第四章 卒業試験 (3)
ついにカレンとミコトは航宙軍士官学校を卒業します。”首席卒業生”として。首都星ランクルトから来た二人の両親は、子供たちの輝かしい卒業とこれからの任務に心配しますが。そこに現れたアッテンボロー大佐の言葉に二人の両親は驚きます。
(3)
「カレン少尉、フレイシア航宙軍士官学校主席卒業生としてこれを授与する」
「ミコト少尉、フレイシア航宙軍士官学校主席卒業生としてこれを授与する」
“ランクルト”から上がって来たフレイシア航宙軍士官学校長アレクセイ・ランドルフは、二人に対して主席卒業の証書を渡した。
「あなた」
「うん」
候補生の両親が、航宙軍の招待のもと軍事衛星“アルテミス”の基地内にある航宙軍士官学校に招かれている中で、カレンとミコトの両親は、子供の晴れ姿を見ていた。
「凄いじゃないか。候補生なのに少尉だぞ」
「あなた、子供たちは航宙軍のれっきとした士官です。そして士官候補生です」
少し考えた後、自分の言葉に矛盾を感じたカノン・アオヤマ、カレンとミコトの母親は、「おかしいわね。でもいいじゃないですか」
父親が椅子から滑りそうになりながら目元を緩ました。
「続いて候補生代表、レイ・オオタ准尉が答礼を述べます」
そう言って司会が話すと
「なんでうちの子達じゃないんだ。主席だろ」
「いいじゃないですか。あの子達は主席なのは間違いないし、他の子が准尉なのにあの子達は少尉よ」
そう言って微笑む妻に
「そうか」
父親も目元を緩めた。
「カレン、ミコト。がんばったね。これから大変だろうが、先輩たちの言う事をよく聞いてがんばりなさい」
航宙軍士官学校の卒業式が終わり、両親と二年ぶりの対面を果たした卒業生たちは、楽しい時間を過していた。
カレンとミコトの両親も可愛い子供の顔を見ながら心配そうな顔をして、二人を抱き締める父親に
「“アオヤマツインズ”のお父さん。二人の胸にある徽章をご覧下さい」
カレンとミコトの近くにいたレイが、二人の両親の側に近寄って言うと
「えっ」
と言って“何が”という顔をした。そしてカレンとミコトの少尉の徽章の隣にある徽章を見て
「カレン、ミコトこれは何だ」
その場にいた候補生全員が滑りそうになった。
「えーっ、知らないんですか」
「いや、私も航宙軍にはいたが、このような徽章は見たことがない」
レイは苦笑いすると
「その徽章は、“フレイシア航宙軍航宙戦闘機部隊トップパイロット”を証明する徽章です」
レイ・オオタの言っている言葉に理解できないでいると
「カレンさんとミコト君のご両親。始めまして。私はフレイシア航宙軍航宙戦闘機部隊ルイス・アッテンボロー大佐です」
いきなり現れた二人の両親にとっては高官のアッテンボローに驚きながら顔を見ていると、二人の士官学校に入ってからの功績を話した。
「この子達が、ですか。信じられない」
父親の言葉に
「カレン、ミコト、危ない事してはだめよ」
本当に心配そうな顔をして言う母親にカレンとミコトは目元に涙を浮かべながら
「お母さん、大丈夫です。私もミコトも危ないことや怖いことはしていません」
そう言って微笑むと
「そっ、そうを」
そう言って判断しきれない顔をした。
「カレン、ミコト、今日は“パープルレモン”貸切で士官学校卒業生の卒業パーティをやるんだ。もちろん来るだろう」
レイとタクヤが、二人に近づいて言うと
「もちろん」
といつものハーモニーで応えた。
「じゃあ、一七時からだ。普段着に着替えて来いよ。俺たちもそうする」
そう言ってサキとレイナと一緒に別の卒業生のところへ行く後姿を見ながら
「お父さん、お母さん、今日は航宙軍が手配したホテルでゆっくりして。明日、“アルテミス”を案内する。迎えに行くから待っていて」
カレンはそう言うと
「お母さん、そうさせてもらおう。宇宙は、やはり地上と違って、同じ一Gに合せているといっても何か違う」
「そうですね。私もそう思います」
「じゃあ、エアカー用意するから待っていて。ホテルに送った後、僕たちも官舎に戻ることにする」
