第五章 ファーストミッション (2)
二連星”クレイシア”、”クレイシャス”の宇宙風の調査と特別独立編隊”アテナ”のテストに来た第二艦隊は、予定通り調査の為に探査衛星と中継衛星を設置した。その後カレンとミコトのテスト飛行が始まった時、予想もしていない状況に陥った。
(2)
二連星“クレイシア”、“クレイシャス”
お互いの引力によって引き合い、二連星の中心線を軸に回っている。人の目ではとまっているようにしか見えない。それだけであれば宇宙に煌く星々の一つでしかない。
しかし、フレイシア星系にとって、そして近隣の星系にとって、周期的に発生する二連星からの宇宙風、強力なシータ、イプシロンエネルギーが、全ての事、通信、天候はおろか、生物の生態系にも影響及ぼしている。
そして二連星を取巻く“まゆ“のような緑色の膜が覆っている。二連星をそのまま見れば”膜に覆われた蚕“のような雰囲気をかもし出している。
その二連星の手前六光時にフレイシア星系航宙軍第二艦隊がいた。
「いつ見ても気持ちよくないですね」
多元スペクトルスコープビジョン通称スコープビジョンに映る二連星を見て、航宙軍戦闘機部隊ルイス・アッテンボロー大佐の口から出た言葉に第二艦隊司令長官チャールズ・ヘンダーソン中将は、統合作戦本部長タカシ・ウエサト少将の言葉を思い出していた。
「ヘンダーソン提督、二連星の突然発生した宇宙風を調べて来て頂きたい。今回のエネルギー波は、いつもと周期が違う。突然の発生は、我々には理解出来ない」
一呼吸おくと
「最近発生している原因不明の事故についてです。提督も報告で知っていると思いますが、航宙艦がまるでナイフでリンゴを切るように綺麗に半分が無くなるという不可解な事故が発生しています。それをぜひ調べてきて頂きたい」
そちらが本当の目的だろうという顔をすると
「ウエサト少将、調べると言ってもその状況に居合わせないと解らないのではないか」
「いえ、事故に遭遇した艦から救出された隊員の報告から、見たこともない艦が一瞬光を発したと後、数分後に衝撃も無く艦が消えていったと言うのです。私たちは、明らかに“どこかの星系が秘密兵器の実験をやっているのではないか”と考えています」
「しかし、艦隊規模で出向いてしまっては、来ないのではないか」
「そこで、数隻の艦と航宙母艦を伴い、おとり作戦をして頂きたい。航宙母艦には、万一に備えて、例の双子の編隊を乗せる。万一事故に遭遇しても被害が最小で済みます」
「今何と言った。あの二人はこれからの航宙軍戦闘機部隊を背負っていく子達だぞ。こんな危険な任務に付かせるわけには行かない」
「ヘンダーソン提督、既に上層部は決定しています。私は決定事項としてお伝えしているのです」
「ウッドランド大将も承認しているのか」
「もちろんです。これが命令書です」
と言って、ウエサトは机の上にあるパッドをヘンダーソンに渡した。
そのパッドを見た時、苦味虫を潰したような顔になったヘンダーソンは、統合作戦本部長ウエサト少将を睨んだ。
「本当は、無人機の編隊で今回のミッションに望みたかったんですが、事故の多発に研究が追いつきませんでした。そこで双子の無人機編隊のテストという名目で行ってほしいのです。もちろんあの双子の航宙軍に対する重要性は分かっています。ですから一艦隊を差し向けるのです。現場での危機管理はお任せします」
ヘンダーソンは、まるで“使い捨てのパーツ”程度にしか、あの二人を考えていない作戦本部に怒りを感じていた。
「総司令官、作戦宙域に着きました」
“アルテミッツ”艦長、バーレン・クレメント大佐の声に振向くと“解った”という風に頷いてコムを口元にすると
