第五章 ファーストミッション (1)
カレンとミコトは、士官学校の同期とは別に一足先に中尉になった。だが、フレイシア星系航宙軍上層部は、先の二連星でのトラブルを調査する為、二人を別の理由で向かわせようとした。しかし星系軍航宙軍開発センターのオゴオリ大佐は別の糸で二人に期待を寄せていた。
第五章 ファーストミッション
(1)
カレンとミコトは、アッテンボロー大佐の命令でフレイシア星系航宙軍統合作戦本部がある航宙軍統括ビルに来ていた。通常、作戦会議などで佐官以上が出入りする。中尉クラスの二人が呼ばれるなど異例中の異例だった。二人で、ビルのエントランスを入ってく行くと奥のエレベータから降りて、自分たちに向かってくるカワイ大尉の姿があった。
ミコトは、カレンと一緒に不思議に思っている自分たちの官舎の事で話しかけた。
「カワイ大尉。何故僕たちは、今の官舎で良いんですか。オオタ少尉やアンザイ少尉は、尉官クラスの官舎に移ったと聞いています」
二人を見ながらカワイ大尉は、
「上が決めたことだ」
そう言うと、自分自身も尉官クラスの官舎にいることに不満はないが、自分より下の中尉が、佐官以上の官舎にいることにはカワイ自身も納得がいかなかった。
「いずれにしろ、お前たちは、アッテンボロー大佐の下で働く。私の下ではない。そう言う意味では、君たちの上官は私では無くアッテンボロー大佐ということになる」
難しい顔をして言うカワイから緊張の面持ちで聞いていると
「まあ、いずれにしろ同じ“ライン”の仲間だ。難しく考えることはなかろう」
そう言って、今度は微笑むとフレイシア星系航宙軍統合作戦本部がある航宙軍統括ビルをカワイは後にした。
カワイは、作戦本部からの命令によりこのビルに来たが、納得のいかない命令に多少の不満を感じていた。ビルの前で自走エアカーを調達すると航宙戦闘機部隊の基地まで移動しながら、アッテンボロー大佐と共に本部長からの次の作戦の詳細を聞いていた。
本来は、大尉レベルでは、聞くこともないはずの内容に“なぜ自分が”という思いが有った。
「カワイ大尉、次の作戦について君の同意を得たくて呼んだ」
細長い体で眼光鋭くカワイをみる統合作戦本部長タカシ・ウエサト少将は、静かに話し始めた。
「二連星の今回の宇宙風の原因調査に行けですって。どういうおつもりですか。本来そのミッションは、宙域気象調査を専門とする部隊の役割ではないですか。なぜ自分が」
「だれも君だけとは言っておらん。あの双子と一緒だ。もちろん君の部下もだ」
理解に苦しむ命令を突きつけられ、その理由も詳しく言われないままに退室させられたカワイは、自分自身が納得いかないでいた。
「オゴオリ大佐、例のプロジェクトの進捗具合はどうだ。今回の作戦に間に合いそうか」
「はっ、全機とはいきませんが、一二機の編成を組めそうです」
「そうか、表面上は、訓練飛行だ。分っているな。これは航宙軍の将来に関わる事だ。」
「はっ」
ウエサト少将に睨まれながら敬礼をするオゴオリは、その腹の中で別のことを考えていた。
やがて、カレンとミコトが招集指示された部屋に行くと外に衛兵が立っていた。カレンが
衛兵に向かって
「第二艦隊航宙機戦闘機部隊ルイス・アッテンボロー大佐直属、特別独立編成部隊“アテナ”所属カレン中尉とミコト中尉です。アッテンボロー大佐の命により出頭しました」
そう言って、衛兵に敬礼すると、衛兵が答礼をした後、
「お待ちください」
と言って、ドアの左壁の上に付いているプレートに向かって、自分のIDをかざした後、
「カレン中尉、ミコト中尉が来られました」
と言った。
アッテンボローはその声にドアを開ける指示をスクリーンパネルにするとカレンとミコトの目の前のドアが開いた。
