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カレンとミコトの航宙軍物語  作者: ルイ シノダ
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第四章 卒業試験 (2)

カレンとミコトは、他の航宙士官学校の候補生が乗る”ネレイド”で他の候補生一〇機対二機を四回行うと言う卒業試験を行った。しかし、結果は、一瞬で終わった。これにより二人は主席卒業生という名誉を受けることになるが。

(2)


「サキ、左舷上方」

「はい」

二人の左真横から来る二機のアトラスⅢ型を避け、後方に回り込むため、急上昇すると左真横からの二機も急上昇した。

アトラス三型の底部前方にある制御スラスタを噴射させて、強烈なGを感じながら後ろに回りこむと荷電粒子砲を発射させた。直後、後方からエネルギー波が接近した。

「カレン、このまま」

急激に回転しながら水平に戻すのを止めて回転を続けると、今二人が居た宙域を後方から来た四本の荷電粒子が過ぎ去った。

「サキ、〇時方向直進後、九〇度前方回転。そのまま後方に回る」

「はい」

後方から荷電粒子を発射した二機がレイとサキの下を通り過ぎると一挙に後方に付いて荷電粒子砲を発射させた。

狙いたがわず、前方の二機がヘッドディスプレイから消えると

「サキ、レーダー全方位。注意を怠るな」

「はい」


「やるなあ、レイとサキは」

パイロットウエイティングルームにあるレコーダールームの映像に映る二人のアトラスを見ながらミコトが感心しながらカレンの顔を見ると“にこっ”と笑って

「凄いわね。ここまでできるようになったんだ。タクヤとレイナも生き残っている見たいだ」

「うん」

そう言って、感心していた。


二人が“ネレイド”のパイロットウエイティングルームに来て四クラスの模擬戦闘を見終わると先ほどの教官が

「カレン少尉、ミコト少尉、彼等を収容して休憩を取らせます。一四〇〇に発進お願いします」

そう言って敬礼をした。


「カレン少尉、発進シーケンス」

「ミコト少尉、発進シーケンス」

二人はハーモニーしながら“ネレイド”の発着ポートから射出されると“ライン”とは違ってゆっくりと降ろされるような感じがした。

「ミコト」

笑う声が頭の中に入ってくると

「カレン、仕方ないよ」

そう言ってミコトはアトラスⅢ型をカレンの機に合わせた。アトラスⅣ型から比べれば推進力も二〇%低く、シンクロモードも付いていない。しかし、フレイシア航宙軍では最新鋭の機体だ。

前方に映る一〇機のアトラスを視認すると

「ミコト」

同期飛行で四万キロまで近づくと前方から緑色の光が迫った。瞬間二機はその一〇機の前から消えた。

そのまま直進してくる士官候補生は、自分達が“撃墜したのか”という錯覚に陥った瞬間、ミコトは前面に位置するアトラスⅢ型の右舷下方からカレンは左舷上方から同時に直進して、片側五機ずつをなで斬りするように荷電粒子のダミーエネルギーを照射した。

そして士官候補生のアトラスⅢ型一〇機が一瞬にして二人のヘッドディスプレイから消えた。


「そんな、いくら差が有るとはいえ」

レコーダールームで映像を見ていた教官は、模擬戦闘開始二分で一〇機がやられるとは思っていなかったらしく口を開けたまま、しばらく声が出なかった。

噂には聞いていたもののレイとサキ、タクヤとレイナも唖然としていた。

カレンとミコトから見れば士官候補生のアトラス軌道は、赤ちゃんの“ハイハイ”より簡単に見えた。

「カレン、終わったよ」

「うーん、どうしよう」

「“ネレイド”一回目の模擬戦終了です。この宙域で待ちますか」

カレンからの通信に司令フロアでも司令官以下開いた口が塞がらないでいた。

主任教官が、我に返り

「次を出せ」

とコムに向って怒鳴るとそれから数分後、

“ネレイド”の射出ポートから一〇機のアトラスⅢ型が射出された。今度は、三機、三機、四機のデルタフォースまがいの編隊を組んでいる。

ひとつ覚えのように様に射程五万キロから二〇本の収束型荷電粒子が発射されるとカレンとミコトの機に向っていった。その時、既に狙い定めた位置に二機はいなかった。

背を合わせる様にほぼ一機のような状態で急速に上方から迫り二万五千キロの位置から拡散型荷電粒子四本の束が発射されると一〇機に近づくに従い拡散し、一気に全てを飲み込んだ。