「第二艦隊全艦に告ぐ。私は、総司令官チャールズ・ヘンダーソン中将だ。これから二連星から突然発生した宇宙風の観測の為、監視衛星の敷設を行う。既に伝えている行動プランに従って実行しろ。行動開始は一三〇〇とする。以上だ」
ホタル級哨戒艦が後ろに下がりアガメムノン級航宙戦艦とポセイドン級航宙巡航戦艦そしてアテナ級重巡航艦が一二隻の輸送艦とタイタン級高速補給艦の前面に布陣するとその横をワイナー級軽巡航艦、アルテミス級航宙母艦が位置に着いた。そしてヘルメース級航宙駆逐艦が後ろに着くと第二艦隊は、二連星方向に向って航宙を始めた。
「レーダー管制官、小さな変化も見落とすな」
「航法管制官、突然の挙動に注意しろ」
「前方防御シールド最大限」
クレメント艦長からの指示に各管制官が素早く動いた。
二連星の一光時手前まで航宙するとフレイシア星系方面を大きく四つの面に区切ってそれぞれに三隻ずつ系一二隻の輸送艦から監視衛星が射出された。
通常の艦艇や物体を監視するのであれば哨戒艦に積んでいる監視衛星で事足りるが、今回は、宇宙風、エネルギー波の監視だ。一隻の輸送艦当たり五〇〇個積み込まれた監視衛星が、積み込まれたまま射出されると本来の形に膨らみプログラミングされた位置に向かって移動し始めた。
第二艦隊方向に大きく四つの宙域に施設された監視衛星から送られてくる情報は、順次輸送艦に積んでいる監視用コンピュータに届けられ、ディスプレイに映し出される。
「総司令官、監視衛星の敷設が終わりました」
ボールドウィン主席参謀の言葉にヘンダーソンは頷くとコムを口元にして
「全艦に告ぐ。これより一光時フレイシア星系方面に移動する。そこで特別独立編隊“アテナ”の航宙テストを行う。移動開始は、二二〇〇とする。以上だ」
ヘンダーソンは口元のコムを外すとスコープビジョンに映る二連星を見た。
“なにも起こらないか”そう思いながらやがて動き始めた艦隊を見た。
全艦が前方にある姿勢制御スラスタを噴射させ一八〇度転換すると各艦の位置はそのままにフレイシア方面に航宙を開始した。
その時、二連星の緑色の膜の中に光るものがあったのを気付いたものはいなかった。
一〇時間後、第二艦隊は、二連星から二光時離れた宙域に来ていた。
「よし、プランAに基づいて特別独立編隊“アテナ”のテスト飛行を実施する。テストに参加する艦艇は、プランBに従い行動しろ。以上だ」
カレンとミコトが乗艦するアルテミス級航宙母艦“ライン”とその僚艦“シューベルト”とそしてヘルメース級航宙駆逐艦一二隻、ホタル級哨戒艦二四隻が動いた。ヘンダーソンはその様子をスコープビジョンで見ていた。
一時間後、
「特別独立編隊“アテナ”発進準備」
「ミコトいくよ」
「うん」
パイロットウエイティングルームの天井のスピーカから流れ出る声と天井近い壁に着いているランプがブルーの回転点滅になると二人と他の訓練に参加するパイロットたちが動いた。
航宙戦闘機射出庫に着くと既に二人のアトラスⅣ型の前には、整備員が待機して待っていた。その後ろに有る、二機ずつの“ジュン”と“サリー”以外のアトラスⅣ型改は、ドームで既に覆われている。
急いでパイロットシートに納まると整備員が、パイロットスーツの二箇所のインジェクタションにケーブル差し込むのを見て自分のヘルメットのインジェクタションにケーブルを差し込んだ。ヘッドアップディスプレイに映像が切り替わると
「アテナワン、発進シーケンス。ジュン、サリーいくわよ」
「アテナツー、発進シーケンス。ジュン、サリーいくよ」
二人のヘルメットにそれぞれの“ジュン”と“サリー”の返事が入ると
「アテナワン、エアーロック解除、発進どうぞ」