「カレン中尉、ミコト中尉。よく来てくれた。私は、統合作戦本部長のウエサトだ。よろしく頼む」
そばにフレイシア航宙軍ジェームズ・ウッドランド大将、第二艦隊司令官チャールズ・ヘンダーソン中将、第二艦隊航宙機戦闘機部隊ルイス・アッテンボロー大佐、フレイシア星系航宙軍開発センター長タカオ・オゴオリ大佐の前で二人は、“カチカチ“になりながら敬礼をしていると
「オゴオリ大佐、説明してくれ」
そう言って、ウエサトはオゴオリに目を流すと全員の前で3D映像の“アトラスⅣ型改“が映し出された。
「カレン中尉、ミコト中尉。これは君たちが今乗機している“アトラスⅣ型”の改良型だ。開発コードはRC42、自律航宙を目的として開発された。実際には、まだ君たちのデータを数値化しただけなので、実稼動には不安がある。そこで君たちに協力してほしい」
一呼吸おくと
「いま、君たちが“ジュン”と“サリー”と呼んでいるシンクロ機だが、あれをこの機のマスターとしたい。あの二機に対しての君たちの立場だ」
「つまり、君たちが“ジュン”と“サリー”を引きつれ、その後にこれらの機が追随する形になる。理解してもらえるか」
カレンとミコトは、オゴオリの言葉に疑問を持ちながらも
「私たちは、今のままで飛べばよいということですか」
カレンの言葉に
「その通りだ」
少し、間をおいて
「この機のテストを行いたいが、星系内では不可能だ。色々な目がある。分るな」
また、時間を開けると
「この前の遠征訓練の宙域で行ってほしい。あそこは、近隣星系も近寄らない」
いま一つ納得できないままに上官の命令と受け取った二人は、そのまま敬礼をして“了解”の意を告げた。
航宙軍統括ビルを後にした二人は、航宙軍戦闘機部隊の基地に戻りながら自走エアカーの中で
「カレン、何か違う」
「ミコトも感じた」
「うん。何を考えているのかな。単に自律型戦闘機のテスト飛行というわけではないような気がする」
「ミコトもそう思う。何か別の目的がるような気がする」
この二人の疑問はやがて現実なって二人の前に現れることになる。だが今は、そのことは二人の想像の世界の外に有った。
「ヘンダーソン中将、今回の件、うまく行くと思うかね」
「分りません。相手が見えないので」
目を厳しくしながらカレンとミコトがビルを出て自走エアカーに乗る姿を見ながらウッドランドは、自分の心の中で“しこり”感じていた。
“なぜ、あんな若い有望な者に今回の任務をさせなければならないのか”心の中で消化し切れない気持ちが渦巻いていた。
フレイシア星系は、フレイシア恒星を中心に八つの惑星が公転周期上で回っている。恒星より五光分の位置にある惑星“ミレ”。八光分の位置にある第二惑星“トラント”、そして一二光分の位置にある首都星“ランクルト”、温暖な気候を持つ惑星である。
更に二〇光分の位置に衛星を一つ持つ惑星“カベット”、七〇光分に衛星を二つ持つ資源惑星“カレー”、一四〇光分に衛星を三つ持つ表面がガス惑星の“トレイア”、一七〇光分にやはり衛星を三つ持ち表面ガス惑星“ハック”、二一〇光分に衛星を二つ持つガス惑星“ボージョ”がある。惑星“ボージョ”の外側にはフレイシア星系を大きく取巻くようにカイパーベルトがある。
首都星“ランクルト”の上空一〇〇〇キロには、四つの軍事衛星と三つの商用衛星そして一つの航宙軍開発センターとなる衛星が、首都星に対して静止軌道で回っている。
その軍事衛星の一つ“アルテミス”にカレンとミコトの所属するフレイシア星系航宙軍第二艦隊の基地があった。
普段、基地の中にいれば何一つ不自由する事はない。カレンとミコトの官舎だけは基地の外にあるが、基地の中では、独身官舎、簡単なレジャー施設、映画館、本屋、体育館、レストランなど一通りの施設がある。
