独房
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俺は杖を取り上げられて独房に押し込まれた。
子供のように泣いているアニェーゼを見ていると抵抗する気にはなれなかった。
アニェーゼは連行される俺に最後までとぼとぼと付いてきて、独房の扉が閉められ、アニェーゼの姿が見えなくなるその瞬間も泣いていた。
もしかしたら今も泣いているかも知れない。
俺は扉が閉められた後、胸が締め付けられるような気持ちになって落ち込んだ。
アニェーゼの気持ちを裏切ってしまった。
魔術師のとって闇魔法はそれほどの禁忌なのだ。
だが、他に方法があったとは思えなかった。
竜のブレスを止める方法を今になっても思いつかない。
あのままだと俺とアキッレーオはもちろん、アニェーゼも竜に殺されていただろう。フィオレ四世陛下も助からなかったに違いない。
だからやむを得なかった、はずだ。
うん。アニェーゼを生かすために自分が犠牲になったと考えれば、それはそれで納得ができる気がする。
まぁ、いい。今回の人生は終了だ。つぎの人生でまたがんばろう、と考えたところでハッと気づく。
次の人生など無い。
何しろ闇魔法使用の罰は時間の凍結処理である。たしかそれ専用の魔法書があり、刑の執行官が、数時間の記憶消去を引換にその禁断の魔法書を読み執行するという噂を聞いたことがある。
凍結処理されたらそれは死ではなく、当然転生はない。
俺はガバッと起き上がって今更ながら慌てはじめた。
これはまずい。
実にまずい。俺は思わず扉に取り付き、
「誰かいませんかぁ!!!?」
反応はなかった。
この独房は重犯罪者専用のもので、隔離された場所にある。重犯罪者などそうそう現れないのでしばらく使われておらず、入れられたときにひどくかび臭く感じたことを思い出す。もう俺は慣れてしまったが……。そういえば闇魔法の使用者に対しては裁判も何もないらしい。確か一般人の接触も禁じられていたはずで、扉の外には門番さえいない。おそらく人を操るという特性からそこら辺がNGになっているのだろう。ただ翌日の正午に凍結処理、という決まりがあるだけだ。
つまり俺の人生は明日の正午に停止する。もっともこの部屋には窓一つ無く、今が昼か夜かもわからない。
なんてことだ……。
それでも喉がかれるまで叫んだ俺はよろよろと扉を離れ、尻餅をつくように座り込んだ。
完全な八方ふさがりである。
俺は絶望した。
脳裏には泣いているアニェーゼの顔が浮かび続けていた。アニェーゼは俺を責めるでも怒るでもなくただ泣き続けた。それだけで俺の絶望は加速する。
何が悪かったのだろう。
俺はどうするべきだったのだろう。
そもそも俺は覚醒するべきではなかったのではないか。
俺はうずくまった。うずくまったまま、
「祐佳……」
妹の名をつぶやいた。
その瞬間、カタリと外で音がした。
空耳かと思った。
だがもう一度音がした。今度は扉の鍵が外される音だ。
「!?」
俺は愕然と扉を見る。
もう時間が来たのかと、恐怖に思考が凍り付く。
扉が開き現れたのは、見たこともない銀髪の青年だった。
かなりラフな格好でとても執行官には見えない。そもそも魔術師にも見えない。
銀髪の青年は朗らかに笑って、
「やあ」
と言った。