「アテナツー、エアーロック解除、発進どうぞ」
カレンは強烈なダウンフォースと共に“ライン”から射出されると“ジュン”と“サリー”の後ろに六機の無人機アトラスⅣ型改が射出されるのを見た。
“ミコト”
それだけ頭の意識の中で思うと、カレンとミコトそれぞれの後ろの左舷後方と右舷後方に“ジュン”と“サリー”がそしてそれらの後ろに更に両舷後方に三機ずつがデルタフォーメーションで並んだ。
カレンとミコトは、最初、二連星の方向に直進すると急激に上方に上昇した。その後方に“ぴたり”と距離が全く変わらずに計一八機が二人の後をついていく。
「信じられない。いつ見ても常人の理解を超えている。初めてだぞ。この飛行は」
航宙戦闘機開発部長のオゴオリ大佐は、カレンとミコトの後ろに着く無人機とそれらの先頭にいる二人の動きに目を奪われていた。
「ミコト、シンクロ」
それだけ言うとカレンとミコトは、“ジュン”と“サリー”が両脇に来たのを感じて意識した。“ジュン”が右舷側に一三五度回転すると“サリー”も左舷側に一三五度回転した。
両脇に有った荷電粒子砲が、底部に移動した。同時にこの三機の両舷後方に位置していたそれぞれ三機の無人機アトラスが同じ隊形に変わった。
「素晴らしい」
つい体をシートから乗り出してスコープビジョンを見たオゴオリは、声を出すとヘンダーソンの顔を見た。ヘンダーソンも身を乗り出している。
「ミコト」
上昇から降下に映ったシンクロモードの三機一組、六組のアトラスは艇部から一斉に荷電粒子砲を発射した。
航宙戦艦の主砲よりも太く見える巨大な荷電粒子の束が五万キロ前方にあるアガメムノン級航宙戦艦の前方を最大防御にしているシールドに当ると激しく輝いた。
やがてはじめ荷電粒子と戦っていたシールドが徐々に破られると一気に航宙戦艦正面装甲に衝突した。鉄の棒が発泡スチロールに突き刺さるように艦の中に濁流のように流れた。
動きが止まったように見える航宙戦艦に
「ミコト」
それだけ言うと、再度六組のシンクロモードしたアトラスⅣ型から荷電粒子が発射された。
既に航宙戦艦まで三万キロを切った荷電粒子は巨大な束が拡散された。正面投影、全幅二〇〇メートル、全高一二〇メートルの航宙戦艦を正面から包むように荷電粒子がぶつかると艦を包むようにしてやがて消えた。エネルギー波が消えると、そこにいた航宙戦艦の姿が完全に消えていた。
旗艦“アルテミッツ”の司令フロアにいた誰もが息を飲んだ。
「艦はどこに行った」
「アガメムノン級航宙戦艦だぞ」
「そんなばかな」
“アルテミッツ”のスコープビジョンには、ついさっきまで有った全長六〇〇メートルの巨大戦艦が後からも無く消えていた。
既に六組のシンクロモードのアトラスⅣ型はターゲットのあった宙域を過ぎていた。
「アッテンボロー大佐、テストBに移行します」
カレンからの声に我に返ったアッテンボローは、コムに向って
「了解、駆逐艦前へ」
テスト飛行に参加しているヘルメース級航宙駆逐艦が前進を始めた。シンクロモードからデルタフォーメーションに戻したカレンとミコトは、駆逐艦隊の後部上方に着くと編隊航宙を行った。
「ミコト」
声を出して伝えると
「カレンも感じた」
「うん。でもレーダーに映らない」
「アトラスのレーダーでは遠すぎるのかも。直ぐに大佐に伝えて」
カレンが伝えようとした時で有った。二連星の方向から二〇個のホタル級哨戒艦、全長一五〇メートル、全高三〇メートル、全幅三〇メートルと同じ位の大きさの物体が近づいてきた。
「何だ、あれは。なぜ哨戒艦のレーダーに掛からない」
ものすごい速度で、テストを行っている部隊の近くに来ると行きなり二〇個の物体が光り輝いた。
