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カレンとミコトの航宙軍物語  作者: ルイ シノダ
11/26

第四章 卒業試験 (1)

カレンとミコトが遠征訓練を行っている頃、サキやレイもアトラスⅢ型で訓練に励んでいた。そんな時、遠征訓練で事故が起こり、そこでカレンとミコトが活躍した事を耳にしたレイとサキは、久々に二人と会いたくなって連絡を取る。

カレンとミコトは久々に”パープレレモン”でレイとサキと会うがいきなり敬礼され驚くことになる。

第四章 卒業試験


(1)


「サキ、同期」

「はい」

レイとサキは、お互いが三〇〇メートルまで接近して最大速度で直進すると

「サキ、右舷二時方向六〇度」

「はい」

二機のアトラスⅢ型が右舷二時方向に急上昇するとレイはヘッドアップディスプレイに映る赤い光点を視認した。サキも同じ様に視認すると一挙に左舷一〇時方向に二機がピッタリの間隔で遷移した。

二人のアトラスⅢ型から既に発射された荷電粒子が赤い光点に到達する前に発射された緑の光の束が、今二人が居た側を通過すると狙いたがわず赤い光点が黄色に変わった。

「サキ、連射」

二機のアトラスⅢ型から発射された荷電粒子の光が覚めやらぬうちに再度荷電粒子が発射されると二人のヘッドアップディスプレイには、先ほどまで黄色かった光点が消滅していた。

「サキ、ミッションコンプリート。戻る」

「はい」


航宙母艦“ネレイド”。基本スペックは、“ライン”と同じだが、航宙戦闘機パイロットを目指す士官候補生用に発着艦機構を緩くしてある宙域訓練用航宙母艦だ。

サキとレイは、“ネレイド”を視認すると

「アンザイ准尉、着艦します」

「オオタ准尉、着艦します」

“ネレイド”の逆U字形の射出ポートの下に来ると誘導ビームが二人の機を包んだ。そして射出ポートの側までアトラスⅢ型が上昇するとランチャーロックの腕が伸び、機体を掴むと、そのままポート内に引き込んだ。やがて、ポートの下、機体底部のカバーがスライドして閉まると

「アンザイ准尉、着艦、エアーロック完了」

「オオタ准尉、着艦、エアーロック完了」

アトラスⅢ型を包んでいたカバーが中央から半分ずつに分かれて床下に収納されると整備員が機体の上部カバーを開けた。整備員がパイロットスーツの二箇所のインジェクションからケーブルを抜くとレイもヘルメットのインジェクションからケーブルを抜いた。

「ふーっ」

パイロットシートから体を起こすとレイは、大きく息をついた。同時に着艦したサキも同じ様な仕草をしている。レイは親指だけを立ててサキに合図すると同じ様にサキの親指を立てて応じた。

「レイ、今日はうまく行ったね」

「うん、完璧に近かった」

航宙戦闘機射出庫からパイロットウエイティングルームに行く通路を二人で歩いていると前から、タクヤとレイナが歩いてきた。

「二人とも良かったね」

レイナの笑顔に喜びながらレイとサキはルームに入ると教官が

「二人とも今日は良かったぞ。但し、航宙艦撃破後のレーダーを全方位展開しなかったのはミスだ。直ぐに次の攻撃が来るかもしれない。実際、二人の機の左舷後方七時方向から航宙艦が二人の機に狙いを付けていた。記録映像を見ながら次に生かすように」

そう言うと別の士官候補生との会話に移った。


「レイ」

サキはレイの顔を見ながら声を掛けると

「とにかく記録映像を見よう」

そう言って二人がレコーダールームに入って、記録映像を見ると確かに教官が言っていた通りだった。これが実戦ならば確実に二人は宇宙のデブリになっていた。

「うーん、まだまだだな。教官の言う事は正しいか」

なにも言わないで気落ちしているサキに

「もっと教練をつもう。必ず二人で完璧な同期飛行が出来るまでがんばればいい」

「うん」

少し笑顔を取り戻すと

「レイ、士官食堂に行って冷たいもの飲もうか」

レイが顎を引いて頷くとサキは、嬉しそうな顔をした。


「聞いたか」

「なにを」

「遠征訓練で事故があったそうだ」

「えっ、本当かそれ」

レイとサキが冷たいジュースに喉を潤していると近くのテーブルに座る別の士官候補生が話をしていた。

「ああ、凄いのはここからだ。例の双子が、航宙軍戦闘機部隊の大尉を四〇万キロも離れたところから探し出してきたらしい」

「本当かよ」

「ああ、間違いない。事故の詳細は分らないが、何でも二連星のエネルギー波にやられたらしい。ほとんどの航宙駆逐艦が被害を受け、外に出ていたアトラスは全滅に近いのにあの二人は無傷だったらしい」

