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美女と悪漢


 突然現れた美人がバスタードソードを抜き放ったことに3人の悪漢は明らかに動揺した。だが、


「じゃ、じゃ、邪魔をするな!」


 そう声を発したのはベルタ姫の方だった。

 あちゃ~と俺は再び頭を抱える。せっかくまとまりそうだった状況をベルタ姫が台無しにしてしまった。

 長身のモデル似美女の方も、ベルタ姫側に与した気でいたようで、ベルタ姫本人にそう言われてちょっと驚いた顔をした。

 俺はモデル似美女の肩をつつき、


「すみません……連れは気が強いたちでして……」


 と頭を下げる。


「うるさいリキニウス死ね」


 背中を向けたままベルタ姫が言った。

 俺はため息をついて、肩をすくめるとモデル似の美女が慰めてくれた。


「……苦労しているようだな」


 モデル似の美女はいい人だった!


「だが、君の連れ1人では万が一のことがある。私が手を貸していいか?」

「騒ぎにはしたくないのですが、そうしていただけると助かります」

「了解した。私も騒ぎは困る」


 そう答えたモデル似の美女は、無造作に足を進めた。

 思わず動揺する悪漢達の目の前でバスタードソードがぶんとうなりを上げた。

 三閃。


「ヒッ!?」


 あっさりと悪漢達の持っていた棒があるいははじき飛ばされ、あるいは寸断された。

 本来バスタードソードは速度と言うよりは力任せに使うパワータイプ向けの剣である。だがそれがまるで細身のサーベルのような速度で振るわれたのだ。つまり充分以上の練度とそしてなによりバスタードソードの重量を感じさせないだけの筋力によるものである。

 細い身体に似合わない凄まじいパワーだった。

 思わず俺が感心していると、獲物を失った悪漢達に間髪入れず剣を抜いて斬りかかった阿呆がいる。

 言わずと知れたベルタ姫だった。

 頬を浅く斬られ、悪漢達は悲鳴を上げて逃げ出した。


「見たか!」


 浅く血を帯びた剣をひっさげてあざ笑うようにそう言うベルタ姫は完全に狂気の姫そのもので、どう見ても悪者はこっちだった。

 道行く人たちも立ち止まってなにやらひそひそと話をしている。

 周囲の視線が痛かった。

 とは言っても俺としてはようやくしっぽを掴んだ海賊との取引にここに来たわけで、捕まるわけにはいかない。


「とととにかくありがとうございました! 何もお礼はできませんが……」

「礼など求めておらん。当たり前のことをしただけだ」


 潔い美女の言葉に感動しながら深々と頭を下げて、ベルタ姫の手を引いて足早に歩き出す。


「何をする無礼者!」


 もうベルタ姫の相手をしている暇はない。だからベルタ姫の耳元に口を寄せ最強呪文を唱えた。


「あんまりわがまま言うと、義兄上に言いつけますよ」


 菜っ葉に塩をかけたというよりは、ナメクジに塩をかけた感じでベルタ姫はしゅるしゅると威勢と迫力を失った。やはり恋する女の弱点は恋する相手である。

 ベルタ姫の抵抗が弱まり、今のうちに、と俺は取引の場所を目指した。

 ふと足音に振り返ると、なぜかモデル似の美女も着いてきていて、


「なんでしょう?」


 立ち止まってそう聞くとモデル似の美女は困ったように、


「私も待ち合わせでな。そこに向かっているだけだ。たまたま方向がいっしょなのだと思う」

「ああ、なるほど」


 歩き出すと着いてくる。

 右に曲がっても着いてくる。

 左に曲がっても着いてくる。

 そしてそのまま、酒場『一角亭』の前に俺とベルタ姫は立ち、当然その横にモデル似の美女も立っていた。若干困惑顔をしている。

 酒場『一角亭』は場末の飲み屋で、安いワインが唯一の売りのろくでもない店である。およそモデル似の美女が立ち寄るような店ではない。つまり店以外の目的があるわけで、俺はびびった。

 横に立つモデル似の美女はもしかしたら今回の取引を聞きつけた官憲の人間なのではないだろうか、と考えたのだった。帝国の御法度である奴隷商を引っ捕らえるための正義の味方なのではないだろうか。確かにあの剣捌きといい正義を愛する心といい、官憲というのが一番しっくり来る。

 となるとさすがに官憲を取引現場まで連れてくるのは信用に関わるわけで、俺は看板を見上げ、「あれ? 間違えた?」などとわざとらしくつぶやき、再びベルタ姫の手を引いて歩き出した。

 どうせ着いてくるのだろう、と思っていたらモデル似の美女はむしろちょっとホッとしたように『一角亭』の扉を開いて、中に入っていった。

 俺は角を曲がったところで足を止め、隠れて様子をうかがう。だが、モデル似の美女が『一角亭』から出てくる様子はない。

 あのモデル似の美女はほんとうに単に『一角亭』を訪れた客だったのだろうか。単なる偶然なのだろうか。

 うじうじ悩みたかったが、約束の時刻は近い。

 俺は意を決して『一角亭』の前に戻り、堅い木のドアを開けた。

 思いがけず『一角亭』は静まりかえっていた。

 そもそもまだ昼で、酒を飲むにはちょっと早い。だから店内に客もまばらで、指定された場所、「一番奥のカウンターの左端の席」をすぐに視認できた。

 海賊との取引の席にはすでに誰かが座っていた。背筋をぴんと伸ばし、手は膝の上。まるで面談室で教師を待つ生徒会長、といった風情。そしてその誰かとは間違いなく先ほどのモデル似の美女だった。

 俺は思わず、


「……マジで?」


 とつぶやいた。


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