魔王
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俺は尻餅をついたまま呆然と竜が飛び去る様を見上げていた。
竜はあっという間に点になり、そして見えなくなった。
竜は去った。
俺たちは助かったのだ。
だが、達成感と言うよりもなぜか虚脱感が俺に去来していた。
全体として訳が分からなかった。
フィリッポの言っていた魔王とはなんだったのか。
そもそも竜とは……。
「な、なんだったのだ?」
後ろでやっぱり呆然とつぶやいたのはアキッレーオだ。
しまった。フィリッポにアキッレーオにはブレスを軽く浴びせておいてもらうよう頼むべきだった。そもそもアキッレーオが自己顕示で炎術など喰らわさなければ、こんな苦労をしなくてすんだのだ。俺は闇魔法という危険な賭をしなくてすんだのだ。
「な、なんだったんでしょうね……でも竜が飛び去って良かったです。すぐに治療班を呼んで陛下を……」
「違う!」
アキッレーオは叫んだ。
アキッレーオは俺に指を突きつけ、
「リキニウス、お前は今闇魔法を使っていたな!」
俺の顎がかくんと落ちる。
「……へ?」
「ごまかそうとしても無駄だ! 私には分かる。魂魄は通常の魔法であのような変化は起こさない!!」
めまいを起こしそうになった。
やっぱりアキッレーオにはブレスを喰らわしてもらおう。もう一度、フィリッポにアクセスを試みる。だが、思念は届かない。
仕方が無いから自分で言い訳しよう、そしてその間に闇魔法でこいつの口を封じてしまおう、とアキッレーオに口を開き掛けたところで、
「な……なんで……」
泣きそうな声にそちらを見るとアニェーゼだった。
「なんでリキニウスが闇魔法なんて……」
綺麗な顔をくしゃくしゃにして泣きはじめた。
違うんです、という言葉は出なかった。
岩の向こうからエラルド教授が現れた。
おそらく皆を安全な場所に避難させてから、俺たちに手を貸すために戻ってきたのだろう。
そして一部始終を見ていたのだろう。エラルド教授もまた沈鬱な表情をしていた。
俺と視線が合うと、エラルド教授は首を振った。それから、
「残念だよ。エートルリア王国でのことに加え、今回の竜への対応。君は間違いなく英雄だった。だが、そうであろうと絶対に闇魔法の使用は認められない。それは我ら魔術師にとって最大の禁忌だ」
エラルド教授は俺の肩に手を置き、
「リキニウス、君を拘束する」




