な返答に第二艦隊首脳部は苦慮する。
(3)
“しかし、あの物体は。二連星から来襲したように見えたが、あそこにいるとは思えない。いずれにしろ、今回の映像を技術班が見れば何らかの情報を得れるだろう”。頭の中で考えながら今後の展開を考えていると
「総司令官、被害を受けた駆逐艦の修理が完了しました」
ボールドウィン主席参謀の言葉に
「うむ」
と言って頷くとヘンダーソンは、謎の物体の爆発で捕獲に向わせていたヘーメラー級航宙駆逐艦二四隻の修理作業を終えた高速補給艦が駆逐艦から離れていく姿をスコープビジョンで見た。
「総司令官、統合作戦本部、ウエサト本部長からの返信です」
クレメント艦長からの報告に
「私のスクリーンパネルに転送してくれ」
「はっ」
ヘンダーソンは、一連の状況を統合作戦本部に連絡し、航宙駆逐艦の修理が完了するまで待っていた。昔は高位次元連絡網を使えば距離に関係なく相対位相二週間で連絡可能だったが、最近は、往復一週間で済む。
「どういうつもりだ。これは」
ヘンダーソンは、スクリーンパネルに映る統合作戦本部から内容に腹立たしさを感じた。
「“第二艦隊は、そのまま謎の物体の調査を進めろ”だと、どういうつもりだ。相手が何もかも分らないままに“調査しろ”と言われても。まして先程爆発からも容易に捕獲できるものではない」
「意見具申よろしいでしょうか」
副参謀のダスティ・ホフマン中佐の言葉に、ヘンダーソンは“言ってみろ”という風に頷いた。
「二連星より三光時先にある小惑星帯の調査を行う必要があると返信してはどうでしょうか」
「どういう意味だ」
副参謀の意見に主席参謀イアン・ボールドウィン大佐が言うと
「はっ、今回現れた謎の物体は、二連星方向から来た様に思われますが、我々が設置した、監視衛星からは、なにも反応しませんでした。また、哨戒艦のレーダーにも捕捉できませんでした」
ホフマン副参謀は、二連星を中心とした3D映像を出しながら
「我々は、二連星からフレイシア星系方面に対して監視衛星を配置しました。二連星からきたのであれば必ず監視衛星に網にかかります。二連星から三光時先にある小惑星方向から来たのであれば、監視衛星の網に全く掛からないルートを通る事が出来ます。アルファ二八〇、ベータ二七〇、ガンマ二七〇、つまり二連星の真下からです」
「しかし、それならば、何故哨戒艦のレーダーに掛からなかった」
主席参謀の言葉に
「今回テスト飛行を行う為に同行した哨戒艦数は、二四隻です。後方に第二艦隊本隊がいる為、前方方向へのレーダー走査を重視した為と考えられます」
「それは考えにくいが。哨戒艦のレーダーは、全象限に対して最大七光時の走査能力を持っている。見逃したとは考えにくいが」
主席参謀と副参謀の考察に
「主席参謀、副参謀の意見、傾聴するに値すると思う。実際、二連星を除けば、回りは宇宙空間だけだ。一番近くて三光時先の小惑星だ。だがあそこまで調査に行くには、今回の被害艦の補充と補給物資の補充が必要だ。統合作戦本部には、私から返答しておく。一度“アルテミス”に戻る」
二人の参謀が敬礼をするとヘンダーソンは、コムを口元にして
「第二艦隊全艦に告ぐ。こちらヘンダーソン総司令官だ。隊形を標準戦闘隊形とし、一七〇〇にフレイシア星系に帰還する。以上だ」
パイロットウエイティングルームで次の出動に備えていたカレンとミコトにアッテンボロー大佐が
「もう出番は無い様だ。しかし、オゴオリ大佐も驚いていたぞ。自分達の想定レベルを超える動きだと」
大佐の言葉にカレンもミコトも“そうですか。特になにもしていません”という顔をするとそれを読んだかのように
「凄い子達だな。まあいい。フレイシア星系への帰還が決まった。もう休んでいいぞ」
そう言って、ウエイティングルームから出て行った。カワイ大尉が
「今回は俺たちの出番は無かったな。上の考えは分らないが、とにかくそう言うことだ」二人の顔を見ながらカワイも出て行くと他の待機当番のパイロット以外は、出て行った。
カレンがサキの側に来て
「食堂で一緒に食事しない。ミコトとレイも一緒で」
サキはちょっと複雑な顔をしてレイを見るとその後ミコトの顔を見て
「うん、いいよ」
と言って“にこっ”と笑った。
“カレン、どういうこと”
“うん、たまにはいいかなと思って”
“そうか、まあ出動もないしね”
意識だけの会話でミコトは納得すると
「レイ行こう」
と言って肩を叩いた。
パイロットウエイティングルームは、航宙戦闘機射出庫と同じ階層にある。アルテミス級航宙母艦では最下層だ。と言っても、航宙母艦は、戦艦など他の戦闘艦と基本的に構造が異なる。
射出庫を最低階層とする為、推進装置部分である核融合エンジンは、艦後方につけて射出庫を艦前部に置くという特別な構造だ。よって食堂に行く為には、パイロットウエイティングルームを出て、射出庫の入口の前を通り、更に奥にあるエレベータまで行く。カレンとミコトは、レイとサキを後ろで二人に出来るようにわざと前を二人で歩いた。
