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最長老Ⅱ

 曾祖父の言葉にアニェーゼがカッとなった。身を乗り出すようにして問いただす。


「な、なぜですか!?」

「私の可愛いアニェーゼ、お前は分かっているのだろう?」

「……」

「アニェーゼが闇魔法を使用した可能性があるといった2人の人物。その顛末を」


 ぐっとアニェーゼが詰まる。

 確かにレムス一世とフェデリカ・ハンニバルの2人には共通した問題があった。

 すなわち、2人とも最期が判然としないのだ。

 レム王国が建国され、竜王フィリッポが南に去り、初代騎士団長アルビオンが病気で倒れ帰らぬ人となった後、レムス一世とフェデリカ・ハンニバルは連れだってアウリオ火口の方に向かったとされる。だが2人の姿をその後見た者はいない。完全に歴史上から姿を消した。だから、2人は天使であり、ともに昇天したのだという伝説さえ生じたほどだ。フェデリカ・ハンニバルは出発前に、親族に「大切な話をレムスとしてくる」と言い残したという。

 だが、その話がいったい何だったのか知るものはいない。


「で、でも……」

「もし彼らが闇魔法を使用したというのであれば、彼らの消失について闇魔法との影響を考えなければならない。ましてやこの禁忌は闇魔法の使用者と目されるフェデリカ・ハンニバル様ご自身が決められたこと。それなりの理由があって禁忌と定めたと考えるのが普通ではないかね?」

「……………………はい」

「ただね、リキニウスについては陛下からも要請が来ておる」

「要請?」

「命の恩人のリキニウスに直接お礼がしたい、とおっしゃっているらしいのだ」


 一瞬、首をかしげたアニェーゼは何かを思い出し頷いた。


「なるほど。陛下は気を失われていてリキニウス拘束の現場は見ておりません。リキニウスが重罪人として扱われていることをご存じないのでしょう」

「まぁ、魔法塔内の司法権は魔法塔が持っている。したがって処断そのものにはなんの問題も無い。だが、陛下の要請を徒やおろそかにすることもできない。とはいうものの困ったことに……」


 ダニオは頭をかいた。


「リキニウス本人がいないのだ。罪一等を減じることさえできない」


 リキニウスがいない、という言葉にアニェーゼは改めて落ち込む。

 それでも何とか顔を上げ、ダニオに訊ねた。


「リキニウスがどのように脱出したかは分かっているのですか?」

「大規模な昏睡魔法が使用されたようだ」

「え!?」

「魔法塔全体を包み込むほどの強力なものだね」


 アニェーゼは混乱しながら何とか続ける。


「で、でもリキニウスは普通の魔法は普通くらいにしかできませんでした!」

「ほう。つまり闇魔法以外では、そのような強力な魔法は使用できない、ということかね? 偽装という可能性は?」

「魔法のことで私の目を免れうる人間がいるとは思えません。彼の魔法はたどたどしく、講師という身分を越えるものではありませんでした」

「ということは……協力した者がいる、ということか」

「そういうことになります」


 ダニオがじっとアニェーゼを見た。それから咳払いをして、言いにくそうに、


「まさかそれが私の愛する身内、ということはないね?」

「ちちちちち違います!」


 アニェーゼは口の中で「たしかに、そうなりそうでしたけどぉ」とつぶやき、


「でも今回は絶対に私ではありません」


 それから胸を張り、


「次は私かも知れませんが!」


 アニェーゼの暴走気味の発言にダニオは片眉を上げ、


「そのリキニウスとやらについて、可愛い身内の相手としての是非は我が目で本人を見極めてからとしよう」


 アニェーゼはもう視線をそらさなかった。顔を赤らめながらもまっすぐダニオを見て、


「そうしてください」


 とはっきり言った。


「うむ。で、どうするね?」

「私はフェデリカ・ハンニバル様のことを調べたいと思います。そこに何か秘密があるのではないかと」

「いいだろう。ダニオ・アグニの名で許可しよう。ハンニバル様についてはあらゆる文書の閲覧を認めよう」

「ありがとうございます」

「可愛いアニェーゼよ、これはあくまで個人的な思いだが……お前の調査によって、お前の愛する人の名誉が回復されることを祈っているよ」


 アニェーゼは明るい顔で頷いた。


「はい!」

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