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予兆


 皮肉屋で自分勝手で俺に厳しいナタリアだが、気心の知れた幼馴染みなのは間違いない。死なれるのは目覚めが悪いし、それに考えればこの部屋で行われたことを(ナタリアが正確に把握しているとは思えないが)誰かに喋られ、それが闇魔法だと知れたら、イレーネ師匠と俺がやばい。

 いずれにせよナタリアを確保する必要があった。

 慌てて部屋を飛び出て、ナタリアはおそらく自分の部屋に向かっていると思う、そのはずだ、そうでなければおかしい、と考えナタリアの部屋へ急いだ。

 ナタリアは部屋の前にいた。俺たちと同じアグニ家のマクシミヌスと話をしていた。

 まさかもう告げ口か!?

 ストリップを強制されたナタリアは怒りのあまり自分の姉と幼馴染みを同時に国家権力に売り渡したのか!!!!?

 ショックを受けながらも、逃げ出さなかった。まだ心のどこかでナタリアを幼馴染みを信じていたし、万が一、告げ口されたのであればマクシミヌスを口止めする必要があった。それこそ、闇魔法を使ってでも。

 俺は何食わぬ顔で近づいた。

 俺に気づいたマクシミヌスが顔を上げた。すかさず


「こんにちは」


 と俺の方から声を掛けた。

 マクシミヌスの反応は俺の次なる行動の指針としてきわめて重要だったのだが、マクシミヌスは俺のことなど気にもとめず再びナタリアの方を向いた。

 むしろナタリアが俺の方を見て、俺に気づき顔を真っ赤にして慌てたように顔をそらした。

 ……ん?

 想定していた反応とずいぶんと違う。

 そもそもマクシミヌスは二十代後半の准教授で、沈着冷静を絵に描いたような男である。その男が焦っていた。

 俺は思わず訊ねた。


「どうしたのでしょう? 何かあったのですか?」


 マクシミヌスは若干いらだった顔をこちらに向け、


「詳細はナタリア君に聞いて欲しい。とにかく非常事態だ。ナタリア君、イレーネさんへの連絡は頼んだよ」

「はい」


 マクシミヌスは足早に去って行った。

 残されたナタリアに「どうしたんです?」と訊ねると、


「ちょ、ちょっと……!」


 ナタリアに引きずられるように彼女の部屋に引き込まれる。

 ナタリアの部屋はなんだかいい匂いがした。作りは俺の部屋とほぼ変わらないが、花があちこちに置かれていた。ナタリアは外向きの性格と違って、自室の中ではずいぶん女の子っぽいようだ。

 部屋の中央に立ったナタリアは赤らんだ顔のまましばらく壁を見ていたが、意を決したように俺の方を向いた。


「見なかったことにして!」

「……は?」

「あ、あれよ、あれ。私のスト……なんか変な踊り」

「ああ……さっきの奴ですか?」

「だから見なかったことにしてって言ってるでしょ! 言われたらちゃんと忘れなさいよ!!」

「す、すみません!!」

「な、なんかよく分からないのよ。お酒飲んだわけでもないのに、急に服脱いで踊りたくなって……」

「僕は何も見ていませんから何を言っているのか分かりませんーー」


 ナタリアは真っ赤な顔のままホッとしたような表情になった。


「……よろしい」

「はあ……で、さっきのマクシミヌスさんの話というのはなんだったんですか?」

「あれ? ああ、なんかアヴァール帝国に動きがあるみたい。第1軍団から第3軍団までがエートルリアに攻め込む準備を始めたってことで、王国にエートルリアから救援の依頼が来たの」

「……それは大事ですね。騎士団が対応する形ですか?」

「それがアニェーゼ様が勝手に受けて、アグニ一族での出撃を決めてしまったらしいのよ……」


 俺は仰天して思わず失禁しそうになった。

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