カレンとミコトは、基地内のレストランと言っても食堂に“毛が生えた“程度だが、そこで夕食を取っていた。
「ミコト、テスト飛行は、一ヵ月後だから結構、忙しくなる」
「うん、でも何故テスト飛行に第二艦隊全艦が出動するんだろう。それに輸送艦が一二隻も行く。テスト飛行だけなら、そんなに多くの艦艇が行かなくてもいいと思うんだけど」
「分らないわ。でも上層部の考え出し、私たちはそれに従うだけよ」
「そうだね」
二人が食事していると回りの人と言っても軍人だが、通りすがりながら横目で見ている。
ただ、“中尉”という徽章と“フレイシア航宙軍トップパイロット”の徽章が、簡単に二人に声を掛ける雰囲気になっていなかった。
以前は、“女の子の顔した男と女の双子”という“モノ珍しさ”も手伝って近くに来ては“じろじろ”見たり声を掛けてきたりしていた。ヒサヤマ衛生担当官が、“あしらって”はいたが。
「レイとサキ、どうしているのかな」
「そう言えば、あの二人にあったのは、士官学校の卒業試験の時からだから、ずいぶん経つわね」
カレンの返事にミコトは“コクン”と頭を下げるとカレンの眼差しが、別の方を向いているのを見た。
「どうしたの、カレン」
「ミコト、あれ」
「えっ」
ミコトがカレンの見ている方向に体を回すとレイが一人で食事をしている姿があった。
「あっ」
普段、レイは、必ずと言っていい程、サキと一緒に食事をしている。同じ“ライン”に乗艦している仲間だから普段でも一緒にいる二人が、今日は、一人でいるレイに違和感を覚えたのであった。
カレンとミコトが“フレッシュスカッシュ”の入ったグラスを持ちながらレイのそばに行くとミコトが声を掛けた。
「レイ、一人」
ミコトの言葉に頷くと今度はカレンが
「サキは一緒じゃないの」
また、レイが言葉無しに頷いた。カレンとミコトが顔を見合わせると
“ミコト、何かあったみたいね”
“うん、聞いてみる”
“優しくね”
“分った”
常人には聞こえない二人だけの会話をするとミコトは
「レイ、話してごらんよ。二人で聞くから」
そう言って、落ち込んでいるレイの目を見た。
「ミコト」
それだけ言うと、少しの間沈黙が続いたが、“ボソボソ”と話し始めた。
「サキが、“基地内の官舎だから前みたいには、会えない”というからがまんしていたら、この前、別の人と手をつないで楽しそうに話しているところを見たんだ。少し迷ったけどサキに連絡して“あの男は誰だ”って聞いたら“貴方には関係ないでしょ”って言って」
一呼吸おくと
「それ以来、“ライン”の艦内で会っても口も聞いてくれない。“同期ペアも解消したい”と言っている」
「えーっ」
カレンが驚いた声を出すと
「カレン、もしサキに別に好きになった人が出来たなら仕方ないから」
また、間をおくと
「きちんとと聞いてくれないか」
お願いと言う顔をしていうレイにカレンは仕方なく
「分ったわ。レイ、でも聞いて心の整理つくの。心がふらつくとアトラス三型のシンクロは難しいよ。自分で聞いたほうがいいんじゃない」
「連絡しても出てくれない」
「えーっ、サキも重症だな」
ミコトの言葉にますます落ち込むレイに
「分った。私が聞いてあげる」
カレンは寂しそうにしているレイの目を見て言った。
二日後、訓練を終え、“アルテミス”に帰港したカレンとミコトは、航宙母艦“ライン”から出るサキに声を掛けた。
「サキ、今日時間ない。夕食時でも良いけど。基地内のレストランでどう」
少し、考えたサキは
「いいわ」
そう言って笑顔を見せると
「じゃあ、一八時にね」
「うん」
カレンとミコトは、サキたちと違い、基地外にある航宙軍宿泊用ビルの五階の二号室を官舎としていた。理由は、二人に対するフレイシア星系航宙軍の意図があってのものだが。
