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竜殺し

 俺がレム王国で時間凍結刑に掛かりそうなところを、レムスを名乗る銀髪の男によって助けられ、レム王国を逃げ出してから10ヶ月が経っていた。

 現在、俺はシャープールの個人的な補佐官として、アヴァール帝国カリュー辺境伯領派遣武官府に務めている。

 シャープールは半年ほど前、アヴァール帝国で右も左も分からなかった頃に偶然とある事件で助けた相手だった。最強と名高いアヴァール帝国近衛武官ではそれなりの立場にある将らしい。たぶん上から十番以内には入っているだろう。帝国からの信頼も篤く、皇位継承権第1位のベルタ姫の婿候補に選ばれるほどの英傑だ。つまり未来の皇配の可能性がある人物である。もっとも皇配に選ばれるというのは、“野心が少ない”とか“私心が少ない”といったマイナス要素がないという条件も加味されるため、能力が図抜けて高い訳ではない、と思う。その証拠に、頭は悪い。その悪さが際立って、アヴァール帝国の辺境に現れた竜種を単騎で退治しようとやってきて、そのまま返り討ちにされそうになったところを、俺がフィリッポの助けを借りて、なんとか救い出したのだ。

 意識を取り戻したシャープールは周囲を見回し状況を理解した後、


「いやあ、なかなかミテラデスのようにはいかぬな!」


 と殺されかけたとは思えない明るい笑顔で言った。ミテラデスというのはアヴァール帝国で竜を槍一本で倒したという伝説の英雄である。竜に直接相対した俺からしてみれば絶対に嘘だ。1人で倒せる相手ではない。

 とにかく俺は折れていたシャープールの腕に添え木をあてて、肩を貸して何とか麓の村まで連れて行った。村の医者の手当てを受けたシャープールは無事だった片手で俺の手を押し頂き、


「助かった。おぬしは命の恩人だ」

「いや、偶然です」

「この恩は必ず返す。ところでおぬしは何者だ? 今何をしている? 一国一城の主とか目指していないか?」

「あ、いやただの旅人です。ちょっと理由があって国を出てこのアヴァール帝国で生きていけないかと思っているくらいで……」

「ふむ。そういえばおぬしは何歳だ?」

「へ? えーと、20歳ですけど……」

「む。年下か!? ……だが我が誓いは守らねばならぬ! というわけで良ければ義兄弟になってくれぬか?」

「はぁ……え?」


 後で聞けば、竜種のブレスにやられて吹き飛ばされた時に、もし自分を助けてくれる相手がいれば一生掛けて仕えると神頼みしたらしい。なにかこう武将として運命の主を待っていたらしいが、残念ながら助けたのはとても主人になれそうもないこの俺だったというわけだ。だから「まずは義兄弟からはじめませんか?」という流れということだが、正直俺には意味が分からなかった。

 もっとも俺としてもアヴァール帝国では伝手も何も無い状態だったので、とりあえず何かの役には立つかと提案を承諾した。

 そしてシャープールに付いていって、カリュー辺境伯領に到着し、着いてみるとやることもなかったので、一切政治的な仕事ができないしする気も無いシャープールの代わりに何となく派遣武官府の行政官的な仕事をするようになってあっという間に一ヶ月。思いついたので楽市楽座的な政策をやってみたところ、大成功し、十年ほど前にアヴァール帝国に帰属して以来カリュー辺境伯領はかつて無いほど活気づいた。以後、


「兄弟は天が与えてくれた俺の宝だ!」


 とかシャープールが言い始め、現在に至る。

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