エレベータまでは、自走通路で一〇〇メートルはある。
“うまく話しているかな”
“さあ”
他の人には、ただ黙っているだけに見える二人。幼い時に“ふとしたこと”がきっかけで口を動かさなくても意思を通じることを知った。
もちろん他の人、親にも話していない。距離も場所も選ばない不思議な能力だ。故にアトラスで航宙している時でも目の前にいるように意志が疎通できる。
やがて、エレベータの前に来ると二人は、後ろを振向いた。
“あーあ、黙ったままだよ”
“仕方ないよ“
四人がエレベータに乗るとミコトは五階のボタンを押した。“スーッ”と上がるとドアが開いた。出て右に行けば自分達尉官クラスの部屋。左に行けば食堂になっている。
一〇メートルほど行って左に入口がる。ちょうど食事時間もあってか、結構テーブルが埋まっていた。ミコトは食堂の中をぐるりと見ると右奥のほう、食事を受け取るカウンタと反対側に四人がけの開いているテーブルを見つけた。
「あそこ開いている」
そう言うとカウンタの方へ向った。
食事は、いつも三パターンくらいしかない。佐官以上、特に将官クラスともなると結構選べるらしいと聞いているが、自分達のレベルだと人数も多い分、パターン化しないと航宙中の物資が合理化できない。
それでもボリュームもあれば、そんなに悪い味でもない。
飲み物はドリンクサーバからであれば無料だが、カウンタからちょっと上のレベルのワインでも頼もうとすると有料になる。
カレンとミコトは、同じものをトレイに乗せると大好きな“スカッシュ”をカウンタから取ってテーブルへ向った。
「あの二人。羨ましいな」
いきなり言うサキに
「えっ」
とレイが言うと
「なんか、何も言わなくても、ほんと意思が合うというか」
うまく言えないサキに
「だって二人で一人だから、僕たちには分らないよ」
“僕たち”と自然と出てきたレイの言葉にサキは、レイの目を見ると
「そうね。私たちには分らないわね」
あえて“私たち”という言葉を使った。
「レイ、サキ。私たちは先に部屋に戻るわね」
カレンとミコトは、二人だけになるように食事が済むと少しの間、レイとサキに話をした後、食堂を出た。
レイは、二人だけになると言葉が重くなった。サキの目を見て言葉が出ないのだ。カレンとミコトが座っていた時は、言葉の不足、雰囲気をカバーしていたのだが。
「レイ」
サキの言葉にレイは、瞳で答えると
「リラクゼーションルームに行かない」
言葉で表すことなく頷くと席を立った。食堂を出て、エレベータで一つ上に行く。エレベータを降りて左に行き、五〇メートルほど行って左に折れると一〇メートル程行ったところにリラクゼーションルームはある。
三段ほどの階段を降りると右手方向に歩いた。五〇メートル程の壁に擬似的に外宇宙の風景が映っている。もちろんに人間の目では見えない宇宙空間を“ライン”の高性能レーダーで捉えた波長を3Dスペクトルスコープビジョンに映し出すと同じ様に壁に映す出している。
レイは右手奥のソファに座るとサキも同じ様に座った。会話の無い時間が続いた。
レイは、顔は動かさずに手だけサキの手のひらに動かすと、一瞬“どきっ”とした動きをした後、レイの重ねる手をそのまま受け入れた。そのままでいるとゆっくりとサキは、自分の頭をレイの肩に置いて来た。なにも言葉はない。
レイは、そのままにさせているとサキが顔を上げてレイの顔を見た。レイがサキの動きに目を動かすとサキは目をつむった。
レイは、ゆっくりと顔を近づけるとサキの唇に自分の唇を触れさした。そのまま“ずーっ”と時間が経つと、やがて入口の方から音がしたのでサキは、レイから体を離した。少しの間一緒に座っていた後、レイは
「サキ、戻ろうか」
サキは、言葉を出さずに頷くとそのまま立った。
「うまく行っているかな」
「分らないわ。でも二人でしか解決できない事だから」
航宙艦内では、尉官クラスは二人で一部屋だ。カレンとミコトは、航宙軍上層部の配慮で、二人で一つの部屋になっている。少し考えれば当然の事だが。
簡単なシャワールームとベッドが部屋の両脇にあって、ロッカーが二つあるだけの簡素な部屋だ。二人はパイロットスーツを脱ぐとロッカールームに入れてドライのボタンを押すとシャワールームに入った。
「ミコト、なんかおかしい」
「カレンも感じる」
「うん、直ぐに動けるようにしておいたほうがいいような感じ」
「そうだね」
シャワールームを出て髪の毛を素早く乾かすと体だけは休めるようにベッドに入った。
第二艦隊がフレイシア星系方向に航宙している時、一光時後方から着いてくる謎の物体があった。
哨戒艦は前方に展開している。レーダーでは掛からない。やがて第二艦隊が位相慣性航法に映るとその物体は小惑星帯の方向に戻って行った。
第二艦隊は、フレイシア星系に戻りますが、その後を謎の物体が、監視していた。次回は、いよいよこの謎の物体の調査の為、第二艦隊は二連星の更に奥にある小惑星帯への調査に向かいますが。お楽しみに。




