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カレンとミコトの航宙軍物語  作者: ルイ シノダ
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第一章 航宙軍士官学校 (1)

一卵性でありながら女の子と男の子に生まれたカレンとミコト。二人の夢はフレイシア星系トップの航宙戦闘機パイロットになる事。

二人は、倍率二五倍の難関”フレイシア星系航宙軍士官学校”を受験します。

すっきりした目鼻立ちのカレンとミコトは周囲の注目を浴びながら合格します。しかし、カレンとミコトの類まれな素質は、フレイシア航宙軍の目に留まっていました。彼らの目論見とは。

さて、本編から始まる物語。お楽しみ下さい。


第一章 航宙軍士官学校


(1)


「アオヤマさん、生まれました」

ナースの声に急いで新生児室に行くと、足首に巻かれたテープに“アオヤマベビー”と書かれた赤ちゃんが二人いた。

「カノン、私たちの子供はどちらだ」

新生児室の窓ガラスの外で微笑みながら立っている妻のカノンに聞くと

「二人とも私たちの子供です」

「えっ、女の子か男の子か」

「いえ、両方です」

「両方だって、双子で女の子と男の子。まさか」

「そのまさかです」

「えーっ」

驚きのあまりつい大きな声をだすと

「静かにして下さい。ここは病院ですよ」

ナースの声に少し“しゅん”とすると小声で

「先に生まれたのはどっちだ」

「女の子です」

見ているとだんだん嬉しくなって

「そうか」

と言うと目元が緩んだ。


ここは首都星“ランクルト”にある“ランクルト第一総合病院”。ここで物語の主人公カレンとミコトは生まれた。

良く似た女の子と男の子、やがてこの二人は、フレイシア星系でもトップクラスの航宙戦闘機乗りになることは、まだ将来の歴史の中に眠っていた。


「ミコト、はやく」

「待てよ、カレン。カレンは足が速すぎる」

「ミコトが遅いだけ」

「もう、ふーっ、やっと着いた」

「うわあ、いっぱいいるな」

「当たり前でしょ。競争率二五倍の難関、“フレイシア航宙軍士官学校”の試験初日よ。さあ、行きましょう」


第一次は筆記、ここで応募者二〇〇〇人から一〇〇〇名に振り落とされる。そして第二次実技、ここで更に五〇〇名に絞られ、第三次で口頭試問で二〇〇名。カレンとミコトは、三次試験までをトップクラスでパスしてきた。


そして今日は、二人の最終試験の日だった。

「カレン、どう自身ある」

「ミコト、何言ってるの。やるしかないでしょう。自信持ちなさい」

「自身って言ったって。面接だけだろ。何を自信持てば良いのか。カレンはいいよな、その顔で面接官に“にこっ“とすればうかるだろうから」

「わけないでしょ」

カレンは、ミコトの言う通りとても可愛い女の子だった。航宙軍士官学校に応募する為に、ショートカットにして少しボーイッシュしたとはいえ、切れ長の大きな目、“すっ”と通った鼻筋に口紅もつけないのにピンク色の潤った唇。どう見ても可愛い。少しだけ身長が、高い事を覗けば。

それに引き換えミコトは、それが裏目に出た。男の子である。どう見ても女の子が、男の子だ。何もしなければ一卵性双生児のカレンとミコトはそっくり。親でも見分けつかないが、二人だけが知っている違うところがある。それは二人の秘密だが。


「さっ、行くよ。ミコト」

「カレンちょっと待って、まだ息が」

「そんなんじゃパイロットなれないよー」

顔一杯に笑顔を見せながらカレンは、ミコトの手を引いて早足で歩いた。今日の洋服で唯一違うのはカレンがスカート、ミコトがスラックスという以外は、いつものように見分けが付かない。


面接を待つ部屋には、第三次試験に受かった二〇〇名が、緊張の面持ちで座っていた。ただ、二人を見る視線が、多いのは確かだった。

面接は、何故か三人一組や四人一組で呼ばれる。その組合せの意味は分からないが、二人は、次に呼ばれる順番になっていた。

「カレン・アオヤマさん、ミコト・アオヤマさん、サキ・アンザイさん」

と呼ばれて

「はーい」

と返事をすると、名前を呼んだ面接官が二人を見て“えっ”と顔をして

「カレンさんはどちら」

と言うと

「私です」

そう言ってミコトの左側に立つカレンが微笑んだ。

面接官は一瞬顔を赤くすると

「こちらへ」

と言って三人を部屋に入れた。


カレンたちの前にキッチリと航宙軍のブルーの制服を着込んだ五人の面接官が、テーブルの前に座っていた。胸には色とりどりの徽章が付き、肩にも襟章が輝く人が二人いた。その全員が、一瞬目を丸くすると

