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闇魔法

「急にやめるとお互いに大変なことになるから続けた方がいいわぁ」


 いつものふんわりとした声でそう言って、イレーネ師匠は部屋の中に入ると、ドアの鍵を閉めた。


「あと、こういう悪いことはドアをちゃんと閉めてやらないとだめよ~」


 イレーネ師匠はそのまま俺の隣に立ち、俺の身体から伸びている魂魄を見るとふわりと笑い、


「いいこね。私のやり方をちゃんと覚えていたのね」

『す、すみません……』


 謝ったのは魂魄の側である。


「闇魔法は自分の魂魄に鎧を纏わす呪文なの。魂魄は肉体という守護がなければ本来数分も維持できないひ弱なもの。でも闇魔法で鎧を纏った魂魄は素の魂魄より強い。この状態なら、あなたとあいての魂魄は主従関係になるわ」

『主従関係、ですか』

「そう。だから今あなたが相手に強い命令を下すと、それは魂魄に刻まれた命令コマンドとして、魂魄が離れた後も残るの」

『なるほど』

「君も私に逆らえないでしょ?」

『え?』

「私があなたの魂魄をその命令コマンドで縛ってるからよ」

『……は? えーっと、つまりそれは……』

「納得できないのならナタリアで試してみなさいな」

『は、はぁ……』

「これは命令よ」

『はい』


 ホントだった。自動的に返事をしていた。


「普段のナタリアが絶対やらないこととか試してみて、そうね。ストリップとかどうかしら」


 イレーネ師匠に言われたまま、ナタリアに妙な命令をしてしまったのは、つまりイレーネ師匠が俺の魂魄に絶対遵守の縛りをしていたせいであって、たぶん、俺のせいではない。

 自分の身体に戻った俺の前で、目を覚ましたナタリアは意味が分からないと何度もつぶやきながら服を脱ぎはじめた。

 幸いナタリアの思考の中でストリップとは、“下着姿で踊る物”らしく、ナタリアはパンティーとブラジャーでよく分からない踊りを十分ほど掛けて完遂した。俺は呆然としていて、イレーネ師匠はずっとケラケラ笑いながら手を叩いていた。すべてが終わったナタリアはがくりとうなだれてさめざめと泣き、泣きながら服を着て、そして部屋を出て行った。

 とてつもない罪悪感とナタリアの鮮やかな白い裸体のイメージとなんだかすごく楽しげなイレーネ師匠だけが残った。

 と思っていたらイレーネ師匠が俺の方を見て、首をかしげてほんわりした顔で突然聞いてきた。


「で、あなたはだぁれ?」

「へ?」

「私の可愛いリキニウスはどこにいったの?」


 ぎくりとした。思わずまじまじとイレーネ師匠を見た。


(な、なんだ……こいつ分かってるのか!!?)


 俺の反応はリキニウス時代とほとんどいっしょだったはずだ。何しろ身体に染みついたへたれ根性がほとんど自動的に表出しているからだ。

 だがこの目の前の、とぼけたような女は見抜いたらしい。リキニウスの仕草の裏に隠された25歳の戦国マニアの現代人を……。

 さすがは末席とはいえアグニ一族の教授の一人だ。油断ならない。なんとかごまかさねばならないと、いつもよりへたれっぷり二割増しで、


「え、え? あ、あの……」

 ときょどって見せたら、イレーネ師匠は息が掛かりそうなくらい俺の顔に自分の顔を近づけてきて、ほっぺたをつつきながら


「前世だというのは分かっているのだけど、どういう世界だったのかしら。もしかしてこの世界? だとしたらどこの大陸のどこの国家の誰だったの? 記録は残っているかしら。私、転生を検証したいのよ」

「あの……その……この世界じゃありません」

「あら、そう……残念だわぁ。リキニウスはどうなっているの?」

「どうなっていると言うよりは、リキニウスも俺で、2人の記憶がそろってある感じです。日本の、つまり別の世界の記憶もこの世界の記憶も等価値というか」

「2人の……記憶……」


 イレーネ師匠が何かを考えるように首をかしげる。

 しばらくしてから、


「私の魂魄にはそんな記憶は無かったけど……前世の条件ってなんなんだろう……」


 とつぶやいた。

 もちろん、俺に答えはなく黙っていた。

 静かな時間が過ぎ、イレーネ師匠がふと顔を上げた。


「そういえば追わなくていいの?」

「はい?」

「ナタリア、ショックで死んじゃうかもしれないわよ? 好きなあなたの前でストリップやっちゃったんだから」


 好き? 何を言ってんだこいつ? それに、何もかもお前のせいだろ、と思ったが次の瞬間、


「お、追いかけます!」


 と立ち上がっていた。


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