「なんだよ、それ。全く理解できないな。あの二人は」

「それでさ。何とあの二人、“少尉”に昇進だそうだ。それと“フレイシア航宙軍遠征部隊トップパイロット”としての栄誉」

「えっ、まだ士官候補生だろう。それに遠征訓練は、フレイシア航宙軍の中でも選りすぐりのパイロットが集まって腕を競うと聞いている」

「違う、違う。もう正式な航宙軍戦闘機部隊のパイロットだ。俺たちのようなレベルではない」

「うーん。理解できない。俺たちは、まだ半年あるだろう。卒業まで」

二人の会話を側で聞いていたレイとサキは

「やっぱり“アオヤマツインズ”はすごいな」

「仕方ないよ。同じ人間とは思えないもの」

「そこまでとは行かなくても、確かに桁外れだ」

「レイ、あの二人に会いたいな」

「うーん。“アルテミス”に戻ったら連絡してみるか」

「うん」


「カレン、レイからメッセージが入っている」

遠征訓練は、実戦と同じ扱いで行う。例え、二連星のエネルギー波で被害を受けようともその状況でスケジュールを消化する。二人はあの後、更に三週間の予定、全行程一ヶ月半の訓練をこなして、一週間前に遠征訓練から他のパイロットと共に戻ってきたばかりだった。参加者には、二週間の休暇が与えられていた。

「えっ、なんて」

「また、“パープルレモン”で会えないかって」

「いつ」

「明日」

「いいんじゃない。予定は入っていないし」

「分った。“大丈夫”って返信しておく。あっ、ヒサヤマさんに連絡は入れておかないと」

「そう言えば、ヒサヤマさん。話し有るって言っていたね」

「そうだ、それどうするんだろう」

「そのうち教えてくれるよ」

既に、航宙軍航宙戦闘機部隊の正式隊員となっていた二人は、以前のようにヒサヤマがいないと基地内に入れないというようなことは無く、二人だけで出入りしていた。


翌日、カレンとミコトが“パープルレモン”に行くと、前に来た雰囲気とまったく違っていた。ミコトがドアを開け中に入ると二人が入ってきたことに気付いた人間のほとんどが敬礼をしている。既に二人の活躍を知らないフレイシア航宙軍戦闘機乗りはいない。ましてトップパイロットとしての徽章は、自分たちの腕でのみ生きるパイロット達には、尊敬に値するものだった。つい二人とも答礼すると