「うおふぉん、カレン・アオヤマさんは」

カレンは、嬉しそうに微笑みながら、手を上げて

「はーい」

と言うと

「手は上げなくていい」

そう言って、ブルーの制服の腹の部分が、パンパンに張った、フレームの太いめがねを掛けた中年のおじさんが睨んだ。

「では、君がミコト・アオヤマ君、そしてその隣がサキ・アンザイさんだね」

中年のおじさんの右横に座る、制服の上からもはっきりと鍛えた引き締まった体が分かる男が、優しそうな目で言うとつい二人で

「はーい」

と言ってしまった。

他の三人の面接官は、顔を合わせながら声をたてて笑っている。


カレンとミコトはどんな質問が来るのか“ひやひや”しながら待っていると質問内容は、“家庭の事、友人の事、アカデミーでの事”など他愛無い様ばかりであった。少しがっかりしているとさっき優しい顔をした素敵な男性が、

「つまらなそうだね。もっと凄い質問でされると思ったの」

自分たちの心が見透かされたようにカレンとミコトは顔を赤くすると

「最後の質問だ。君たちはなぜ、航宙軍士官学校を希望したのかね」

聞かれるや否やカレンとミコトは、同時に

「はい、フレイシア星系トップの航宙戦闘気乗りになりたからです」

ハーモニーのように歌うように二人で言うと、素敵な男性や他の四人の面接官が微笑むようにした後、素敵な男性が、他の面接官を見て“にこっ“とした。


「カレン、だめだったのかな。何か馬鹿にされたような。相手にされていないような。まあカレンは大丈夫だろうけど」

「なに言ってんの。どっちもどっちよ。それにミコトは男の子だけど私は女の子。難しいという意味では同じよ」

そう言いながらランクルト第一ステーションに向う自走エアカーの中で二人は、今日の面接の感想を話していた。

やがて、ステーションに着くと

「ミコト、少し時間あるからあそこで“スカッシュ”飲もう」

「うん」

と言うとミコトはカレンの後に着いて行った。


「どうでした。ゴトウ教官」

「予想通りと言うか。想像以上だった」

「そうですか。アカデミーでの成績。三次試験までの成績。それにあの同期。我々がもう直ぐ開発が終わる“あれ”に乗せるには、ピッタリの材料、いや候補生だ」

そう言って、サングラスを掛けた男は、唇を曲げた。


「ただ今、お母さん。帰ったよ」

「お帰りなさい。どうでした」

「うーん、分らない。なんか面接というより世間話のような感じだった」

「そう。もう直ぐ夕飯になるから二人とも手を洗っておきなさい」

そう言うと母親はキッチンに消えた。

カレンとミコトはランクルト第一ステーションから“エアトレイナー“で三〇分の田園風景が綺麗な郊外に両親と住んでいた。

カレンとミコトの部屋は一応別れている。一二才までは一緒だったが、カレンが女性の体になり始めた頃から母親が気にして部屋を分けた。カレンもミコトもいつも一緒だったので初め抵抗したが、母親が父親に話して二人に言ったので“しぶしぶ”納得した。