「終了」

一〇機が“ネレイド”から射出されて三分も経っていなかった。簡単なカレンの声に

“ネレイド”側はまだ声が出なかった。


「まだ、現宙域で待ちますか」

カレンの声に、さすがの主任教官も

「司令、どうしますか」

「司令」

スコープビジョンに映る影像に信じられないままにいる司令に二度声を掛けると我に返った司令は

「卒業試験項目だ。続行」

次に出てきたグループには、レイとサキが含まれていた。

“ネレイド”から射出された一〇機は、今度は一本の矢のように縦重陣で迫ると

「ミコト」

ミコトは同期飛行から横展開でカレンの機に背面に映ると側弦にあった荷電粒子砲が底部に移動した。

ものすごい速度で俯角三〇度に潜ったと思った途端、カレンから見て右上方二時方向に上昇しながら一〇機の縦重陣を縦に巻きながら荷電粒子砲四門を発射した。

発射しながら過ぎ去ると一〇機のアトラスがダミーエネルギーを受けた状態で浮遊している。

「主任教官、次」

次に“ネレイド”から出てきた八機は、タクヤとレイナを含んでいた。

今度は二機が“ばらばら”になって覆うようにカレンとミコトの機に迫った。そして同時に二人の飛行していた宙域に収束型荷電粒子の二〇本の束が到達すると、さすがに今度は仕留めたと誰もが、“ネレイド”の卒業試験を見ている誰もが思った。

瞬間、上方から四本の拡散型荷電粒子の束が、近づいたと思った瞬間、四機がダミーエネルギーを受けた。そのまま下方に飛び去るとそれを追いかけるように四機が付いてきた。

「ミコト」

カレンとミコトの機が右と左に分かれたと思い、二機ごとに分散した士官候補生のアトラスⅢ型は、それぞれ右舷と左舷から来た拡散荷電粒子の光に包まれた。

「“ネレイド”、ミッションコンプリート。帰還します」

カレンの声に“ネレイド”側からの応答がなかった。

開いた口が塞がらないまま目の前の事実を受け入れられない発着管制官が、機を取り戻すと

「こっ、こちら“ネレイド”、りょ、了解」

「カレン」

思考の中にミコトの笑みが入るとカレンもヘルメットの中で微笑んだ。

卒業試験が始まって、三〇分も経っていなかった。実際の模擬戦闘は実質一〇分も掛かっていない。

“ネレイド”の回りには、回収の時間さえなかったアトラスⅢ型三八機がダミーエネルギーを受けて白くなった機体を浮遊させていた。

「どうだね。二人は。“そろそろ終わりかな“と思って連絡をしたんだが」

主任教官がいる司令フロアにアッテンボロー大佐の3D映像が映されると

「どういうつもりです。あの二人を卒業試験に組み込んだのは」

「どうした」

「どうしたも、こうしたもない」

そう言って三八機がものの一〇分もかからずに全滅させられた事を聞くと

「それでは、士官学校の修了証書は、あの二人に渡すことが出来るな」

そう言って映像が切れた。

「中央は何を考えているんだ」

半分頭にきている主任教官は、カレンとミコトが〇.〇五光速まで落としたとはいえ、五メートルも離れていない同期飛行をスクリーンビジョンで見ると恐ろしさを感じた。


「カレン少尉、着艦します」

「ミコト少尉、着艦します」

そう言って“ネレイド”の射出ポートの下に来ると誘導ビームが二人の機を包んだ。ランチャーロックが掛かり、エアーロックされるとアトラスⅢ型を包んでいたドームが両脇に下がり、アトラスの上部が開かれた。

なにも言わず整備員がパイロットスーツの二箇所のインジェクションからケーブルを外すカレンもヘルメットについているケーブを外し、ヘルメットを取るといきなり整備員が敬礼し、