「カレン、ミコト。こっち、こっち」

と言ってレイが声を掛けた。

ミコトが安心した様に近づくと今度は、レイとサキが敬礼を始めた。

「レイ、どうしたの」

とカレンが言うと

「上官に対する敬礼です」

と言って真面目な顔をした。ミコトが

「勘弁してくれ」

と言うと敬礼を止めたレイとサキが微笑んだ。

カレンとミコトの肩と胸の徽章は、准尉から少尉へそして胸には“フレイシア航宙軍トップパイロット”としての徽章が付けられていた。

「しかし、参ったな。俺たちより先に行っているとは思っていたが、まさかその徽章を胸につけるとはな」

レイの今の言葉で、なぜ自分たちより上官の人たちが入ってくるなり敬礼したのか分った。

既に二人の遠征訓練における行動は、航宙軍の中では広く知れ渡っている。位に関係なく敬礼するのはパイロットとして当たり前であった。

「レイ、僕たちは、命令で救出しただけなんだけど」

「それだよ。常人では出来ない事を当たり前のようにやって、決してそれを鼻にかけない。そこが、お前たちが高く評価されるところだし、好意を持って思われるところだよ」

カレンとミコトは“分ったような、分らないような”顔をしながらレイの話を聞いていた。

「まあ、仕方ないか。前から人よりずば抜けていても“なんで”と顔してたものな」

「レイ」

ミコトがそれだけ言うとカレンのほうを向いて微笑んだ。

「やっぱり可愛いな。ミコト」

「それはやめよ」

カレンがサキに向って言うと、ミコトがサキに

「ははっ、いいよ。もう慣れた。但し君たちだけ」

そう言って微笑んだ。


久々のレイとサキとの会話で、同期の士官候補生の状況が分ったカレンとミコトは、官舎として使用している上級士官用のビルに戻り部屋に入ると衛生担当兼二人の世話役のヒサヤマからメッセージが入っていた。

「ミコト、ヒサヤマさんが明日、話があるって」

「ふーん、前に“話したいことがある”って言っていたけどそれじゃない」

「そうね。でも楽しかったね。それにあの二人結構楽しそう」

「カレン、今日は僕も分ったよ」

と言って“にこっ”とするとカレンが恥ずかしそうな顔をした。

「カレン、どうしたの」

「別に」

そう言ってミコトに背を向けた。

ミコトはカレンの気持ちが分るとカレンの後ろから手を回して

「カレン、僕たちは二人で一人」

そう言って自分の頬をカレンの頬に寄せると

「ミコト」

そう言ってカレンは目をつむった。心臓の鼓動が同期している。

「カレン、いつも一緒だよ」


「レイ、あの二人、不思議ね」

「なんで」

「だって一卵性双生児と言っても、二〇才の男と女が一つの部屋にずっといるのよ。なにもないで済むのかな」

「それは・・。でもあの二人、二人で一人だろ」

「そうなんだけど」

「いいじゃないか。あの二人は、僕たちには理解できない事が多い。考えても仕方ないよ」

「そうね」

「もう寝よう。明日も早いし」

「うん」

いつの間にか二人でいる時間が多くなったレイとサキは、酔いとその後の事で少し疲れを感じながら眠りに着いた。


「カレン、ミコト、私は今月一杯で君たちの世話役から外れる」

「えっ」

カレンとミコトが驚いた顔でヒサヤマの顔を見ると

「私の仕事は、君たちが航宙軍士官学校の士官候補生としている間までの話。誰もが想像つかないスピードでここまできた以上、私の役目は終わったわ。もう私がいなくても基地内への出入りは出来るし、“アルテミス”も慣れたでしょ」

なにも言わない二人に

「でも、後一週間あるわ。その間は宜しくね」

そう言って少し寂しそうな笑顔を見せると二人の部屋から出て行った。

「ミコト」

カレンは、寂しそうな顔をしながらミコトに声を掛けると“仕方ないよ”という顔をした。

航宙軍士官学校に入って以来、一年と九ヶ月、自分達の世話をしてくれたヒサヤマとの別れは、ミコトにもショックだった。


航宙軍士官学校の候補生は、後一ヶ月に迫った卒業試験を待っていた。

「レイ、卒業試験の科目聞いた」

「ああ、タクヤ、クラス対抗の模擬戦をやるらしい。それで残った四〇人をアトラスⅢ型のパイロットとして航宙軍航宙戦闘機部隊に配属し、残りはアトラスⅡ型の輸送艦支援か予備パイロットとして登録だけにして輸送艦や戦艦に回されるらしい」

「えーっ、そんなに厳しいの」

「ああ、仕方ない。生き残るしかない」

「でも私とレイ、タクヤとレイナは、敵同士で戦うの」

「分らない。ルールはなにも発表になっていない」

「そう」

「ともかく、今はお互いに腕を磨くだけだ。他の連中も同じだろう」

一年以上前に軍事衛星“アルテミス”に上がってきて以来、宙域訓練に励んできた航宙戦闘機士官候補生、戦闘艦士官候補生の全員が卒業試験として実戦の形式を取る試験を待っている。