「うーん、カレンが髪の毛を切ったので、ますますミコトと違いが分らなくなってきた」

父親の言葉に

「あなた、よく分りますよ」

「うーん」

父親は、溜息か、返事か分からない言葉を口から漏らすと手にしていたワインを口に含んだ。

食事が終わって、リビングで二人が、最新式航宙戦闘機“アトラス”の機体構造マニュアルを読みながら

「かっこいいな。絶対パイロットになりたい」

「うん」

「ミコト、それそろ、お風呂入ろうか」

「そうしよ」

二人の時は、全く二人で一人だ。性別という意味は二人にない。

カレンは、スレンダーながらしっかりと、胸は出ていて腰もしっかりと締まっている。ミコトはがっちりとした体だ。

「カレン、最近ずいぶん大きくなったな。パイロットスーツ着れるのかな」

「大丈夫だよ。結構潰せるし」

「ふーん、そんなものかな」

「ミコトはいいよね。がっちりしているし。首から下は男だから」

「あたりまえだろう。体までカレンと一緒じゃ、おれ大変だよ」

「そうね」

目を合わせて微笑むと湯面の上から出ている顔だけは、可愛い女の子が二人いるだけだ。大き目の湯船に二人で入りながら他愛無い話をしていると

「そろそろ、二人とも出なさい。お父さんが入るから」

「はーい」


それから一週間後、

「有った、有った、二人とも有った」

航宙軍士官学校の事務棟の中でカレンとミコトは、スクリーンパネルに映る二人の名前に抱き合って喜んでいると

「カレンさん、ミコト君、合格おめでとう」

“えっ”という顔を二人でしながら声の方に顔を向けると、面接の時、優しい顔をしていた男の人が立っていた。

「私は、指導教官のノブオ・ゴトウだ。宜しく」

そう言って、最初にカレンの方に手を出して笑顔を見せながら握手をするとミコトにも同じ様に握手をした。

「合格した人は、A1事務室で手続きをする必要があるから行きなさい」

そう言って、A1事務室を指差した。

「あの人、何故私たちにだけ声を掛けたのかな」

「さあ」

カレンの質問にミコトも不思議な顔をしながらA1事務室に入ると最終試験に合格した人が並んでいた。

「へーっ、みんな合格した人たちか」

そう思いながらミコトは感心した声を出すと、カレンの前に並んでいる男の子が、

「へーっ、噂通りだな。そっくりだ」

“えっ”という顔を二人ですると

「どういうことだ」

ミコトが、カレンの前に出てカレンを守るようにしながら目を厳しくしてその男の子に声を掛けると

「有名だよ。そっくりな双子の女の子と男の子が、ここ“航宙軍士官学校”を受験したって。それに成績はトップだっていう事も」

「えーっ、知らない」

今度はカレンが声を上げた。

「僕はレイ・オオタ。宜しく」

そう言って笑顔を見せた。


「この中に必要な提出書類が入っています。よく読んで手続きを間違いないようにしてください」

そう言って、同じ事を何回も繰り返す事務の女の人が、二人に書類の入ったタブレットを渡した。


「カレン、ミコト、体に気をつけてね。無理しないように」

「ミコト、カレンを守りなさい」

そう言って言葉少なに二人の姿を見ながら少しだけ涙ぐむ母親に、父親が、

「お母さん、二人の門出に涙はだめだ」

そう言いながら心配そうな顔をする父親に

「分りました。カレンは僕が守ります」

「ミコトに守られるほど、軟じゃないわよ」

渋い顔をするカレンを見て少し顔に笑顔が戻った母親が、

「カレン、本当に気をつけてね」

母親の心配そうな目に

「お母さん大丈夫だよ。連絡も出来るし。最初の半年は、“ランクルト”にいるんだから」

カレンは、そう言って大きく腕を広げてお母さんを包んだ。

「では、言ってきます」

いつもの様にハーモニーをすると、それぞれトランクを二つずつ持って自走エアカーに乗った。自走エアカーが走り出すと、カノンは夫の手を握りながら可愛い大切な二人が乗るそれを見えなくなるまで見守っていた。


カレンとミコトが航宙軍士官学校の門をくぐりA1事務室の前に行くと壁に掛かっているスクリーンに“部屋割り”と表示された映像が映っていた。その下に、“各自、決められた部屋に行き用意された制服に着替え14:00に下記の場所へ集合せよ”と表示されている。

カレンは腕時計を見ると“後、二時間か”そう思ってミコトの顔を見るとミコトがスクリーンに釘付けになっている。

「どうしたの、ミコト」

「カレン、あれ」

そう言ってスクリーンを指差した。

「あっ、えっ、でも」

カレンとミコトは顔を見合わせると“にこっ”とした。


指定された寮のある建物に行きながら

「やったね。でもどうしてだろう。他の人たちは男と女の人がそれぞれ二人一部屋なのに」

「いいよ、カレン。でも六年ぶりだね。一緒の部屋になるの」

「ふふ、うれしいな。ミコト」

寮のあるビルに着くと二人はまた“あれっ”と思った。男の人の寮は右側の建物、女の人の寮は左側の建物なのに自分たちだけが“教官事務棟”と書かれた中央の建物になっている。分らないまま教官事務棟の入り口を入るとエレベータの前で女性が立っていた。

