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竜王

     @


 呪文が完了すると同時に前よりもスムーズに俺の魂魄は装甲された。さらに魂魄が身体から抜け出す痛みもずいぶん楽になった。

 これが慣れという奴だろうか。

 その装甲化された魂魄が竜に向かって飛ぶ。

 そして、竜の魂魄にめり込む。

 音もない衝撃。


     @


 その瞬間、口を大きく開き今まさにブレスを吐こうとしていた竜の動きが電池が切れた人形のように止まった。


     @


 まず聞こえてきたのは訳の分からない言葉というよりは感情の波に近い何かだった。

 俺の魂魄はその波を受け止め、俺は「?」となっていた。

 俺が波にうろたえていると、波は困惑したように揺らいだ後、収束しそして


『誰だ? おぬしは??』


 という言葉になった。それはガザリア大陸の共通言語で紡がれた思念波だった。


『え?』

『その軟弱な思念、レムスではないな……』

『はぁ、リキニウス、と言います』

『ならば人界に新たな魔王が生まれたのか?』

『魔王? 何を言っているのか分かりませんが、あなたは誰ですか?』

『名などない。だが、先代の魔王はフィリッポと呼んでいた』


 フィリッポってのは知っている。竜王の名前だ。もしかしたら竜にとって太郎とか花子的な名前なのかも知れない。幼稚園や小学校や中学校のクラスで何となく気まずい思いをするあれだ。


『違う』


 俺の思考に突っ込みが入った。


『竜種は群体である。竜の一族に宿る思念はひとつ。それは個でありながら群である。すべての竜種は個に宿された本能のままに動くが、必要なときは群の意志が優先される。魔王が接触しているフィリッポはその群れの意志そのものである』


 へぇ、と感心した。

 なるほど。群体の意志、ということはつまりユングが言っていた集合的無意識的なものだろうか。人の無意識のさらに深い底にある個人を越えた民族や人類など集団の無意識があり、人類はそれで全員が繋がっている、みたいな話も合った気がする。


『おおよそその思考で間違いが無いだろう』


 また思考に対して反応があった。

 だがこのやりとりにも慣れた。だから俺は逆に訊ね返す。


『ってことは、えーっと、フィリッポさんはこの竜の意志でもあるわけですね』

『その通りだ』

『ならちょっとお願いがあるのですが……』

『魔王とは友好関係の維持が希望である。言ってみろ』

『今なんか僕達に向けて吐きかけようとしているブレスを止めてもらえませんかね。ついでにこの竜さんにはもうちょっと西の山奥へ帰ってもらえると助かります』

『簡単なことだ。新しい魔王の要請の通りにしよう』


 ……え?

 あれ? ダメ元で頼んでみたのに、やってくれるの?


『魔王との友好関係の維持のためならばたやすい』

『そ、そうッスか……』


 バツンと俺の魂魄が竜の中からはじき出された。

 突然、俺は竜の目の前に立っている自分を発見した。

 現実に戻ってきたらしい。

 俺は竜にまるで「待て」をしているみたいに手をかざしている。

 俺の目の前の竜は大きく口を開いていて、ブレス用器官は相変わらず丸見えで、そしてその器官が収縮した。

 一瞬、ビクッとしたが竜はそのまま口を閉じた。そしてまるで俺を主人と思い出した犬のように頭を下げ、俺の手に自分の額をちょっとだけ押しつけると、突然俺の存在を忘れたように後ろを向き、大きく翼を広げた。

 竜が羽ばたいた。凄まじい風圧で、俺は吹き飛ばされる。尻を地面に打ち付けて痛い。


『すまん』


 と言う声が聞こえた気がした。

 そして、竜は飛び去った。


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