「カレン少尉、見事であります」

と言った。

カレンは“えっ”と顔をするとミコトの整備員もミコトに敬礼している。

よく見ると回りの整備員も敬礼していた。いきなり航宙戦闘機射出庫の艦内スピーカから

「カレン少尉、ミコト少尉、至急司令官公室へ来るように」

という放送が流れるとカレンはミコトを見て“どうしたの”という顔をした。ミコトも“分らない”という顔をするとアトラスⅢ型を降りて司令官公室へ向った。


航宙機射出庫から司令官公室に行くまでの間、カレンとミコトはすれ違う候補生や乗員から尊敬と畏怖の眼差しを向けられるとなんともいえない思いになった。

「ミコト、ちょっとやりすぎたかも。もっと時間を取ってやった方が良かった感じ」

「カレンも思った。僕もそう思う。もう少し手を抜くというより時間をかけたほうが良かった感じ」

「でも、カワイ大尉は何故、私たちをこっち来させて他の候補生との模擬戦をやらせたんだろう」

「うーん」

分らないままに二人で会話しながら司令官公室に向う通路をさらに歩いていると後ろから声を掛けてきた人がいた。

「カレン少尉、ミコト少尉。凄かったな。アトラスⅣ型ならまだしも、候補生と同じ機体であそこまで技量の差を見せ付けられるとは思わなかったよ」

声の方向に振向くとヘラルド・ウオッカー、軍事衛星“アルテミス”の航宙軍士官学校の長官が歩いてきた。

「長官、お褒めの言葉ありがとうございます。でも少し反省しています」

カレンの言葉に

「反省。何をだね」

「もう少し、“時間を取ったほうが良かったのでは”と」

「はははっ、気にすることはない。フレイシア航宙軍航宙機戦闘部隊のトップパイロットの実力がどれほどのものか、見せてあげるには丁度良かったよ。そう言う意味では感謝しているぐらいだ」

ウォッカー長官とカレンとミコトが司令官公室に入ると

“ネレイド”の艦長と司令官が待っていた。


「カレン少尉、入ります」

「ミコト少尉、入ります」

二人は、順番に言いながら入ると司令官と艦長は目を丸くした。

「本当に君たちがあの機に乗っていた子達かね」

信じられない顔で言う艦長に

「はい」

といつものハーモニーで言うと

「艦長、この二人の胸の徽章を見てみろ。今言った言葉を訂正する必要があるぞ」

ウォッカー長官が言うと艦長は、カレンとミコトの胸に付いている徽章を見た。

「フレイシア航宙軍航宙戦闘機部隊トップパイロット」

艦長は、その言葉の後は、声が出なかった。ただ、目を丸くして見るばかりだった。

「さて、二人に今回参加してもらった士官候補生の卒業試験である模擬戦を、見事というより当たり前のように勝ち抜いた。そこで卒業式にはぜひ参加してほしい。“士官学校主席卒業生として”」

ウォッカー長官からの言葉にカレンとミコトは少し驚きながら嬉しそうな顔をすると

「アッテンボロー大佐には、先ほど伝えてある。あと」

少し躊躇すると

「頼みがある。本当はもう少し時間が掛かると誰もが予想していたのだが、全く時間を必要としなかった。今日の卒業試験はこれで終りだ。この艦はこのまま“アルテミス”に戻る。その間、食堂で他の士官候補生に君たちの技量を少しでも説明してくれるとありがたい。他の候補生は食堂に集めてある」

司令官が嬉しそうな顔をして二人に話した。

カレンとミコトが出て行くと

「しかし、凄いものだな。まだ二〇才。アトラスをシミュレーションから始めてまだ二年弱だ。天才というやつはいるものだな」

ウォッカーの顔を見ながらいう司令官に

「私も、下から二人の事を聞いた時は、“どうせ期待を持たせるためのブラフだろう”と思っていた。だが、始めての“ライン”からの射出を難なくこなして、あっという間にアトラスⅢ型を乗りこなす姿を見たとき、天才というより“アトラスに乗るために生まれてきたのではないか”と思うようになったよ。特にアトラスⅢ型のオゴオリ大佐しか知らなかったシンクロモードを本能で動かし、アトラスⅣ型を初日から乗りこなした姿を見た時は、それを確信したよ」