「ミコト」
アトラスⅣ型一八機がものすごい勢いで急上昇をした。その瞬間前方に位置していたヘルメース級航宙駆逐艦二隻が、音も無く全長二五〇メートルのうち、前方半分が消えた。
「何だ。あれは。全艦急上昇」
テスト部隊の航宙駆逐艦旗艦“ヘレネ”の司令が叫んだ。その時、また輝いた。更に前方の一隻が攻撃をされた後、残った航宙駆逐艦九隻と後方にいた航宙母艦“ライン”と“シューベルト”の居た宙域の付近にあった、岩礁が消滅した。
「テスト参加全艦。第一級戦闘隊形。“アテナ”は、そのまま戦闘行動に入れ」
コムを口元にしてヘンダーソンは叫ぶと続いて
「第二艦隊、最大艦速で前進。第一級戦闘隊形を取れ」
テストに参加しなかった残りの艦艇が急激に艦速早めた。
「“アテナワン”、“アテナツー”、敵艦の推進装置を壊せ。捕獲するんだ」
「了解」
ハーモニーをすると、デルタフォーメーションのままものすごい速度で謎の物体の後ろに回った。
ヘッドアップディスプレイに映る物体の推進装置から出るエネルギーを目標に右上方から左下方に突き抜けるように攻撃をしながら一組三機編隊計一八機が飛び去ると六隻の謎の物体が動きを止めて浮遊した。
「すごい。あの子たちには、“初めて”という言葉は無いのか」
あまりにも自分達の想像を超える動きにオゴオリは怖さを感じていた。
更に左下方から直上に抜けると更に六隻の謎の物体が動きを停止した。だが、残りの八隻の物体は、“アテナ”の動きに急旋回するとアトラスⅣ型でも追いつけない速度で二連星方面に逃げた。
三〇分後、第二艦隊本隊が、到着した頃、破壊された三隻の航宙駆逐艦と一二隻の謎の物体が浮遊していた。
「直ぐに駆逐艦から生存者を救出しろ」
「謎の物体を確保。アンカーを打ち込んで係留しろ」
「特別独立編隊“アテナ”を帰還させろ」
次々に指示を出すヘンダーソンは、スコープビジョンに拡大投影されている謎の物体を見ていた。
まゆの様だった。先頭が大きく丸く中間に向って細くなり、また大きくスカートのように広がって推進装置なっている。
「何だ、この形は」
「クレメント艦長、戦闘管制システムは、この艦の武器をどう判断している」
「それが」
「どうした」
「武器となる、つまり我々が備える荷電粒子砲、ミサイル、パルスレーザー砲とかが見当たりません」
「どういうことだ」
「私にも分りません。戦闘管制システムの答えです」
「しかし、現にああして駆逐艦が攻撃され・・」
そう言った後、ヘンダーソンは言葉を止めた。“攻撃をしたわけではない。物体の先頭が光っただけだ。しかし駆逐艦は破壊されている”
頭の中で考えながら統合作戦本部長ウエサト少将の言葉を思い出していた。
“これが例の事故か”
いきなり指令フロアにブザーが鳴り響いた。戦闘管制システムが相手の攻撃を感知したのだ。連動して攻撃管制システムが、攻撃方法を設定している。
「どうした」
「総司令官。爆発しました」
謎の物体一二隻にアンカーを打ち込もうとしていた駆逐艦二四隻が、その爆発に巻き込まれた。
「何だ」
謎の物体がいた宙域が突然輝いたと見えた途端、巨大な爆発が起こった。やがて爆発が収まると一二隻の謎の物体が消え、五〇〇メートル手前まで迫っていた二四隻の航宙駆逐艦の大半が前方に防御シールドを展開していたにも関わらず被害を受けていた。
「直ぐに状況を確認しろ」
「はっ」
予想できなかった惨劇にヘンダーソンは左の脇腹が痛むのを感じた。
謎の物体によって予想もしない被害を受けた第二艦隊は、フレイシア星系に帰還する。しかし、フレイシア評議会が出した結論は。
次回もお楽しみに。