官舎用のビルまでエアカーで戻ると五階の自分達の部屋に行った。
「ミコトどう思う」
隣同士の部屋でドアを開けながらカレンはミコトに言うと
「うーん、よく分らないけど。何かレイが思っていることと違う感じがする」
「ミコトもそう思う」
「うん」
シャワーを浴びた後、着替えをすると、もう一七時半を過ぎていた。
「カレン、そろそろ行こうか」
「うん」
基地までは、エアカーで一〇分だ。基地に正門ゲートから歩いて五分のところにレストラン“おいしいレストラン”がある。名前の由来は全く理解できないが、カウンタから食事をとる方式ではなく、一応テーブルまで給仕がオーダーを取りに来るので“レストラン”と言っているらしい。“おいしい”と言うのは、好みの問題だが・・。
「サキ、待った」
「ううん、今来た所」
テーブルに二人が着くと給仕がメニューと水の入ったグラスを持って来た。三人は、メニューを見てオーダーすると、サキは二人に向って
「ねえ、航宙軍宿泊用ビルの官舎って、どんな感じなの。私は、基地内の官舎で一応一人一部屋だけど、狭いし、設備も簡素だし、士官学校時代に基地外で借りていた部屋のが、よっぽど良かった」
そう言って二人の顔を見るとカレンが
「うーん、普通だと思うけど」
そう言って、部屋の設備をサキに説明した。
「わーっ、全然違う」
驚いた顔をしながら言うと少し二人の視線を外しながら遠くを見るような眼をして
「会いたかった理由は、レイのことでしょ」
カレンは言葉に頷くとサキは少し黙った後、下を向いたまま
「レイのこと、嫌いになった訳じゃない。“でもこのままでいいのかな”と思ったの。私が航宙軍戦闘機部隊を志望したのは、両親の思いも有ったけど、私自身がアトラスのパイロットになりたかったから。今のままレイと付き合っているとそれがだめになりそう」
一呼吸おくと
「レイは優しくしてくれる。それが私の心に迷いを生むの。アトラスの同期モードで航宙している時もレイは私のことを気遣ってくれる。それでは、もしもの時に役に立たない。だから、レイと距離を置かないと思った」
顔を上げて真剣な眼差しで見るサキに
「じゃあ、レイが見たという男の人は」
「えっ、男の人」
少し考えた後、噴出しそうな顔をして
「お父さん。会いにきてくれたの。私一人娘だから」
「えっ、お父さん」
いつものハーモニーでカレンとミコトが驚くと
「そう、レイ以外には彼はいない。レイに私のこと言うでしょう。言っておいて“一人前に成ったらもう一度会いましょう”って」
サキの気持ちの強さに感心しながら聞いているとやがて給仕が、オーダーした料理を持って来た。
サキの気持ちが分った二人は、結局久々に有ったサキとそれから二時間位食事をしながら話をした後、基地内にある“おいしいレストラン”を後にした。
「ミコト。仕方ないね」
「僕もそう思う。サキの言っている事、正しいと思う。でもお父さんを彼と間違えるなんて」
「つまりお父さんと彼を間違える事がレイに問題があるということね」
「その通りだよ」
エアカーの中で話しながらカレンとミコトは、レイにいう言葉を考えていた。
「そう言うことか」
そう言って下を向くレイに二人は声を掛けることが出来なかった。
結局、レイは、サキとの同期飛行の解消はなかったが、今までのような関係は無くなった。
一ヵ月後、チャールズ・ヘンダーソン中将率いるフレイシア星系第二艦隊は、二連星“クレイシア”、“クレイシャス”に向けて軍事衛星アルテミスを発った。
航宙軍上層部の意図のもと、いよいよ航宙軍に入隊して初めてにミッションが始まります。しかし、そのミッションは、彼らが考えていた世界とは違う状況が待っていた。次回をお楽しみに。