「ミコト、サキからメッセージが届いている」

「うん」

と言うとカレンのメッセージスクリーンを見た。

「来週、士官候補生の卒業試験をする。カレンたちはもう関係ないかもしれないけど、一応連絡しておくね。今度はパイロットとして会えたらいいね」

「ミコト、私たちは受けなくていいのかな」

「うーん。こんな時ヒサヤマさんがいてくれると直ぐに教えてくれるんだけど」

「仕方ないから、明日、カワイ大尉に聞いてみよう。いくら航宙軍正式採用と言っても士官候補生の身分ってなんか中途半端だし」

「そうね。そうしよう」


翌日、

「カワイ大尉」

パイロットウエイティングルームで今日のスケジュールを確認すると二人は、昨日サキから聞いたことをカワイ大尉に言った。

「卒業試験」

カワイが何を言っているか分からない顔をすると

「私たちは、何となく士官候補生のまま、航宙軍パイロットとして採用されたような気がして、まだはっきり航宙軍士官学校を卒業したという証書は貰っていないし」

いきなり何を言い出すのかと思うとカワイは、笑いを堪え噴出しそうになるのを押さえて

「確かに“ツインズ”には、航宙軍士官学校の卒業証書は渡していないが、しかし・・」

少し考え込んだカワイは

「上と相談する」

と言ってその話を切った。


「えっ、それは事実ですか」

「上層部の意向だ」

「しかし、それでは他の候補生が」

「かまわんらしい。既にあの子達の“すごさ”は、現役のトップパイロットでも手が届かない。まあ、士官候補生に“こんなレベルもいる”ということを見せる程度だろう」

アッテンボローの言葉にカワイはにわかに意図を掴みきれなかったが、上層部の決定である以上、これを伝えないわけには行かなかった。

「“アオヤマツインズ”、上官命令として伝える。“来週行われる士官候補生同士の模擬戦闘に参加するように”以上だ。なお、その間のこちらの訓練は参加の必要なし」

カワイ大尉からの命令に“何を言っているのか”分からない顔をすると

「まあ、“久々に候補生と戯れて来い”ということだ」

何となく分ったような気がしたが、とりあえずサキたちと会えることが出来ると思うとカレンとミコトは少しだけ微笑んだ。


「ミコト、明日は“ネレイド”に行くわ。“ライン”と違って候補生用の航宙母艦らしいの。あと射出ポートもずいぶん緩いらしい。乗機するのはアトラスⅢ型、士官候補生が今乗っている機みたい」

「ふーん。まあ皆と久々に会えるし、いいんじゃないかな」

「そうね」


翌日、カレンとミコトが航宙母艦“ネレイド”に行くとなぜか、士官候補生に敬礼をされた。“何故”という顔をしながら艦の中に入っていくとやはり色々な装備で“ライン”と違っていた。二人はパイロットウエイティングルームに行くと

「レイ、久しぶり」

「聞いていたよ。ミコト。しかし、その少尉の徽章と“フレイシア航宙軍トップパイロット”の徽章はまぶしいな」

カレンとミコトは“あっ”と思うと確かに自分達の制服の胸に付いている徽章を思い出した。“だから、他の候補生が敬礼をしたのか”それを理解すると

「ごめん、外してくればよかったかな」

「それはできないだろう。航宙軍としての規律があるからな」

そう言って、レイはミコトを見た。


カレンは回りを見ると候補生が、尊敬や憧れの眼差しで見ていた。

「ミコト、カレン、こっち」

と言うと真ん中の前の方にあるテーブルを指差した。

「教官が来て、卒業試験の内容を教えてくれる予定だ。もう少しで来るはず」

そう言ってパイロットウエイティングルームの中でサキやレイたちと話をしながら入口を見ていると教官が入ってきた。教官は、カレンとミコトを見ると

「アッテンボロー大佐から連絡を受けた時は驚いたよ。試験内容も少し変わったが、二人の協力に感謝する」

そう言って笑顔を見せた。そして卒業試験も内容が発表されると士官全員が驚いた。各クラス十五人ずつ総当たりで模擬戦闘を行い、勝ち残った一クラス一〇人ずつと、カレンとミコトが模擬戦闘を行うというものだ。

さすがにこれには、カレンとミコトも驚いた。


カレンとミコトがフレイシア星系航宙軍戦闘機部隊の少尉になったとはいえ、まだ、正式に士官学校を卒業していない事をカワイ大尉に打ち明けるとなんとレイやサキと模擬戦闘を行うことになります。次回は、その模擬戦闘の様子をお届けします。

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