二人とも信じられないという顔で微笑むと司令官公室を出て司令フロアに戻って行った。


航宙母艦“ネレイド”の航宙機射出庫では、カレンとミコトに模擬弾を当てられた三八機のアトラスⅢ型が、射出ポートに並べられていた。

「すごいな。全滅だ」

カレンとミコトの技量に感心しながら攻撃を受けた機体を整備主任が見ていると他の整備員が集まって射出ポート全体を見ていた。

「どうした」

「整備主任。こちらから見てください」

「えっ、なんだ」

三八機の模擬弾が当ったところを見た整備主任は、目を見張った。

「これは」

一部の機を除いてほとんどのアトラスⅢ型が、コクピットがある上部中央を除いて攻撃されていた。

「なんて子達だ。ここまでとは」

カレンとミコトは、候補生の体に負担が掛からないようになるべく側舷や底部に攻撃を仕掛けていた。三機だけが、真上からの攻撃でパイロットシート上のカバーが真白になっていた。

「しかし、おかげで修復に時間が掛かる。腕が良すぎるのもなんともだな」

整備主任が笑いながら声を掛けた整備員を見た。


「レイ、久しぶり」

「ミコト」

ミコトに声を掛けられてレイとサキが振向くとカレンとミコトが立っていた。

「カレン、ミコト」

サキも二人に声を掛けると回りの候補生も気がついた。カレンとミコトがレイとサキが座っているテーブルに二人の前に座るようにすると

「しかし、赤ちゃんと大人以上の差だったな。ここにいるアトラスⅢ型のシートを射止めた四〇人が束になってかかっても歯が立つどころか、手も足も出ないうちに全滅だからな。どうしてあんな機動が取れるんだ」

ミコトがカレンの顔を見て頷くと

「レイ、アトラスの機体を単調に動かしてもやられるだけだ。常に上下左右に動かす事を覚えないと。その為に左右だけでなく底部前後に制御スラスタが付いている。常に機敏に動くこと。単調な軌道は動きを読まれる」

レイは、直線的な軌道は出来るが上下左右の軌道や、急回転背面スクロールはおろか緩スクロールさえ出来ていない。ミコトの言葉に

「ミコト、俺たちは、まだ直線的に飛ぶのがやっとだ。同期飛行も並ぶのが限界。お前たちのように二機で一機のような形にはなれない。どうすればそんな事が出来るんだ」

「練習しかないよ。体にアトラスの動きを染込ませるんだ」

「そうか」

レイとミコトの話を聞いていた他の候補生が、

「僕も質問していいか」

と言うと

「いいよ」

とミコトが応えた。


カレンとミコトが候補生にレクチャをしている頃、フレイシア航宙軍では、問題が持ち上がっていた。

「航宙軍戦闘機部隊の構成を変更する。どういうことです」

軍事衛星“アルテミス”の航宙軍統括ビルの一角にある航宙戦闘機部隊の一室でジェームズ・ウッドランド大将の言葉にチャールズ・ヘンダーソン中将、マイケル・キャンベル少将、ランドルフ・オクスウエル少将は、驚きの顔を隠せなかった。

「今回開発されたアトラスⅣ型は、例の双子専用の機体と言っても間違いない。通常の人間には扱える代物ではない。だからと言って彼等をどこの部隊に配属するか。それもまた、難しい。考えてもみたまえ。あれほどの能力を持った子達だ。他のパイロットと共同作戦を遂行するには、他のパイロットに同じ技量を要求するしかないが、それを実現できる人間は早々にいない。かといって、あの子達にレベルを落とせともいえない」

一度、言葉を切ると

「そこでだ。現在の航宙軍航宙戦闘機部隊は、艦隊毎に編成を取っているが、あの子達だけの独立部隊を作りたい。どこの艦隊にも属さない部隊だ。但し、当面は、アッテンボロー大佐の第二艦隊所属とする」

「発言よろしいでしょうか」

本来、将官の会議にいるはずのない佐官クラスの人間が声を出した。

「オゴオリ大佐、何だ」

「はっ、カレン少尉とミコト少尉のシンクロ機のデータをもとに無人独立編隊の研究を進めています。いずれ人間が乗らなくてもコマンドを実行する編隊を開発する予定です。その時、彼らにはそのコントローラいや管制官として役立ってもらう予定です」

「無人機の編隊」

さすがにこれには四人の将官が驚いた。

「オゴオリ大佐、もっと詳しく説明してもらおう」

そう言って、ヘンダーソン中将は、厳しい目でオゴオリ大佐を睨んだ。


カレンとミコトの能力と他のパイロットの能力の差に航宙軍戦闘機部隊は、編成を変える事になった。その渦中にいる二人を利用して航宙軍開発センサーのオゴオリ大佐はとんでもない事を考えていた。

次回お楽しみに。

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