三唱
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白々とした空気が辺りを重苦しく包んでいた。
フリーズした俺たちを代表して俺が言葉を絞り出すまで、数分は必要だった。
「えーっと、つまり、なんですか? 何もかもが終了したって訳ですか?」
イレーネ師匠は首をかしげ、
「あれぇ? 違うのぉ?」
とあっけらかんとした声で言った。
俺は引きつった顔で思う。こいつはダメだ。いくら聞いてもたぶんらちがあかない。イレーネ師匠は勘で行動するので他人に説明ができないタイプの人間なのだ。こんな奴に魔術を教わっていたなんて俺はなんて可愛そうな奴だったんだ。思わず涙が出そうになる。
やむを得ず俺はアニェーゼを振り返り、
「どうなんですか? アニェーゼさん」
アニェーゼは慌ててぶんぶんと首を振り、
「わ、私に振らないで!」
俺は今度は祐佳に向かって、
「どうなんですか? 祐佳さん」
祐佳は視線を泳がせたあげく、
「え? あ? え? 私? えと……お兄ちゃんが元気だからいいんじゃないかなっ!」
祐佳の返事は素晴らしいが今回についてはあまり意味は無い。アニェーゼの顔を見て、祐佳の顔を見て、最後に仕方が無く、俺は残った相手を見た。
「……どうなんですか? ヒミカ」
ヒミカはズサッと後ずさった。
「な、なんで私なんですか! ……まぁ、その、えーっと、レムスがいなくなり、人類の危機がなくなった以上、解決なのでは無いでしょうか。そこのレムスの生まれ変わりが似たようなことを考えつかなければ」
「そんなことしないわよぅ~」
ふむ、と俺は考える。
ヒミカもこう言っている。やはりすべてが終わったと言うことなのだろうか。
イレーネ師匠を見る。
イレーネ師匠は昔のようにほんわかした笑みを浮かべて空を見上げながらなぜか鼻歌を歌っていた。
なんか一気に気が抜けた。
改めて長い長い息を吐く。
……終わったのか。
うん。そうだ。終わったのだ。
そう思うと感動が胸に突き上げてくる。
……良かった。実に良かった。
ハッピーエンドだ。
俺は最高の笑顔でアニェーゼを振り返った。
「終わったみたいですよ!」
「そ、そうなの?」
俺はアニェーゼに近づき、強く抱きしめた。
「え? あ?」
「良かったです、本当に」
「……う、うん。私も……幸せ、かな?」
心の底から幸せを共有した。
いつまでそうしていただろう。
もしかしたらさほど長い時間ではなかったのかも知れない。俺はポーッとしている感じのアニェーゼの柔らかな身体を離し、彼女を残して、次は不機嫌な顔をした祐佳に近づき、「あのね、お兄ちゃん、公衆の面前で--」と説教をはじめようとするのを無視してやはりぎゅーっと抱きしめる。
「え? あれ?」
そして、
「ありがとう。助かったよ。それから全部終わったんだ」
耳元でささやきかけると、祐佳はふにゅぅと腰砕けになった。
周りを見る。
相変わらず城は崩れたままだ。祐佳たちとレムスの戦いでさらに被害は大きくなっているようにも見える。
でもまぁ、俺の知ったことではない。
終わったのだ。
俺はにこやかに周りを見回した。
「じゃあ、とりあえず万歳三唱と言うことで」
?という顔をする皆に、万歳三唱のやり方を教え、俺は容赦なく、声を張り上げた。
「万歳三唱!」
皆はお互いに顔を見合わせてから小さな声で、
「ばんざいさんしょー」
俺は一回目よりも大きな声で、
「万歳三唱!」
皆もちょっと慣れた様子で、
「ばんざいさんしょー」
最後、俺は全身で吠えるように絶叫する。
「万歳三唱!!」
「ばんざいさんしょーっ!!」
最後はなんだかやけっぱちだったが、それでも拍手をするとやり遂げた感がさらに増した。
皆もそうらしい。
俺は涙を流しながら手を叩き続けた。
二時間後に続きを投稿します。