カレンとミコトが両親と一緒にエアカーに乗り、航宙軍が用意した卒業生の家族用のホテルに両親を降ろすと自分達は、官舎に戻った。
二人がいる官舎には、アッテンボロー大佐の他にも佐官クラスの航宙軍士官がいるがあまり会うことは無い。官舎としているビルの入口・・というより大きな建物の玄関と言った方が相応しい・・を入るとヒサヤマが立っていた。
「あれ、ヒサヤマさん。どうしたんですか」
ヒサヤマが二人に笑顔を見せながら
「うん、今日、“パープルレモン”で卒業生たちの記念パーティがあるでしょう。あれに私も出席する。もちろんOGとしてね」
“えっ”という顔をする二人に
「一六時半頃迎えに来てあげる。それまでに準備しておいて」
「あっ、はい分りました」
カレンの答えに
「じゃあ、後で」
と言ってビルの玄関を出て行くヒサヤマの後姿を見ながらカレンとミコトは目を合わせて不思議そうな顔をした。
ビルの玄関を出た後、二人がエレベータに乗ってあがるのを見届けたヒサヤマは、ポケットからモバイルコムを出すと、口元に当て
「二人とも予定通り、両親をホテルに送った後、官舎に戻りました。この後、卒業記念パーティに同伴します」
一拍おいて
「ご苦労。定時報告を忘れないように」
「はっ」
それだけ言うとヒサヤマはモバイルコムをポケットにしまって、エアカーに乗り込んだ。ヒサヤマも依然、二人の官舎用のビルから五分ほどの佐官用官舎を宿舎としている。
「ヒサヤマさん、士官候補生だった頃なら僕たちの側にいる理由は理解できるけど、さっきの事、どういう意味だろう」
ミコトが、まだ航宙軍士官服のままでいながらカレンに言うと
「さあ、また私たちの世話をしてくれるのかな」
「でも、世話と言っても、前は、この“アルテミス”で過すに当っての世話とか、基地内の通行許可とかで必要だったけど。いまは、それって僕たちに必要ないし」
二人が分らないままに着替えを始めた頃、
「レイ、もう一緒にいる時間少なくなるね」
「どうして、同じ部隊に配属なんだし、サキは僕のパートナーだよ」
「そういう意味じゃなくて」
レイの側によって目を見つめるとサキはレイの顔に自分の顔を近づけた。ゆっくりとレイがサキの肩に手をかけ、自分の唇をサキに近づけるとサキは目を閉じた。
少しの時間そうしていると、ゆっくりとレイの腕を持って唇を離すと
「レイ、尉官クラスの官舎は、一人一人別々だけど、候補生時代と違って軍の官舎になる。回りには、仲間が一杯いる。今のようにこうやって二人で会うことは難しくなる」
「サキ」
レイは、頭の隅に残るある事を思いながら、答えを出せないサキの問いに口を閉ざしていた。少しの間、頬をレイの頬に付けて“そっと”しているとサキは、
「いいわ。とりあえず、配属先に慣れるまでは、訓練に励まないといけないし。レイとあっている暇な無いかもね」
そう言って体を離すと着替えを始めた。
カレンとミコトがパープルレモンに行くと士官学校同期卒業生のほとんどが集まっていた。ドアを開けるとみんなの目が一斉に二人に注いだ。いつものことだと思っていると
「カレン、綺麗」
淡いピンクのワンピースを着ているサキが、二人に寄って来た。普段、いくら顔が可愛いとはいえ、士官の服装をしている。さすがに私服を見たことはあまりないサキは、カレンの洋服を見て驚いていた。
ミコトは、ジーンズに軽くシャツを着ているだけだ。サキは、ミコトを見ると“ふーん”という顔で流した。
「でもミコトもかっこいい。似合っているよ」
レイの言葉に少し照れた顔をすると、
「うーん、やっぱりミコト、カレンと同じ洋服着たら」
サキの言葉にレイとミコトが一瞬滑りそうになると
「さすがにそれはないだろう」
と言って、レイがサキの顔を見て“言いすぎだ”という表情をした。四人のところにレイナとタクヤがやって来てにぎやかに話し始めるとパーティの幹事が、
「レディースアンドジェントルマン。フレイシア航宙軍第一二七期士官学校卒業生諸君。今日は、我々の二年間の努力が報われ、晴れて士官学校を卒業し、航宙軍航宙機戦闘部隊に配属になる前の自由なスリットタイムだ。大いに飲んで今までの努力をお互いに賞賛し、今後の期待に繋ごうではないか」