「やっと来たわね。カレン・アオヤマさんとミコト・アオヤマ君」

二人が“きょとん”とした顔をしていると

「私は、ミチコ・ヒサヤマ。士官学校衛生担当員よ、宜しくね。貴方たちの部屋は、三階の一二号室。荷物を部屋に入れて、おいてある制服に着替えたら、14:00に教練棟に行きなさい」

そう言ってその建物を出て行った。

“どういうことだろう”と思いながら二人は言われた部屋に行き、ドアを開けると

「へーっ、結構広いな」

と感心した声をミコトが出した。

一五畳の大きさの部屋にベッドが両脇にあり、二つ机が横に並んで二つ置いてある。ベッドの側には一応レースのカーテンが引けるようになっていた。ベッドの上に紺の航宙軍士官の制服とトレーニングウエアが置いてある。さらに大き目のロッカーが二つ。それに簡単なシャワールームまで付いている。二人には十分だった。

「ちょっと想像と違っていたかな。もっと“ぎゅうぎゅう”かと思っていた」

「うーん、でもいいんじゃない」

そうい言いながら、二つのトランクから洋服や日用品を出すと用意されている制服に着替えた。

カレンは、少し膝上のスカート。上着は女性用なのだろう、胸が少しだけゆるくしてあった。ミコトはスラックスに男用上着。

「ミコト、なんかオーダーメイドみたいな気がするんだけど」

「そんな事ないよ。だって知らないだろう。二人のスリーサイズなんて」

「でも」

少し考えるとカレンは、

「まっいいか」

そう言って“にこっ”とすると

「ミコト似合っているね」

そう言って微笑むと

「カレンもだよ」

そう言って二人で微笑んだ。

二人とも身長一七八センチ、ミコトは普通だが、カレンはあきらかに普通の女性より大きい。カレンがオーダーメイドと思ったのはしかたないことだった。だが、二人の親が大きいことを考えればしかたないことだが。

二人で事務棟の建物から教練棟に向うと回りの人が“じろじろ”見ている。

「なんか見られているね」

カレンの言葉に

「うん、僕もそう思う」

確かに目立っていた。カレンは、その身長もさることながらボーイッシュとはいえ、とても切れ長の大きな目に“すっ”とした鼻立ち、口紅もつけないのにピンク色の唇が潤っている。その女の子が紺色の航宙軍士官候補生の制服を着ているのだ。

さらに、隣には、スラックスを履いていなければ見分けがつかないカレンにそっくりな男の子?が歩いている。歩き方も手の振り方もそっくりだ。目立たない方がおかしい。

教練棟に着くとさっきエレベータの前に立っていた女性が、

「うーん、二人ともいいね。カレンさん似合うわよ。ミコト君も素敵だわ」

そう言って、微笑んだ。

もう、ほとんどの候補生が集まっていた。自分たちを見ながら、なにか“ぼそぼそ”話している。そこへ手続きをした時に会ったレイ・オオタが近寄ってきて

「へーっ、参ったな。噂以上だ」

二人がまた、不思議そうな顔をすると

「まあ、いいよ。あとで説明してあげる。それより君たちのクラスは僕と同じ“A”だ。よろしく」

そう言って、笑顔を見せた。


やがて、候補生が集まると少し段の高いところに面接の時に会った中年のめがねの縁が太い男が立って

「私は、フレイシア航宙軍士官学校長アレクセイ・ランドルフだ。候補生諸君、フレイシア航宙軍士官学校へようこそ」

そう言って、長い挨拶が始まった。


「ふーっ、長かったな。校長の話。でもゴトウ指導教官かっこよかったわね」

「そうだな。カレンいよいよ明日からだね」

「うん、ミコトがんばろう」

そう言ってお互いのベッドに入ると消灯の一〇時前に部屋の電気を消した。


これから始まる厳しい訓練と二人を待ち受けている運命をまだ二人が知ることは無かった。


「どうだ。二人は」

ミチコ・ヒサヤマの前に立つサングラスの男が口を開くと

「楽しみです。データはこれからですが、スタートはいいようです」

「回りの候補生には気がつかれないように」

「分っています。ですから、寮も他の候補生と分けました。私たちの棟にいます」

「そうか」

そう言って口元を曲げた。




いかがでしたでしょうか。切れ長の大きな目に”すっ”とした鼻筋、そして潤んだピンクの唇は周囲の注目です。そんな二人のいよいよ新しい生活、”教練課程”が始まります。

お楽しみに。

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