カレンとミコトは、一般士官候補生と全く別の扱いを受けて来ていた為、レイやサキから“どんな教練を積んでいるか、周りの仲間の状況はどうか”などの情報は貰っていたが、人間関係は全く想像の外だった。それだけにもう記憶にない、元士官候補生の一人が司会の言葉を言い始めても“ピン”と来なかった。
不思議そうな顔をする二人に
「あいつは、候補生の時から“お祭り”の仕切りが好きな奴さ。気はとてもいい奴だ。後で紹介するよ」
そう言ってレイは二人に微笑んだ。
その夜、“パープルレモン”では、閉店を過ぎても帰らず、遅くまでにぎやかだったのは、想像に難くない。
カレンとミコトも少しだけ羽目を外したが、二人を見つめるヒサヤマの目は、完全に仕事の目をしていた。
翌日、翌々日とカレンとミコトは、軍事衛星“アルテミス”の内部と言っても、特殊軽合金クリスタルパネルで覆われた田園地帯の散策と食事、そして商用区で“アルテミス”お土産グッズなどを買ってあげるとその翌日に首都星“ランクルト”に降りた。
カレンとミコトは、フレイシア航宙軍士官学校を卒業すると、レイやサキともに、アッテンボロー大佐率いるフレイシア航宙軍第二艦隊所属航宙戦闘機部隊に配属された。レイナとタクヤは、別の部隊となった。
レイとサキは、小隊の新人として組み込まれるが、カレンとミコトは、正式にカワイ大尉が管轄するフレイシア航宙軍初めての無人機四機を含むアトラスⅣ型六機の特別独立編成部隊“アテナ”を構成することになった。
名前については異論もあったが、二人の容姿とその力量からウッドランド大将までが
「いいじゃないか。ぴったりだ」
と言う事で決まった。
これによりカレンは“アテナⅠ(ワン)”、ミコトは、“アテナⅡ(ツー)”のタックネームを貰うことになった。“ジュン”と“サリー”は既に二人の脳波認証で無人機の人工知能に組み込まれてしまった為、それぞれカレンとミコトが使用する事になっている。
通常、伝達が言葉ならば混乱をきたすが、無人機に対しては、脳波しか反応しない為、問題ないということで採用された。
「カレン少尉、フレイシア航宙軍からの通達だ。カレン少尉を本日付で中尉へ昇進する」
「ミコト少尉、以下同文だ。おめでとう二人とも」
緊張した面持ちでアッテンボロー大佐の言葉を聞いた二人は、目を輝かした。
「カレン中尉、ミコト中尉、本日付でフレイシア航宙軍第二艦隊航宙戦闘機部隊所属とする」
そして言葉を切った後、微笑んで
「ようこそ我隊へ」
そう言って二人に握手した。
後ろに座っている第二艦隊のパイロットのうち、アッテンボロー大佐が統括する七五〇名が大拍手をするとカレンとミコトは、恥ずかしそうな顔をして隊員に向って頭を下げた。
「続いてレイ・オオタ准尉」
「“アオヤマツインズ”任官おめでとう」
任官式が終わったカレンとミコトは、二人の後ろから声を掛けられ、振向くと
「ヒサヤマさん」
士官候補生のまま航宙軍に配属され、基地内の出入りが自由となって以来、三ヶ月間の間、二人の前から消えていたヒサヤマ衛生担当官が声を掛けた。
嬉しそうな顔をして二人に近づくヒサヤマは、
「これからは、航宙軍第二艦隊の航宙母艦“ライン”の衛生担当官として二人に接することになります。身分は中尉。二人と同じよ。でも直ぐに私が敬礼する日が来るわね」
そう言って敬礼するとカレンとミコトも微笑みながら
「こちらも宜しくお願いします」
いつものようにハーモニーしながら二人は敬礼をした。
カレンとミコトは期待に胸を膨らませ、これから始まるであろう、広域航路探査や宙賊対策の為の輸送艦護衛の航宙に夢を馳せたが、現実には、二人が想像もつかないミッションはもう直ぐそこに迫っていた。
今までの成果が認められ他の候補生より一足先に中尉に昇格した二人。航宙軍のこれからのミッションにに胸が踊りますが、実はとんでもないミッションが待っていました。二人の物語は、これからが本番です。
お楽しみに!!




